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世界怪奇実話

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世界怪奇実話
作者 牧逸馬
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル ノンフィクション
発表形態 雑誌連載
初出情報
初出 『中央公論』
1929年10月号 - 1933年3月号
出版元 中央公論社
刊本情報
刊行 『世界怪奇実話全集』
出版元 中央公論社
出版年月日 1930年 - 1932年
ウィキポータル 文学 ポータル 書物
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世界怪奇実話』(せかいかいきじつわ)は、牧逸馬による、海外の犯罪事件を取り扱ったノンフィクション小説のシリーズである。中央公論社の雑誌『中央公論』の1929年(昭和4年)10月号から1933年(昭和8年)3月号まで連載された。

概要

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主として欧米の犯罪事件を取り上げて紹介した実話集である。切り裂きジャックを扱った「女肉を料理する男」、フリッツ・ハールマンを扱った「肉屋に化けた人鬼」、ペーター・キュルテンを扱った「街を陰る死翼」など、殺人事件を題材としたものが大半を占めるが、他にも、詐欺(テレーズ・アンベール英語版を扱った「ウンベルト夫人の財産」、サラ・レイチェル・ラッセル英語版を扱った「神変美容術師」など)、スパイマタ・ハリを扱った「戦雲を駆る女怪」、ルイーズ・ド・ベティニ英語版を扱った「戦争とは何だ」)、重大事故(タイタニック号を扱った「運命のSOS」)、未解決事件(メアリー・セレスト号を扱った「海妖」、ワラタ号を扱った「沈黙の水平線」など)、進化論裁判(「白日の幽霊」)など、取り上げられた題材は多岐にわたる。

牧逸馬は1928年(昭和3年)3月から1929年(昭和4年)6月にかけて、中央公論社特派員としてヨーロッパ諸国を歴訪しているが、このときロンドンの古書店で、嶋中雄作社長の出資で犯罪に関する古本を大量に買いあさったのが、本シリーズの資料になったとされている[1][2]

作品リスト

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『中央公論』の連載(全38回・29話)は以下の通りである[3][4]。以下の人名表記は原文を尊重した。

