下宮忠雄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

下宮 忠雄(しもみや ただお、1935年 - )は日本の言語学者ゲルマン言語学比較言語学分野を専門とする。学習院大学名誉教授

人物[編集]

東京都出身。早稲田大学第二文学部卒業。下宮忠雄の専攻分野は、何をおいてもまずゲルマン言語学であり、卒業論文ベーオルフにおけるシンタックス」や修士論文「ゴート語における独立与格」を初めとして、主著にはゲルマン言語学の関連著作が並ぶ。ただ通常の研究者と違って、そのカバーする範囲は非常に広い。単著ではドイツ語(語源小辞典、今日のためのドイツ語)、ノルウェー語(四週間)、古アイスランド語(入門)の3言語のみであるが、『ゲルマン読本』では英語、ドイツ語、フリジア語オランダ語デンマーク語スウェーデン語ノルウェー語アイスランド語ゴート語が扱われている。さらに、『ドイツ・ゲルマン文献学小辞典』では、古期英語古高・中高ドイツ語、低地ドイツ語が加わっている。そして、下宮の真の特徴[要出典]は、ゲルマニストでありながら、その範囲をはるかに超えた著作があるという事であろう。独文Zur Typologie des Georgischen(『グルジア語の類型論』)、『バスク語入門』、『こうすれば話せるギリシャ語(下宮の担当は前半部分)』がそれである。

ただ、下宮が単なる多言語を操る「語学屋」ではなく、一流の言語学者であることは、『英語学文献解題、言語学I』(寺澤芳雄監修)を見れば明らかである。これは、1786年から1995年までに出版された一般言語学・歴史比較言語学・言語地理学・言語類型学に関する1091冊を解題したもので、欧米及び日本で出版された専門書が簡潔に解説されている。これは、正しい専門知識と広い視野がなくてはとても出来るわざではない。またこれらを分かりやすく具体例を示しながら解説した『歴史比較言語学入門』も、下宮の "comparatiste" としての力量を示すものである[要出典]

なお下宮が個別言語を記述するにあたっての態度は、「文法を簡潔にし、早くテキスト読解に進む」ことである。これは、下宮が敬愛する市河三喜『古代中世英語初歩』の序文「古代英語にしても中世英語にしても、発音や文法は出来るだけ簡単に片付けて少しでも多くテキストを読むように」という態度を踏襲したものである。さらに、行き届いたグロッサリー(語彙)を付ける事も、下宮の特徴である。主著『ノルウェー語四週間』を例にとると、テキスト・グロッサリー部分の比重がいかに重いかが分かる。

  • 文法 12-212頁(201頁)
  • 読本 213-453頁(241頁)
  • その他 456-475頁(19頁)
  • 語彙 493-648頁(155頁)

数多くの言語を取り扱う「四週間シリーズ」のなかで、『ノルウェー四週間』が特異な存在である理由はここにある。

経歴[編集]

