丸山ワクチン

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丸山ワクチン(まるやまワクチン、: Specific Substance Maruyama, SSM)は、日本医科大学皮膚科教授だった丸山千里博士(1901-1992)が開発したがん免疫療法剤である。無色透明の皮下注射液で、主成分は、ヒト型結核菌から抽出されたリポアラビノマンナンという多糖体と核酸脂質である。

1944年、丸山によって皮膚結核の治療のために開発され、その後、肺結核ハンセン病の治療にも用いられた。支持者たちは末期のがん患者に効果があると主張しているが、薬効の証明の目処は立っていない。

1976年11月に、ゼリア新薬工業から厚生省に「抗悪性腫瘍剤」としての承認申請を行うが、1981年8月厚生省が不承認とした。ただし、「引き続き研究継続をする」とし、異例の有償治験薬として患者に供給することを認め、現在に至る。2015年12月末までに、39万9787人のがん患者が丸山ワクチンを使用している[1]

歴史[編集]

丸山千里1944年から、結核菌の発見者ロベルト・コッホが開発したツベルクリンにヒントを得て、結核ワクチンの研究を行ってきた。ツベルクリンは、結核治療用としては副作用が強すぎて失敗に終わり、結核診断用の薬剤として生き残っていた。丸山は培養したヒト型結核菌から有害な毒素を取り除くことに成功。残った成分の多糖体、核酸脂質によってワクチンをつくり出した。この結核ワクチンが、長年、皮膚疣状結核や顔面播種状粟粒性狼瘡などの皮膚結核に悩んできた患者たちに著効を示した[2]

1947年1966年にはハンセン病の治療にも用いられ、患者の発汗機能、知覚麻痺の回復などに有効だった[3]

丸山が国立療養所多磨全生園に通ってハンセン病患者の診療を続けていた1956年秋、患者が体内にライ菌を保持している間はがんの発生を抑えている[要出典]という事実を発見した。ライ菌と結核菌とは同じ好酸性の桿菌であることから、結核菌抽出物質の丸山ワクチンががん細胞の増殖を抑制できると考えた[4]

実験を重ねた後の1966年に、このワクチン(SSM)を悪性腫瘍に使用した場合、組織細胞の異常増殖を抑制する作用があり、副作用が全くないので、ある程度有効かつ安全な抗腫瘍物質だとする論文を発表した[5]

昭和40年代以降『がんの特効薬』とのが一気に高まり、医薬品の承認の手続きより世論が先行することになってしまった。

支持者による嘆願署名運動などが行われ、国会でも医薬品として扱うよう要請された[6]

有効性について[編集]

抗がん剤[編集]

愛知県がんセンター東北大学がそれぞれ行った臨床試験については、丸山ワクチンの有効性が認められなかったとされている[7][8]

白血球減少症の治療薬[編集]

放射線療法による白血球減少症の治療薬として、1991年承認された「アンサー20」(ゼリア新薬工業)は、丸山ワクチンと同成分である。アンサー20が効果ありとされた白血球減少症は、悪性腫瘍によって引き起こされる症状、あるいは、その化学療法や放射線療法時の副作用への対策薬である。抗がん剤として承認されたわけではない。

支持者の動向[編集]

丸山ワクチンは、有効性の確認の為の研究を継続するため、治験期間3年で有償治験を行い、その結果によって、その都度、治験期間の延長の届出[9]が行なわれている[10][11][12][13][14]。丸山ワクチンによる治療を望む患者あるいはその家族は、丸山ワクチンの治験を引き受けてくれる医師を探し出し、治験承諾書(丸山ワクチンによる治験を引き受けるという担当医師の承諾書[15])およびSSM治験登録書(現在までの治療経過をまとめた書類[15])を整えさえすれば、丸山ワクチンの投与が受けられるという1972年以来の状況が続いている。

通説[編集]

化学療法剤との違い[編集]

支持者は「がん化学療法剤が悪性腫瘍に直接、作用して腫瘍の縮小、消滅を図るのに対して、免疫療法剤の丸山ワクチンは投与によって体内に抗体を呼び覚まし、がんの成長、転移を抑制する効果を期待するものであるから、がんと共生しながら延命するケースもある[要出典]従ってこの薬剤の有効性は腫瘍縮小率を基本とする効果基準では判定できない[要出典]。」と主張する。 しかし、免疫療法剤として承認されたニボルマブの奏効(腫瘍縮小)率は悪性黒色腫で32%[1]、肺扁平上皮がんで25.7%、非扁平上皮非小細胞肺がんで19.7%[2]であり、腫瘍縮小率を基本とする効果基準で判定できた。 また、第094回国会社会労働委員会第20号において、村山達雄厚生大臣は丸山ワクチンに縮小効果が見られなかったので延命効果判定を導入したと答弁し、梅原誠一参考人は腫瘍縮小を目安とする効果判定基準が丸山ワクチンには不適当であると考えたから延命効果判定を用いたと答弁してているように、丸山ワクチンがきっかけで腫瘍縮小効果がなくても延命効果があれば承認されることとなった。