  1. 女肉を料理する男(1929年10 - 11月号) - リッパア・ゼ・ジャック[注釈 1]1888年)。
  2. チャアリイは何処にゐる(1929年12月号) - チャアリイ・ロス誘拐事件1874年)。
  3. 都会の類人猿(1930年1月号) - アウル・ネルスン英語版[注釈 2]による連続殺人事件(1926年 - 1927年)。
  4. ウンベルト夫人の財産(1930年2 - 3月号) - テレサ・ウンベルト夫人英語版フランス語版[注釈 3]による詐欺事件(1902年)。
  5. 浴槽の花嫁(1930年4月号) - ジョウジ・ジョセフ・スミス英語版による連続殺人事件(1912年 - 1914年)。
  6. 戦雲を駆る女怪(1930年5 - 6月号) - 初出時は前半「戦雲に乗る女怪」、後半「H21の女」。マタ・アリ[注釈 4](1917年逮捕)。
  7. 肉屋に化けた人鬼(1930年7 - 8月号) - 初出時は前半「人肉の腸詰」、後半「肉屋に化けた人鬼」。フリッツ・ハアルマンによる連続殺人事件(1919年 - 1924年)。
  8. 海妖(1930年9月号) - メリイ・セレスト号事件(1872年)とジャネット・エドワルド[注釈 5]失踪事件(1911年)。
  9. 血の三角形(1930年10月号) - ホウレイ・ハアヴェイ・クリッペンによる殺人事件(1910年)。
  10. 生きてゐる戦死者(1930年11月号) - ベラ・キス英語版による連続殺人事件(1916年発覚)。
  11. カラブウ内親王殿下(1930年12月号) - カラブウ内親王[注釈 6]事件(1817年)。
  12. 運命のSOS(1931年1 - 2月号) - 初出時は前半「運命のSOS」、後半「主よ御許に近づかん」。タイタニック号沈没事故1912年)。
  13. 双面獣(1931年3 - 4月号) - 初出時は前半「双面獣」、後半「どっちがほんとの彼か」。アドルフ・ホテリング[注釈 7]による連続殺人事件(1927年 - 1928年)。
  14. 土から手が(1931年5 - 6月号) - アイネ・エリザベス・リィド[注釈 8]の死体遺棄事件(1919年)。
  15. 給仕と百万弗(1931年7月号) - シカゴ・ループ銀行の給仕ウイリイ・ソウンダアス[注釈 9]による100万ドル拐帯事件。
  16. 果して彼女は(1931年8月号) - テオドリンダ・ボンマルテニ伯爵夫人[注釈 10]によるフランチェスコ・ボンマルテニ伯爵殺害事件[注釈 11]1902年)。
  17. 白日の幽霊(1931年9 - 10月号) - 初出時は前半「白日の幽霊」、後半「神と人と猿と」。スコウプス裁判1925年)。
  18. 街を陰る死翼(1931年11月号) - ピイタア・ケルテン[注釈 12]による連続殺人事件(1929年)。牧逸馬のヨーロッパ旅行中に発生している[5]
  19. 聖エリザベスの嫉妬(1931年12月号) - ハンス・シュミット神父英語版による殺人事件(1913年)。
  20. 戦争とは何だ(1932年1, 3月号) - 初出時は前半「戦争とは何だ」、後半「無人国のアリス」。第一次世界大戦中の連合軍の女スパイ、アリス・ドュボアことルイズ・ドュ・バタニエ[注釈 13]
  21. チャン・イ・ミヤオ博士の罪(1932年4月号) - チャン・イ・ミヤオ[注釈 14]による殺人事件(1928年)。
  22. 八つ切られ三助(1932年5月号) - マッサージ師ウイリアム・ガルデンサップ[注釈 15]バラバラ殺人事件(1897年)。
  23. 沈黙の水平線(1932年6月号) - ワラタ号失踪事件(1909年)。
  24. アリゾナの女虎(1932年7月号) - ルウス・ジュッド夫人英語版[注釈 16]による殺人事件(1931年)。
  25. (欠番。第24話の次が第26話になっている)
  26. 神変美容術師(1932年8月号) - マダム・ラシェル英語版[注釈 17]による詐欺事件。
  27. 海底の元帥(1932年9月号) - キッチナア元帥の戦死1916年)にまつわる奇談。
  28. S・Sベルゲンランド(1932年12月号) - 汽船ベルゲンランド号英語版船上における日本人実業家・藤村壽の失踪事件(1931年)。
  29. 親分お眠り(1933年2月号) - ルイス・コウヘン英語版[注釈 18]によるキッド・ドロッパア[注釈 19]の暗殺(1923年)。
  30. ゴールド・ラッシュ艦隊(1933年3月号) - 財宝をめぐるさまざまな出資詐欺

1930年から1932年にかけて、『世界怪奇実話全集』第1 - 3篇(中央公論社)として単行本化された(第26 - 30話は未収録)。この際、他誌に掲載された以下の4話も収録されている。

浅子逸男は、これらを合わせた33話を『世界怪奇実話』としている[6]。第3篇の「序文」には「以下続々この「世界怪奇実話全集」の刊行を続けて行きたい」[7]とあるが、牧が1935年に死去したこともあり、続刊は出されずに終わった。

1969年刊の桃源社版『世界怪奇実話』(全2巻)で、初めて全33話が収録された。この際、シリーズ外だが同系列の作品として、次の3作品が併録されている。

評価

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松本清張は、本作を本格的な犯罪ノンフィクションとして高く評価している。清張は、『浴槽の花嫁』を、同じ題材を扱った『フェーマス・トライアルズ 第2集 浴槽の花嫁』(日本評論新社、1961年)と比較し、「牧のは資料的にも内容にも手を抜いていないからたいしたものだ」と評しており[8]、自身が『日光中宮祠事件』や『アムステルダム運河殺人事件』のなどの実録ものを手がけるようになったのは、『世界怪奇実話』の影響だと述べている[9]。清張は「浴槽の花嫁」「戦雲を駆る女怪」「斧を持った夫人の像」などの題名のつけ方のユニークさも高く評価している[10]

一方、古典SF研究家の會津信吾は、少なくとも一部の作品については、当時、欧米で出版され容易に入手可能だった犯罪実録ものの内容を、無批判に流用していることを指摘している[11]。會津は以下の例を挙げている。

