幻視芸術

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幻視芸術: Visionary Art)は、幻視で見たこと、あるいはそれを基とした芸術である[1]観想の眼により見えているビジョンや[2]、通常の知覚を超越した幻視の状態が反映されている[3]。あるいは、伝統的な美術の外側であるアウトサイダー・アートの定義と同様にして、幻視に由来するものであり、精神障害から幻視者までを含む[1][4]。または幻想芸術を指していることもある。

幻視芸術はサイケデリック・アート英語版シャーマニズムから生まれたアートも広く意味している[1]。対して、幻想芸術英語版(Fantastic Art)には、幻想文学サイエンス・フィクション(SF)との相互影響を含むニュアンスがある。

語源[編集]

フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソンによれば、Visionary Art の言葉は1933年に心理学者のカール・グスタフ・ユングが造語したものであり、ユングは幻視芸術を啓示として説明しそれは非日常的な意識の状態に由来する[2]。そしてユングは1940年代に幻(ヴィジョン)についての講義を行っており、その取り組みには能動的想像法英語版の実験や(その結果としてヴィジョンを描いた)『赤の書』がある[5]。ジェーコブソンによれば、幻視芸術とは、観想の眼によって現れた「見えている」ヴィジョンであるか、そうした経験に基づいている[2]

幻視芸術家のローレンス・カルアナ英語版は、2010年に『幻視芸術の第一宣言』(未訳)を出版している[6]。その2001年の草稿でも、幻視芸術が何であるか説明されており、それは超現実主義者(シュルレアリスト)が、高い現実の夢幻状態へと昇ろうと試み、夢やトランスなど変性状態を介して意識の異なる状態に達し、視界の限界を超えたところの通常の知覚を超越した幻視の状態にて、視えないものを観て、そのヴィジョンを伝えるということである[3]

アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアに所在するアメリカ幻視芸術美術館英語版における幻視芸術の定義は、以下のようになっている[1]。この定義においては、伝統的な美術の外側であるアウトサイダー・アートの定義と同様である[1]

正式な訓練を受けていない独学の個人によって生み出された芸術であり、創作活動の中でも最も喜ばしい、本質的に個人的なヴィジョンから生まれた作品である。

しかしながら多くの幻視芸術家は正式な教育を受けており、なおかつ彼らの多くは西洋美術史の中核をなしてきた伝統技術や想像力を重視している。この美術館において、著名な幻視芸術家であるアレックス・グレイ英語版の作品が展示された記録はある。ウィーン幻想派H・R・ギーガーズジスワフ・ベクシンスキーをふくむ現代の幻想的なリアリズムを積極的に紹介する活動は今のところ確認できていない。

メスカリンを体験したイギリスの作家のオルダス・ハクスリーは、1953年に「幻視体験と幻視芸術」に関する一連の講義を行っている[7]

ポール・ラフォリー英語版が1967年に参加したニューヨークの展覧会 "The Visionaries" がある。この展覧会の企画者であるチャールズ・ジュリアーノ (Charles Giuliano) が幻視芸術という言葉を主張した理由はポール・ラフォリーが薬物と無縁なアーティストであるためサイケデリック・アート英語版という言葉は展覧会の方向性に相応しくなかったからである。

ギルバート・ウィリアムズ (Gilbert Williams) によるインターネット上でのインタビューでは[要出典]1960年代後半のアメリカ西海岸におけるサイケデリックな芸術運動を指すために幻視芸術という言葉が使われたということである。

日本の世田谷美術館で1993年にアウトサイダー・アートの展覧会が開催され、アウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視者の作品が紹介された。それにあわせてロサンゼルス・カウンティ・ミュージアムの展覧会の著作が翻訳されており、主に精神障害者による作品が提示されているが、アウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視芸術が紹介され、精神障害者以外の幻視者、霊媒者、心霊術師の作品も少数ではあるが展示された[4]

現代の動向[編集]