扱いが「不公平」だとする疑惑[編集]

丸山ワクチンとほぼ同時期に申請された免疫療法剤のクレスチンピシバニールが短期間の審議で承認された例と比べて「不公平」ではないかと国会で度々質問されているが、丸山ワクチンの手続に時間が掛かっている原因は提出データの不備によるものであって不公平な取り扱いをしているわけではないと答弁されている[16][17][18][19][20]。 また、手続に要する時間の差については、クレスチンやピシバニールは提出された資料で効果が証明されているので承認が早かった、丸山ワクチンは提出された資料では効果の証明が不十分なので追加資料を求めたから時間が掛かったとされている[17][18][19][20]

尚、クレスチンやピシバニールの共同研究者等が厚生省中央薬事審議会のメンバーであったことが明らかにされたが、砂原茂一参考人は、「それならクレスチンやピシバニールをやめさせろと言えばいいわけ」で、「丸山ワクチンをいいかげんに通せとおっしゃるのは論理の逆立ち」とし、これら疑惑が丸山ワクチンを承認すべき根拠とならないとする見解を示している[21][22]

現在[編集]

2016年2月現在、丸山ワクチンは大規模臨床試験の段階に入っている。JGOG(婦人科悪性腫瘍研究機構)がゼリア新薬工業から、丸山ワクチンの有効性を調べる臨床試験を依頼されたのは1992年だった。子宮頚癌III期の患者を対象にしらべたところ、濃度を40µgの最大にした注射液が、腫瘍縮小率に優れていた。そこで40µg液を使った場合の患者の生存率を、二重盲検試験でしらべることになり、プラセボ(偽薬)の代わりとして、濃度を極めて薄くした丸山ワクチンB液(濃度0.2µg)を使った。丸山ワクチン40µg液は41.5%でプラセボ代わりの0.2µg液(B液)を使った患者は58.2%で、5年生存率においてその差は逆方向に10%以上あった。

2004年からはB液を対象とした臨床試験を実施した。放射線療法+丸山ワクチンB液と、放射線療法+プラセボの二重盲検試験である。これで5年生存率を調べたところ、前者が75.7%、後者が65.8%という数字が出た。ただし、臨床試験の期間において医療機関に放射線化学療法が導入されて患者の予後が予想以上に良くなったこと、病期II期の患者数が想定していたよりも多かったことなどから、統計学的には有意差を認めるに至らなかった。しかし、臨床的には意味のある結果であった[要説明]ことから、この試験にたずさわった埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授・藤原恵一らが、2013年6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)において、丸山ワクチン(試験薬剤コード名:Z-100)の試験データを報告した[23]

脚注[編集]

