中村健二郎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
中村 健二郎
(なかむら けんじろう)
人物情報
生誕 (1947-03-06) 1947年3月6日[1]
死没 (1979-10-27) 1979年10月27日(32歳没)[2]
出身校 東京工業大学
学問
研究分野 ゲーム理論経済学社会工学
研究機関 東京工業大学
博士課程
指導教員
鈴木光男
指導教員 国沢清典
主な指導学生 岡田章、石川真
学位 工学博士(東京工業大学)
主な業績 社会選択理論へのゲーム理論導入(拡大選択系ゲーム、社会厚生関数、中村の定理、中村ナンバー
影響を
受けた人物
林亜夫[注釈 1][1]
影響を
与えた人物
中山幹夫金子守
学会 日本経済学会、オペレーションズリサーチ学会
テンプレートを表示

中村 健二郎(なかむら けんじろう、1947年(昭和22年)3月6日[1] - 1979年(昭和54年)10月27日[2])は、日本経済学者東京工業大学工学博士。専門はゲーム理論社会工学社会選択理論にゲーム理論を導入し、「中村の定理」や「中村ナンバー」は世界的に知られている[8][9][10]。東京工業大学手島精一記念研究賞の一つ、「中村健二郎賞」にも名を残す[11]

東京工業大学理工学部数学科、同大学院数学専攻修士課程、同大学院社会工学専攻博士後期課程と、一貫して鈴木光男のもとでゲーム理論研究に打ち込む。工学部社会工学科助手理学部情報科学科助手を経て、一般教養統計学担当助教授に就任するが、その直後に32歳で死去。その早い死は国内外のゲーム理論研究者に惜しまれた[12][13][14]

生涯[編集]

大学学部まで[編集]

1947年3月6日生まれ[1]

1966年4月に中村は東京工業大学に入学し[1]、翌年1967年理学部数学科へ進学。鈴木光男の講義を受けていた社会工学科の友人・林亜夫[注釈 1]の影響でゲーム理論に興味を持ち[1]、雑誌『数理科学』に掲載された鈴木の記事[注釈 2]を読む。

中村はゲーム理論を学ぶ気になり、林を通じて鈴木にも打診する[1]。4年生になると所属する学科に関係なく研究室を希望できたため、中村は数学科ながら社会工学科の鈴木研究室に所属した[16]。同期生に林や中山幹夫がいる[6][17]

鈴木光男研究室時代[編集]

1970年(1969年度末)、中村は卒業論文「ミニマックス定理と不動点定理および分離定理との関係」を提出し[6]、同年4月に東京工業大学大学院理工学研究科数学専攻に進学[16]。同専攻の教授・国沢清典の指導を受けるとともに、引き続き鈴木研究室でゲーム理論の研究を続ける[16]。1971年11月、最初の学会発表を経験する[18]。1972年(1971年度末)、修士論文「Mーquota Game のKー安定」を書き上げ[6]、4月からは社会工学専攻で博士後期課程に進学する[19]

鈴木が1973年に出版した『ゲーム理論の展開』では、他の研究室メンバーとともに中村も分担執筆を担当。「コアの理論」「手付けの存在を前提としないn人ゲームの理論」「シャープレイ値」「k安定の理論」を執筆した[20][21]。1974年9月、ドイツで行われた“International Workshop on Basic Problem of Game Theory”に鈴木とともに招待される。中村は“The core of a simple game with ordinal preferences”を報告した[22][23]

中村は社会選択理論にゲーム理論を適用し、拡大戦略系ゲームという概念を提案。従来個別に検討されてきた多くの社会選択理論をゲーム理論で統一的に扱った[24][25]。1975年3月、中村は博士後期課程を修了し、工学博士の学位を取得[26]。社会工学における最初の工学博士とされる[27]。学位取得後は工学部社会工学科助手に就任するが、1976年に鈴木が理学部情報科学科へ移籍した際に、中村も一緒に同学科へ異動している[28]。私生活では1973年に父を失っていた中村であったが、同年12月に結婚している[29]

研究室では、1975年に農林水産省から来ていた黒川泰亨と共同研究を実施[30][29]。1976年には鈴木との共著で『社会システム ―ゲーム論的アプローチ―』 が出版され、「社会工学的な分野の柱石」と評価された[31]。また、2学年下[6]金子守とは、ナッシュの社会厚生関数に取り組み[24]中山幹夫とはハーサニの社会厚生関数を研究している[32]。大学院時代の岡田章とは学会誌の解説記事を執筆し[33]、学会活動ではオペレーションズリサーチ学会で研究普及委員を務めている[34][35]

なお、中村は博士論文で投票ゲームでコアが空でない条件を導出しており[36]、これをさらに発展した単純ゲームのコアが空でないための条件を導くKeyナンバーを定義する[2]。この数はペレグ[37]によって中村ナンバー(Nakamura-number、中村数[38])と名付けられた[24][2][38]。これはアメリカの教科書や講義でも、紹介されている[10][14]

