ロバート・ミッチャム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Robert Mitchum
ロバート・ミッチャム
ロバート・ミッチャム
1949年宣材写真
生年月日 (1917-08-06) 1917年8月6日
没年月日 (1997-07-01) 1997年7月1日(79歳没)
出生地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 コネチカット州ブリッジポート
死没地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 カリフォルニア州サンタバーバラ
職業 俳優
配偶者 Dorothy Spence (1940-1997)
主な作品
過去を逃れて』(1947年)
狩人の夜』(1955年)
恐怖の岬』(1962年)
エル・ドラド』(1966年)
テンプレートを表示

ロバート・ミッチャム(Robert Mitchum, 本名: Robert Charles Durman Mitchum, 1917年8月6日 - 1997年7月1日)は、アメリカ合衆国出身の俳優。実弟ジョンも俳優。また長男ジェームズ、次男クリストファーはじめ、孫のキャリー、ベントレーも同じく俳優となっている。

眠たそうな瞳を擁した顔立ちに加え、がっしりとした体格を武器に戦後のスクリーンを賑わせたタフガイ俳優としてお馴染みで、スリーピング・アイという異名をとった。

生涯[編集]

スコットランドアイルランド系の父親とノルウェー系の母親の間に、コネチカット州にて生まれる。1歳のときに列車事故で鉄道員の父親を失い、一家は母親の実家のあるニューヨーク州に移り住む。子供の頃から家庭に恵まれずにすさんだ青春を送り、14歳のとき船員になろうと家を出て生計を立て、炭鉱夫、排水溝夫などの肉体労働で各地を回った。その末にカリフォルニア州に出稼ぎに出るが、浮浪者として逮捕されたこともあった。その後、プロボクサーとなって27試合に出場するが指を骨折し断念、キャッチコピーやトレードマークになった眠そうな眼はボクサー時の名残である。

1940年には同級生のドロシー・スペンサーと結婚し、南カリフォルニアにあるロッキード社の飛行機工場に就職。その頃、地元のアマチュア劇団に遭遇し、俳優としてのキャリアをスタートさせる。劇団で演技の経験を積み、クラブの歌手だった姉のマネージャーの紹介で映画界入りして、1942年には映画『Border Patrol』でボブ・ミッチャムの名で映画デビュー、1944年にはメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社の『東京上空三十秒』に端役として出演して以来、RKO社の目に留まって専属契約を結び、本格的な主演級の俳優として注目される。翌年、従軍記者アーニー・パイル原作の『G・I・ジョー』ではアカデミー助演男優賞にノミネート。

1945年には徴兵されるが、終戦のため兵役期間は数ヶ月で終了。映画界に復帰し、1947年の『過去を逃れて』では悪女に翻弄される私立探偵を演じる。これにより無表情でクールなタフ・ガイとしてのイメージを築き上げ、その後も、ニューロティック映画の要素を取り入れた異色ウェスタン『追跡』、ユダヤ人差別問題にメスを入れた問題作『十字砲火』などの話題作に出演して頭角を現す。しかし、1948年マリファナ所持の容疑で逮捕、43日間(2月16日から5月30日まで)監獄農場に勾留されたが、結果冤罪である事が証明された。ハワード・ヒューズの側近によるスターの移籍阻止をめぐる体制側による捏造だった事が後年判明した。この事件より逆にバッド・ボーイのイメージで売れ出し、さらに1950年代前半はこうした逆境をさらに跳ね除けるようにスターダムにトップスターに登りつめ、マリリン・モンローと共演した『帰らざる河』、ジャック・パランスと東西のタフガイ男優共演となった『第2の機会』などの大ヒットで地位を確立した。

尼僧と共に日本軍占領下の島に取り残された米兵を演じた『白い砂』、クルト・ユルゲンス率いるドイツ軍Uボートと頭脳戦を繰り広げる駆逐艦の艦長を演じた『眼下の敵』などこれまでのイメージのタフガイを演じた一方、50年代後半から1960年代にかけては一転して犯罪者役や悪役にも挑戦、『狩人の夜』のエセ伝道師役や『恐怖の岬』の犯罪者マックス・ケイティ役などを務めた。後者は後にロバート・デ・ニーロ主演によって『ケープ・フィアー』としてリメイクされたが、ミッチャムはオリジナルの主演だったグレゴリー・ペックと共に脇役として出演していた。一方、西部劇では『エル・ドラド』でジョン・ウェインと共演したが、このときの役は女性関係で傷つきアルコール使用障害になった保安官であった。この作品ではジョン・ウェインとの息のあったコミカルな演技を見せた。若い頃から趣味で歌の作詞をしていたが、1958年の低予算探偵映画『Thunder Road』では製作、主演、脚本を手掛けただけでなく、主題歌「Whippoorwill」を作詞してヒットさせた。先の『エル・ドラド』ではピアノ弾き語りも撮影されたが公開版では削除された。他には『芝生は緑』、『史上最大の作戦』などに出演。

