事件シリーズ (小説)

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事件シリーズ(じけんシリーズ)は、講談社ノベルスから出版されている上遠野浩平小説シリーズ。公称は「戦地調停士シリーズ」。イラスト担当は第4作までは金子一馬、第5作はやまさきもへじ、第6作は獅子猿

概要[編集]

舞台は、発達した魔法で文明が成り立った世界。世界最大の通商連合七海連合が擁するは、口先だけであらゆる揉め事を解決に導く特殊戦略軍師―戦地調停士。“弁舌と謀略で歴史の流れを押さえ込む”と言われる彼らが携わるのは特殊な交渉ばかりであり、常識では解決不可能な難解な事件に、次々と遭遇することとなる。

登場人物[編集]

上遠野作品に多く見られるように、多数の巻に登場が跨る・噂に登るキャラクターも存在するので、メインキャラクター達と出会った順に記載。

ED(エド)/本名:E・T・マークウィッスル(エドワース・シーズワークス・マークウィッスル)
七海連合の戦地調停士。表向きは、副業である“界面干渉学(正式には「界面干渉学の実地調査に基づく、歴史的思想関連性」が専門)”という特殊な学問の研究者を名乗っているが、趣味による部分も多い。連合の仕事上で相棒となることが多いヒースロゥには「マークウィッスル」と呼ばれ、幼い頃からの友人。
丁寧な言葉遣いながら、興味のままに話を進める様には遠慮がなく、権力者か否かにかかわらず、誰に対してもそれを押し通す強引な性格。
常に口元以外の顔を、仮面舞踏会の仮装のような仮面で隠しており、何時如何なる時も外さないその風貌から、多くの人からは強引な言動や専攻学問と相俟って、変人扱いされている。仮面の下には右目周囲に、自らを“オピオンの子供たち(用語の項目参照)”と呼ぶ難民の印である“オピオン”という蛇の刺青を刻んでいる。縄抜けの要領で体中の関節を外せることについて、『難民時代に身に付けたのでは』とレーゼ(後述)に推測されているが、4作目で刺青を彫るまでの経緯についてやや語られている以外、その経歴は作中でほぼ明かされていない。また「ピストルアーム」と呼ばれる、界面干渉学によって発掘された産物を持ち歩いている。
風の騎士/ヒースロゥ・クリストフ
七海連合に出向している、リレイズ国の少佐。その通り名を聞くだけで軍兵が怖気づくほどの剣士。
魔法は使えないが、戦士としての勘は鋭く正確で、常人離れした身体能力など、高い戦闘力が伺える[1]。また、騎士としての誇りと礼節を忘れないが、それの持つ効果などを利用する強かさも併せ持つ。困っている人間は見逃せない性であると同時に、現実的・即物的な側面での合理的だが無慈悲ではない決断にも優れる。それゆえにEDやミラル・キラル(紫骸城事件の項目参照)からは、本質的に「王者」の資質を持つ存在と分析されている。
幼い頃からEDには「ヒース」と呼ばれている友人であり、連合の仕事上でも相棒となることが多い。フロスやレーゼとは学年違いながら国際学校での同窓で、特に度々同じ任務に着いたことのあるレーゼには想いを寄せている。
レーゼ・リスカッセ
二十代半ばでカッタータの特務大尉を勤める才女。1作目ではメインで、3作目でも海賊島側の語り手を担当している。
1作目では、戦争で疲弊した二国より、未介入国として調印の立ち会い要請を受けたカッタータから立会人としてロミアザルスに出向。が、自国がレーゼを立会人に選出したのは『決裂時には、武力介入の口実に出来る若い女性』であるからだと、決して自身を過大評価しない冷静な姿勢を見せている。調停地の竜に挨拶するというEDに、ヒースロゥと共に同伴したことで、事件に巻き込まれて行く。頭の回転の早さなど軍人としても有能ではあるものの、変化する局面を敏感に感じ取る感受性や柔軟な判断力から、ギャンブラーとしての素質を見込まれ、博打勝負を重んじる海賊島の首脳陣二人―ムガンドゥ三世とオルソン(殺竜事件の項目参照)にも一目置かれている。そのため、3作目では海賊島の窮地を救う“代打ち”として調停を要請され、EDやヒースロゥを指揮して事件解決に当たる。4作目では、独り禁涙境へ行方を眩ませたEDをヒースロゥと迎えに出向き、5作目ではこれまでの功績から、階級に変動こそないが参謀会議の特別助言役に任じられており、上官に自国の身の振り方を入れ知恵しているなど、全作に必ず登場している。
ダイスをある程度操れるぐらいの、基礎的なイカサマが出来る魔力や器用さを持つが、取締り中にイカサマを見抜けるよう教練されたものであるため、その腕を披露することは滅多にない。ヒースロゥには、特別な感情を抱いている模様。

殺竜事件-a case of dragonslayer[編集]

戦争の調停に選ばれた地―ロミアザルスで、人類が生まれる前から存在した最強・不死身・無敵と評される絶対的存在の竜が刺殺された。第一の容疑者として“死の紋章”の呪いを掛けられた戦地調停士―EDは、1か月の猶予内にこの事件の謎を解くため、ヒースロゥとレーゼと共に世界中に散らばる容疑者を訪ねて旅立つ。

