七夕の国

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七夕の国』(たなばたのくに)は、岩明均による超能力ミステリーを取り込んだ伝奇SF漫画。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に、1996年第38号から1999年第6号にかけて不定期連載された。

1997年から1999年にビッグコミックス(小学館)より全4巻が刊行され、2003年に同社より上下2巻の「完全版」が刊行されている。

物語[編集]

大学サークル「新技能研究会」部長である南丸は、「あらゆるものに小さな穴を空ける」というあまり役に立たない超能力を持っている。彼の祖父も同じ能力を有していた。ある時、大学の教授・丸神正美も似たような能力を持っていたことがわかる。それも、南丸の空けるアイスピックで刺したような小さなものではなく、卵ぐらいの大きさの穴がえぐりとられた様々なものが残されていた。彼ら南丸家と丸神家のルーツである「丸神の里」と呼ばれている丸川町にて、不可思議な殺人事件が起きる。報道によれば、被害者の死体は、頭部の半分がまるで巨大なスプーンですくいとったように滑らかにえぐり取られていたという。自分の能力や失踪した丸神教授に関係があるのか、南丸はゼミのグループと共に、調査のため丸神の里へと向かう。

丸神の里では、新技能研究会は余所者に対し排他的な丸川町民たちと出会う。しかし「丸神」「南丸」など「丸」の名と「穴を開ける」能力を持つ血統は地元の大名の末裔として非常に慕われており、丸神教授の関係者である事や南丸の詳細などが発覚すると態度は急変する。部員の「ナン丸くんが?」という普段のあだ名を「南丸(みなみまる)さんだ」と訂正し南丸自身を上客・身内と扱うようになるなど、「丸神一族と里人とそれ以外」を明確に峻別する性質が丸川町民たちには備わっていた。

丸川町の事件では犠牲者は土木業者で、地元民の祭祀対象などとされている丸神山に手をつけようとしていて、強く敵意・反対運動を受けていた事が明らかになる(作中の過去としても、同じ山に砦を築こうとした戦国大名が反対を受け、丸神一族との戦が勃発したことなどが描かれている)。その丸川町で南丸らは東丸幸子や高志らといった人物と接触するが、肝心の丸神教授との確かな接触には失敗。一瞬だけ姿を見て生存しているらしいことと、「順番が逆」という謎めいた言葉だけを手掛かりに、東京へ戻って何が起きているのかを考える日々。そのうちに「えぐり魔」事件が都会のビル等で多発したり、超能力セミナーへ勧誘を受けるなどして事態は動き出す。

登場人物[編集]

