レモン市場
レモン市場(レモンしじょう、英: lemon market)とは、経済学において、財やサービスの品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。
「レモン」はアメリカの俗語で質の悪い中古車(レモンカー)を意味する[1]。中古車のように、実際に購入しなければ真の品質を知ることができない財が取引される市場は、悪質な財(レモン)ばかりが流通するためレモン市場と呼ばれている。
研究の歴史[編集]
レモン市場について最初に取り上げたのは、アメリカの理論経済学者ジョージ・アカロフであり、中古車市場で購入した中古車は故障しやすいといわれる現象のメカニズムを分析した。
レモン市場の問題[編集]
レモン市場では、売り手は取引する財の品質をよく知っているが、買い手は財を購入するまでその財の品質を知ることはできず、情報の非対称性が存在する。そのため、売り手は買い手の無知につけ込んで、悪質な財(レモン)を良質な財と称して販売する危険性が発生するため、買い手は良質な財を購入したがらなくなり、結果的に市場に出回る財はレモンばかりになってしまうという問題が発生する。
具体的な例を挙げて説明する。いま市場には、高品質の財と低品質の財が、それぞれ半々の割合で存在しているとする。売られている財の品質を熟知している売り手は、高品質の財は300,000ドル以上、低品質の財は100,000ドル以上ならば販売してもよいと考えているとする。
しかし買い手にとっては、売られている財の正しい品質を判断することは困難であるため、買い手は半分の確率で財が低品質であると考える必要がある。そのため買い手にとっての財の価値は、高品質な場合の300,000ドルと低品質な場合の100,000ドルの平均である200,000ドルとなる。したがって、買い手は200,000ドル以上は支払いたくないということになる。
このことを予想する売り手は、200,000ドルより高い財を市場に出すことを諦め、それ以下の財だけが取引されるようになる。これによって、今度は買い手が支払ってもよいとする平均価格も150,000ドルまで低下し、売り手は150,000ドル以上の財を市場に出すことを諦める。
結果、売り手は高品質の財を売ることができず、低品質の財ばかりが市場に出回る結果となり、社会全体の厚生が低下してしまう。このような現象は、逆選抜と呼ばれる。
脚注[編集]
- ^ INC, SANKEI DIGITAL. “米で“落ちこぼれ車”ショー カリフォルニア”. 産経フォト. 2022年1月30日閲覧。
参考文献[編集]
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- Akerlof, G (1970), “The market for lemons: quality uncertainty and the market mechanism”, Quarterly Journal of Economics 84 (3): 488-500
- Holt, Charles A. and Roger Sherman (1999), "Classroom Games: A Market for Lemons," Journal of Economic Perspectives, Winter 1999, 205-214.