月紫姫(つくしひめ)[2]
聖ハローラン公国(聖波浪蘭公国)内外を問わず名の知れた、絶世の美姫。3作目では異母弟の公王―白鷺真君(しらさぎしんくん)の摂政。
側腹の生まれながら、その快活で芯のある性格により絶大な国民の人気を誇る美少女。1作目では、まだ幼い公王に代わり、摂政として国政を牛耳っていた真擬利根(マギトネ)将軍によりその存在を疎んじられ、事実上は塔に軟禁されている。しかしその様さえ“ハローランの高い塔に住んでいるとても美しい姫君”として伝説化するほどの、愛らしさと高雅さを兼ね備えている。竜と会見した叔父の丞之烈卿(すけのれつきょう)を訪ねて来たED達に、半年前に既に痴情のもつれから刺殺されてしまったことを告げる。
3作目ではハローランの実質的な最高指導者でありながら、シャオ(紫骸城事件の項目参照)と密かに親友であり、従姉妹の夜壬琥姫の殺害についてEDにスキラスタスの逃げ場所を教える(海賊島事件の項目参照)。
ソーニャ・ミンカフリーキィ
港町ム・マッケミートで界面干渉学のサロン(情報売買所)“水面のむこうがわ”を営むナーニャの娘。
つっけんどんな口調で水面のむこうがわの扉番を勤める、14、5歳の少女。EDが戦地調停士の初仕事として赴いた、某国の内乱で人質にされた一人であり、その折に大使であった父を亡くしている。
ナーニャ・ミンカフリーキィ
水面のむこうがわの女主人。ソーニャの母。
趣味の装飾品製作により、EDの仮面も製作しており、自身もやや小さめだが似たデザインの仮面を着用している。現在では一般人として暮らしているが、元はザイラス侯爵家(レーリヒの項目参照)出身であったため、某国の内乱でソーニャ共々人質になった際に、侯爵家の介入を恐れた夫がEDと共謀して母娘を開放した代わりに、亡くなっている。ピストルアームがお気に入りらしく、何かにつけて撃っては物を破壊している模様。
タラント・ゲオルソン
海賊島のカジノのイカサマ見張り役。3作目では海賊島の顧問役。
元メルクノース軍で参謀にまで上り詰めた魔導師だったが、権力争いに敗れて軍を追われ、海賊島に流れ着く。国家反逆罪とされているため、世界有数の治外法権地帯である海賊島を出られない。カジノの片隅で飲んだくれながら、イカサマを働く客を密告しては酒代を稼ぐ、やさぐれた日々を送っていた。1作目ではムガンドゥ三世を引っ張り出そうと、レーゼにイカサマで大勝ちを続けさせるED達一行と、ダイスによる博打勝負で対戦する。3作目では海賊島の幹部達の信任厚い顧問役であり、かつての博打勝負からレーゼへの調停要請をムガンドゥ三世に進言する。本来は軍参謀時代の経歴から国際情勢に通じ、交渉に長けた人物で、戦闘状態に対しても肝が据わっている。
イーサー・インガ・ムガンドゥ三世
海賊―ソキマ・ジェスタルスの頭領にして、海賊島を始めとした裏社会の支配者。
インガ・ムガンドゥの血を引く三代目。一見すると褐色の肌の美少年だが、実は全身に施したあらゆる暗殺から身を守るという最高の護身呪文刺青[3]を常に印象迷彩で隠しており、ウェイターに身をやつして生活している[4]。幼少より、三世としては“子供部屋”に身代わりを置かれ、自身は海賊島の下働きの小僧として働かされながら秘密裏に育てられる。周囲には勿論、実の両親に対しても冷淡であり、実父であるムガンドゥ二世―ニーソンの死に際においても感情に惑わされることなく、組織の継承・維持を最優先する判断を下した。世襲後も顔を晒すことなく、しかし島内全てに目を配るという裏から操る統治形態を取り、その顔を知る者はほぼ皆無。1作目では竜と会見したことで訪ねて来たED達と会談し、3作目ではスキラスタスの保護とレーゼへの調停要請を指示した。4作目では遂にその姿を世界中に明かし、5作目では“海賊王”の異名で畏怖されている。レーゼには、特別な感情を抱いている節がある。
アーナス・プラント
“竜探しのアーナス”で有名な、孤高の冒険家。容疑者の一人であり、ED達一行のバットログの森への道案内役。
竜好きが高じて、日雇い仕事である程度の金を稼いでは、竜出現の噂ある所に駆け付けている冒険家。数多くの竜との遭遇経験を持つ。世界冒険者協会に加入する者は多くが高額な入会金を支払っての名誉欲からであるために快く思われていないようで、未加入ながら実際に数多くの探検に赴いているアーナスの人気は高い。そのことを鼻に掛けぬ、努力と誠実さの人。
ラルサロフ・R
ここ1年以内の竜面会記録に名を残す、謎の人物。
貿易会社の一人だと許可証管理者に提出された身分は架空のもので、一つでも多くの情報を求めるED達を記載住所のバットログの森にて待ち構えていた男。手足は棒のように痩せこけ、肩幅だけが異様に広いという、ヤジロベエのような体型。北方の血が入っているのか彫りの深い顔立ちで、森には不似合いなまでに綺麗にプレスされた白銀の礼服で、捻れた丸太小屋から現れた。
マーマジャール・ティクタム
“戦士の中の戦士”と呼ばれる世界最強の人物。
二つ名にふさわしい貫禄と、日に焼けた笑顔の似合う穏やかな人物。現在は戦士は廃業し、ヒギリザンサーン火山の麓にある小さな村に住んでいる。隠居した現在もその実力は健在で、戦闘能力においては現在世界最高峰の剣士であるヒースロゥ・クリストフすら遥かに凌ぐ。竜とすら対等に会話するほどに高潔な魂と、強靭な精神力、胆力を備えた存在。
若い時にヒギリザンサーン火山の大噴火により故郷を失い天涯孤独となる。その際に世界中で大凶作が起こった時の独裁者“人喰い皇帝”―メランザ・ララズロッヒを倒すべき存在か見定める為、二代目無傷姫ミリカとの面会を初め、世界中を旅して回った。最終的に彼の行いはメランザを打倒目前まで追い詰める。
その正体は、人類という群体が過酷で絶望的な環境に陥った際に誕生する、他とは隔絶した力量を持つ突然変異体「終末期の救世主」である。

紫骸城事件-inside the apocalypse castle[編集]

300年前の“大規模魔導時代(ギーガ・メーギ・ゴラス)”に全世界を支配した魔女―リ・カーズと、その宿敵である戦鬼―オリセ・クォルトが激突したバットログの森に聳え立つ紫骸城。今や、最も優れた魔導師を決める“限界魔導決定会”の会場となっていたその城に、前優勝者―ニーガス・アンガーが死体となって現れた時から、世界を嘲笑う巨大な虚無と悪意に満ちた大量殺戮事件が幕を開ける。一週間の大会期間中は巨大密室となった紫骸城で、悪名高き双子の戦地調停士―ミラル・キラルと出会ったフロス・フローレイドは、次々に起こる不可解な殺人事件の解明へと乗り出す。