南丸洋二(みなみまる ようじ)
本作の主人公。通称「ナン丸」。大学4年生で就職活動中の身。紙やプラスチック、ブリキなど物質の特性に左右されず、穴を空ける能力を持つが、当初は本来の出し方を知らず、能力を発揮できていなかった。しかし、丸神の里の関係者であったことから丸神ゼミに関わることになり、東丸高志と会ったことで自分の能力の本当の使い方を知る。以降は「窓の外に手が届く」能力の使い道に悩むこととなった。基本的に楽観的な性格だが、かなりしっかりした考えも持つ常識人。手は届くのに「窓の外を見る」能力を持たず、物語の中盤で「窓の外を見る」能力が発揮されかけたが、結局発揮されないままだった。「手が届く」能力により肉体に微小な変異が生じ、額にできもののような突起が発生。一時期バンダナを装着していたが「力を使わないでいたら自然に消え」てしまったため、最後は初期の素顔だけに戻る。
丸神正美(まるかみ まさみ)
南丸洋二が通う大学の歴史・民俗学の教授であり、丸神ゼミの講師。大学で南丸を呼び出したまま、丸川町で自分の家系について探るうち失踪する。「窓の外に手が届き、見ることができる」能力者の一人であり、南丸と同じ先祖をもつ。「手が届く」能力の使用による変異は南丸より大分強く、眼球の大きさや口元のサイズや構造に明確な変異がみられる。全体としてやや人間離れした容貌に傾いており、顔を隠すなどはしないものの物語後半ではっきりと顔を見てしまった江美が気絶している。
丸神頼之(まるかみ よりゆき)
丸神の里の神官だったが、4年前に行方不明になる。「窓の外に手が届き、見ることができる」数少ない能力者。特に「手が届く」能力の規模や速さ、巧緻さは誰よりも長けており、里人から畏怖されている。その容姿は人間とは掛離れているため、常にコートやマスクで全身を隠している。また手の変異も作中最も強い部類で、完全に機能する第六指が発生している。ただしコートやマスクは単に外出等で騒ぎを起こしたくないだけの目的のようで、自身の容貌に醜さや異常性、疎外感などを感じたりしてはいない様子。超能力セミナーの参加者らに向かって「君たちホモ・サピエンスが10億年修行しても届かない力」と発言したり、物語終盤の丸神山では顔を晒したまま普通に「ひどいな、おれはこれでも人間だぜ」と言うなどしている。
東丸幸子(ひがしまる さちこ)
丸川町の喫茶店の店員。「窓の外を見る」能力を持つが手は届かない。幼い頃、兄に虐待された過去があり、「手が届く」能力には否定的。また気丈な性格で、頼之を恐れないが「窓の外」に対する恐怖や拘束感のようなものを吐露しており、丸神の里の住人の行動心理の一端を垣間見ることができる。兄に対しては複雑な心境のようで「あいつにはまだ言うことが!」「一人で寂しく死んだんじゃないならいいんだ…」など、純粋な憎悪や忘却したいだけの対象ではないことを伺わせる。
東丸高志(ひがしまる たかし)
東丸幸子の兄。お調子者で皮肉屋、かなりの短気と扱いにくい性格の持ち主。「窓の外に手が届く」能力を持ち、しばしばそれを誇示する。モラルが欠けており、かつては能力を使って妹を虐待していた。詐欺と知りながら超能力セミナーの片棒を担いでいる。他の能力者と同様の理由からか、頭部にバンダナを巻いている。彼自身は手に大きな変異を持たないが、「手が届く」能力の制御には人間に存在しない第六指が関与しているらしい事が彼の南丸に対する「六本目の指があるように」意識せよという能力使用へのアドバイスからも伺える。
東丸隆三(ひがしまる りゅうぞう)
東丸幸子の大伯父で現在の丸神の里の長。「窓の外に手が届き、見ることができる」能力者の一人で、丸神頼之から見て先代の神官にあたる。高齢で体が弱っており、作中では里の会合以外では床に伏せたままだった。人間とはかけ離れた容姿ではあるものの、丸神頼之と比較して人間に近くなっている。
江美早百合(えみ さゆり)
丸神ゼミの講師、年齢不詳。性格は明るく気丈であり、丸川町の祭りの最中、立入り禁止である丸神山へ登った際に村人に見つかるが、詫びつつも巧く言い包め、そういった場面にも馴れている様子を見せる。密かに丸神教授を慕っている。
浅野(あさの)
新技能開拓研究会の元会員。南丸の能力を役に立たないと罵倒し、研究会を去るが、後に高志が講師を務める超能力セミナーに傾倒している。
亜紀(あき)
苗字は不明。新技能開拓研究会の会員。男勝りで度胸があり、江美が丸神教授夫人にナイフで襲われそうになった際には、蹴りでナイフを弾き江美を救った。トレードマークは無地のTシャツとキャップ。
今村(いまむら)
新技能開拓研究会の会員。トレードマークは、メガネとニキビ。
桜木知子(さくらぎ ともこ)
丸神ゼミのゼミ生。物語の終盤まで、南丸達と行動を共にする。
川出正行(かわて まさゆき)
丸神ゼミの研究生。物語の序盤でのみ登場。
多賀谷守(たがや まもる)
丸神ゼミのゼミ生。丸神教授から丸神山周辺の模型を制作するアルバイトを請け負っているが、丸神教授が失踪したことで製作報酬の40万円がどうなるかを気にしている。一見、特徴の無い性格に見えるが、桜木に「変な人」と言われている。密かに、江美早百合に惚れている。
丸神教授夫人
夫の失踪について江美に問いただすために大学へやって来るが、何も知らないと言う江美に対して逆上し、バッグに隠したナイフで江美に襲いかかる。
早野源一郎(はやの げんいちろう)
丸川町の町議。丸神教授の行方を調べに来た南丸達に、非協力的だった丸川町民の表面上の代表。南丸が丸神の血を引く者と知り、町民共々、協力的になる。南丸の正体を追うストーカーに対して犯罪とも取れる脅迫を行うなど、過激な面も見られる。
マスター
丸川町の住民。東丸幸子のアルバイト先の喫茶店の店主。東丸高志曰く「この店のコーヒーはまずい」らしい。
谷山(たにやま)
丸川町の住民。丸川町にやってきた丸神頼之に偶然会い、その言葉に恐れおののく。
ストーカーの男
南丸の子供救出事件の目撃者。南丸の正体を突き止めようと探るが、早野率いる丸川町の連中に「恥ずかしい写真」を撮られ、脅迫される。
八木原(やぎはら)
東丸高志の仕事上のパートナー。インチキ超能力セミナーで、プロデュース、司会進行役等を担当する。セミナーで説明する際、「手が届く能力」である球体を「ディメンション・ボール」と呼んでいる。また、その宣伝のため、東丸高志に「えぐり魔」作戦を提案する。
倉石利男(くらいし としお)
年齢は51歳。丸川町で建設業を営む社長。丸川町のシンボルでもある「七ツ峰」に、ゴルフ場建設を計画していたが、頭部の半分をえぐられた変死体で発見される。
謎の男
本名や年齢など、全て不明。丸神頼之のマネージャー的存在。特殊な戦闘部隊を引き連れることが出来る立場にあるらしい。当初は政府関係者のように装っていたが、実際には丸神頼之曰く「民間企業」ということで、政府機関とは無関係のようである。物語の終盤、丸神頼之によって殺害される。
先生
先生と呼ばれる、政界の黒幕の立場と思われる人物。謎の男から丸神頼之を兵器として紹介されるが使いこなせずにもてあましたところを、頼之が作り上げた巨大な手が届く能力によって、住んでいた邸宅と共に消された。
玉部敏郎(たまべ としろう)
参議院議員。謎の男による、丸神頼之の売り込みのための腕試しとして、右腕と下半身を残し殺害される。

