ワラジムシ目
| 等脚目 | |||||||||||||||||||||
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ワラジムシ Porcellio scaber
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| 分類 | |||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Isopoda Latreille, 1817 | |||||||||||||||||||||
| 和名 | |||||||||||||||||||||
| 等脚類 | |||||||||||||||||||||
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| Isopod | |||||||||||||||||||||
| 亜目 | |||||||||||||||||||||
ワラジムシ目(ワラジムシもく)もしくは等脚目(とうきゃくもく、学名: Isopoda)は、軟甲綱真軟甲亜綱フクロエビ上目に属する甲殻類の分類群である。等脚類(とうきゃくるい、英: isopod)と総称され[1]、ワラジムシ、フナムシ、ダンゴムシなどを含む。陸上、海水、淡水などあらゆる環境に住む。体は扁平気味で細長く、背甲が大きく発達しないため、全体に体節に分かれ、腹面に足が並ぶ様子は端脚目にも似ている。陸産種もあり、身近なものも含まれるが、その多様性の大部分が海中にある、という点でも共通している。体長は0.5 - 1.5 cmのものが多い。
概要
[編集]等脚類には非常に多様な動物が含まれる。陸に進出した甲殻類は多くがこの類である。
記載されている種だけでも10600種であり[2]、フクロエビ上目では最も多い。
内水面からは950種が記載されている[2]。
本目の学名「Isopoda」は、isoは等しい、podaは足を意味する。また、本目の和名「等脚目」は、学名を和訳したものである。同様に、本目の中国語名「等足目」も、学名を訳したものである。たしかに、本目に属す種は7対の等しい形の胸脚をもつが、各下位分類群によって胸脚の形は、歩行型、把握型、遊泳型などと分化している[3]。
生態
[編集]潮間帯から水深10000 mを超える深海までの海域、汽水域、河川や湖沼などの淡水域、地下水域、都市部から山岳地帯までの陸域、さらには海岸の飛沫帯や砂漠まで、あらゆる環境に進出している分類群である。自由生活をするものが多いが、寄生するものもいる。例えば、ウオノエ科やウミクワガタ科などの魚類に寄生するものや、エドヤドリムシ科やアミヤドリムシ科のように他の甲殻類(場合によっては他の等脚類)に寄生するものもいる。また、他の動物と共生関係にあるものもいる。水生種は、転石や藻類の上でデトリタスを食べるもの、海藻を食べるもの、動物を捕食するもの、死骸を食べるものなど、さまざまある。陸生種は、落ち葉などを主に食べるが、植物や動物を食べるものもある[3]。
形態
[編集]
基本体制は5対の付属肢をもつ頭部、8対の付属肢をもつ胸部、6対の付属肢をもつ腹部である。6対の付属肢をもつ頭胸部、7対の付属肢をもつ胸部、6対の付属肢をもつ腹部とすることも多い。体節の融合や付属肢の変形及び消失が著しく、以下に示す体制から大きく異なったものも多い[3]。なお、ここでは形態を表す語句における数字は英数字を用いているが、漢数字も有効である。
頭部
[編集]- 頭部(head[4]):第1胸節は頭部と融合することから、等脚類に限って頭胸部と表現されることが多い。融合した胸節の付属肢は口器となるため、頭部付属肢は6対となる[3]。
- 頭楯(clypeus[4]):頭部の一構造で、触角の基節が融合することによって形成される頭部の前部中央にある板状の構造[4]。
- 上唇(labrum[4]):頭楯の下にある。
- 額葉(frontal lamina[4]):頭盾の上にある、突き出た部分[3]。
- 複眼(compound eye[4]):頭部に1対の無柄固着の複眼をもつ。ただし、深海生、間隙生、洞穴生、地下水生のものは眼をもたない場合が多い[3]。