  • 切り裂きジャックを題材とした「女肉を料理する男」には、エリザベス・ストライド殺害事件の際、「マシュウ・パッカア」という果物屋がジャックらしき男を見かけ、会話を交わした、というエピソードがある。このエピソードは Guy B. H. Logan, Masters of Crime (1928) が唯一の出典で、証言内容も信用しがたく、切り裂きジャック研究家からは無視されている。
  • 「都会の類人猿」「肉屋に化けた人鬼」は L. C. Douthwaite, Mass Murder (1928) が種本。
  • 「生きてゐる戦死者」はウィリアム・ルキュー英語版の『ベラ・キス』(Bela Kiss)が種本。
  • 1906年にパリのローモン通りで起こったとされる、ホテルの同じ部屋に泊まった人間が次々と謎の縊死を遂げるという事件を描いた「ロウモン街の自殺ホテル」の種本は、 Harry Ashton-Wolfe, Warped in the Making: crimes of love and hate, 1927[12] に収められた「自殺室:ハノイ・シャン」(“The Suicide Room: Hanoi Shan”)。この「ノンフィクション」を発掘したSF作家フィリップ・ホセ・ファーマーは、このハノイ・シャンがフー・マンチュー博士のモデルではないかと推測した[13]。しかし、その後の調査でもハノイ・シャンの実在した証拠は見つかっておらず、一切がハリー・アシュトン=ウルフドイツ語版の創作である疑いがある。なお、この事件の筋書きは、ハンス・ハインツ・エーヴェルス英語版の短編小説『蜘蛛』(Die Spinne“, 1908江戸川乱歩目羅博士』の元になった作品)に酷似しており、『蜘蛛』を下敷きにした創作である可能性が指摘されている[14]。ただし、『蜘蛛』自体もエルクマン=シャトリアン英語版の短編小説『見えない眼』(« L'œil invisible »)の盗作だとする指摘がある[15]

書誌

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  • 『世界怪奇実話全集』全3巻 中央公論社、1930年 - 1932年。
  • 『一人三人全集 16 浴槽の花嫁』新潮社、1935年。 - 谷譲次名義で刊行。選集。
  • 『浴槽の花嫁』新潮社〈新潮文庫〉、1935年。 - 谷譲次名義で刊行。選集。
  • 世界大ロマン全集 49 運命のSOS 世界怪奇実話集』東京創元社、1958年。 - 選集。中島河太郎解説。「女肉を料理する男」が「殺人鬼ジャック」に改題されている。
  • 『一人三人全集 V 浴槽の花嫁 世界怪奇実話』河出書房新社、1969年。 - 選集。尾崎秀樹解説。
  • 『世界怪奇実話』全2巻 桃源社、1969年。 - 初めて全33話を収録。「空気になった男」「女王蜘蛛」「西洋狗張子」を収録。尾崎秀樹解説。
  • 『世界怪奇実話』全4巻 社会思想社現代教養文庫〉、1975年。 - 全33話と「女王蜘蛛」を収録。
  • 『世界怪奇実話』全4巻 山手書房新社〈牧逸馬傑作選 1-4〉、1993年。 - 全33話と「空気になった男」「女王蜘蛛」「西洋狗張子」、および「西洋怪異談」(初出は谷譲次名義で『改造』1934年7月号)を収録。最も収録作品が多くなっている。
  • 『世界怪奇実話』講談社〈文庫コレクション大衆文学館〉、1997年8月。 ISBN 4-06-262086-3 - 選集。
  • 『牧逸馬の世界怪奇実話』島田荘司光文社光文社文庫〉、2003年12月。 ISBN 4-334-73577-0 - 選集。各エピソードの題名が変更されており、一部の固有名詞も現代的な表記に変更されている[注釈 21]
  • 『世界怪奇実話』全4巻 文元社〈教養ワイドコレクション〉、2004年。 - 現代教養文庫版を底本とするオンデマンド版
  • 『世界怪奇残酷実話 浴槽の花嫁』河出書房新社、2018年11月。 ISBN 978-4-309-02757-9 - 現代教養文庫版第1巻の改題再刊。

