中村泰信

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中村泰信
Yasunobu Nakamura.jpg
生誕 (1968-02-02) 1968年2月2日(54歳)
大阪府[1]
国籍 日本
研究分野 量子情報科学, 量子コンピュータ#超伝導素子
研究機関 東京大学,理化学研究所
出身校 東京大学
主な業績

ハイブリッド量子情報実験[2][3]

世界で初めてクーパーペアボックス型超伝導量子ビットの巨視的量子状態のコヒーレントな制御に成功[4][5]
プロジェクト:人物伝
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中村 泰信(なかむら やすのぶ、1968年2月2日 - )は、日本物理学者東京大学先端科学技術研究センター(RCAST)[6] の教授と、理化学研究所の創発物性科学研究センター (CEMS) の超伝導量子エレクトロニクス研究チームのチームリーダーを務める[7]量子情報科学[8]、特に超伝導量子回路系やハイブリッド量子系の実験を専門としている[9][10][11]

来歴[編集]

大阪府茨木市生まれ、東京都西多摩郡日の出村(現日の出町)育ち[12]。父親は日立製作所の研究者で、その米国赴任に伴い1年間米国で暮らした[13]東京都立立川高等学校から東京大学工学部に進学し[14]、1990年に工学士・1992年に修士(工学)・2011年に博士号を取得した。1999年、NECの研究者として、Yuri Pashkinと蔡兆申と共に「固体電子デバイスにおける量子ビットの電気的コヒーレント制御」を示し、2001年にラビ振動の最初の測定を実現した。これらの実験は、1998年のMichel Devoret (fr)らによるクーパーペアボックス内の2つのジョセフソン準位間の遷移に関する研究に関連している[15][16][17]

2000年に、中村はNECでの「ナノスケール超伝導デバイスの量子状態制御」の研究により日本物理学会の「若い科学者」として紹介された[18]。2001年から2002年までNECからサバティカルを取り、デルフト工科大学のHans Mooij (de)グループに滞在し、Irinel Chiorescu、Kees Harmans, Hans Mooijと共に最初の磁束量子ビットを作成した[19][20][21]。2003年には、MIT テクノロジー・レビューで35歳未満のトップイノベーターに選ばれた。編集者は「中村と共同研究者は、2つの量子ビットを予測されていたがまだ実験的に示されていなかった方法で相互作用させた」とコメントした[22]

2016年10月3日、科学技術振興機構 (JST) は創造科学技術推進事業 (ERATO) による中村の研究への資金提供を発表した[23]。巨視的量子機械と題されたこのプロジェクト[24]は、量子状態制御技術を劇的に改善して、量子コンピューティングの分野をさらに発展させることを目指している。主な焦点は、量子情報処理技術を実装するための高度にスケーラブルなプラットフォームの開発、ならびにマイクロ波量子光学とインターフェースするハイブリッド量子システムの創出である。2019年には、文部科学省はQLEAPと呼ばれる量子技術プロジェクトを立ち上げ、中村は量子情報処理コンポーネントのチームリーダーを務めている[25]。このプロジェクトは、学術界と産業界の連携を強化することによって、超伝導量子コンピュータや他の量子技術を10年間にわたって開発することを目的としている。

磁束量子ビットと超伝導マイクロ波共振器はからなる結合系は、パラメトリック位相同期発振器に接続している。2016年にネイチャー_コミュニケーションズに発表された論文「人工のΛ型三準位系を用いた単一マイクロ波光子検出器」において、中村と共同研究者は、3順位系を利用して、単一光子を「0.014±0.001という低いダークカウント確率と約400 ns程度のリセット時間で0.66±0.06の効率で」検出した[26]

最近の研究[編集]

中村と共同研究者らの過去の研究成果としては、単一のマイクロ波周波数の光子の効率的な検出[26]、超伝導量子コンピューティング環境における準粒子の抑制による量子ビットコヒーレンス時間の改善[27]、「決定論伝播マイクロ波光子を飛行量子ビットとして用いて遠隔超伝導原子間の最大絡み合いを生成する方法」と「強磁性球の集団磁気モードと超伝導量子ビット」[28]との間の強いコヒーレント結合によるハイブリッド量子系の実現」などがある[2]

ごく最近のものとしては、超伝導量子ビットを利用したマグノン数状態の量子を分解[29][30]、定量的に非古典的な光子数分布の作成[31]弾性表面波の揺らぎの測定[32]、遍歴マイクロ波光子の量子非破壊 (QND) 検出実験などがある[33][34]。超伝導回路は、マクスウェルの悪魔を利用した情報・仕事変換の実現[35]電波や光と弾性表面波のオプトメカ的な結合[36]、およびジョセフソン接合アレイでの秩序のある格子の測定などにも応用された[37]