胸部
[編集]- 胸部(pereon[4]):頭部と腹部を除いた部分[4]。
- 覆卵葉:第1-5胸脚の底板あるいは腹板から生じる[3]。
- 生殖孔:メスにある生殖のための穴。第5胸脚底板か腹板上にある[3]。
- 生殖突起、単にペニスとも(penis[4]):第7胸節あるいは第1腹節の腹板上に1対ある。多くの分類群では左右の突起が完全にあるいは基部で融合する[3]。
腹部
[編集]- 腹部(pleon[4]):頭部と胸部を除いた部分。
- 尾扇(tailfan[4]):後端にある葉状の構造。扇形に広がった腹尾節と尾肢で構成されている。遊泳に用いられる。遊泳を行わないものはもたないことが多い[3]。
体節
[編集]- 胸節(pereonite[4]):胸部の背側の節。第1-7節があり、それぞれに胸脚が付属する。なお、軟甲綱における基本体制における第2胸脚が等脚類では第1胸脚と表現されていることに注意[3]。
- 底板(coxal plate[4]):軟甲綱における基本体制における底節は底板という板状の部位になっている。底節とは胸脚の最も基部側に位置する節。底板は自由に動かせる節になっている場合と腹板と融合している場合がある[3]。
- 腹板:腹側の体節。
- 腹節(pleonite[4]):腹部の背側の節。自由腹節と腹尾節 (pleotelson[4]):第1及び第2触角の基部側の節。通常は節の太さは鞭節よりも大きい[3]。
鞭節(flagellar segments[4]):第1及び第2触角の柄節以降の節[3]。)があり、自由腹節には5対の腹肢、腹尾節には1対の尾肢が付属する[3]。
関節肢
[編集]節足動物の付属肢は関節肢とも呼ばれる。等脚類においてはどちらの用語も有効である。
- 剛毛(seta、複数形はsetae[4]):外骨格上にあり同じ成分によって構成されている毛であり、関節肢などに分布する。たいていはまとまりを形成する。二叉状のものは二叉剛毛(bifid setae)、細長いものは微細な剛毛(setules)[4]、硬い棘のようなものは歯(teeth, pectinated setae)と呼ばれ、ただの剛毛は単に剛毛(simple setae)と呼ばれることもある。
- 柄節(peduncular segments[4]):第1及び第2触角の基部側の節。通常は節の太さは鞭節よりも大きい[3]。
- 鞭節(flagellar segments[4]):第1及び第2触角の柄節以降の節[3]。
- 第1触角、または小触角(antennule[4]):第1体節に付属する。2対ある触角のうち短い方であり、より頭部の前方にある。通常、分叉しない。なお、ワラジムシ亜目は著しく退化しており、3節以下で微小なものである[7]。
- 第2触角、単に触角とも(antenna[8]):第2体節に付属する。2対ある触角のうち長い方である。通常、分叉しない。4-6節からなる柄部(peduncular[4])と多節の鞭部(flagellar[4])からなる。鞭部は各節が融合して1-2節になっていることも多い[3]。
- 大顎(mandible[4])第3体節に付属する。3対の顎の中で大顎は特に頑丈で大きなものである[3]。剛毛が生えていることもある。餌を把握・切断・粉砕する役割を担う器官である。
- 小顎:甲殻類は二叉型付属肢であり、内肢(enodopod[4])と外肢(exopod[4])に分岐し、等脚類の場合、内葉(inner lobe[4])、外葉(outer lobe[4])がそれぞれに付属することがあり、たいていの場合、内葉が発達している。内葉には羽状剛毛や、剛毛、歯をもつことがある[6]。
- 胸肢(thoracopod[4]):第1胸肢は口器であり、残りの胸肢は胸脚であり歩脚として機能する[3]。
- 顎脚(maxilliped[4]):第6体節に付属し、口器にある付属肢で見かけ上単肢である。鉤刺(coupling hook、内葉の一種[4])や副肢(epipod、外葉の一種[4])という突起をもつこともある。第1胸節の付属肢にあたるが、頭部の口器として機能するため、例外的に頭部付属肢とされる[3]。顎脚鬚(setae, palp)という大きな触肢をもつこともある[6]。