1970年代は大作『ライアンの娘』で難役を演じ、演技派として転向。1975年には日本を舞台に『ザ・ヤクザ』で高倉健と共演、来日時にインタビューした南部圭之助は、バッドボーイのイメージは皆無な紳士であったと、著書[1]で証言している。またレイモンド・チャンドラー原作の『さらば愛しき女よ』では、私立探偵フィリップ・マーロウハンフリー・ボガートとは一味違った年老いたキャラクターで演じて、映画もヒットした。 1980年代に入ってからは、TVドラマにおいてもハードボイルド系の作品で探偵役、マフィアものの作品での不気味なドンなど、性格俳優としても開眼。老いてますますキャリアを広げていった。

なお、辞退した主演として『ワイルドバンチ』『パットン大戦車軍団』『ローズバット』『アトランティック・シティ』などがある。

晩年は、偶然にも同年生まれでボクサー出身という共通点があり映画でも2本で共演したディーン・マーティンと同じ肺癌を患うが、病状をおして映画に出演を続け、孫娘キャリーとの共演を実現した後、1997年に呼吸器疾患が原因で死去した。

主な出演作[編集]

公開年 邦題
原題
役名 備考
1943 大空に生きる
Aerial Gunner
ベンソン クレジットなし
1944 東京上空三十秒
Thirty Seconds Over Tokyo
ボブ・グレイ
ネヴァダ男
Nevada
ジム
1945 G・I・ジョウ
The Story of G. I. Joe
ウォーカー
1946 時の終りまで
Till the End of Time
ウィリアム
危険な女
The Locket
ノーマン
1947 追跡
Pursued
ジェブ
十字砲火
Crossfire
ケーリー
過去を逃れて
Out of the Past
ジェフ
1948 荒原の女
Rachel and the Stranger
ジム・フェアウェイズ
月下の銃声
Blood on the Moon
ジム
1949 赤い子馬
The Red Pony
ビリー・バック
仮面の報酬
The Big Steal
デューク・ホリデー中尉
ママの青春
Holiday Affair
スティーヴ・メイソン
1950 ゼロへの逃避行
Where Danger Lives
ジェフ・キャメロン
1951 禁じられた過去
My Forbidden Past
マーク・ルーカス
替え玉殺人計画
His Kind of Woman
ダン・ミルナー
脅迫者
The Racket
トーマス
1952 マカオ
Macau
ニック・コーコラン
零号作戦
One Minute to Zero
スティーヴ
天使の顔
Angel Face
フランク
ラスティ・メン/死のロデオ
The Lusty Men
ジェフ 
1953 蛮地の太陽
White Witch Doctor
ジョン・ダグラス
第二の機会
Second Chance
ラス・ランバート
1954 セラーズ先生今日は
She Couldn't Say No
ロバート・セラーズ
帰らざる河
River of No Return
マット・カルダー
血ぬられし爪あと/影なき殺人ピューマ
Track of the Cat
カート・ブリッジス
1955 見知らぬ人でなく
Not as a Stranger
ルーカス・マーシュ
狩人の夜
The Night of the Hunter
ハリー・パウエル
街中の拳銃に狙われる男
Man with the Gun
クリント・トリンガー
1956 外国の陰謀
Foreign Intrigue
デイヴ・ビショップ
叛逆者の群れ
Bandido
ウィルソン
1957 白い砂
Heaven Knows, Mr. Allison
アリソン
海の荒くれ
Fire Down Below
フェリックス
眼下の敵
The Enemy Below
ミュレル
1958 死の驀走
Thunder Road
ルーカス 兼製作
追撃機
The Hunters
クリーヴ
1959 怒りの丘
The Angry Hills
マイク・モリソン
メキシコの暴れん坊
The Wonderful Country
マーティン・ブラディ
肉体の遺産
Home from the Hill
ウェイド
1960 抵抗する勇士
A Terrible Beauty
ダーモット・オニール
サンダウナーズ
The Sundowners
パディ・カーモディ
芝生は緑
The Grass Is Greener
チャールズ
1961 おかしな兵隊物語
The Last Time I Saw Archie
アーチー・ホール
1962 史上最大の作戦
The Longest Day
ノーマン・コータ准将
すれちがいの街角
Two for the Seesaw
ジェリー・ライアン
恐怖の岬
Cape Fear
マックス・ケイディ
1963 秘密殺人計画書
The List of Adrian Messenger
ランページ
Rampage
ハリー・スタントン
1964 銃殺指令
Man in the Middle
バーニー・アダムス
何という行き方!
What a Way to Go!
ロッド・アンダーソンJr
1965 ジャングル・モーゼ
Mister Moses
ジョー・モーゼ
1966 エル・ドラド
El Dorado
J・P・ハラー保安官
1968 戦うパンチョビラ
Villa Rides!
リー・アーノルド
アンツィオ大作戦
Lo sbarco di Anzio
ディック・エニス
5枚のカード
5 Card Stud
ジョナサン・ラッド
秘密の儀式
Secret Ceremony
アルバート
1969 国境のかなたに明日はない
Young Billy Young
ベン・ケイン
悪党谷の二人
The Good Guys and the Bad Guys
フラッグ
1970 ライアンの娘
Ryan's Daughter
チャールズ・ショーネシー
1972 サンタマリア特命隊
The Wrath of God
オリヴァー・ヴァン・ホーン
1973 エディ・コイルの友人たち
The Friends of Eddie Coyle
エディ・フィンガーズ・コイル
1974 ザ・ヤクザ
The Yakuza
ハリー
1975 さらば愛しき女よ
Farewell, My Lovely
フィリップ・マーロウ
1976 ラスト・タイクーン
The Last Tycoon
パット・ブラディ
ミッドウェイ