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  1. ^ 日本医科大学. “治療成績をあげる丸山ワクチン / 丸山ワクチンとは-丸山ワクチン・オフィシャルサイト”. 2016年2月5日閲覧。
  2. ^ 丸山千里「結核ワクチン(結核菌体抽出物質)による皮膚結核症の治療に関する研究」(日本皮膚科学会誌1964年3月. 第74巻 第3号.139~164頁)
  3. ^ 丸山千里、渡辺芳子、本田光芳、硲省吾「結核ワクチン(結核菌体抽出物質)による癩の治療に関研究」(日本皮膚科学会誌 1964年3月.第74巻 第3号.174~180頁)
  4. ^ 実際の因果関係は不明で交絡因子神奈川歯科大学. “医学統計学:臨床編”. 2009年12月13日閲覧。によるバイアスが推測されている。現在では結核の既往が肺がんのリスクを高めることがわかっている祖​父​江​友​孝 (2000). “固形癌の疫学 第8回 肺がんのリスクファクター”. 血液・免疫・腫よう 5 (4). ISSN 1341-5824. http://epi.ncc.go.jp/images/uploads/sobue.pdf. 
  5. ^ 丸山千里「結核菌体抽出物質による悪性腫瘍の治療について」(日本皮膚科学会誌1966年7月.第76巻 第7号.399~404頁)
  6. ^ 参議院 (2009年10月27日). “第095回国会 社会労働委員会 第3号”. 参議院会議録情報. 2009年12月13日閲覧。
  7. ^ 1981年、第94回国会衆議院社会労働委員会第20号衆議院 (1981年7月30日). “第094回国会 社会労働委員会 第20号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。にて桜井欽夫癌研究会癌化学療法センター所長は、愛知県がんセンターの中里による投与データは、胃がんの手術不能患者では効果がないが手術後では統計学的に有意な差があったが差は小さく有意義とは言えない、腹膜転移のない患者では効果がなかったが腹膜転移のある患者でははっきりとした差があったが症例数が20例程度と少なく、もっと症例数を増やせば有意な差が出るのではないかとし、無作為割付の違反例の処理によって有利な解析結果となっている可能性を指摘している。また、東北大学が行った臨床試験の症例の大部分を占める胃がんでは差がない、その他のがんが少数まじっているが効くかどうかはがんの種類によって違う、膵癌の例は慢性膵炎の疑いがあるとされたがその後の組織診断からがんだと確定できたのでがんとして訂正したとしている。同委員会にて、砂原茂一国立療養所東京病院名誉院長は、東北大学が行った臨床試験は症例数が少ないので効くかもしれないとは言えるが効くとまでは言えないとしている。
  8. ^ 第95回国会参議院社会労働委員会第3号参議院 (1981年10月27日). “第095回国会 社会労働委員会 第3号”. 参議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。での持永和見厚生省薬務局長の答弁によると、東北大学が行った臨床試験にて、各種消化器がん、胃がん、肝がん胆嚢癌肺癌の切除不能、あるいは術後再発患者に対して、化学療法剤+丸山ワクチン184例(うち解析対象105例)と化学療法剤+生理食塩液179例(うち解析対象107例)の比較を行なった結果、腫瘍縮小効果や自覚症状の改善は見られなかったが、延命効果として20日間程度の延長があり、生存率も統計的には有意であった(具体的数値は不明)としながらも、「医薬品としての有効性は認められない」とされている。同委員会にて、村山達雄厚生大臣は、生理食塩液の群は最終的に全員死亡したが丸山ワクチンの群105例のうち3名が生存していた、うち2名は末期がんではなかったと判定され、残りの1名も膵臓がんではない疑いがあったが調査会では膵臓がんだったと判定したとしている。
  9. ^ 薬事法第八十条の二第二項
  10. ^ 衆議院 (1981年9月24日). “第095回国会 社会労働委員会 第1号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。 “丸山ワクチンにつきましてはさきの薬事審議会で、現段階では有効性を確認することができなかった、しかしながら、無効と断定するものではないので、したがって引き続き研究継続をする必要があるというような異例の意見が出まして、これを受けまして私どもは、これをつくっておりますゼリア新薬工業に研究継続の要請をいたしますとともに、お話しのように現在丸山ワクチンを使っておられる患者さんが多数おられますので、そういった人たちのニーズにこたえるべく、供給についても検討をお願いしている段階でございます。(持永和見厚生省薬務局長)”
  11. ^ 第95回国会参議院社会労働委員会第3号での持永和見厚生省薬務局長の答弁によると、治験の対象症例が非常に多いため製造・供給元にかなりの経済的負担を伴うことを理由として治験薬は有償とし、治験実施機関を日本医大として、丸山ワクチンの使用を希望する医療機関は共同治験を可能したとしている。
  12. ^ 衆議院 (1983年3月3日). “第098回国会 予算委員会 第16号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。 “一万の治験薬という形でいま使っておるところでございますし、そういったいろいろな形でデータが積み重ねられた上で認められてくるのだろうと私は思います。(林義郎厚生大臣)”
  13. ^ 衆議院 (1984年2月20日). “第101回国会 予算委員会 第8号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。 “治験計画三年ということで有償治験を実施しております(正木馨厚生省薬務局長)”