中村は以下の量子情報科学の会議やセミナーで講演を行った:ウィーン大学[38]ハーバード大学[39][40]、モンテベリタ会議[41]ウォータールー大学量子計算研究所[42]シカゴ大学分子工学研究所[43]量子光学量子情報研究所 (IQOQI)[44]エール大学のエール量子研究所[45]

受賞歴[編集]

脚注[編集]

  1. ^ RIKEN Tuning Into Quantum Computers” (2007年8月17日). 2017年6月19日閲覧。
  2. ^ a b Y. Tabuchi, S. Ishino, A. Noguchi, T. Ishikawa, R. Yamazaki, K. Usami, and Y. Nakamura, "Coherent coupling between a ferromagnetic magnon and a superconducting qubit", Science 349, 405-408 (2015), doi:10.1126/science.aaa3693
  3. ^ Y. Tabuchi, S. Ishino, T. Ishikawa, R. Yamazaki, K. Usami, and Y. Nakamura, "Hybridizing Ferromagnetic Magnons and Microwave Photons in the Quantum Limit", Physical Review Letters 113, 083603 (2014), doi:10.1103/PhysRevLett.113.083603, arxiv:1405.1913
  4. ^ Y. Nakamura, Yu. A. Pashkin and J.- S. Tsai, "Coherent control of macroscopic quantum states in a single-Cooper-pair box", Nature 398, 786-788 (1999), doi:10.1038/19718, arXiv:9904003
  5. ^ T. Yamamoto, Yu. A. Pashkin, O. Astafiev, Y. Nakamura, and J.- S. Tsai, "Demonstration of conditional gate operation using superconducting charge qubits", Nature 425, 941-944 (2003), doi:10.1038/nature02015, arxiv:0311067
  6. ^ Research Groups”. 2016年12月21日閲覧。
  7. ^ Superconducting Quantum Electronics Research Team”. 2016年12月21日閲覧。[リンク切れ]
  8. ^ T. D. Ladd, F. Jelezko, R. Laflamme, Y. Nakamura, C. Monroe, and J.L. O'Brien, "Quantum computers", Nature 464, 45-53 (2010), doi:10.1038/nature08812, arxiv:1009:2267
  9. ^ 東大、ミリメートルサイズの磁石が量子力学的に振る舞うことを発見”. マイナビニュース. TECH+(テックプラス) (2015年7月10日). 2016年12月22日閲覧。
  10. ^ 中村泰信 教授インタビュー”. ようこそ量子 Interview (2016年11月15日). 2016年12月22日閲覧。
  11. ^ Quantum behavior of millimeter-sized magnets unraveled: Superconducting qubit and magnetic sphere hybrid”. Science Daily (2015年8月3日). 2016年12月22日閲覧。
  12. ^ 世界初の量子ビット素子を実現。量子という究極の世界を制御する愉楽。”. 東京大学. UTOKYO VOICES 066 (2019年6月20日). 2021年1月2日閲覧。
  13. ^ 科学する人 量子コンピューター基本素子開発の中村泰信さん (2) 野山駆け回った少年時代 高温超電導に取り組む” (日本語). 中部経済新聞 愛知・岐阜・三重・静岡の経済情報. 2021年1月2日閲覧。[リンク切れ]
  14. ^ 毎日が新しい出会い 東京大学先端科学技術研究センター 教授 中村泰信 氏 (高校 38 期)”. 紫芳会だより ~輝く先輩達~ No.98. 東京都立立川高等学校 (2021年4月1日). 2022年3月13日閲覧。
  15. ^ Bell Prize 2013”. 2016年12月21日閲覧。
  16. ^ Y. Nakamura, Y.A. Pashkin, and J.S. Tsai, "Rabi Oscillations in a Josephson-Junction Charge Two-Level System", Physical Review Letters 87, 246601 (2001), doi:10.1103/PhysRevLett.87.246601
  17. ^ V. Bouchiat, D. Vion, P. Joyez, D. Esteve and M. H. Devoret, "Quantum coherence with a single Cooper pair", Physica Scripta T76, 165-170 (1998), doi:10.1238/Physica.Topical.076a00165
  18. ^ JSAP Younger Scientists”. 2016年12月21日閲覧。
  19. ^ I. Chiorescu, Y. Nakamura, C. J. P. M. Harmans, and J. E. Mooij, "Coherent Quantum Dynamics of a Superconducting Flux Qubit", Science 299, 5614, 1869-1871, (2003), doi:10.1126/science.1081045, arxiv:0305461
  20. ^ J. Clarke, "Flux Qubit Completes the Hat Trick", Science 299, 5614, 1850-1851, (2003), doi:10.1126/science.1083001
  21. ^ The first Delft qubit” (2017年11月4日). 2017年11月4日閲覧。
  22. ^ Innovators Under 35”. 2016年12月21日閲覧。
  23. ^ 戦略的創造研究推進事業における平成28年度新規研究総括および研究領域の決定について”. 機構報 第1218号. 科学技術振興機構 (2016年10月3日). 2016年12月21日閲覧。