外国語訳

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簡体字中国語

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  • 《世界怪奇实话 上》 杨源译 吉林出版集团有限责任公司〈日本推理名作选〉, 2011年. ISBN 978-7-5463-4442-3
  • 《世界怪奇实话 中》 杨源,曹逸冰译 吉林出版集团有限责任公司〈日本推理名作选〉, 2011年. ISBN 978-7-5463-4443-0
  • 《世界怪奇实话 下》 曹逸冰译, 吉林出版集团有限责任公司〈日本推理名作选〉, 2011年. ISBN 978-7-5463-4444-7
  • 《世界怪奇实话 第一辑》 谭春波译 天津人民出版社, 2018年. ISBN 978-7-201-13897-8
  • 《世界怪奇实话 第二辑》 谭春波译 天津人民出版社, 2018年. ISBN 978-7-201-13892-3
  • 《世界怪奇实话 第三辑》 谭春波译 天津人民出版社, 2019年. ISBN 978-7-201-14441-2

脚注

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注釈

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  1. 切り裂きジャック
  2. アール・ネルソン英語版
  3. テレーズ・アンベール英語版フランス語版
  4. マタ・ハリ
  5. 芸名ジュヌヴィエーヴ・ランテルム英語版フランス語版
  6. プリンセス・カラブー
  7. Adolph Hotelling.
  8. Inez Elizabeth Reed.
  9. Willie Saunders.
  10. リンダ・ムッリイタリア語版
  11. ムッリ事件イタリア語版
  12. ペーター・キュルテン
  13. ルイーズ・ド・ベティニ英語版
  14. Chung-yi Miao.
  15. ウィリアム・グルデンズッペ William Guldensuppe.
  16. ウィニー・ルース・ジャッド英語版
  17. サラ・レイチェル・ラッセル英語版
  18. ルイス・コーエン英語版
  19. 本名ネイサン・カプラン英語版
  20. マルタン・デュモラールフランス語版英語版
  21. 題名の変更は以下の通り。「女肉を料理する男」→「切り裂きジャック」、「肉屋に化けた人鬼」→「ハノーヴァーの人肉売り事件」、「海妖」→「マリー〔ママ〕・セレスト号」(正しい船名は Mary Celeste で、牧逸馬による「メリイ・セレスト号」という表記の方が適切)、「運命のSOS」→「タイタニック号沈没」、「戦雲を駆る女怪」→「マタ・ハリ」、「白日の幽霊」→「テネシー州、猿裁判」、「ロウモン街の自殺ホテル」→「ローモン街の自殺ホテル」、「血の三角形」→「クリッペン事件」、「土から手が」→「ドクター・ノースカット事件」、「生きてゐる戦死者」→「ブダペストの大量女殺し」。「双面獣」「ウンベルト夫人の財産」「女王蜘蛛」「浴槽の花嫁」は原題のまま。

出典

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  1. 松本 1969, pp. 419–420.
  2. 浅子 1997, pp. 425–427.
  3. 浅子 1997, pp. 429–431.
  4. 牧逸馬『一人三人全集 V 世界怪奇実話 浴槽の花嫁』河出書房新社、1969年11月5日、434頁。doi:10.11501/12475115
  5. 浅子 1997, p. 433.
  6. 浅子 1997, p. 432.
  7. 牧逸馬『戦争とは何だ 世界怪奇実話全集 第三篇』中央公論社、1932年7月3日、1頁。doi:10.11501/1179986
  8. 松本 1969, p. 422.
  9. 松本 1969, p. 434.
  10. 松本 1969, p. 423.
  11. 会津信吾 (2010年2月). 切り裂きジャックに会った男”. 怪美堂. 2025年9月7日閲覧。
  12. OCLC 892921
  13. フィリップ・ホセ・ファーマー嶋田洋一訳「グレイストーク卿、真実を語る」『S-Fマガジン』1996年10月号。
  14. Lai, Rick (2013年1月). Compiled and Introduction--The Crimes of H. Ashton Wolfe”. 2025年9月7日閲覧。
  15. 許光俊『邪悪な文学誌――監禁・恐怖・エロスの遊戯』青弓社、1997年3月3日、88頁。ISBN 4-7872-9116-5

参考文献

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外部リンク

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