助教授昇進、死去[編集]

1978年9月1日、東京工業大学一般教養統計学担当助教授に就任[19]。しかし1979年から体調を崩し、10月27日、享年32歳で死去[19][2]。学会(国際会議、カンファレンス)でルーカスが中村の死を報告した際、会場はどよめいたという[39]

その後、鈴木光男は中村の遺稿集を編纂し、1981年に『中村健二郎遺稿集 ゲーム理論と社会選択』と題して出版[9][40]。この遺稿集の書評論文(渡部 1982)を執筆した慶應義塾大学の渡部隆一は、短い人生における業績の数々に驚いている[13]

なお、中村の墓は青山墓地に設けられた[2]。また、遺族は大学に3千万円を寄付し、1989年に手島精一記念研究賞の一つとして「中村健二郎賞」が設立される。同賞では35歳以下の若手研究者を顕彰している[11]

主な著作[編集]

著書[編集]

論文[編集]

  • 鈴木光男, 中村健二郎「社会的意志決定とcoalition power」『季刊 理論経済学』第23巻第3号、日本経済学会、1973年、 1-12頁、 doi:10.11398/economics1950.23.3_1ISSN 0557-109XNAID 130006936336
  • Nakamura, K. (1973), “ψ-Stability of a cooperative game without side payment”, International Journal of Game Theory 2(3): 129-140
  • Nakamura, K. (1975), “The core of a simple game with ordinal preferences”, International Journal of Game Theory 4(2): 95-104
  • Ishikawa, S., Nakamura, K. and Okada, A. (1977), “A note on existence of a continuous utility function”, Keio Economic Studies 16(1/2): 53-56
  • 黒川泰亨、中村健二郎「不確実性下における林業経営計画」、『オペレーションズ・リサーチ学会論文誌』第20巻第4号、1977年12月、259-272頁。
  • NAKAMURA KENJIRO「NECESSARY AND SUFFICIENT CONDITIONS ON THE EXISTENCE OF A CLASS OF SOCIAL CHOICE FUNCTIONS」『季刊 理論経済学』第29巻第3号、JAPANESE ECONOMIC ASSOCIATION、1978年、 259-267頁、 ISSN 0557-109XNAID 130004999107
  • Nakamura, K. (1979), “The vetoers in a simple game with ordinal preferences”, International Journal of Game Theory 8(1): 55-61
  • Ishikawa, S. and Nakamura, K. (1979), “On the existenc of the core of a characteristic function game with ordinal preferences”, Journal of the Operations Research Society of Japan 22(3): 225-232 [注釈 4]
  • Kaneko, M., Nakamura, K. (1979), “The Nash social welfare function”, Econometrica 47(2): 423-435
  • Nakamura, K. and Ishikawa, S. (1980). “Representation of characteristic function games by social choice functions”, International Journal of Game Theory 9(4): 191-199

紀要・Proceedings[編集]

  • Nakamura, K. (1977), “The equivalence of the Mini-max theorem and a separation theorem”, Research Report of the Department of Information Sciences, Tokyo Institute of Technology[42]
  • Nakamura, K. (1977), “A Composite Objective Function for the Multi-Objective Programmings”, 数理解析研究所講究録 299: 8-26 NAID 110007365158
  • Nakamura, K. and Nakayama, M. (1978), “Discrepancy between Harsanyi and Diamond on Social Preferences”, 富山大学紀要 富大経済論集 24(2): 233-237. NAID 110000398173
  • Nakamura, K. and Nakayama, M. (1978), “Note on Harsanyi′s Social Welfare Function”, 富山大学紀要 富大経済論集 23(3): 563-568. NAID 110000398150
  • Nakamura, K. (1979), “Unification of existence theorem of social choice functions by simple games (I)”, Discussion Paper of Tokyo Institute of Technology[42]
  • Nakamura, K. (1979), “Unification of existence theorem of social choice functions by simple games (II)”, Proceedings of the Keio Economic Research Projects 1979: 1-24[42]

解説[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ a b 林亜夫(はやし つぐお[3]、1948年-[4])は、日本社会工学者。専門は、都市工学・都市計画・不動産学位は、工学博士東京工業大学[5]鈴木光男のもとで東京工業大学工学部社会工学科卒業、大学院理工学研究科社会工学専攻修士課程修了[6](後、論文博士[5])。東京工業大学工学部社会工学科助手[4]筑波大学社会工学系講師、放送大学助教授明海大学教授、同不動産学部長を歴任[3][7]。編著に『都市・地域経営』ISBN 4595547129、『都市システム工学』ISBN 4595236409、などがある。
  2. ^ 鈴木光男「多極化時代の同盟関係 ―4人ゲームによる分析―」、『数理科学』、1968年1月号[1][15]
  3. ^ 鈴木の著書では“Game theory and Social Choice”と英語名になっている[41]
  4. ^ 石川真, 中村健二郎「特性関係ゲームのコアの存在に関して」『日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌』第22巻第3号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1979年、 225-232頁、 doi:10.15807/jorsj.22.225ISSN 0453-4514NAID 110001184035