フロス・フローレイド
ヒッシバル共和国の魔導大佐で、2作目の主な語り手。4作目では七海連合の特別顧問を兼任。
かつてヒースロゥと共に事件を解決した功績から、“限界魔導決定会”[5]の立会人(審判)の一人として招聘された。
“ケッチタの暴走”[6]の大部分を実際に解決したのはヒースロゥであり、世間からの英雄扱いは自身には不相応なものと、息苦しさを感じている。しかしそのことに腐らず、自国の魔導師達の“魔導師組合(ギルド)”総本部内の地位向上を背負って大会に臨むなど、自身の成すべき仕事を見出して動ける有能な人物。大会内で殺人事件が発生した後は、U2Rやシャオの協力を得て、事件の調査に乗り出す。その姿勢や中立の位置付けから、次第に閉じ込められた参加者達の信頼を集めるようになる。
ミラロフィーダ・イル・フィルファスラート[7]
七海連合の戦地調停士の中でも、冷酷の代名詞として悪名高き魔導師であるフィルファスラートの双子―ミラル・キラルの前者。限界魔導決定会の立会人の一人。
独自の魔導哲学により呪詛や怨念に敏感で、あまりに過激な調停から“ひとつの戦争を終わらせるのに、それまでの戦死者に倍する犠牲者を生む”と言われている[8]。東方の生まれという以外は一切が謎に包まれ、魔導師学校の在籍記録も定かではない。が、その腕は超一級で、あまりの魔導師競技会荒らし振りに頭を抱えたギルドが、懐柔策として今大会に立会人という形で、弟共々招待した。
双子の弟であるキラルとは瓜二つの、ゾッとするような美貌の持ち主。ミラルが話す言葉の大半は「良し(ディード)」か「無駄(ナイン)」のみであるが、推理の時は流暢に事件の当事者を蔑みながら、嘲笑うように話す。またミラルにとっての素晴らしい事象に対しては、その美声で不思議なメロディを歌いながら舞い踊る。相手に嫌われてはいるが、特別想いを寄せているEDに関しては、やや多弁。
キラストル・ゼナテス・フィルファスラート
七海連合の戦地調停士の中でも、冷酷の代名詞として悪名高き魔導師であるフィルファスラートの双子―ミラル・キラルの後者。姉と共に限界魔導決定会の立会人を務める。
双子の姉であるミラルとは瓜二つで、美しいながらも性別不詳の彫刻のような顔立ち。常に一緒に行動している姉の分まで流暢に話す、傲岸不遜な青年。4作目や5作目では、ロードマンと残酷号を相討ちさせる作戦を提案している。
U2R
魔法装置の一つである人造魔導師―擬人器(=ロボット)。銀色の棒細工のような外見で、擬人器自体がとうに製造を禁止されているのでかなりの骨董品。生命がなく呪詛の影響を受けないので、呪文による自動鍵が通用しない存在であることから、長年大会の総合管理を行っている。フローレイドに人格を認められ、助手としてシャオと共に事件解決に協力する。
ウージィ・シャオ
紫骸城にある宝を盗みに現れた、大盗賊の跡継ぎ。参加者の一人として男装で潜入し、盗みの機会を窺っていたものの事件の発生により、フローレイドの事件解決に協力するようになる。
祖父は世紀の大盗賊―ウージィ・キャオ。見た目には17、8歳の少女ながら祖父譲りの盗賊業やトレジャーハントは勿論、裏社会の情報屋としても並みの諜報員を凌ぐ凄腕。月紫姫とは、密かに親友。
ニーガスアンガー
世界最高の防御魔法の使い手。限界魔導決定会の前優勝者であり、紫骸城事件の最初の犠牲者。
貴族階級や金持ちが上位を独占する魔導師ギルドにあって、下積みの末に優勝者にまで上り詰めた、叩き上げタイプの人物。若い頃は禁涙境で雇われの臨時警護官補佐を務める傍ら、“十字線(アンカー)”の研究に励み、街の相談役のような存在でもあったことから、ウザク・ボーエン(禁涙境事件の項目参照)にも「背筋が伸びていて、世を拗ねた所のないパリッとした人物」と評されるなど、親交が厚い。また、ムガンドゥ1世と3世に刻まれた世界最強の防御魔法も彼の仕事であるなど、本シリーズでは度々話題に登っている。
オブルファス・ギィ・グルドラン・ウォルハッシャー公爵
限界魔導決定会を主催する魔導師組ギルドの総帥で、事実上の最高責任者。
夥しいまでの老化防止紋章を全身に刺青しており、これには大変な巨額が投じられている。非常に傲慢でプライドが高く、狡猾で権力欲の強い禿頭の老人。元はムノギタガハル一族が独占していた魔導師ギルドの総帥の座を、スキャンダルに乗じて奪ったことは周知の事実。ミラル・キラルをかなり毛嫌いしているため、今大会への特別招待を非常に苦々しく思っている。
ゾーン・ドーン
限界魔導決定会の審判長。実際の下準備を統括した。
四年前にウォルハッシャー公爵により魔法の力で蘇った死人(用語の項目参照)。死人特有の、顔の筋肉が神経障害を起こしていて制御し切れず、表情が時折おかしな歪み方をしたりするという、アンバランスな無表情をする人物。その代わり、呪文詠唱は一度に1人1つが基本のこの世界にあって、3つ同時詠唱が可能という特異な魔導士として復活した。記憶だけでなく、生前の記録も一切が不明で自身について分からないため、ウォルハッシャー公爵には逆らえずいいように使われている立場上、常に弱気。心底ではニーガスアンガーの死に不穏なものを感じ取っており、フローレイドを頼りにしている。
ナナレミ・ムノギタガハル
限界魔導決定会の審判団の副審。魔導師の名門一族であるムノギタガハル家[9]の令嬢。
実物大のブリキ人形を本物の我が子だと思い込んで溺愛しており、赤ん坊のように世話を焼いている未亡人。身分違いの男と駆け落ちしたことで一部では有名で、その後の夫―ヘンリィの死で気が触れている。
ラマド師
リバーダン公国の魔動戦士団筆頭顧問。限界魔導決定会の参加者で、紫骸城事件の第二の犠牲者。
軍人にありがちな、階級で人を品定めする類いの高圧的な男性。
オリセ・クォルト
300年前の戦鬼。
魔法文明の粋である究極の破壊兵器だったが、300年前に平和のため、単身リ・カーズに挑んだことで勇者として現在では知られている合成人間の美女。紫骸城でのあまりに激しかった戦いを最後に姿を消したこと、生き証人もなかったことから、リ・カーズと相討ちになったと言われている。
リ・カーズ/本名:クラスタティーン・フィルファスラート
300年前に数々の魔導帝国を征服し、大量殺戮を起こした魔女。紫骸城の建造主。
恐怖の代名詞として、悪意の魔女や呪闘神など多くの通り名と共に語り継がれている魔導士。元は、その支配を確実にするのに魔法に関する知識を一部の特権階級が独占していた世でありふれた一族であったが、リ・カーズのあまりの暴虐さから元の姓であるフィルファスラートは今日では不吉の象徴とされている。宿敵のオリセ・クォルトを迎え撃つため、紫骸城を建造したと言われているが詳細を知る者はい居ない。紫骸城でのあまりに激しかった戦いを最後に姿を消したこと、生き証人もなかったことから、オリセ・クォルトと相討ちになったと言われている。

海賊島事件-the man in pirate’s island[編集]

海賊―ムガンドゥ一族が支配する通称―海賊島に大国ダイキ帝国の魔導艦隊が迫る。帝国の要求は国際的高級サロン―落日宮で起こった殺人事件の容疑者―スキラスタスの引き渡しであった。しかし、海賊島はムガンドゥ三世の指示によって引渡しを拒否、魔導艦隊から武力制圧の通告を受ける。海賊島は状況打破のために“代打ち”として、カッタータの特務大尉―レーゼ・リスカッセに調停を要請した。レーゼの指示で戦地調停士―EDは、カシアス・モローを助手に“落日宮”にて“この世で最も美しい死体”となった夜壬琥姫の殺人事件の真相を探る。