現代の幻視芸術の動向そのものは、インターネットという新しいメディアを手段の一つとして国際的な広がりと輪郭を形成しつつある。そしてどのような芸術家が影響力があるのかも次第に明らかになってきている。抽象表現主義、ミニマリズム、コンセプチュアル・アート、ポップアートといった欧米における戦後の現代美術が上流階級による経済支援と公的な美術館によって大規模に喧伝されてきたのに対して、幻視芸術の動向の多くは一般庶民によって支援されてきている。

アーティスト達は公的な美術館や出版の領域に対して新たな参入の余地を見いだすために活動を続けている。彼らはヨーロッパの古典芸術や象徴主義超現実主義あるいはサイケデリック・アートなどを自らの先駆とみなし、幻視芸術の美術史的な意義を主張している。

現代の幻視芸術家にとって影響力のある過去の巨匠はヒエロニムス・ボスウィリアム・ブレイクギュスターヴ・モローといった画家達であり、また神話や民族芸術、あるいはアーティスト自身の霊的体験などが幻視芸術を創造するための源泉になっている。

19世紀の詩人ウィリアム・ブレイクは、強烈な神秘的なヴィジョンを定期的に経験し、幻視芸術を描いた[1]ロバート・ヴェノーサ英語版は1990年代以降、定期的にアマゾン熱帯雨林を訪れ、アヤワスカを試し、神々しく神秘的なアヤワスカによって見ることのできる美しい世界を描いた[8]

現代の幻視芸術にとって重要なウィーン幻想派エルンスト・フックス英語版[2]エーリッヒ・ブラウアー英語版ルドルフ・ハウズナー英語版らによって構成されていた。現在活躍しているニューヨークの幻視芸術家の大半は、1964年から1974年にかけてフックスから技術を学んでいる[2]アブドゥル・マチ・クラーライン英語版、ロバート・ヴェノーサ、ローレンス・カルアナ、アンドリュー・ゴンザレス (A. Andrew Gonzalez) 、フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソン (Philip Rubinov-Jacobson) らは、北アメリカにおいて、入れ替わり立ち代り、ウィーンでの研鑽をもとに後進を教えている。

また、1960年代初頭にブリジッド・マーリン英語版によって設立された幻想芸術のための組織、The Society for the Art of Imagination英語版(AOI)は幻視芸術に関わるための重要な入り口を提供している。さらに最近ではLilaといったウェブマガジンや、Beinartが代表するオンラインギャラリーがインターネットや自主出版を手段として幻視芸術家をサポートしている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f Sylvia Thtssen (2003-05). “Examining "Visionary Art" (Boundaries in Question)”. Erowid Extracts 4: 18-19. https://erowid.org/culture/art/art_article1.shtml. 
  2. ^ a b c d e Philip Rubinov Jacobson. “A Little Known Brief History of Visionary Art”. 2017年4月12日閲覧。
  3. ^ a b L. Caruana (2001). The First Draft of Manifesto of Visionary Art. Recluse. http://visionaryrevue.com/webtext/manifesto.contents.html 2017年4月12日閲覧。. 
  4. ^ a b モーリス・タックマン、キャロル・S.エリエル 『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』 淡交社、1993年10月。ISBN 978-4-473-01301-9
  5. ^ C. G. Jung (2015). On Psychological and Visionary Art: Notes from C. G. Jung's Lecture on Gerard de Nerval's "Aurelia". Princeton University Press. p. 1-2. ISBN 0691162476. 
  6. ^ L. Caruana (2010). The First Manifesto of Visionary Art. Recluse. ISBN 978-0-97826373-7. 
  7. ^ Stuart, R (2004). “Modern Psychedelic Art's Origins as a Product of Clinical Experimentation”. The Entheogen Review 13 (1): 12-22. https://erowid.org/culture/art/art_article2.shtml. 
  8. ^ Martina Hoffmann, Robert Venosa (2012). “Robert Venosa and the Visionary Art World” (pdf). MAPS Bulletin 22 (1): 22-23. http://www.maps.org/news-letters/v22n1/v22n1.pdf. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]