  • 1935年3月7日 東京府港区芝に生まれる
  • 1954年-61年 旺文社勤務
  • 1961年 早稲田大学第二文学部英文科卒業
    (卒業論文:「ベーオルフにおける格のシンタックス」)
  • 1964年 東京教育大学修士(ゲルマン語学、比較言語学)
    (修士論文:Dative Absolute in Gothic「ゴート語における独立与格」)
  • 1965年-67年 ボン大学留学
  • 1967年 弘前大学人文学部講師(英語学)
  • 1969年 同大学助教授(英語学)
  • 1974年-75年 サラマンカ大学留学
  • 1975年10月 学習院大学助教授(ドイツ語学)
  • 1977年4月 同大学文学部教授(ドイツ語学)
  • 1977年 第12回国際言語学者会議(ウィーン)出席
  • 1977年8月 ギプスコア大学(夏季バスク語講習)
  • 1981年 バスク語学者会議(ビルバオ)出席。'G.Borrow and Basque'発表
  • 1982年 第13回国際言語学者会議(東京)事務次長
  • 1985年 ヨーロッパ言語学会(トレド)出席
  • 1987年7月 ベルゲン大学(夏季ノルウェー語講座)
  • 1987年8月 第14回国際言語学者会議(ベルリン)出席 'Europa typologisch gesehen'発表
  • 1988年 バスク語学者会議(ビトリア)出席。'Basque,, a half Romance language?'発表
  • 1991年 ヨーロッパ言語学会(キール)出席
  • 1992年8月 第15回国際言語学者会議(ケベック)出席。’Drift in European Languages’発表
  • 1993年-96年 日本言語学会機関紙『言語研究』編集委員長
  • 1993年 ヨーロッパ言語学会(クラクフ)出席。
  • 1993年 アジア・スペイン語学会(東京)出席。'Hacia una tipología del español'発表
  • 1994年8月 ヘンリー・スウィート・コロキウム学会(エセックス大学)出席
  • 1995年9月 同上学会出席。'Sweet and Jespersen in Japan'発表。
  • 1995年8/9月 ヨーロッパ言語学会(ライデン)。'Dutch contribution to Japan and Japanese' 発表
  • 1996年9月 ヨーロッパ言語学会(クラーゲンフルト)出席。'Unity and Diversity of Germanic Languages' 発表。
  • 1996年9月 国際言語学史学会(オックスフォード)出席。'European Tradition in the History of Linguistics in Japan' 発表。
  • 1996年 ヨーロッパ言語学会(ソウル)出席。'El español vs. otras lenguas románticas' 発表
  • 1997年 第16回国際言語学者会議(パリ)出席。日本言語学会・代表。'Foreign influence on Japan and Japanese' 発表
  • 2003年 第17回国際言語学者会議(プラハ)出席。日本代表。国際言語学者常設委員会(ハーグ)実行委員会委員に任命(2003年-2008年)
  • 2004年7月 ヨーロッパ言語学会(Kristiansand)出席。'It's all Greek to me' 発表
  • 2005年1月 学習院大学最終講義「アンデルセン、グリム・・・と言語学ーグルメのつまみ食い」
  • 2005年 学習院大学名誉教授
  • 2008年 第18回国際言語学者会議(ソウル)出席。'Haiku and Linguistics' 発表
  • 2010年 文学博士。学位請求論文:『ヨーロッパ諸語の類型論』。副論文:Alliteration in the Poetic Edda。 審査委員:松下知紀、三浦弘、高田博之

主要著書[編集]

  • 1978年 Zur Typologie des Georgischen (verglichen mit dem Indogermanischen)(学習院大学)
  • 1979年 バスク語入門(大修館書店)
  • 1985年 言語学小辞典(同学社)
  • 1989年 スタンダード英語語源辞典(大修館書店、共著)
  • 1991年 教養のためのドイツ語(大修館書店)
  • 1992年 ドイツ語語源小辞典(同学社)
  • 1993年 ノルウェー語四週間(大学書林)
  • 1994年 ゲルマン語読本(大学書林)
  • 1993年 ヨーロッパの言語と文化(近代文藝社)
  • 1995年 ヨーロッパの言語の旅(近代文藝社)
  • 1994年 ドイツ・西欧・ことわざ・名句小辞典(同学社)
  • 1995年 入門ことばの科学(大修館書店、共著)
  • 1996年 ドイツ・ゲルマン文献学小辞典(同学社)
  • 1998年 言語学I<英語学文献解題第1巻>(研究社)
  • 1999年 歴史比較言語学入門(開拓社)
  • 1999年 こうすれば話せるギリシャ語(朝日出版社、共著)
  • 2000年 世界の言語と国のハンドブック(大学書林)
  • 2001年 ヨーロッパ諸語の類型論(学習院大学。学位請求論文。)
  • 2003年 ドイツ語とその周辺(近代文藝社)
  • 2006年 古アイスランド語入門(大学書林,共著[実質的には下宮の単著])
  • 2007年 ゲルマン語対照辞典の試み(大学書林)
  • 2009年 グリム童話・伝説・神話・文法小辞典 (同学社小辞典シリーズ)
  • 2009年 Anglo-Saxon語の継承と変容3(専修大学社会知性開発研究センター 言語・文化研究センター叢書、共編)
  • 2011年 アンデルセン童話三題ほか20編(近代文藝社)
  • 2011年 アグネーテと人魚、ジプシー語彙案内ほか(近代文藝社)
  • 2011年 Alliteration in the Poetic Edda (Studies in Historical Linguistics Vol. 8): Peter Lang
  • 2013年 デンマーク語入門(近代文藝社)
  • 2013年 英語の語源10章(文芸社)
  • 2015年 アンデルセン余話10題(近代文藝社)
  • 2016年 マイ言語学辞典(近代文藝社)

主要訳書[編集]

  • 1968年 イェルムスレウ『言語学入門』(紀伊国屋書店)
  • 1970年 ハンス・クラーエ『言語と先史時代』(紀伊国屋書店)
  • 1977年 E.コセリウ『一般言語学入門』(三修社;2003年第2版)
  • 2006年 C.M.プロム『按針と家康』(出帆新社)

