係数励振

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ブランコの1人乗り。係数励振の身近な例

係数励振(けいすうれいしん、: parametric excitation)とは、係数パラメータ)が周期的に変化することで起こる振動現象である[1]。ばね-質量系の運動方程式でいえば、質量ばね定数減衰係数などの通常では定数とされる係数が周期的に変化するような場合に発生する[2]パラメトリック励振パラメータ励振、などとも呼ぶ。電気回路分野においてはパラメトリック発振などと呼び、発振器の原理として応用されている[3]

遊具のブランコの一人乗りの揺らし方は、係数励振の例である[4]。係数励振系の運動方程式や回路方程式は、マシュー方程式ヒル方程式の形式に帰着できる場合が多い[1]

係数励振の例[編集]

係数励振のメカニズムを利用した身近な例としては、遊具のブランコの1人乗りの揺らし方がある[4]。(詳細は#ブランコの係数励振を参照)

電気回路の例としては、パラメトロンがある[5]。これは、回路のインダクタンスを周期変化させて係数励振振動を生み出すものである。初期条件の差による逆位相の係数励振振動を合わせてを生みだし、2種類の振動を論理素子として利用する[5]

有害となる事例としては、鉄道車両におけるパンタグラフ架線からの離線現象[6]、フック形軸継手の不安定ねじり振動[7]などがある。

古くからの係数励振の実験としては、1831年のマイケル・ファラデーによるファラデー波英語版の実験や、1859年のメルデ(Franz Emile Melde)による音叉の実験などが知られている[3]

ブランコの係数励振[編集]

ブランコの物理モデルの例

ブランコを漕ぐ場合の運動について考察する。まず、一般的な振り子の運動方程式を角運動量より導くと次のようになる[8]

{{d} (m l^2 \dot \theta) \over dt} = -mgl \sin \theta

ここで、t:時間、m:振り子質量(≒操作者質量)、θ:振り子角度、g:重力加速度である。微小振動を仮定して\sin \theta \approx \thetaとすれば、以下のように変形できる[8]

\ddot \theta + 2 \frac{\dot l}{l} \dot \theta + \frac{g}{l} \theta = 0

ブランコを漕ぐ動作とは、立ち漕ぎの場合は上半身を上下移動させ、座り漕ぎの場合は足を上下させる動作を行う。これらは、漕ぎ手の重心を上下させていることに等しい[4]。これを、ブランコとそれに乗る漕ぎ手を合わせた一体の系として考えると、振り子のロープの長さが短くなったり、長くなったりする動きに等しい[4]。振り子腕長さ(ロープの長さ)をlとし、ブランコを漕ぐことによる振り子腕長さの変化を正弦波による周期的変化として以下のように表す。

 l = l_0 + a \sin{\omega t}

ここで、l0:平均腕長さ、a:腕長さ変動振幅、ω:腕長さ変動の角周波数である。 これを上記の運動方程式に代入して、かつ、a \ll l_0 として1/(1+a/l_0) \approx 1-a/l_0を利用すれば、以下の運動方程式を得ることができる[8]

\ddot \theta 
+ 2 \omega \left( \frac{a \cos{\omega t}}{l_0}- \frac{a^2}{2 l_0^2} \sin{2\omega t} \right)  \dot \theta 
+ \frac{g}{l_0} \left( 1 - \frac{a}{l_0} \sin{\omega t} \right) \theta = 0

さらに、a \ll l_0 より(a/l_0)^2 \approx 0として簡単化すれば[9]

\ddot \theta 
+ 2 \omega \frac{a \cos{\omega t}}{l_0}  \dot \theta 
+ \frac{g}{l_0} \left( 1 - \frac{a}{l_0} \sin{\omega t} \right) \theta = 0

よってブランコの運動方程式は、\dot \theta\thetaの係数が変動する係数励振系で表すことができる。

この系の周期関数係数を無視した固有振動数は、\omega_0 = g/l_0である。フロケ理論を基に近似的に上式の不安定領域を求めると、第1次係数共振域では、a/l_0 \approx 0のとき\omega/\omega_0 \approx 2で不安定振動発生し、そこからa/l_0が大きくなるに連れて不安定振動(発散)が発生する\omega/\omega_0の領域が広がるような分布となる[10]。よって漕ぐ動作の周期に着目すると、ブランコを大きく揺らす漕ぎ方としては、ブランコの固有周期の2倍周期で重心の上下運動を行うことが理想となる[11]

脚注[編集]

  1. ^ a b 『機械工学辞典』 日本機械学会、丸善、2007年1月20日、第2版、358頁。ISBN 978-4-88898-083-8
  2. ^ 振動工学 p.241
  3. ^ a b 吉田雅昭「Mathieu方程式に基づく平面磁路形パラメトリック変圧器の動作特性と発振安定性に関する研究」、『八戸工業大学紀要 』、八戸工業大学学術リポジトリ、2011年、 177頁。
  4. ^ a b c d 機械振動学 p.183
  5. ^ a b 振動工学 pp.248-249
  6. ^ 振動工学 pp.247-248
  7. ^ パラメータ励振 p.6
  8. ^ a b c パラメータ励振 pp.10-11
  9. ^ パラメータ励振 p.106
  10. ^ パラメータ励振 p.110
  11. ^ 機械振動学 p.185

参考文献[編集]

  • 前澤成一郎 『振動工学』 森北出版、1973年11月20日、第1版。
  • 小寺忠 『パラメータ励振』 森北出版、2010年7月7日、第1版。ISBN 978-4-627-66741-9
  • 末岡淳男・金光陽一・近藤孝広 『機械振動学』 朝倉書店、2002年6月20日、初版。ISBN 4-254-23706-5

関連項目[編集]