カシアス・モロー
料理人向けの食材を扱う貿易商。3作目の落日宮側の語り手。
七海連合の採用試験を受けるために、商売を畳んで落日宮に逗留しにやって来た男。料理人としては限界を感じ、その経験を生かして食材を扱う貿易商をしていた所を、七海連合にスカウトされて面談試験に至る。細目で背の低い小太り体型で、人との第一印象を“味覚”で細かく表現する感受性と観察力に優れる。夜壬琥姫とスキラスタスとの一連の遣り取りの目撃者でもある。面接官であるEDが夜壬琥姫の事件解決に乗り出したため、試験を兼ねて捜査を手伝うことになる。
夜壬琥姫(やみこひめ)
聖ハローラン公国の月紫姫の従姉妹で、“この世で最も美しい死体”となって発見された被害者。
白鷺真君の前の王が売春婦に産ませた王子の娘でありながら、高潔で気品と知性を感じさせる、誇り高い女性。落日宮でひたすら待ち人―キリラーゼの訪れを信じて憚らなかったこと以外は、王家の汚点とされている出自ながら、そのあまりの美貌の利用価値から長く暮らした王宮を離れた経緯など、一切が謎に包まれた美女。完全密室となった特別製の自室で、結晶化されて発見される。ヒビラニ将軍曰く、キリラーゼを通じ公国内の情報をダイキ帝国に密告していた間謀(スパイ)。
サハレーン・スキラスタス
独自の結晶魔術で“溶けない氷”の賞賛を受けている、稀代の魔導彫刻家。海賊島に逃げ込んで来た、夜壬琥姫殺害の最有力容疑者。
一見すると芝居掛かった台詞を並べ立てる気取った色男だが、その実は粗野で傲慢な、譲ることを知らない男。女を落とすことや寝取ることを楽しみとするタイプで、夜壬琥姫を以前から口説いていたものの全く相手にされていなかったこと、夜壬琥姫が結晶化されて発見されたこと、落日宮から逃亡後は気が触れてしまい事情聴取にならないことなどから、最有力容疑者とされている。小さい粒子を収束させ、結合させて作り上げた作品を売って、生計を立てている。長時間の作用が難しい魔法にあって、形を保ち続けられるこの結晶魔術は大変稀有なものであり、呪符などにも複製不可な術であることから、魔導師ギルドによって芸術魔導師に登録されている。
ニトラ・リトラ
落日宮の支配人。元は海賊島上層部の施設管理者。夜壬琥姫の遺体第一発見者。
冗談のような海賊風の衣装に、左目を眼帯で隠した老人。一見すると、モニー・ムリラから特権を委譲されたニトラ・リトラが全て切り盛りしているかに見える落日宮だが、ムガンドゥ三世の絶大な影響下にある。世襲前からムガンドゥ三世に目を掛けられ、その信任は厚い。ラ・シルドス軍の海軍士官からムガンドゥ一世に寝返った、ソキマ・ジェスタルス内でも古株であり、士官達が必ず刺青した紋章が右手首に彫られている。
キリラーゼ
夜壬琥姫の恋人と言われている、待ち人。
夜壬琥姫が殺害される前日、突如落日宮に現れ、自分は夜壬琥姫の待ち人であると述べた男。穏やかながら、捉え所のない人物。キリラーゼを待っていると豪語していた夜壬琥姫に面会を拒まれ、嫉妬に駆られたスキラスタスにバーで絡まれていた姿を最後に、夜壬琥姫の遺体発見後には忽然とその行方を眩ませており、ヒビラニ将軍が血眼になって探している。EDによれば、その名は古代ラグナス言語で“日没”を意味するという。頬から顎にまで掛かる髭に太眉の、痩せぎすで小柄な男。
アイリラ・ムガンドゥ
ムガンドゥ一世の唯一の血縁で、三世の実母。
インガ・ムガンドゥ一世が一度だけ正式に結婚した、正妻に当たる女性との間にもうけた、唯一の実娘[10]。物心付いた頃には母の姿はなく、娘であったことから、跡継ぎには難しいと自らを扱いあぐねていた父を嫌い、その権力で放蕩の日々を過ごす。が、一世の突然の死に際して、後継者争いや敵勢力からの護身として、一世を絶対としていた当時のNo.2―後の二世からの申し出を受けて結婚。三世をもうけた後は、付き纏うムガンドゥの名を忘れようと再び遊興に耽るようになる。
ヒビラニ・テッチラ
ダイキ帝国の陸海空全軍に指揮権を持つ、統合本部の将軍。
落日宮のあるモニー・ムリラと同盟国であるダイキ帝国の、軍事界でも有名な“不動”と称される将軍。削げた頬に対して大きく張り出した顎と、鋭い眼が印象的な男。第三方面軍を率いて海賊島を包囲し、スキラスタスの引渡しを強硬に要求している。夜壬琥姫と公国内の情報をダイキ帝国に密告していたスパイ―キリラーゼを探しており、その手掛かりがスキラスタスにあるのではないかと考えている。
ブラクルド
海賊島の警備関連の責任者。
海賊島に訪れたレーゼとヒースロゥを出迎えた、肉体美を誇示する男。既に中年に差し掛かり、肉体の衰えを気にしているのか、やや神経質になりがちな様子。
クノックス
聖ハローラン公国西端に位置する港―モリミナに派遣された辺境警備官の魔導戦士。
50年前、辺境警備隊から派遣されて港の警備中に海賊―ジェスタルスの襲撃(後にソキマ・ジェスタルスの出発点と言われるラ・シルドス船団の乗っ取り)に気付くも、助手として潜り込んでいたスパイの不意討ちに遭い、命を落とす。

禁涙境事件-some tragedies of no-tear land[編集]

あらゆる魔導が“十字線(アンカー)”の元、無力化される非武装地域―禁涙境。この街で起きた三つの難事件、“希望街の妊婦殺害”“幸運街の殺人鬼”“無用街の暗殺”。“月光祭”の最中に現れた怪人残酷号によって破壊された禁涙境を戦地調停士―EDが訪れた時、これらの真相と共に、禁涙境の真実も明らかとなる。

