主題と変奏 (シューマン)

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主題と変奏 変ホ長調』(Thema mit Variationen in Es-Dur für Klavier)は、ロベルト・シューマン1854年2月に作曲したピアノ独奏のための変奏曲であり、シューマンが作曲した事実上最後の作品である。

死後に出版されたため作品番号は付けられていないが、整理番号として WoO 24 が付けられている。

呼称について[編集]

この作品は、日本においては『天使の主題による変奏曲』という名称がよく知られているが、これはドイツ語の俗称である "Geistervariationen" の意訳であり、直訳すると『亡霊変奏曲』または『幽霊変奏曲』となる。

他にも『亡霊の主題による変奏曲』や『精霊の主題による変奏曲』、『最後の楽想による幻覚の変奏曲』など、媒体によって様々な呼称で表記されている。

作曲の経緯[編集]

この作品を作曲していた頃のシューマンは、持病の梅毒の進行に伴い、幻覚や幻聴に悩まされていた。妻クララ・シューマンの日記によれば、1854年2月17日から18日にかけての夜にシューマンは何度も起き上がり、そこに現れたというシューベルトメンデルスゾーンの亡霊が歌ったひとつの主題の幻聴を聴き、それを五線紙に書き留めた。そして、ルーペルト・ベッカーの日記の記述によれば、2月22日から23日にかけて、シューマンはこの主題による変奏曲を一旦完成させた(なお、このときに書かれた自筆譜は一部分しか現存しておらず、この時点でいくつの変奏が書かれたか特定することは出来ない)。

その後、2月27日にシューマンは再びこの主題による変奏曲を作曲し始めており、クララの証言によればそれは「完璧なコピー」であったという(現在出版されている楽譜は、このときに書かれた自筆譜に基づいている)。

同日、シューマンは清書譜を作成中に家を抜け出すと、ライン川に身を投じて入水自殺を図ったが、これは現場を目撃していた地元の漁師に救助され未遂に終わり、その後、自宅へと連れ戻されたシューマンは早くも翌日に作曲を再開し、本作品を完成させた(ドイツ作曲家アリベルト・ライマンは、第4変奏と第5変奏が構造的に完全に異なるため、ライン川へ入水自殺を図ったのはこの間であろうと推察している)。

精神病院入院後を含むシューマンの最晩年の作品のほとんどは、死後にクララの手により廃棄されてしまった。クララはこの曲の楽譜は残したものの、ヨハネス・ブラームスと共に編纂したシューマン全集(1893年刊行)には「主題」のみしか収録しなかった。全曲の出版は1939年になってからである[1]

作品の概要[編集]

主題と5つの変奏からなる作品である。演奏時間は約11分。

  • 主題:変ホ長調、4分の2拍子のコラール風の主題である。大きく分けてA、Bの2つの部分に分かれており、B部分は繰り返される。
  • 第1変奏:右手の最上声部の旋律はそのままに、内声を3連符で装飾する。
  • 第2変奏:右手の旋律に、1拍遅れで左手が追随するカノン
  • 第3変奏:左手に旋律が置かれ、右手は6連符で装飾する。
  • 第4変奏:ト短調。コラール風の変奏。
  • 第5変奏:変ホ長調に戻り、16分音符の細やかな動きと半音階的な動きで装飾し、静かに終結する。

エピソード[編集]

遺作となったシューマンの『ヴァイオリン協奏曲 ニ短調(WoO 23)』は、第2楽章の主題がこの変奏曲の主題に酷似していたために、クララによって演奏を禁止されていた。なお、作曲時期はこの変奏曲よりも、ヴァイオリン協奏曲の方が先(1853年)である。

ブラームスは、この曲の主題を基にした連弾のための『シューマンの主題による変奏曲 変ホ長調 作品23』を1861年に作曲して、シューマンの三女ユーリエに献呈している。

本楽曲を引用した作品[編集]

出典[編集]

外部リンク[編集]