不活性電子対効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

不活性電子対効果(ふかっせいでんしついこうか、inert-pair effect)とは、広義には第四周期以降の、狭義には第六周期の第13族元素第17族元素において原子価殻のs軌道にある電子が化学的に不活性に見える現象を指す。 この言葉は1927年にネヴィル・ヴィンセント・シドウィックによってはじめて用いられた。

第四周期以降の第13族元素第17族元素では族によって決まる最高酸化数よりも2少ない酸化数の化合物が安定になる傾向がしばしば見られる。 例えば第四周期においては、ヒ素のハロゲン化物は5価よりも3価をとる傾向があり、セレンの酸化物や酸素酸は6価よりも4価の方が安定であり、臭素では臭素酸から過臭素酸への酸化が非常に困難である、といった現象が知られている。 第五周期では、インジウムスズアンチモンの塩化物はそれぞれ最高酸化数とそれよりも2少ない酸化数の化合物が両方とも知られている。 第六周期になると、タリウムビスマスにおいては、むしろ最高酸化数の化学種がむしろ不安定であり、それよりも2つ小さい酸化数が安定であることが知られている。 この原因として原子価殻のs軌道への核電荷の遮蔽が弱いため、電子雲が原子核近傍に引き寄せられエネルギー的に安定となり価電子としてふるまわないという仮説が唱えられた。 そのため、この現象を不活性電子対効果という。

しかしそれぞれの元素のs電子のイオン化エネルギー(最高酸化数のイオンを形成するためのエネルギー)と最高酸化数の化合物の安定性には必ずしも相関がないことが分かっている。 例えば15族の5価の陽イオンを形成するイオン化エネルギーの総計はヒ素>アンチモン>ビスマスの順であり、これらの中では5価の化合物が安定なのはアンチモンであるという事実に反する。 そのため、この不活性電子対効果は単純にs軌道のエネルギー準位が低いために起こっているわけではないと考えられている[1]。。

また不活性電子対を持つとされる塩化スズ(II)において、本当にs軌道が結合に関与していないのであれば分子の形は直線形(結合角180度)になるのが最安定配座である。 しかし実際の塩化スズ(II)の気体の分子構造は折れ曲がった構造(結合角95度)をとり、s電子が結合に関与していることを示唆している。 このような現象はs電子対が立体化学的に活性であると称される。 よって実際のところは不活性電子対効果の名に反して、s電子が化学的に不活性になっているわけではない[要出典]とされる。

一方、14族元素のハロゲン化物の気相での結合エネルギーの測定結果は明らかに化合物の安定性と相関を示す。 すなわち、最高酸化数の化学種の結合エネルギーが小さくなることがこの効果の真の原因とされる。 結合エネルギーが小さくなる原因については議論があるが、一例として第四周期と第六周期の元素では電気陰性度が大きいため(これも核電荷の遮蔽が弱いことに起因する)、陰性原子との結合が弱まることが原因[要出典]として挙げられている。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Shriver & Atkins, Inorganic Chemistry 4th Ed., Oxford University Press (2006)