能力[編集]

この作品の舞台となる「丸神の里」の住民の多くは、「窓の外を見る」能力を持ち、また一部の人間は「手が届く」能力を持っている。その2つを持つものが丸神の里の神官になる資格を持つとされる。なお、丸神の里の能力者の大半は、窓の外は見ることが出来ても手が届かない者ばかりである。

丸神正美教授は、その能力を丸神の里の住民に与えた者を「カササギ」と仮称している。カササギの正体は不明であるが、宇宙人であることが作中で暗示され、あるいは作中の人物がそう推測している。「窓の外を見る」能力は、人間にカササギへの忠誠心を強制的に植え付けるためのものであり、「手が届く」能力はカササギに忠誠心を植え付けられた人間に与えられた武器であると教授は推測している。

「窓の外を見る」能力
「窓をひらく」とも言う。「怖い夢」を見る、というのがそれである。その夢は、東丸幸子曰く、丸神の里の多くのものが共通して見るもので、口ではうまく説明できないらしい。丸神教授は幸子に比べたらより具体的に説明しており、「夢の中にたまに現れ、手をさしのべてくれる『カササギ』を、この地(丸神の里)で待たずにはいられない」ということである。
この能力を植え付けられた丸神の里の人間は、カササギが里に作った人工地形を忠実に守り続け、また毎年夏至をはさんだ7日間に「七夕祭り」を行い、カササギの来訪を待ち続けた。タイトルにある「七夕」との関連性は、物語の後半まで語られなかった。
「手が届く」能力
丸神の里の出身である一部の人間に備わった、あらゆる物を削る(消す)ことができる能力。「窓」と呼ばれる不可思議な模様の球体を作り出し、それを固体ないし液体である対象に当てると、「窓」の容量と同じだけの容積が消失する。消失時には強い光と音を発し、消失した空間に向けて風が吹く。対象が「窓」より大きな場合は、窓と同体積分を削る形になる。対象が「窓」より小さな場合は、周囲の他の物体(例えば対象が家であるなら地面)をあわせて消し去る。対象が「窓」より小さく、かつ空中にあって他の物体と接触していない場合は、作中の描写が無いので不明。なお対象に当てなくても、時間が経てば「窓」は空気との反応で消失する。能力には個人差があり、東丸高志は野球ボール大、南丸洋二はスイカ程、丸神頼之は最大で半径数百メートル程の「窓」を作ることができる。さらに丸神頼之は、壁を貫通させて作ったり、空中で固定したり、同時に何個も作ったりすることができる。球体を作り出すコツは「左右の手のひらの小指の外側に、もう一本、親指がある様にイメージする」こと。
東丸幸子によれば「手が届く」能力を持つ者は6人いる。早野が示した系図にはそのうち4人が記されており、丸神頼之、東丸隆三、東丸高志、そして幸子と高志の母親である。幸子と高志の母親は作中には登場せず名前も不明である。
この能力を使い続けると、額には血マメのようなものが出来て、次第に大きくなって宝石状となる。やがて目つきが変わり耳が尖っていき、能力使用時のイメージ通りに小指の外側に親指のような指が生え始め、手の甲には異様な陥没状の皮膚変化が起きる。そして最後には人間とはとても思えない容姿にまで変化する。ただし、南丸洋二は血マメ状の物ができた段階で能力を使うのをやめ、結果として元に戻った。
「窓」によって削られた(消された)物体や人間がどうなるかは、作中でも明らかになっていない。丸神教授は「窓」によって消す行為を「『窓の外』に突き落とす」と表現し、ダストシュートに例えている。だが丸神頼之は、「窓」の正体を、カササギが人間に与えてくれた「玄関」で、今までは何人もの人間を無傷でカササギの元に運ぶだけの能力が育たなかっただけではないか、自分にはその能力があると推測し、「窓」によって自らを消し去った。

書誌情報[編集]