一酸化炭素中毒

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

一酸化炭素中毒とは一酸化炭素に起因する中毒症状である。

原因[編集]

発症機序は充分に解明されていない[1]が、次のように考えられている。一酸化炭素は酸素の約250倍も赤血球中のヘモグロビンと結合しやすい上、酸素分圧とオキシ・ヘモグロビン濃度との関係を変調させる。ヘモグロビンには4つの酸素結合部位が存在し、結合数が多いほど結合安定が安定になる。すなわち、末梢の酸素分圧が低い組織に運搬されると酸素の結合が乖離し始めるが、結合する酸素が減るほど乖離しやすくなるため、効率的に末梢で酸素を放出する特性がある。ところが、4つある結合サイトのうち1つが一酸化炭素と結合したヘモグロビン(カルボニルヘモグロビン)は、他のサイトに結合した酸素も安定化し放出しにくくなるため、血液の酸素運搬能力が下がり、末梢で酸素分圧が極端に低下し中毒症状を起す[要出典]

一酸化炭素は、特に酸欠状態でなくとも燃焼に伴い発生するが、炭鉱での爆発事故や地下空間などで換気が悪い場合に蓄積し、また一般家庭では、屋内での木炭コンロの使用、ガス湯沸かし器ストーブの不完全燃焼によって発生量が急激に増えることにより中毒症状を発症させる。 このため、大気汚染に係る環境基準については「1時間値の1日平均値が 10 ppm 以下であり、かつ、8時間平均値が 20 ppm 以下であること」とされ、また、労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則では、事務所の室内における濃度について 50 ppm 以下(空気調和設備または機械換気設備のある事務所では 10 ppm 以下)とするよう定められている。

なお、以前の都市ガスには一酸化炭素が含まれる石炭ガスが使われていたため、ガス漏れによる中毒事故が発生したが(2007年にも北見市で大規模なガス漏れによる死亡事故があった)、2010年3月25日に四国ガス天然ガスへ転換したのを最後に、日本国内で供給される都市ガスは全域で一酸化炭素を含まないものとなり、ガス漏れによる一酸化炭素中毒は起こらなくなった[2]

この他、火災に伴う一酸化炭素中毒も知られている。なお、火災の場合、アクリルポリウレタンなどの熱分解の影響でシアン化水素も発生し、一酸化炭素中毒と共にシアン化水素による中毒も併発している場合がある。

また、タバコの煙にも多量に含まれており、循環器系に多大な負担を及ぼすが、煙に含有している濃度では急性症状は発症しない[1]

症状[編集]

急性症状
1時間の暴露では、500ppmで症状が現れはじめ、1000ppmでは顕著な症状、1500ppmで死に至るとされている。一酸化炭素中毒を自覚するのは難しく、危険を察知できずに死に至る場合が多い[3]
軽症では、頭痛・耳鳴・めまい・嘔気などが出現するが、風邪の症状に似ているため一酸化炭素への対処が遅れる。すると、意識はあるが徐々に体の自由が利かなくなり、一酸化炭素中毒を疑う頃には(また、高い濃度の一酸化炭素を吸った場合には)、自覚症状を覚えることなく急速に昏睡に陥る。この場合、高濃度の一酸化炭素をそのまま吸い続ける悪循環に陥り、やがて呼吸や心機能が抑制されて7割が死に至り、また、生存しても失外套症候群または無動性無言(Akinetic mutism英語版)と呼ばれた高度脳器質障害が残る[4]
ヘモグロビンは一酸化炭素と結合すると鮮紅色を呈するため、中毒患者はピンク色の「良い」顔色をしているように見える[5]
間欠型(遅発性神経症状)
急性一酸化炭素中毒を発症し高圧酸素療法で一旦回復し、数日から1ヶ月程度に認知機能障害(意思疎通困難、行動異常、尿失禁など)を起こすことがある[6]が、認知症と誤認されることがある[4]

診断[編集]

中毒症状は、頭痛耳鳴めまい嘔気などの臨床症状と、血中の一酸化炭素結合ヘモグロビン (COHb) 濃度の測定をもって診断を確定する[7]が、これは前述の通り、ヘモグロビンが酸素よりも一酸化炭素と結合しやすい性質による。