ポルト
禁涙境の副市長。
元は禁涙境に流れ着いた難民だったが、青年時代にダイキ帝国にて奨学生として教育を受けた後、議会の役人として禁涙境に戻った。若い頃から月光祭を始めとした街の行事にも携わるほどに有能な人物であり、残酷号の襲撃によりショックで寝込んだ市長に代わって、街の再建に、EDやフロスなどの応対にと奔走している。ルシェムジータにも雑用仕事を日雇いで依頼していたこともあり、マーゼフには多大な尊敬と信頼を寄せている。
マーゼフ
全ての難事件に携わった、禁涙境の警護官。
28年前、所属する辺境警備隊より禁涙境へ派遣されて以降、長年に渡って街の治安を守る職務に忠実に働いて来た人物。その勤勉さと気さくさで住人達は勿論、一時は補佐官としていたニーガスアンガーやウザクの信頼も厚い。
イーヴ・ハーヴ
世界最高の天才舞踏家ながら、月光祭の大トリを務める慈善家。
わずか5歳で既に帝国舞踏学校の教師陣が追従し、名立たる舞踏品評会で賞を総嘗めにした才能の持ち主。その後も自らの成長と年齢に合わせて独自に肉体と踊りを磨き、常に最高の舞を築き上げて来た。名実共に世界一の舞踏家となった現在も、高額な依頼より戦地への慰問公演を率先して引き受け、禁涙境でも月光祭を始め定期的に公演を続けている。既に中年に差し掛かった今も10代を思わせる若さ、周囲の目を釘付けにする美貌、名声に恥じぬ優雅な風格を併せ持つ。
ウザク・ボーエン
世界最大の中古魔道器具流通市場―無用街の創始者。“希望街の妊婦殺害”の第一発見者であり、“無用街の暗殺”の被害者。
元は戦災孤児で、戦争商人の荷物運びの日雇い仕事にやって来た禁涙境で、15歳の時に自ら商売を立ち上げる。商売哲学は「ここで不要なものでも、他では売り物になる」というもので、「この世に無為無用の物は存在しない」が口癖。発想力を始め、あらゆる組織や軍と均等に渡り合う外交力にも優れ、共に無用街を興したニーガスアンガーやマーゼフとも親交が深かった。
禁涙境の何でも屋となっていた17歳の時、メラメルを出産のために秘密裏に禁涙境外に連れ出したいというチーゼルトの依頼を受けたことで、チーゼルトとメラメルの惨殺死体および生後間もない赤ん坊の第一発見者になってしまう。その約30年後、無用街の創始者として禁涙境の6割を仕切る顔役の一人となりながら、会食直後に同席者であったモニカの目前で暗殺されてしまう。
チーゼルト
禁涙境屈指の娼館通り―後の希望街で人気の娼館の主人。“希望街の妊婦殺害”の被害者の一人。
メラメルを秘密裏に禁涙境外に連れ出すという依頼のために訪れたウザクに、血溜まりに散らばるバラバラ死体となってメラメルと共に発見される。
メラメル・キーナ
禁涙境一の人気を誇る、チーゼルトの娼館の娼婦。“希望街の妊婦殺害”の被害者の一人。
容貌は十人並、丸みを帯びた肉付きの良い体つきやそのおっとりとした気性は鈍重でさえあったが、客層に戦場へトンボ帰りの兵士が多い娼館において、触れる男達を落ち着かせるような個性は多大な人気を博した。予約は常に数か月待ちで、メラメルを買えるのは高級士官のみだったと言われている。
事件当時は既に一目で妊娠と分かるほどに腹が膨れており、その稼ぎから特別に出産を許され、秘密裏に禁涙境外に連れ出される筈だった。が、その依頼のために呼び出されたウザクにより、血溜まりに散らばるバラバラ死体となってチーゼルトと共に発見される。
マクマラス
禁涙境の幸運街に店を構える、刺青屋。
左胸に持つ紋章を埋没させるのに全身に刺青した、オピオンの子供たちの一人。ニーガスアンガーに刺青の手解きをし、遥々リレイズから訪ねて来たEDが刺青を依頼した、寡黙で無愛想な人物。
ルシェムジータ
元名門貴族の嫡子。幸運街の殺人鬼。
幼い頃のヒギリザンサーン火山の噴火によって領地が壊滅、さらに他国の侵攻によって土地そのものが没収され、禁涙境に流れ着いた一族の末裔。財産を持ち込んで来られた上、母親が暇に飽かして希望街の娼婦となったことで、働かずとも安定しているが怠惰な生活を送り続ける青年。左右対称のものが苦手という性癖を持ち、それゆえに隻眼の女に惹かれる。月光祭の直後、唐突に隻眼の女を殴殺したのを皮切りに、幸運街と希望街の世間に縁の薄い女を狙っては次々と惨殺し、顔を潰して非対称にしては、小指を切り取って持ち歩くようになってしまう。
隻眼の女
幸運街の占い師(禁涙境内なので魔導は用いず、あくまで統計による運勢鑑定)。
左眼の上から顔の半分に掛けて大きな傷があり、左眉も歪んで左右非対称の顔となっている。またオピオンの子供たちであるため、露出の多い服から剥き出しにした肩には、オピオンの紋章を刺青している。
モニカ・スート
十字線の塔のタイル補修にやって来た建設作業員。“無用街の暗殺”唯一の生き残り。
代々、世界中の古くなった大規模建築物の補修・解体を行う“古築請負”という稼業の棟梁を務めるスート家の娘。わずか17歳ながら周囲の信頼は厚く、彼女が跡目を継ぐのを誰も疑っていない。本人は、16歳まで入っていた学校の寄宿舎を出て、家の仕事に付いて回っている現在も、跡を継ぐか否か思案中。天真爛漫で、肝も据わった少女。十字線調査の依頼で、臨時に現地雇用された15歳の作業員助手としてスート家に紛れていたロザンとも顔見知り。
ウザクから十字線の補修について質問を受けた会食の直後、暗殺に遭遇。やって来たロザンと、暗躍していたネイティスにより、辛くも暗殺者からの口封じの追撃を逃れる。その数ヵ月後、残酷号により破壊された十字線の塔修復を全面的に依頼された事で、禁涙境を再訪することになる。
ワイカード
禁涙境の月光祭の下っ端の祭祀実行委員。
禁涙境をふらつくサトルに降り掛かった祭のトラブルに偶然気付き、仲裁した青年。2か月ほど前に、長年付き合っていたと思っていた彼女に二股を掛けられていたことが分かり、あっさり振られて未だ傷心。
アノー
禁涙境の古物商。月光祭の“銀幌駆け”の走者。
ダイキ帝国軍を退役後も故郷に帰る気になれず、短い休暇に度々訪れていた禁涙境で、なんとなく暮らしている。3年前から付き合いで連続出場して来た銀幌駆けで、昨年は3位になったことで、この一年間は入念な調整を続けて上を目指している。
エルウィンド・リーチ
ある軍の少尉であったこと以外の公式記録が一切ない、十字線を築いた無名の戦場魔導士
自らの小隊を率いての敗走中、任務放棄だとして自軍の攻撃を受けたため、辿り着いた4本の塔の遺跡を利用して姿を隠す隠蔽呪文を施した折に、偶発的に十字線を築いてしまった人物。その十字線の特性で攻撃をやり過ごすだけに留まらず、周辺軍との非戦条約を締結して一先ずの安全を確保させたものの、祝いの宴中に下方から突然飛んで来た矢を胸に受け、若くして絶命する。命を落としたのがリーチの演説半ばであったことから、最後の一節であった『諸君、泣くのはよそう。涙は禁止だ。』が禁涙境の名の由来となった。

残酷号事件-the cruel tale of ZANKOKU-GO[編集]

非国境特別未定地帯―冷めないスープ。そこに現れ、誰知らぬ無敵の力で暴虐の軍を始め、各地の悪と闘い始めた怪人―残酷号の正体は、心を喪失した一人の少年。“ヴェイルドマン計画”による残酷号覚醒の場に行き遭ったロザン・フリューダ達の前に立ちはだかるのは、怪人を生み出した元凶―邪の極みともいえる敵だった。前代未聞の残酷号の力に各大国が、千兆帝―ロードマン率いる“完全なる覇軍”が、残酷号に助けられたが行き場のない旧ミクサーイン王国のコガンバ難民団が策動する中、戦地調停士―EDが残酷号の調査を開始する。

