レイモン・サヴィニャック
レイモン・サヴィニャック(フランス語: Raymond Savignac、1907年11月6日 - 2002年10月29日[注釈 1])は、フランスのポスター画家[4]。単にサヴィニャックとも呼ばれる。特に数々の商業ポスターは今日のフランス文化の一部をなしており、シンプルな機能美とユーモラスな筆致が特徴である。
経歴
[編集]1907年11月6日、パリに生まれる[4]。両親はアヴェロン県からパリに出てボンマルシェデパートに勤務していたが、グラシエール街で小さなレストランを始める[3]。1914年、第一次世界大戦により父は召集され、母は工場に動員される[3]。レイモンは公立の小学校に通う[3]。1920年、中学では商業科のクラスに入る[4]。両親はレアールの食品卸売市場のそばでカフェを始める[3]。レイモンは学校での勉強が好きになれず、自転車競技に夢中になるがチャンピオンになる夢は諦める[4]。
1923年、STCRP(パリ地域公共交通公団)の図案画工となり、夜学で工業デザインを学ぶ[4]。1925年、ロベール・ロルタック広告アニメーション映画工房に入社する[4]。1927年から兵役に服し、1年半の兵役を終えるとロルタックのスタジオに戻る[3]。
1933年、アリアンス・グラフィック社を訪れA.M.カッサンドルに自分の作品を見せたところ、その場でカッサンドルのアシスタントとして採用される[4][3]。カッサンドルの元での仕事はサヴィニャックにとって最初の転機となる[4]。1938年、モンルージュのドラジェール兄弟印刷所にポスター下絵師・図案家として入社する[4]。
1939年、第二次世界大戦の宣戦布告と同時に召集される[4]。1940年、従軍休暇中にマルセル・メルシエと結婚する[4]。独仏休戦協定が結ばれ、サヴィニャックはパリに復員する[4]。
1942年、ロレアル傘下の広告代理店である広告コンソーシアム社のプロデューサー、ロベール・ゲランと出会い、その口利きで広告コンソーシアム社に入社する[4][3]。1944年、広告コンソーシアム社の仕事をしながら、広告会社アルジャンヴィックとも仕事を始める[4]。1947年、広告コンソーシアム社を解雇される[4]。
1948年、旧知のベルナール・ヴィルモと再会し、ヴィルモは行き場のないサヴィニャックを自分のアトリエに誘う[4]。1949年、ヴィルモと二人展を開催する[4]。この展覧会でロレアルの創業者ウージェンヌ・シュエレールは、サヴィニャックの描いたモンサヴォン石鹸(fr:Monsavon)の牝牛の絵を発見し、自社の広告に採用する[4]。このポスターにより、サヴィニャックはポスター作家として一躍脚光を浴びる[1]。サヴィニャックは自伝で、「私は41歳の時、モンサヴォン石鹸の、牝牛のおっぱいから生まれた」と語っている[5]。
1950年代から1960年代にかけて、サヴィニャックの最も有名な作品が次々と生まれた[4]。エールフランス、ミシュラン、ペリエ、ライフ、ダンロップといった企業ポスターを手がけた[6]。1961年にはビックのマスコットキャラクター、ビックボーイをデザインした[7]。日本でも森永ミルクチョコレート、サントリー、豊島園などのポスターを手がけた[1]。映画ポスターとしては、イヴ・ロベール監督の『わんぱく戦争』、ロベール・ブレッソン監督の『湖のランスロ』が知られている[8]。
1960年代の終わり頃になると写真ポスターが台頭して手描きポスターは衰退し始め、サヴィニャックもその影響を受ける[3]。1975年、ロベール・ラフォン書肆(fr:Éditions Robert Laffont)から自伝を出版する[3]。
1979年、パリを仮住まいとして、一家でノルマンディー地方のトゥルーヴィル=シュル=メールに移住する[1]。1982年にはパリから完全に離れる[1]。1981年からシトロエンのキャンペーンポスターを手がけ、1984年まで続いた[3]。
1986年には展覧会「ポスターの舞踏会 (Bal des Affiches)」がトゥルーヴィルのカジノで開催される[9]。1993年には回顧展「トゥルーヴィルにおけるサヴィニャック (Savignac à Trouville)」が市立モンテベロ美術館 (Musée Villa Montebello) で開催され、館内に「サヴィニャックの間」が特設された[9][注釈 2]。また同年、トゥルーヴィル市のロゴマークデザインを手がけた[9]。2001年、市はサヴィニャックの功績をたたえ、19世紀後半に造られた砂浜の遊歩道(Planches)を「サヴィニャック散歩道 (Promenade Savignac)」と命名し、彼の手がけた数々のポスターで飾ることを決定した[9]。
2002年10月29日、サヴィニャックはトゥルーヴィルで亡くなった[4]。94歳没
展覧会(日本)
[編集]- パリの空のポスター描き レイモン・サヴィニャック展
- サントリーミュージアム[天保山]、2005年4月29日 - 7月3日[11]
- レイモン・サヴィニャック展
- ベルナール・ビュフェ美術館、2005年10月8日 - 2006年3月28日[12]
- パリの空のポスター描き レイモン・サヴィニャック展
- 川崎市民ミュージアム、2006年9月16日 - 11月5日[13]
- サヴィニャック 「ハッピークリスマス!」
- 《牛乳石鹸モンサヴォン》から生まれたポスター描き レイモン・サヴィニャック展
- レイモン・サヴィニャック展 パリの空のポスター描き
- サヴィニャック生誕100周年記念展 “Happy Birthday to our Savignac”-Savignac weeks-
- ロゴスギャラリー(渋谷パルコ パート1 / B1F)、2007年10月24日 - 11月7日[1]
- レイモン・サヴィニャック展
- レイモン・サヴィニャック展 ─ 41歳、「牛乳石鹸モンサヴォン」のポスターで生まれた巨匠
- ギンザ・グラフィック・ギャラリー、2011年6月6日 - 28日[6]
- レイモン・サヴィニャック展 パリの街が愛したポスター