- 胸脚(pereopod[4]):胸節には8つの付属肢が付属し、そのうち口器になっている顎脚を除いた7対の付属肢を胸脚と呼び、基本的に歩脚として機能する。前底節をもたない通常の軟甲綱は基部側から順に底節(coxa[4])、基節(basis[4])、座節(ischium[4])、長節(merus[4])、腕節(carpus[4])、前節(propodus[4])、指節(dactylus[4])の7つの節から成るが、等脚類は底節が底板になっている。なお、指節は爪になっており、二叉型の場合もある。特異的な幼生期をもつ一部の寄生性のものを除き、マンカの時期は第7胸脚をもたない[3]。
- 腹肢(pleopod[4]):呼吸、遊泳、交尾のために用いられる。水生種は遊泳時はもちろん、遊泳時でなくても腹肢をゆっくり動かして水流を作って常に新鮮な水を当て、酸素を効率よく取り込んでいる[9]。5対あり、通常は二叉型。原節(peduncle[4])、内肢(enodopod[4])、外肢(exopod[4])からなり、原節が基部に位置し、二叉が内肢と外肢である[3]。往々にして鉤刺や、剛毛、羽状剛毛が生えている。
- 尾肢(uropod[4]):腹肢と同様、原節、内肢、外肢からなり、円錐形や円筒形の小突起状または糸状。末端に突出するか、葉状に拡張して尾扇の一部分を形成する。なお、ヘラムシ亜目では、尾肢腹節と内肢は腹部を覆う蓋状となる[3]。
共有派生形質
[編集]以下のような共有派生形質を持つ。
- 複眼に柄が無く、固着眼となっている
- 背甲が発達しない
- 胸節の附属肢は歩脚状で、外肢を欠く
- 第二触角は単枝型
- 第6腹節が尾節と癒合し、腹尾節 となる
- 二相性の脱皮(biphasic moulting、体の前半・後半の殻を別々に脱ぐ)を行う
- 心臓が後方(胸節から腹節)にある
- 主に腹肢でガス交換を行う
- 中腸以外の消化管が外胚葉性
- 横紋筋に特有の微細構造を持つ
- 第一顎脚に触肢を持たない
- 第一触角は単枝型、触角鱗はない
- 尾脚は常に単関節
この内1-4は端脚類、5はタナイス目の一部と共通する[10]。
頭部、胸部、腹部は外見からはっきり区別できる。全体に同じような体節がならんでいるように見える例が多い。
胸部の附属肢のうち、第1対は顎脚となる。腹部の附属肢は二叉形。この部分が拡張して育児嚢となる例も多い。陸産種ではここに腔所を生じて空気呼吸する。
進化史
[編集]最初に出現したワラジムシ目の亜目はフレアイトクス亜目である。フレアイトクスは長い触角と細長い体が特徴的な動物で、ヨコエビのような見た目をしている。かつては世界各地の海洋に分布していたことが化石記録から分かっているが、三畳紀に汽水域を経て淡水域に進出し、現在では南アメリカ、インド、オーストラリア、ニュージーランドの淡水(その多くは地下水)に生き残っている。なお、現在このような隔離的な分布を示しているのは、ゴンドワナ大陸がプレート移動によって引き裂かれて南半球の大陸を形成し、それに伴いゴンドワナ大陸の淡水域に生息していたフレアイトクスも南半球の大陸に拡散したからである。なお、フレアイトクスは約3億年前からほとんど姿形を変えていないことから、生きている化石と呼ばれる[11]。
淡水域への進出が起こる前にすでに等脚類の深海への適応は始まっていた。実際、ダイオウグソクムシの起源はペルム紀に遡るとされている。深海への適応の過程で、長時間の飢餓に耐えられるように、食いだめができるような大きな胃や、脂肪を蓄えた体をもつようになり、餌を探して長距離を移動できるような遊泳力ももつようになった。その適応形質を獲得するうえで、体の巨大化は必須であった。しかしながら実のところ、なぜ体が巨大化する方向へと進化したのか、そしてなぜ巨大化が可能だったのかについては議論が続いている。[12]