ロザン・フリューダ
年齢:17歳(ナメられるのを気にして、表向きは27歳で無理に通している)
裏社会の何でも屋。
一見するとノリの軽い青年ながら、発想力や観察力に富み、特に危機に対する直感力は抜群で、的確で冷静な判断を下す青年。ある依頼からオルトミル公国の秘密地下実験場へ潜入し、ヴェイルドマン計画発動に巻き込まれるというピンチに陥ったことで残酷号を覚醒させ、助けられる。持ち前の勘の良さで残酷号の変身タイミングなどを早々に理解して上手く利用し、サトルやコガンバ難民団の世話を焼くようになる。妙に品の良さを感じさせる顔立ちで、高貴の出ではないかとも一部には噂されているが、本人はその出自を一切語らない。4作目では十字線調査の依頼を受け、スート家に禁涙境で臨時雇用された15歳の作業員助手として紛れていたため、モニカとは顔見知り。
ネーティス・ハイフス
ロザンの相棒。元ダイキ帝国軍特務部隊の強化戦士で、死人兵。
冷めないスープで行き倒れていたのを、マヌサヌ軍に出向していたディンにより死人兵として復活された女兵士。その出自や痛覚のない体から軍では兵器扱いだったが、3年前に出会ったロザンが人格を認めてくれたことで、軍を抜けコンビを組む。強化戦士として高い戦闘力や怪力を誇るが、死人兵の例に漏れず生前の記憶がないため、精神的にやや幼い部分もある。ロザンと共に秘密地下実験場へ潜入し、ヴェイルドマン計画発動時にトランス状態に陥るピンチで残酷号を覚醒させ、助けられる。ロザンに恋心を寄せており、サトルやコガンバ難民団の世話で危険に巻き込まれて行くロザンを、非常に心配している。
残酷号/サトル・カルツ
一見すると巨大な十字架である装置―ザ・クロスをいつも持ち歩いており、一度何かに呼応すると、残酷号に変身してあらゆる悪と戦う。冷めないスープの地下実験場で残酷号として戦い出した以前の記憶は断片的で実感に乏しいものであり、以降はその折に助けたロザン達の世話になっている。本人がその素性を問われた際、心のままに歌った一節『類は怪人、名は残酷』より怪人―残酷号の名で知られ、その圧倒的戦闘力や誕生の秘密を巡り、近年では世界中の注目を集める存在。
青白い肌にボサボサの髪をした、印象の薄い青年。常にぼーっとしており、心ここにあらずな喋りと態度で話す。
ディン・ジョルドォ
ダイキ帝国軍の天才的な軍事魔導師。残酷号の観測記録を、初めて公に提出した女性。
ダイキ帝国よりマヌサヌ軍へ出向しており、その間にネーティスを死人として復活し、残酷号の出現を観測している。どこでもざっくばらんで明け透けな発言をするものの、その知性は第一級な鬼才。いつもボサボサ髪におどけたような大きな涙滴形の黒眼鏡、ラフな服の上に白衣姿。右手中指の指輪は、超名門魔導師学校在学中に書いた論文が世界的権威であるプレマ・モリノス魔導賞を受賞したことで、学園の名声を高めたとして授与された特製中の特製。
レギューン・ツィラス
オルトミル公国の准将で、トリニテッタ姫の婚約者。
10年前にラズロロッヒ情報が骨子のヴェイルドマン計画を携え、ミクサーイン王国の崩壊時に公国へやって来た亡命者。その冷たいながらも整った顔立ち、すらりとした長身などの見目の良さから、女性達を瞬く間に魅了する美貌の持ち主。普段は虜にしたトリニテッタ姫の影に徹し、要人達の目に留まらない、捉え所のない人物。
トリニテッタ姫/トリニテッタ・オーソ・リム・オルトミル
オルトミル公国の第三位王位継承権保持者。公国親衛軍の最高司令官。
王位を継承しないことが正式に決まっており、公国中枢としてはお飾りの存在。しかし婚約したレギューンの暗躍により、各国に一目置かれる稀代の戦略家として名を馳せるようになる。本人はひたすら、愛するレギューンの言うがままに従っているだけのつもりであり、自らの存在感だけが次第に大きくなっていく様に怯えている。しかし、公国内でずっと感じていた孤独を癒してくれたレギューンとの幸せを夢見るのを止められず、やはりその言動や指示を深く考えることはない。常に身に付けている、公国親衛軍の最高司令官の証である短剣は、トリニテッタ姫以外には火傷を負わせる保護呪文が掛けられている。
ヌーナン・バヒルンド
“オニヒトデ”の異名を持つ改造戦士で、傭兵部隊―鬼導武装社の一人。
それぞれの国で犯罪者となった魔導師13人の集まりで、どんな汚れ仕事も引き受ける傭兵部隊の中では屈指の鬼導武装社の所属だが、元は某国の軍医。ソニ・レスカ連合共和国のさる要人から、ミクサーイン王国最期の生き残りである“王子”の奪取を依頼されていた。残酷号の接近に気付き、王子殺害のためにコガンバ難民の一団を襲撃するが、残酷号に壊滅させられる。普段より青白い肌の上に走った全身に及ぶ赤黒い傷痕、頭半分の毛が抜け落ちた異形の姿だが、さらに外科手術で魔法兵器を埋め込んだ重装型の改造戦士。鈍い赤色の鱗状に全身装甲化し、傷痕から出たパイプ状の突起で、体内生成した神経細胞に作用する毒ガスを散布することで、敵の麻痺も殺害も可能な変身後の姿は“オニヒトデのバヒルンド”と恐れられている。
エジン
年齢:10歳
コガンバ難民の少年。
ミクサーイン王国の滅亡により、10年間に及ぶソニ・レスカからマヌサヌ軍への放浪の後、再びソニ・レスカへの移動を開始したコガンバ難民団の一人。残酷号の助けで鬼導武装社の襲撃から生き残るが、当初は襲撃対象のアリシャ姫に飛ばっちりを食ったとして怒りを向けたものの、ロザンの制止で思い直し、和解してからはアリシャ姫に一番の信頼を寄せられるようになる。出生後間もなく両親を失くし、難民団に拾われたために行動を共にしているが、出身国や出自など、自身のことは何も知らない。お包みにしていたタオルを両親の形見として、大切にしている。痩せ細った体に、気弱な目をした少年。
アリシャ姫/本名:アリソファレンスタイム・リキラウダ・ミクサーイン
10年前に滅亡したミクサーイン王国最期の生き残り。
王国の滅亡により、家来達に守られて方々を転々としながら、ずっと隠されて育った少女。コガンバ難民に紛れていた所を、鬼導武装社に襲撃されるが、残酷号により辛くも難を逃れる。その後はロザンの提案から身分を晒し、王国と条約を結んでいた国々との安全保障の要として、難民団に傅かれている。落胤であることにのみ重点を置かれて育ったため、“アリシャ”の略称を付け初めて自身と向き合ってくれたエジンを信頼し、決してその側を離れようとしない。常に身に付けている、大粒の真珠があしらわれ王家の紋章を象ったネックレスは母に授けられた物で、アリシャ以外には火傷を負わせる保護呪文が掛けられている。
ロードマン
千兆帝と呼ばれる、“完全なる覇軍”の統率者。
7年ほど前に突如現れ、軍事的拠点とは無関係な地方の小都市などの防衛戦のみを引き受けては無敗を誇る、最強の傭兵団の長。報酬の類いは一切受け取らず、以降の正当防衛を除いた戦闘行為の放棄を条件に依頼を受けている。術者1人につき呪文詠唱1つが基本原則な中、多数の術を駆使して軍団を強化しているその絶大な魔力、出自、軍団の構成や支配体制、拠点と言われる“零次元城”の位置など、全てが謎に包まれた最強の呼び声高き魔導士。マントに付いたフードに隠した素顔は半分が、体まで続くズタズタに抉られた傷痕と、焼け爛れた紫のケロイドが走る。
ギ・ゾングル
完全なる覇軍の百鎧将の一人。
深紫の重武装の呪文装甲の鎧で、かつての流行歌―“幻の翼”を口ずさみながら行軍している。特に階級や序列のない覇軍内ではあるが、ロザンと会話したり作戦の指揮を取ったりと、司令塔的な役割をしている。