  14. ^ 衆議院 (1993年4月2日). “第126回国会 厚生委員会 第6号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。 “丸山ワクチンにつきましては、現在有償治験薬ということで患者さんに提供されておるわけでございまして、メーカーの方から試験研究を継続したい、そういう希望が出ておるわけでございまして、その結果を待って厳正にこの問題につきましては検討していきたい。(丹羽雄哉厚生大臣): 丸山ワクチンにつきましては、現在行われております有償治験の期間が、先生お話しのように本年の十二月二十日までということで予定をされておりまして、治験継続中という段階でございます。その後の丸山ワクチンの取り扱いにつきましては、現在行われておりますこの治験の結果を待ちまして検討してまいりたい、このように考えております。(市川和孝厚生大臣官房審議官)”
  15. ^ a b 日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設. “治験を受けるには”. 丸山ワクチン・オフィシャルサイト. 2009年12月13日閲覧。
  16. ^ 第93回国会衆議院社会労働委員会第6号(1980年11月5日). “衆議院会議録情報 第093回国会 社会労働委員会 第6号””. 2016年1月30日閲覧。草川昭三衆議院議員が「クレスチンとかピシバニールとか、同じような薬が二件、もう、パスしている。丸山ワクチンは四年目に入ってまだ審査の対象になってない。いやがらせじゃないですか」と質問。園田直厚生大臣が「裏の裏まで私はのみ込んでいるつもり。今後は差別待遇とか、いやがらせ、これは絶対にさせない」と答弁している。
  17. ^ a b 1979年、第87回国会参議院社会労働委員会第16号衆議院 (1979年5月24日). “第087回国会 社会労働委員会 第16号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。にて本橋信夫厚生省薬務局審議官は、クレスチンやピシバニールにあった腫瘍縮小効果のデータが丸山ワクチンになかったので提出を待っているとしている。
  18. ^ a b 1981年、第94回国会衆議院決算委員会第9号衆議院 (1981年4月17日). “第094回国会 社会労働委員会 第9号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。にて山崎圭厚生省薬務局長は、クレスチンやピシバニールは提出されたデータだけで十分有効性が認められるとして承認されたが、丸山ワクチンは資料が足りなかったため審議に時間が掛かった、両者の取り扱いに差を設けているわけではない、追加資料については指導しているとしている。
  19. ^ a b 1981年、第94回国会衆議院社会労働委員会第20号にて、砂原茂一国立病院機構東京病院名誉院長は、クレスチン等はデータがそろっていたから承認が早かったが丸山ワクチンはデータがそろっていなかったから時間が掛かった、クレスチンやピシバニールの生存曲線では後になるほど開きが大きいが丸山ワクチンの生存曲線ではところどころで少し有意差になるだけとしている。
  20. ^ a b 1982年、第96回国会予算委員会第三分科会第3号衆議院 (1981年7月30日). “第096回国会 予算委員会第三分科会 第3号”. 衆議院会議録情報. 2011年3月24日閲覧。にて持永和見厚生省薬務局長は、丸山ワクチンもクレスチンもピシバニールも全く同じ認可基準を使っている、丸山ワクチンは単独使用での有効性が認められなかったので他剤との併用試験を追加で行うことになったとしている。同分科会にて質問者の小林進衆議院議員は、丸山ワクチンは1%から2%の効果があるかないかだとしている。
  21. ^ 第94回国会衆議院社会労働委員会第4号(1981年3月19日). “衆議院会議録情報 第094回国会 社会労働委員会 第4号””. 2016年1月31日閲覧。菅直人衆議院議員は、クレスチンが認可を申請して五ヶ月後に、呉羽化学とクレスチンの共同研究を行ってきた癌研究所の塚越茂基礎研究部長に中央薬事審議会の調査会メンバーを委嘱している事実を指摘し、「答案を書いた人が、採点委員の中に入っているようなものだ」と追及。厚生省の山崎圭薬務局長は「人事の都合で、たまたまそうなった」が、「公平性は保った」と答弁した。
  22. ^ 第94回国会衆議院社会労働委員会第20号(1981年7月30日). “衆議院会議録情報 第094回国会 社会労働委員会 第20号””. 2016年1月30日閲覧。菅直人衆議院議員が、中央薬事審議会抗悪性腫瘍剤調査会・桜井欽夫座長の「一人二役」を追及した。桜井座長は、自身が吉富製薬の開発した抗がん剤プロテクトンの基本特許を持ち、同製薬会社の顧問をしていながら、プロテクトンの認可の際にも座長を努めていた。菅議員から「果たして適任であったのか」と問われて、参考人として出席していた桜井座長は「そういうことは信用できぬということでしたら、私は不適任だと存じます」と答えている。
  23. ^ Sugiyama T, Fujiwara K, Ohashi Y, Yokota H, Hatae M, Ohno T et al. (2014). “Phase III placebo-controlled double-blind randomized trial of radiotherapy for stage IIB-IVA cervical cancer with or without immunomodulator Z-100: a JGOG study.”. Ann Oncol 25 (5): 1011-7. doi:10.1093/annonc/mdu057. PMID 24569914. http://annonc.oxfordjournals.org/content/25/5/1011.abstract. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]