Midway

ウィリアム・ハルゼー中将
1977 アムステルダム・キル
The Amsterdam Kill
クインラン
1978 大いなる眠り
The Big Sleep
フィリップ・マーロウ
マチルダ
Matilda
戦場の黄金律/戦争のはらわた II
Steiner - Das Eiserne Kreuz, 2. Teil
ロジャース
1980 THEエージェンシー
Agency
テッド・クイン
ナイトキル
Nightkill
ドナー/ロドリゲス
1982 パラレル・デス/殺しの真相
One Shoe Makes It Murder
ハロルド テレビ映画
栄光の季節
That Championship Season
1983 戦争の嵐
The Winds of War
ヴィクター・ヘンリー テレビ・ミニシリーズ
ジェームズ・スペイダーの 明日に向って走れ
A Killer in the Family
ゲイリー テレビ映画
1984 マリアの恋人
Maria's Love
イヴァンの父
1985 華麗なる旅路・新聞王ハーストの恋
The Hearst and Davies Affair
ウィリアム・ランドルフ・ハースト テレビ映画
南北戦争物語 愛と自由への大地
North and South
パトリック・フリン テレビ・ミニシリーズ
1986 ロバート・ミッチャム 男たちの勲章
Thompson's Last Run
ジョニー・トンプソン テレビ映画
1988 ミスター・ノース 風を運んだ男
Mr. North
ボスワース氏
3人のゴースト
Scrooged
プレストン
1988-1989 戦争の黙示録
War and Remembrance
ヴィクター・ヘンリー テレビ・ミニシリーズ
1989 CIA/薔薇の復讐
Brotherhood of the Rose
ジョン・エリオット テレビ映画
私立探偵ジェイク
Jake Spanner, Private Eye
ジェイク テレビ映画
1990 レプスキー絶体絶命/その男凶暴につき
Présumé dangereux
フォレスター教授
ミッドナイト・ライド
Midnight Ride
1991 ケープ・フィアー
Cape Fear
エルガート警部
1993 トゥームストーン
Tombstone
ナレーター 声のみ
デッド・ボディ
Woman of Desire
ウォルター・J・ヒル
1994 バック・ファイアー!
'Backfire!
マーク・マーシャル
1995 デッドマン
Dead Man
ジョン・ディキソン
1997 傷心 ジェームズ・ディーン愛の伝説
James Dean: Race with Destiny
ジョージ・スティーヴンス テレビ映画

参照[編集]

  1. ^ 南部圭之助『男優の世界』東京ブック, 1975年

外部リンク[編集]