三畳紀の終わりごろにはミズムシ亜目の一部が淡水へ進出したとされているが、化石記録はほとんど残されていない。淡水へ進出した等脚類は、体内の塩分濃度を高く保つために、クチクラ層を発達させて透過率を低く抑えたり、腹肢内肢で塩分を取り込むようになった。腹肢内肢の上皮細胞を詳しく見てみると、細胞膜が著しく陥入してひだ状になっており、これは細胞膜の表面積を大きくして塩分を効率よく取り込めるようにしていると考えられている。また、上皮細胞にはミトコンドリアが豊富に存在し、これは塩分つまりナトリウムイオンを取り込むときに使われるNa+/K+-ATPアーゼに大量のATPを供給させる必要があるためである[13]。
化石記録から1億6800万年前のジュラ紀に魚などに寄生する寄生性の等脚類が出現したと考えられている。同じくジュラ紀にあたる1億5700万~1300万年前に甲殻類に寄生する等脚類が現れたとされる[14]。
初期のワラジムシ亜目はフナムシの仲間であったと考えられている。フナムシの仲間はフナムシの仲間は腹肢が変化してできた鰓によって呼吸し、脚から地面の水を吸い上げて鰓に水を供給している。また、体内の水がなくなると肛門から水を摂取する。それに対し、フナムシの仲間から進化したワラジムシやダンゴムシの仲間は偽器官とよばれる肺機能をもつ腹肢を発達させており、乾燥した大地でも生きていける。また、水は口から摂取する[15]。
陸生等脚類の最古の化石は約1億年前の白亜紀中期の地層から見つかった琥珀中のものである。ただし、近年の遺伝子解析から、等脚類が陸上に進出したのは石炭紀とペルム紀の境目である2億9800万年前と推定されている。また、陸への進出経路としては、ハマダンゴムシの仲間などのように海から直接進出したケースと、それ以外の多くのワラジムシ亜目のように淡水から進出したケースに分かれると考えられている。ワラジムシ亜目が陸上進出できた理由として、等脚類が共通にもつ特徴の一つである直達発生と育房が挙げられる。直達発生とは、親とほぼ同じ形の幼体が孵化してくる発生形式のことである。その幼体や卵を育房内で育てることで、生存率をあげている。この繁殖方法は、乾燥に弱い卵が親によって守られ、親と同じ形態で生まれてくるため初期発生に水環境が必要ないという点で、陸上で子孫を残すのに大いに役立ったと考えられる。また、発達した大顎も、落ち葉を食べることに応用され、陸上生活に役立ったと考えられている。ちなみに落ち葉を食べるように進化した種は、落ち葉のセルロースを分解する腸内細菌を腸に住まわせるように進化している[16]。
ダンゴムシは球体の姿勢になって防御態勢に入れるように進化したが、そもそもダンゴムシは単系統ではないため、各グループのダンゴムシが独自で獲得した形質であると考えられている。このような進化を収斂進化というが、ワラジムシ亜目では、陸上進出や尾肢の末端の形状なども収斂進化によって複数系統が獲得している[17]。
コツブムシ亜目の一部が淡水へ進出したのは比較的最近のことである[18]。そのうちイソコツブムシ属の淡水進出の歴史は日本で研究が行われているが、まだ分かっていないことも多い。
研究方法
[編集]採集
[編集]等脚類は生息する場所や分類群によってさまざまな採集方法が存在する。以下はその例である[7]。
地下水生ミズムシの仲間:地下水をポンプで汲みとってプランクトンネットでろ過することで採集可能。
潮間帯にすむ仲間:砂や転石を洗った水をプランクトンネットや目の細かい網でろ過することで採集可能。
藻場にすむ仲間:目の細かいたも網を用いて海藻をスウィーピング(藻を撫でるようにして目的物をこしとる採集)することで採集可能。
浅海にすむ仲間:潜って、転石、死サンゴ、砂泥を採取することで採集可能。
海洋に生息する肉食のスナホリムシなどの仲間:ベイトトラップを用いて採集可能。
深海にすむ仲間:ドレッジ、ソリネット、ビームトロール、採泥器により、底質サンプルを採取し抽出することで採集可能。
海洋に生息し、光をめがけて泳いでくるウミクワガタの仲間、コツブムシの仲間、ウオノエの仲間:夜間に集魚灯を用いて採集可能。
陸にすむ仲間:落葉や土からふるいでこしとった上で、吸虫管などで吸い取るシフティング法で採集可能。
陸にすむ微小な仲間:白熱球による熱と乾燥によって抽出するツルグレン法で採集可能。
陸水にすむ仲間:砂、水草、水底の落ち葉を採取し、実体顕微鏡で分別することで採集可能。
固定
[編集]5-10%のホルマリンで固定する場合、タンパク質が固定されて外部形態をよく保存できるが、長期間浸しておくと外部形態にダメージが加わる。そのため、途中でエチルアルコールに浸すようにする[7]。