用語[編集]

戦地調停士
七海連合に所属する特殊戦略軍師で、総員23名[11]。“弁舌と謀略で歴史の流れを押さえ込む”とまで言われる、戦争やそれに比する国際問題を交渉で沈静化する、揉め事処理のスペシャリスト。その調停内容の難解さから、連合の命令系統から完全に独立しており、状況次第では連合に不利益な決断も2度まで無条件で承認される、連合の権勢を自由に行使出来るなどの特権もあるが、ただでさえ縺れに縺れた案件の調停を行うことから恨みを買いやすく、さらに連合は戦地調停士個人の生命に対しては一切の補償を要求しないので常に身の危険に晒されてもいる存在。採用基準は不明だが、調停の場では何ものにも揺るがされずに常に中立を保ち、自分の意見を貫き通す必要が多くあるためか、全員が揃いも揃って捻くれ者や変人ばかりである。あくまで問題の調停が主で手段は問われないため、調停士によってはその後の住民達の生活などをまるで考慮しない者もいる。
七海連合
“国土なき帝国”と称される、世界最大の通商連合。
ヒギリザンサーン火山噴火の際に設立され、母国のない商人達の相互扶助団体から急速に勢力を拡大し、現在では海賊島を除く世界全域に領土を置くその規模は、将軍位の人材ですら100人以上を抱えるほどのもの。既存の国家で連合と商取引をしていないところは皆無のため、国家間の問題に対しその影響力で介入を行う(逆に、当事者から公式・非公式に介入を依頼されることもある)。2作目では同規模の勢力を誇る魔導師組合も傘下に取り込み、勢力を更に拡大する。
界面干渉学
この世界とは異なる世界(ブギーポップシリーズを始めとした上遠野作品の各世界)からの漂流物を調べる学問。一般への認知度は無いに等しい。漂流物は戦車、拳銃、鋏、本などがあり、指切りや十字架などの文化も研究の対象とされている。
暗殺王朝レーリヒ/ザイラス侯爵家
“必殺”の代名詞と言われるまでに暗殺に長けた旧王朝。ザイラス侯爵家は、その傍流の裏情報屋一族。
暴虐な前王朝への対抗として、抵抗組織の副官が磨いた暗殺術を、継承者の息子が復讐心で暴走したまま王座に付く。それにより支配圏内外共に敵を持ち、殺戮効果などにまで及ぶスペシャリストの育成や使用に長じた国となる。が、その多過ぎる敵や王座を巡る骨肉の争いで、20年足らず後に七代目のレクマス・レーリヒを最後に崩壊。特にレクマスはその虐殺者数から、リ・カーズの再来とまで呼ばれている。一族郎党は革命政府によって女子供に至るまで皆殺しになり、傍流のザイラス侯爵家を残すのみ。現在ザイラス侯爵家は国際情勢の裏情報屋であり、半年毎に“王と裏切り者のための地図”に精密な世界の勢力バランスを記しては発行しているという。
オピオンの子供たち
“オピオン”とも呼ばれる、世界を放浪する集団の名前。
印として子供たちには、オピオンといわれる蛇が体に刺青されている。300年以上前、当時の戦乱において帰る地を失った難民、迫害を受けた者、追放された者達が集まり出来た集団で、指導者は不明。世界各地でその柔軟性と強かさにより自由な取引と交流で世界の全てと関わり続け、歴史の影において、商人あるいは旅芸人などの様々な形で「自分たちはもはや祖国を求めずに、国家という存在からの圧力も認めずに、自分たちで助け合い生きてゆく」という誓いの基に結束した彼らの存在が確認されていた。しかし40年ほど前、ヒギリザンサーン火山の噴火で世界中が大凶作に見舞われた際には、当時現れた独裁者から、一斉に粛清の対象とされる。多くの者たちが命を落とすことになり、世界が安定を取り戻した際にも、オピオンは都合が悪いものや“縁起が悪いもの”として禁忌となり、遠避けられている。
世界に七匹しか存在しない、超常の存在。
見る者を圧倒する巨体、何ものにも似ていない異様な姿、そして人知を超えた知性と圧倒的な魔力制御能力を持つ。人が魔法文明を築くより前から生きており、すべての竜は人里離れた秘境に生息しており、人と好んで関わろうとすることはない。また、生殖して数を増やしたという話もなく、常に七匹で語られてきた。世界の在り様について人間より遥かに詳しく知っているがそれをひけらかすこともなく、またその大いなる力で万物に君臨しようともせず、独りで生き続けている。しかし、ヒギリザンサーン火山噴火など、世界規模での大災害が起きた際には、何らかの干渉をしていたようで、外界に無関心というわけではない。なお、その姿を見たものがほとんど存在しないため、一部ではただの動物である翼蜥蜴のような姿をしていると考えられているが、そこには明確な差異があり、特にその顔つきや眼などは相対したものから「知性」の有無が強調されている。
死人/死人兵
一度は完全に死亡したものの、手遅れの蘇生呪文で生体活動が戻った者。魂が消え、別物が入り込んだに等しい復活なため、多くが生前の記憶などを失っているという、ほぼ別人である。その功名か、技術など体の記憶や魔力が生前よりアップする者も少なくはない。しかし多くはその経歴から世間には疎まれ、軍事事業に携わるようになることがほとんど。
十字線(アンカー)
禁涙境の基盤である“あらゆる魔力が4分の1になる(実質的にはほぼ無効)”、“生物が一切受胎しない”という不可思議な5本の尖塔。
30数年前に戦場魔導師―エルウィンド・リーチによって4本の塔の古代遺跡に掛けられた、姿を消す隠蔽呪文が変質し、現在の特性を持つ。中央の塔は後に建てられたもので、鉄製であったとの理由から臼砲という兵器が警鐘の代わりとして釣られる。さらにその上に、左右に突き出した足場が天秤のように見えたことから、この中央の塔は“天秤塔”と呼ばれるようになり、鐘は他の4本の塔にも共鳴して街中に音が響くという、街のシンボルとなった。こうして、天秤塔を中心に4本の塔がそれぞれの交錯線が直角になる、完全な線対称となる配置から十字線の名が付く。元となった遺跡自体が、300年以上前から存在していたものの全てが謎に包まれた建築物であり、あらゆる軍や魔導士が研究したものの、その特殊性はずっと解明されないままであった。ただしこの特殊性は、5本の塔を巡るように張られた力場のようなものであり、塔のある地表付近より上にのみ作用する、地下深くでは働かないものであった。
海賊島/正式名称:ソキマ・ジェスタルス島
国家間の領海線の狭間に位置し、世界条約で治外法権が認められた世界有数の観光名所。
優に十万を越える収容人数を誇り、賭場、劇場、男女両対応の娼館、麻薬窟などのこの世のあらゆる娯楽施設が存在し、施設・歓楽街としては群を抜いている。“賭場として、いかなる咎人も平等に受け入れる――賭けに参加出来る金がある限り”という謳い文句で有名。海賊団である“ソキマ・ジェスタルス”の本拠都市であるが、実際にはラ・シルドス軍の旗艦―シルドサザーランドとその戦列艦の、計七隻の大型船舶の錨を海底に打ち付け、橋を架けて繋いだ人工の都。構想と下地は一世、建造はムガンドゥ二世―ニーソン、決して姿を見せないながら島内全てを掌握する完全な支配体制を三世に敷かれた、ムガンドゥ一族そのもの。1作目でED達一行が訪れた他、3作目での主な二つの舞台の内の一つ。
バットログの森
今も世界地図上の空白地帯となっている、広大な森。
奇怪な植物が鬱蒼と生い茂る森は、独自の魔導進化を遂げた怪物的な動植物の住処。荒野に建造されていた紫骸城での、300年前のオリセ・クォルトとリ・カーズの戦いによって、夥しい魔法呪文の汚染が生じた影響によると言われている。
紫骸城
バットログの森に聳え立つ、奇怪な巨大建造物。
300年前にリ・カーズにより、宿敵のオリセ・クォルトを迎え撃つために建造したと言われているが、その用途も真の目的も知る者はない。当事の技術の粋を集めて建てられ、異常なまでの頑強さを誇り、あらゆる魔力を吸収する城塞。その性質から、現在は魔導師ギルドによって年に一度開催される“限界魔導決定会”の会場になっていたことで、2作目の惨劇の舞台になってしまう。
落日宮(らくじつきゅう)
ニトラ・リトラが支配人を勤める、古城を利用して作られたサロン
辺境の小国―モニー・ムリラ(ダイキ帝国同盟国)にあり、基本の高級レストランに、宿泊・遊興施設を伴った高級リゾート。世界中から貴族、大臣、政府高官が非公式で訪れる闇情報の大市場でもある。一方で、それぞれの事情で国に居られなくなった者たちが、金にあかして滞在している。3作目での主な二つの舞台の内の一つであり、5作目では残酷号に関する大国間の会合の会場にもなっている。
禁涙境(きんるいきょう)
大陸の中央近くに位置し、地理的にも政治的にも特殊な非武装地域の街。
十字線の特性で攻撃されることもなく、難民達の街となるうちに、周辺国の事情もあって勢力的な空白地帯となった経緯から、現在も登記上はダイキ帝国の委任統治領ではあるが、多額の自治税を支払うことで、事実上は周囲から独立した形となっている。さらに主な3つの街区も十字線の特性を利用し、付近の戦場からの兵士を慰める、大規模な娼館通り―希望街。どんな大規模呪文の呪符も無効化されるために、結界がなくとも中古魔道器具の扱いが容易であったことで築かれた一大流通市場―無用街。外縁区域に当たる幸運街から成る。4作目の舞台であり、残酷号により壊滅的な被害を受けながらも、魔導師ギルドの副本拠都市に指定され、復興を急いでいる。
冷めないスープ/正式名称:ウォルバラッサ特別協定に基づく、非国境特別未定地帯
“熱くて飲めない、しかし一番美味しいのは飲めるギリギリの熱さになった瞬間だから、皆がその時を今か今かと待っている”という場所柄から、その名で呼ばれる広大な荒野。昔から複数の国境が交わり、しかしそれぞれの国が政情不安で領土に出来なかったため、ただ何もない手付かずのままになっている地帯。実際には荒野のほぼ中央に、オルトミル公国によるヴェイルドマン計画の地下実験場が秘密裏に存在していた。