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h 鈴木 1999, p. 222.
  2. ^ a b c d e f 鈴木 1999, p. 225.
  3. ^ a b 明海大学不動産学部/新学部長に林氏/不動産学科主任は中城氏”. 週刊住宅ONLINE. 2016年10月16日閲覧。
  4. ^ a b 林亜夫「ゴミ処理施設共同事業の仁による費用負担分析」、『オペレーションズ・リサーチ 経営の科学』第23巻第4号、1978年、214-220頁。
  5. ^ a b 林亜夫『市町村の組合協同処理事務における市町村間費用負担の分析』、東京工業大学博士学位論文(乙第1517号)、1986年1月31日学位授与(工学博士)、NAID 500000005804
  6. ^ a b c d e 鈴木 1994, pp. 428–434, 卒業論文等リスト.
  7. ^ 基調講演「不動産再生事業の必要性と課題」明海大学不動産学部長 林亜夫”. 社会変革のための不動産再生事業のあり方. 日経ユニバーシティ・コンソーシアム. 2016年10月16日閲覧。
  8. ^ 鈴木 2014, pp. 172–173.
  9. ^ a b 渡部 1982.
  10. ^ a b 下村研一「価格理論とゲーム理論の『独身時代』」、『経済セミナー』2002年3月、15-16頁。
  11. ^ a b 手島精一記念研究賞受賞者発表・受賞式”. 東京工業大学 (2013年2月26日). 2016年10月15日閲覧。
  12. ^ 鈴木 2013, p. 273.
  13. ^ a b 渡部 1982, p. 796.
  14. ^ a b 鈴木 2014, p. 173.
  15. ^ 鈴木 1999, p. 253.
  16. ^ a b c 鈴木 1999, p. 223.
  17. ^ 鈴木 2013, pp. 278–279.
  18. ^ a b 渡部 1982, p. 785.
  19. ^ a b c 鈴木 2013, p. 274.
  20. ^ a b 鈴木 2013, pp. 231–232.
  21. ^ a b 鈴木 2014, pp. 196–197.
  22. ^ 鈴木 2013, p. 238.
  23. ^ 鈴木 1999, p. 212.
  24. ^ a b c 鈴木 1994, pp. 385–386.
  25. ^ 渡部 1982, pp. 792–793.
  26. ^ 中村健二郎『複数主体間の分配に関する利害構造の規範的分析』、東京工業大学博士学位論文(甲第778号)、1975年3月26日学位授与(工学博士)、NAID 500000377832
  27. ^ 鈴木 2013, p. 228.
  28. ^ 鈴木 2013, p. 269.
  29. ^ a b 鈴木 1999, p. 224.
  30. ^ 黒川泰亨、中村健二郎「不確実性下における林業経営計画」、『Journal of the Operations Research Society of Japan』第20巻第4号、1977年12月、259-272頁。
  31. ^ 菅野 1976.
  32. ^ 鈴木 1999, p. 444.
  33. ^ 中村健二郎、岡田章国際関係の結果予測の展開形ゲーム ―シナリオ・バンドル法―」、『オペレーションズ・リサーチ 経営の科学』第23巻第4号、1978年4月、232-239頁。
  34. ^ 是枝正啓, 高橋昭, 西田修三, 林亜夫, 原野秀永, 渡辺浩, 真庭功, 足立孝義, 中村健二郎, 山下浩「地域環境の問題とOR」『オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学』第24巻第9号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1979年9月、 571-572頁、 ISSN 00303674NAID 110001185836
  35. ^ 古村哲也, 杉野隆, 鈴木悦郎, 中村健二郎, 山内慎二, 横山勝義「マルコフモデルとOR」『オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学』第24巻第1号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1979年1月、 44-45頁、 ISSN 00303674NAID 110001186532
  36. ^ 鈴木 1999, p. 386.
  37. ^ Peleg, B. (1978), “Representation of simple games by social choice functions”, International Journal of Game Theory 7 (2): 81-94
  38. ^ a b 渡部 1982, p. 791.
  39. ^ 鈴木 2013, p. 275.
  40. ^ a b 中村 健二郎 遺稿集 ゲーム理論と社会選択 鈴木 光男 編”. 国立国会図書館. 2016年10月16日閲覧。
  41. ^ 鈴木 1994, p. 443.
  42. ^ a b c 渡部 1982, p. 797.

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

  • 中村の定理の謎. (2006年11月9日). ある平凡助教授の,なんということもない日々.