70-80%のエチルアルコールで固定する場合、外部形態にダメージが加わりにくいので長期間の保存ができるが、脱水固定であるため、収縮がおきて外部形態にダメージが加わる場合もある[7]。
なお、分子解析を行いたい場合は、最初から高濃度のエチルアルコールで固定し、冷暗所に保存するとよい[7]。
コツブムシの仲間やオカダンゴムシの仲間は防御反応で体を丸めるため、その状態で固定すると、後に付属肢を外すことが困難になる。そこで、麻酔をかけるか、プレパラートなどに糸で縛るかして、体を伸ばした状態にして固定するとよい[7]。
グリセリン浸透法によって標本を作製することもできる。この方法は等脚類を含めた小型の節足動物や扁形動物などで利用される。
- グリセリン浸透法の手順を以下に示す[19]。
-
- グリセリン原液に試料を入れる。
- 試料の体液と置換されてグリセリンが薄まるため、交換をする必要がある。交換頻度は試料の大きさや数量によって調整する必要があり、通常は1-3回程度交換すればよい。なお、上記のように固定してある試料であれば、交換の必要はなく、揮発性の差を利用して、晴天の日に約1日放置すればグリセリンの濃度は回復する。そのため、グリセリンが何度も使用可能である脱水固定した試料を用いるのが理想的である。
- グリセリン浸透が完了したら水またはアルコールで数十秒から1分程度洗い、表面の余分な液を取り除く。その後、吸水紙を用いて拭いた後、脱脂綿等の上で乾燥させる。
- 防水性の高い素材でできた容器か、紙箱に防水シートを敷くなどしたうえで、化繊綿などのクッション材の上に置いて保管する。液体に浸して保管することもできる。
解剖
[編集]等脚類の研究とはすなわち付属肢の研究であり、それゆえ解剖、つまり、付属肢を胴体から外す作業が必須となる。解剖にはホールスライドグラスやシャーレ内のグリセリン中で行う必要がある。グリセリンの中で行うと、乾燥が防がれ、関節が柔らかくなり、微小な付属肢(特に口器)などを見失わずにすむ。これはグリセリンの高い粘性のおかげである。なお、大型種は付属肢も大型であることから、エチルアルコール内で行うことも可能である[7]。
大型種の解剖には先端を研磨した柄付き針(例えば縫い針や昆虫針)を用いる。小型種の解剖には電解研磨で作ったタングステン針を用いる[7]。
- タングステン針の作り方の手順を以下に示す[20]。
-
- 水酸化カリウム水溶液5 gを深底シャーレに入れて水道水40 mlを加える。
- 電源を用意する。10 Vの電圧が必要なため、変圧器を用いて調節するか、9 V乾電池を用いるなどする。
- 陰極に電極用の銅板をクリップで挟む。
- 銅板を深底シャーレ内に浸す。
- 陽極にタングステン線を挟む。タングステン線は5-6 cmほどがよい。
- タングステン線の先端部を深底シャーレ内に浸す。すると気泡が観察できるが、これは電解が行われているサインである。
- ときどきタングステン線を出して細さを観察し、電解研磨が十分だと判断したら取り出す。
- 水酸化カリウム水溶液は塩酸などで中和して廃棄する。
- 完成したタングステン針を割り箸の先に糸で括り付けることで柄付き針にする。持針器で保持する方法もある。
なお、以上の手順はドラフトチャンバー内で行うか、マスクとゴーグルを装着するかしなければならない。
利き手に柄付き針、もう片方の手に柄付き針またはピンセットを持ち、各付属肢をはずしていく。厚みのある付属肢であればホールスライドグラスに、薄い付属肢であれば通常のスライドグラスにバルサムやガムクロラールなどで封入する。なお、一時的にグリセリンを封入してプレパラートを作製することもできるが、その場合は研究後に付属肢を標本瓶に戻す必要がある。一方、バルサムやガムクロラールなどの封入材の場合、永久プレパラート標本になる。プレパラート標本を作製する場合は少なくとも片方の付属肢は残す必要があり、大顎は左右の形態が異なることが多いため両方をはずして標本にするとよい[7]。
分類