  24. ^ 研究総括および研究領域”. 機構報 第1218号. 科学技術振興機構. 2016年12月21日閲覧。
  25. ^ 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)”. 科学技術振興機構. 2019年4月3日閲覧。
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  27. ^ S. Gustavsson, F. Yan, G. Catelani, J. Bylander, A. Kamal, J. Birenbaum, D. Hover, D. Rosenberg, G. Samach, A. P. Sears, S. J. Weber, J. L. Yoder, J. Clarke, A. J. Kerman, F. Yoshihara, Y. Nakamura, T. P. Orlando, and W. D. Oliver, "Suppressing relaxation in superconducting qubits by quasiparticle pumping", Science 354, 6319, 1573-1577 (2016), doi:10.1126/science.aah5844
  28. ^ K. Koshino, K. Inomata, Z. R. Lin, Y. Tokunaga, T. Yamamoto, and Y. Nakamura, "Theory of Deterministic Entanglement Generation between Remote Superconducting Atoms", Physical Review Applied 7, 064006 (2017), doi:10.1103/PhysRevApplied.7.064006
  29. ^ D. Lachance-Quirion, Y. Tabuchi, S. Ishino, A. Noguchi, T. Ishikawa, R. Yamazaki, and Y. Nakamura, "Resolving quanta of collective spin excitations in a millimeter-sized ferromagnet", Science Advances 3, 7, e1603150 (2017), doi:10.1126/sciadv.1603150
  30. ^ Quantifying quanta” (2017年11月22日). 2019年4月3日閲覧。
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  33. ^ S. Kono, K. Koshino, Y. Tabuchi, A. Noguchi, and Y. Nakamura, "Quantum non-demolition detection of an itinerant microwave photon", Nature Physics 14, 546-549 (2018), doi:10.1038/s41567-018-0066-3
  34. ^ Viewpoint: Single Microwave Photons Spotted on the Rebound” (2018年4月23日). 2019年4月3日閲覧。
  35. ^ Y. Masuyama, K. Funo, Y. Murashita, A. Noguchi, S. Kono, Y. Tabuchi, R. Yamazaki, M. Ueda, and Y. Nakamura, "Information-to-work conversion by Maxwell’s demon in a superconducting circuit quantum electrodynamical system", Nature Communications 9, 1291 (2018), doi:10.1038/s41467-018-03686-y
  36. ^ A. Okada, F. Oguro, A. Noguchi, Y. Tabuchi, R. Yamazaki, K. Usami, and Y. Nakamura, "Cavity Enhancement of Anti-Stokes Scattering via Optomechanical Coupling with Surface Acoustic Waves", Physical Review Applied 10, 024002 (2018), doi:10.1103/PhysRevApplied.10.024002
  37. ^ R. Cosmic, K. Ikegami, Z. Lin, K. Inomata, J. M. Taylor, and Y. Nakamura, "Circuit-QED-based measurement of vortex lattice order in a Josephson junction array", Physical Review B 98, 060501(R) (2018), doi:10.1103/PhysRevB.98.060501
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  39. ^ ITAMP”. 2016年12月21日閲覧。
  40. ^ ITAMP Video” (2015年7月15日). 2016年12月22日閲覧。
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  44. ^ IQOQI Colloquium”. 2019年4月3日閲覧。
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  48. ^ 2016 Sir Martin Wood Prize for Japan”. オックスフォード・インストゥルメンツ. 2017年1月24日閲覧。
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  50. ^ Innovators Under 35”. 2016年12月21日閲覧。
  51. ^ Agilent Technologies Prize” (2004年6月17日). 2016年12月21日閲覧。
  52. ^ Simon Memorial Prize: Past Winners”. 2017年6月13日閲覧。
  53. ^ RCAST News” (2014年). 2017年1月24日閲覧。
  54. ^ “2020年度朝日賞 4件5氏に決定” (プレスリリース), 株式会社朝日新聞社, (2021年1月1日), https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001031.000009214.html 2022年10月1日閲覧。 

外部リンク[編集]