五平餅



五平餅(御幣餅[2]、ごへいもち)は、中部地方の山間部(長野県木曽・伊那地方、岐阜県東濃・飛騨地方、富山県南部、愛知県奥三河地方、静岡県北遠・駿河地方)に伝わる郷土料理。一般的には粒が残る程度に半搗きにした粳米(うるちまい)飯に[3]タレをつけ、串焼きにしたものである。長野県では「御幣餅」の名称で「長野県選択無形民俗文化財(味の文化財)」に選択されている[4]。
概要
[編集]一般的には米を主原料とするが[5]、米の種類や炊飯時の硬さには違いがみられる[6]。また、米ではなく大豆を使用する例もある[5]。
形状も多様で、一般的な「わらじ型」や「団子型」のほか[6]、御幣型、ひょうたん型、木の葉型、丸型などがある[5]。
焼き加減も店舗などによって違いがあり[6]、わらじ型で揚げている店舗などもある[6]。
タレ(タレベース)も、みそベース、しょうゆベース、ミックスなどに分けられる[6]。調味料として、このほかに塩[5]、麹[5]、みりん[5]、砂糖[5]、水飴[5]、だし[5]、しょうが汁[5]などを加えることもある。
また、タレにエゴマ[2]、クルミ[6]、ゴマ[6]、落花生[6]、サンショウ[2]、ニンニク[2]などが加えられることもある。
家庭や地域によってはさらに卵、ハチミツ、蜂の子(ヘボ)を加えるなどバリエーションは多くある。例えば岐阜県恵那市の旧串原村で毎年11月3日に開かれる「ヘボまつり」は、タレにヘボを練り込んだ「ヘボ五平」が名物である[7]。
木曽・飛騨・東濃地方には、これを主な売り物とする五平餅店もある[8]。
一般的な作り方
[編集]- 粳米(うるちまい)を炊く[9]。
- 1を潰し、厚さ2mm 幅2cm程度の杉板または幅1.5cm程の平たい竹串、あるいは割っていない割り箸に扁平な楕円形、地元で言う「わらじ型」に練りつけ、型崩れしないように素焼きする。この際に塩や、つなぎの小麦粉を入れる地域もある。
- タレは季節や地方毎に多彩で醤油または味噌に、胡麻、胡桃、落花生、エゴマなど油脂を含むものや木の芽、柚味噌[9]をあわせてタレを作る。砂糖を入れ、かなり甘めの味に仕立てる。
- タレを2に塗り、香ばしく焼き上げる。
由来
[編集]起源は不明で江戸時代中期には存在していたとされる[10]、わらじの形で、五平五合と言って1人前の量だった[10]。
もとは山の神に捧げる供物で御幣の形をしていることからこの名がついたとする説がある[2]。一方で五平、あるいは五兵衛という人物(樵であったり猟師であったり、また大工とするものもある)が飯を潰して味噌をつけて焼いて食べたのが始まりとする伝承も各地に形を変えて存在する[9]。
米が貴重であった時代、ハレの食べ物として祭りや祝いの場で捧げられ、食べられていた[11]。
メディアでの登場
[編集]- 甘々と稲妻(雨隠ギドによる漫画作品)
- クレヨンしんちゃんのアニメ第887話「おもちつきが楽しみだゾ(2016年2月19日放送)」で登場。しんのすけの通う幼稚園で餅つき大会の際糯米と間違えてうるち米が届いてしまい、園長が糯米の確保に奔走するが、最終的にまつざか先生の発案で五平餅を作ることになるというエピソードである。
- 2016年に公開されたアニメーション映画『君の名は。』の作中に登場。五平餅を登場人物が食べるシーンがあり、映画情報のサイトでも聖地巡礼スポットの一つとして岐阜県飛騨地方にある五平餅の店が紹介されている[12]。
- 2018年4月から放送されていたNHKの連続テレビ小説『半分、青い。』では物語序盤か岐阜県・恵那市にある岩村町本通りのお店「みはら」が、仙吉を演じる中村雅俊が五平餅の焼き方を習った場所として登場[13]。また、4月28日の放送分では、ヒロインの楡野鈴愛(永野芽郁)が漫画家のトークショーで差し入れした五平餅を、鈴愛の師匠である秋風羽織(豊川悦司) が「真実の食べ物」と評するほど絶賛し[14][15]、鈴愛が秋風に弟子入りするきっかけを作った。本作で五平餅の存在が全国的に知られるようになり、このエピソードが放送された直後のゴールデンウィークには岐阜県東濃地方周辺の観光地にある店舗や高速道路のサービスエリア等における五平餅の販売数が2017年比で4倍から9倍超にまで急増した[15]。
- 負けヒロインが多すぎる! アニメ第6話
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “夜明け前 第一部上”. 青空文庫. 2024年8月26日閲覧。
- ^ a b c d e “信州地方の食文化 御幣餅(五平餅)”. 豊橋市図書館. 2025年11月15日閲覧。
- ^ 長沼誠子「米の調理に関する研究(第3報)-半搗き餅の性状に及ぼす材料と調理方法の影響」『秋田大学教育学部研究紀要』33巻、1983年、54-、NAID 40003963271。, hdl:10295/00003190
- ^ “文化財情報(国・県指定等文化財)”. 長野県 (2021年3月21日). 2023年9月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “天竜高校天竜ラボ×浜松湖北高校佐久間分校編 GOHEIMOCHI”. 静岡県立天竜高等学校、静岡県立浜松湖北高等学校佐久間分校. 2025年11月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “第二回 東美濃五平餅まつり in 土岐プレミアム・アウトレット”. 岐阜県. 2025年11月15日閲覧。
- ^ 平坂寛 (2011年11月12日). “「ヘボ祭り」で蜂の子を食べてきた”. 東急メディア・コミュニケーションズ. 2021年12月31日閲覧。
- ^ “五平餅”. 恵那市観光協会ホームページ. 2017年8月17日閲覧。
- ^ a b c 高野悦子、「しなのの味」 (『調理科学』4巻2号、 1971年)p.101-105,doi:10.11402/cookeryscience1968.4.2_101, 日本調理科学会
- ^ a b 五平餅 長野県 うちの郷土料理 農林水産省
- ^ 五平餅 愛知県・うちの郷土料理 農林水産省
- ^ “『君の名は。』聖地巡礼レポート!これだけは持って行きたいモノとは?”. シネマズ (株式会社クラップス). (2016年11月15日) 2018年5月16日閲覧。
- ^ “朝ドラ「半分、青い。」で話題!岐阜「みはら」の五平餅を堪能”. ルトロン (2018年9月28日). 2022年9月24日閲覧。
- ^ “【岐阜県】飛騨伝統のあぶらえを使った五平餅に「うんま!」連発。これぞ知る人ぞ知る「真実の食べ物」”. Drive! NIPPON-中部版- (2020年10月8日). 2022年9月24日閲覧。
- ^ a b “「真実の食べ物」朝ドラ効果、五平餅爆発的人気”. 岐阜新聞社. 2018年5月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月24日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 木村ムツ子「郷土料理の地理的分布」(『地理学評論』47巻6号、 1974年) p.394-401, doi:10.4157/grj.47.394, 日本地理学会