[編集]分類学的研究はカール・フォン・リンネが創始者であり、ヨーロッパでよく見られるAsellus aquaticusを1758年に記載している。その後、ピエール・アンドレ・ラトレイユが本格的に取り組み、19世紀末から20世紀初頭にかけて研究が進んでいった。1989年にWägeleによってそれまで慣例的に用いられていた亜目が改定された。それまで10の亜目に分けられていたが、Wägeleは内部形態も踏まえたうえで分岐学的手法を導入して、7の亜目に分類しなおしたのである。1999年にはRomanとDalensが8つの亜目に分類した。2001年にはMartinとDavisが9つの亜目に分類するなどした[7]。以下は現在主流な分類体系の概略である。
フレアトイクス亜目 Phreatoicidea
[編集]- スナナナフシ科 Microcerberidae
ミズムシ亜目 Asellota
[編集]- ウミミズムシ科 Janiridae
- フナムシ科 Ligiidae
- ナガワラジムシ科 Trichoniscidae
- ヒゲナガワラジムシ科 Olibrinidae
- ウミベワラジムシ科 Scypacidae
- ヒメワラジムシ科 Philosciidae
- ホンワラジムシ科 Oniscidae
- ハヤシワラジムシ科(トウヨウワラジムシ科) Trachelipidae
- ワラジムシ科 Porcellionidae
- コシビロダンゴムシ科 Armadillidae
- オカダンゴムシ科 Armadillidiidae
- ハマダンゴムシ科 Tylidae
ヘラムシ亜目 Valvifera
[編集]- ヘラムシ科 Idoteidae
ヤドリムシ亜目 Epicaridea
[編集]コツブムシ亜目 Spaheromatidea
[編集]- コツブムシ科 Sphaeromatidae
- イソコツブムシ属 Gnorimosphaeroma
- シオムシ属 Tecticeps
- ウミナナフシ科 Paranthuridae
- Anthuridae
- Hyssuridae
- Antheluridae
- エビヤドリムシ科 Bopyridae
- Cryptoniscidae
- ウミクワガタ科 Gnathiidae
- スナホリムシ科 Cirolanidae
- グソクムシ科 Aegidae
- ウオノエ科 Cymothoidae
- ニセウオノエ科 Corallanidae
- Tachaea
- エビノコバン Tachaea chinensis
- Tachaea
キクイムシ亜目 Limnoriidea
[編集]- キクイムシ科 Limnoriidae
Phoratopidea
[編集]- Phoratopodidae
Tainisopidea
[編集]脚注
[編集]- ^ 日本国語大辞典, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,デジタル大辞泉,世界大百科事典 第2版,大辞林 第三版,日本大百科全書(ニッポニカ),精選版. “等脚類(とうきゃくるい)とは”. コトバンク. 2019年1月14日閲覧。
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- ^ 小野榮子. グリセリン浸透法による生物標本の作成 (PDF) (Report). 東レ科学振興会. p. 41.
- ^ 伊藤 宏 (2019). “乾電池を用いたタングステン針の電解研磨”. Bull. Plankton Soc. Japan 66 (1): 41-46.
- ^ 岡本直子、逸見泰久、『寄生性等脚類ウミホタルガクレOnisocryptus ovalisの繁殖戦略』日本ベントス学会誌 2002年 57巻 p.75-78, doi:10.5179/benthos.57.75
参考文献
[編集]- 富川光 (2025年10月24日). 水の中のダンゴムシ あなたの知らない等脚類の多様な世界. 八坂書房. ISBN 978-4-89694-383-2
関連項目
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外部リンク
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