乾草の車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『乾草の車』
英語: The Hay Wain
作者ジョン・コンスタブル
製作年1821年
素材油彩・キャンバス
寸法130.2 cm × 185.4 cm (51+14 in × 73 in)
所蔵ナショナル・ギャラリーロンドン

乾草の車[注釈 1](ほしくさのくるま、The Hay Wain)は、イギリスの風景画家ジョン・コンスタブル1821年に完成させた風景画である。イングランドサフォーク州エセックス州の間を流れるスタウア川英語版の田園風景を描いている。当初のタイトルは『風景:真昼』(Landscape: Noon)だった[1][2]ロンドンナショナル・ギャラリーに展示されており、「コンスタブルの最も有名な作品」[3]「最も偉大で人気のあるイギリス絵画」の一つとされている[4]

概要[編集]

キャンバスに油彩で描かれたこの作品は、木製の乾草車が3頭の馬に牽かれて川を渡る様子が中心に描かれている。左端にはウィリー・ロットのコテージが描かれており、これはコンスタブルの絵画『ウィリー・ロットのコテージ』の主題となっている。舞台は、サフォーク州のフラットフォード製粉所英語版の付近である。スタウア川は2つの州の境界を形成しているため、左岸はサフォーク州、右岸はエセックス州になる。

『乾草の車』は、毎年夏にロイヤル・アカデミーで開催される展覧会のためにコンスタブルが描いた、横幅6フィート(約1.8メートル)の大型キャンバスに描かれた「6フィート画」(six-footers)と呼ばれるシリーズの一つである。このシリーズの他の作品と同様に、コンスタブルはこの作品のために実物大の油彩スケッチを描いており、このスケッチは現在、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されている。コンスタブルは当初、完成した作品を『風景:真昼』(Landscape: Noon)というタイトルで展示していた。これは、コンスタブルがこの作品を、自然のサイクルを表現する古典的な風景画の伝統に属するものと考えていたことを示している[3]

絵の大きさは130.2 cm × 185.4 cm (51+14 in × 73 in)である[5]

歴史[編集]

フラットフォード製粉所はコンスタブルの父親が所有していた。絵の左側の家は、近所の小作農英語版ウィリー・ロットのもので、ロットはこの家で生まれ、生涯で4日以上離れたことがないと言われている。ウィリー・ロットのコテージはほとんど手を加えられずに現存しているが、この絵に描かれている木はどれも現存していない。

『乾草の車』は、今日ではイギリス絵画の最高傑作の一つとされているが、1821年のロイヤル・アカデミーの展覧会に『風景:真昼』のタイトルで出品された際には買い手がつかなかった。

サフォーク州フラットフォード英語版の『乾草の車』が描かれた場所で、2010年に同じ構図で撮影したもの。現在では現地は観光地化されている。左側にウィリー・ロットのコテージがそのままの姿で写っている。

一方、フランスでの評価はかなり高く、テオドール・ジェリコーが絶賛した。この絵は、1824年のサロン・ド・パリでコンスタブルの他の作品とともに展示され、センセーションを巻き起こした(コンスタブルの絵が展示されたのは、その年の初めに亡くなったジェリコーへのオマージュだったとも言われている)。この展覧会では、『乾草の車』がフランス国王シャルル10世から金メダルを授与された。コンスタブルの作品は、ドラクロワをはじめとする新世代のフランス人画家たちに影響を与えた。

この展覧会で、『乾草の車』は他の3つのコンスタブルの作品とともに画商のジョン・アローズスミスに売却され、別の画商D・T・ホワイトによってイギリスに持ち帰られた後、ワイト島ライド英語版に住むヤングという人物に売却された。ヤングの家で、この絵はコレクターのヘンリー・ヴォーン英語版や画家のチャールズ・ロバート・レスリーの目に留まった[6]。ヤングが亡くなると、その友人だったヴォーンはこの絵を買い取り、1886年にロンドンのナショナル・ギャラリーに寄贈し、現在もそこで展示されている[7]。なお、ヴォーンは遺言により、パレットナイフで描かれた『乾草の車』の原寸大の油彩スケッチをサウス・ケンジントン博物館(現ヴィクトリア&アルバート博物館)に遺贈している[8]

『乾草の車』は、BBCラジオ4英語版の番組『トゥデイ』が2005年に行った投票において、イギリス国内にある絵画の中で、ターナーの『戦艦テメレール号』(The Fighting Temeraire)に次いで2番目に人気のある絵画に選ばれた[4]

2013年6月28日、ファーザーズ・フォー・ジャスティス英語版(Fathers 4 Justice)の関係者とされる人物が、ナショナル・ギャラリーで展示されていたこの絵画に少年の写真を貼り付けた。しかし、作品に恒久的な損傷はなかった[9]

馬車が浅瀬に立ち寄ったのは、川の水で馬の足と車輪を冷やすためだったと考えられている。乾燥した暑さの中では、木製の車輪は金属のリムから離れて縮んでしまう。車輪を濡らすことで収縮が抑えられ、外側の金属の輪が固定される[10]

脚注[編集]

映像外部リンク
Smarthistory – Constable's The Hay Wain[11]

注釈[編集]

  1. ^ タイトルの日本語訳は一定しておらず、「乾草車」「干し草車」「干草車」(いずれも「ほしくさぐるま」)「秣車」(まぐさぐるま)としたり、音訳のまま「ヘイ・ワイン」とすることもある。

出典[編集]

  1. ^ Alastair Sooke (2014年9月14日). “Constable was more than a reactionary fuddy-duddy”. The Telegraph. https://www.telegraph.co.uk/culture/art/art-features/11090654/Constable-was-more-than-a-reactionary-fuddy-duddy.html 2019年3月20日閲覧。 
  2. ^ My Favourite Painting: Sir Jim Paice”. Country Life (2018年7月30日). 2019年3月20日閲覧。
  3. ^ a b Early Six-Foot Stour River Paintings”. Constable's Great Landscapes: The Six-Foot Paintings. National Gallery of Art. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月14日閲覧。
  4. ^ a b “Turner wins 'great painting' vote”. BBC News. (2005年9月5日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/4214824.stm 
  5. ^ John Constable | The Hay Wain | NG1207 | National Gallery, London”. www.nationalgallery.org.uk. 2021年9月29日閲覧。
  6. ^ Kay, H. Isherwood (1933). “The Haywain”. The Burlington Magazine for Connoisseurs 62 (363): 281–289. JSTOR 865555. 
  7. ^ The Haywain – facts”. The National Gallery. 2009年9月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月26日閲覧。
  8. ^ The Haywain”. oldandsold.com. 2010年8月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月26日閲覧。
  9. ^ “Constable's The Hay Wain attacked at the National Gallery”. BBC News. (2013年6月28日). https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-23099594 
  10. ^ Cumming, Robert (1 May 2008). Art Explained: The world's greatest paintings explored and explained. Dorling Kindersley. ISBN 9781405335263. https://books.google.com/books?id=RJhFDZl1APMC&pg=PA79 2017年7月27日閲覧。 
  11. ^ Constable's The Hay Wain”. Smarthistory at Khan Academy. 2012年12月21日閲覧。

外部リンク[編集]

ウィキメディア・コモンズには、乾草の車に関するカテゴリがあります。