既刊一覧[編集]

  1. 殺竜事件-a case of dragonslayer ISBN 4-06-182135-0(2000年6月6日発行)
  2. 紫骸城事件-inside the apocalypse castle ISBN 4-06-182184-9(2001年6月6日発行)
  3. 海賊島事件-the man in pirate’s island ISBN 4-06-182282-9(2002年12月13日発行)
  4. 禁涙境事件-some tragedies of no-tear land ISBN 4-06-182404X(2005年1月14日発行)
  5. 残酷号事件-the cruel tale of ZANKOKU-GO ISBN 4-06-182636-0(2009年3月6日発行)
  6. 無傷姫事件-injustice of innocent princess ISBN 4-06-299064-4(2016年1月7日発行)

脚注[編集]

  1. ^ 1作目では魔法結界を剣撃で破壊。2作目では歴史上、誰も傷すら付けられなかった紫骸城の正面扉を斬り抜く。3作目では海洋生物最強の大海蟲を僅か三撃で撃退。5作目では最凶の剣豪―レギューンを一騎討ちで押し、またザイドス紛争やケッチタの暴走など、その戦闘力・行動力による功績は枚挙に暇がない。
  2. ^ 聖ハローラン公国(聖波浪蘭公国)王族は全員本名がうんざりするほどに長くてくどいため、通称名で通すのが常となっている。
  3. ^ 作者のニーガスアンガーも『我が生涯で唯一無二の最高傑作』と称した
  4. ^ 普段は勿論、幻覚魔法で投影された姿にも刺青は映らない。
  5. ^ 年に一度、魔導師ギルドによって一週間に渡り開催される、最高の名誉である大会。表向きは魔法の出力を気にする必要のない紫骸城で、魔導の限界を究めるというものだが、その実ムノギタガハル一族の権威向上に一役買っている。
  6. ^ 界面干渉学の成果を取り入れて三カ国が合同開発した、画期的なケッチタ島の魔導炉の稼働実験時に起こった、テロリストによる乗っ取り事件。
  7. ^ “フィルファスラート”は魔女―リ・カーズの誕生時の姓。同じ姓や強大な魔力からリ・カーズの子孫であると囁かれている双子だが、フィルファスラートという名字が300年前はそれほど珍しいものではなかったこと、リ・カーズが自らの家系を全て根絶やしにしてしまった事実から、本人達は表向き否定している。
  8. ^ 大衆が列挙した有力者全てを粛清するという大量死刑の執行で、当事国2つを徹底的な無気力とした調停の様子など、その悪虐非道さで度々名を挙げられている。
  9. ^ 紫骸城に最初に入った冒険者隊(パーティ)の一人であった下っ端を初代に、魔導師ギルドの前身組織を設立し、長くその総帥の座を独占してきた、200年続く名家。
  10. ^ 後に一世は妾のみ、しかし数十人以上持っていたにもかかわらず、アイリラ以外の子には恵まれなかった。
  11. ^ 王族の数より少ないとされている23名から、4作目以降は1人加入し、24名になっている。