前述の通り、中毒患者の血色が「良い」ように見えてしまう作用により、吸光度で血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターは正確な値を示すことができない。パルスオキシメーターによる呼吸モニターは本症においては有効ではない[1][5]

動脈血ガス分析では、過換気のため PaCO2 値は低下し、血管透過性が亢進するにつれ代謝性アシドーシスが重症化し[8]血液は濃縮されるためHct値は上昇する。モダリティー検査では、肺水腫や脳浮腫、重症化すると淡蒼球の低吸収域化(チトクロームCオキシダーゼ活性の低下による)がみられる[9]

脳波検査では、徐波化や低電位が出現する。

治療[編集]

患者は全身的な酸素欠乏状態であり、初期治療には酸欠の対策が必須となる[4]ため治療は酸素吸入であるが、純酸素を吸入しても呼吸が不十分な場合は高圧タンク内で酸素を吸入する高圧酸素療法を行うことがある[10]。しかし、常圧酸素療法と高圧酸素療法のどちらを優先するのかは明確になっていない[10]

一酸化炭素はヘモグロビンと強力に結びつくほか脂肪組織や細胞に蓄積される傾向があり、酸素吸入による洗い出しは数日から数十日を要することがある[要出典]。また、脳細胞(特に大脳基底核)への直接的な障害作用もあるため、後遺症としてパーキンソニズム(大脳基底核の障害による)やしびれ(異常感覚)を来すことが多い。

また、淡蒼球の壊死や脱髄疾患が徐々に進行することにより、回復したと思われたあとに数日から数週間後に発症する後遺症もある。こちらは中毒直後(の急性中毒症)と区別して慢性中毒症(間歇型一酸化炭素中毒)などと呼ばれる。

脳波異常脳萎縮などの高次脳機能障害意識障害不随意運動知能障害性格障害多幸症パーキンソニズム、神経障害等の症状がみられ[4]、中毒初期同様高圧酸素療法TRH療法を実施する。軽度の場合、数ヶ月の入院治療と合わせて1年程度で徐々に軽快するが、淡蒼球の壊死が重度に進んでしまった場合などは回復しない[11]

対策[編集]

一酸化炭素検出器を使用して空気中の一酸化炭素濃度を検出する。一定の濃度以上になるとアラームが鳴る。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 一酸化炭素(CO)中毒 メルクマニュアル
  2. ^ 一酸化炭素を含む都市ガス供給の終了について”. 経済産業省プレスリリース、2010年3月25日. 2013年10月17日閲覧。
  3. ^ 一酸化炭素中毒 中毒情報センター (PDF)
  4. ^ a b c d 原田正純、三村孝一、高木元昭、藤田英介、住吉司郎、宮川洸平、堀田宣之、藤野糺、小鹿原健一、本岡真紀子「三池三川鉱炭じん爆発から40年 一酸化炭素中毒の長期予後 (PDF) 」 、『社会関係研究』第15巻第2号、熊本学園大学2010年3月、 1-42頁、 ISSN 13410237NAID 110007607493、2014-5-17 ]閲覧。
  5. ^ a b パルスオキシメータで一酸化炭素中毒を見抜けない理由
  6. ^ 急速進行する認知障害では間歇型一酸化炭素中毒も疑う必要がある 日経メディカルオンライン 記事:2013年11月11日、閲覧:2013年11月13日
  7. ^ http://meddic.jp/%E4%B8%80%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0%E4%B8%AD%E6%AF%92 症状はCOHbの血中濃度に依存する
  8. ^ http://oshiete.goo.ne.jp/qa/780944.html 酸素量が少なくなると嫌気的に供給されるようになり乳酸合成そのものが増えます。また循環血液量が減った結果肝臓での代謝能力も減っていますのであわせて処理し切れなかったものが血液中に溢れます(しかもその受け皿となる血液量自体が少ない)そのため急激にアシドーシスがおこります
  9. ^ 一酸化炭素中毒
  10. ^ a b 一酸化炭素中毒に高気圧酸素治療を優先すべきか? 日本救急医学会雑誌 Vol.24 (2013) No.4 p.237-238
  11. ^ 立津政順ほか「炭塵爆発により集団発生した一酸化炭素中毒患者の脳波学的研究」、『精神神経学雑誌』69巻第1号、日本精神神経学会1967年1月、 71-97頁、 ISSN 00332658NAID 40017965637