関連人物・書籍[編集]

人物
書籍
  • 藤原誠次郎『初年生のドイツ語』葛城書房,1948
  • 藤原誠次郎『初年生のフランス語』葛城書房,1951
  • 乾輝雄『英独仏露四国語対照文法』冨山房.1935、再版1942
  • 前島儀一郎『英独比較文法』大学書林、1952
  • 高津春繁『比較言語学』岩波全書、1950
  • 泉井久之助『言語構造論』創元社、1947
  • メイエ・コーアン、泉井久之助訳編『世界の言語』朝日出版社、1954
  • 市河三喜『古代中世英語初歩』研究社、1955
  • 有坂秀世『音韻論』三省堂、1947
  • Bernard Pottier: Présentation de la linguistique, Paris, 1967
    (出典:学習院大学ドイツ文学会『研究論集』9(2005)に収録の「渋谷の「オスロ」と6人の先生と10冊の本」。若き下宮自身に影響のあった学者と書籍を紹介してもの。)
恩恵書

下宮自身が、言語研究者として、学生時代から恩恵のあったと認めた書物。

  • 『リーダーズ英和辞典』研究社, 1984
  • 佐藤通次『独和言林』白水社, 1948
  • 『標音仏和辞典』白水社, 1981
  • The American Heritage Dictionary of the English Language
  • Chambers Compact English Dictionary, 1953
  • H. Paul, Deutsches Wörterbuch. 7.Aufl. Tübingen, 1971
  • C.D. Buck, A Dictionary of Selected Synonyms in the Principal IE Languages, 1971
  • R. Meringer, Indogermanische Sprachwissenschaft, 1897
  • H. Krahe, Germanische Sprachwissenschaft
  • H. Krahe, Indogermanische Sprachwissenschaft
  • W. Meid, Germanische Wortbildung, 1968
  • M. Lehnert, Altgermanisches Elementarbuch, 1955
  • F. Ranke, Altnordisches Elementarbuch, 1937, 1949
  • Rank-Hoffmann, Altnordisches Elementarbuch
  • H. Hempel, Gotisches Elementarbuch, 1953
  • H. Lausberg, Romanische Sprachwissenschaft
  • A. Zauner, Romanische Sprachwissenschaft, 1914
  • A. Thumb, Grammatik der neugriechischen Volkssprache, 1915
  • E. Berneker, Russische Grammatik, 1902
  • Berneker-Vasmer, Russische Grammatik, 1961
  • Jan de Vries, Altnordisches Etymologisches Wörterbuch, 1962
  • J.B. Hofmann, Etymologisches Wörterbuch des Griechischen, 1949
  • A. Walde, Lateinisches Etymologisches Wörterbuch, 1910
  • F. de Saussure, Cours de linguistique générale, 1953
  • B. Pottier, Présentation de la linguistique
  • 乾輝雄 『英独仏露四国語対照文法』,1942
  • 前島儀一郎『英独比較文法』, 1952,1987
  • 高津春繁『比較言語学』,1950
  • 泉井久之助『言語構造論』,1947
  • メイエ・コーアン、泉井久之助訳編『世界の言語』,1954
  • 市河三喜編『英語学辞典』,1956
  • 市河・高津・服部編『世界言語概説』2巻
  • 市河三喜『古代中世英語初歩』,1950
    (出典:『ドイツ語とその周辺』近代文芸社、192-3頁)

逸話など[編集]

  • 下宮が東京教育大学で薫陶を受けた矢崎源九郎の長男が矢崎滋(男優)で、その滋の高校2年当時の家庭教師が下宮である。(ちなみに、矢崎滋は東大・英文科に現役合格している。)
  • 下宮は中学時代から英独仏はもちろんのこと、ロシア語も習得した。高校では健康上の理由から1年間休学したが、その間にラテン語・ギリシャ語を独力で習得している。
  • 下宮のポリグロットを評価して、1975年日本言語学会の公開講演の機会を与えたのは泉井久之助である。但し、通常なら学会の講演は学会誌『言語研究』に掲載されるのだが、下宮の講演「バスク語・コーカサス語と一般言語学」はなぜか却下された。
  • 1995年9月にHenry Sweet Colloquiumで’Sweet and Jespersen’を発表した下宮は、斯学の大先輩・市河三喜がこの学会に参加することが出来たら、どれほど感動したろう…と思い落涙。しばらくの間、発表を中断せざるを得なかった。