- Bunkamura Gallery、2014年7月12日 - 7月21日[18]
- 微笑みを運ぶポスター レイモン・サヴィニャック展
- Bunkamura Gallery、2017年3月8日 - 3月20日[19]
- サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法
- 没後20年記念 レイモン・サヴィニャック展
- Bunkamura Gallery、2022年6月18日 - 6月29日[25]
- レイモン・サヴィニャック展 パリで見つけた笑顔を飾ろう
- レイモン・サヴィニャック展 チョコっと笑顔を届ける、魔法のポスター
- Bunkamura Gallery 8/(渋谷ヒカリエ8F)、2025年12月6日 - 2026年1月4日(予定)[27]
影響
[編集]日本のアーティスト吉村益信に『豚・pig lib;』(1971年)という作品があり[28]、サヴィニャックの広告ポスター「ランクハム」(1951年)を参考にしている[29]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f “サヴィニャック生誕100周年記念展”. PARCO ART. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャックポスターA‐Z<絶版>”. アノニマ・スタジオ|中央出版株式会社. 2025年11月13日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k ggg 2011, p. 62.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t “作家紹介 | 「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」展”. 兵庫県立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ ggg 2011, p. 4.
- ^ a b “レイモン・サヴィニャック展 ─ 41歳、「牛乳石鹸モンサヴォン」のポスターで生まれた巨匠”. ギンザ・グラフィック・ギャラリー. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “ヒストリー”. Bic Japan. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “わんぱく戦争(デジタルリマスター版)”. ユナイテッドエンタテインメント. 2025年11月11日閲覧。
- ^ a b c d “サヴィニャックが愛した町 トゥルーヴィル=シュル=メール”. MMM. 大日本印刷. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャック作品に出会えるギャラリー・デュ・ミュゼ”. MMM. 大日本印刷. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “パリの空のポスター描き レイモン・サヴィニャック展”. 国立新美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “レイモン・サヴィニャック展|展覧会情報検索 アートコモンズ”. 国立新美術館. 2025年11月14日閲覧。
- ^ “パリの空のポスター描き レイモン・サヴィニャック展”. アイエム. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャック 「ハッピークリスマス!」”. Tokyo Art Beat. 2025年11月14日閲覧。
- ^ “≪牛乳石鹸モンサヴォン≫から生まれたポスター描き「レイモン・サヴィニャック展」”. アイエム. 2025年11月14日閲覧。
- ^ “レイモン・サヴィニャック展 パリの空のポスター描き”. 岩手県立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “レイモン・サヴィニャック展”. NOEVIR. 2025年11月14日閲覧。
- ^ “東京都・渋谷でフランスのポスター作家 レイモン・サヴィニャックの企画展”. TECH+(テックプラス) (2014年6月23日). 2025年11月14日閲覧。
- ^ “微笑みを運ぶポスター レイモン・サヴィニャック展”. Bunkamura. 2025年11月13日閲覧。
- ^ “練馬区独立70周年記念展 サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法”. 練馬区立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法”. 美術手帖. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法”. 三重県立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」展”. 兵庫県立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法”. 広島県立美術館. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “没後20年記念 レイモン・サヴィニャック展”. Bunkamura. 2025年11月11日閲覧。
- ^ “French Poster World レイモン・サヴィニャック展 パリで見つけた笑顔を飾ろう”. Bunkamura. 2025年11月13日閲覧。
- ^ “レイモン・サヴィニャック展 チョコっと笑顔を届ける、魔法のポスター”. Bunkamura. 2025年11月11日閲覧。
- ^ 兵庫県立美術館・吉村益信「豚・pig lib;」
- ^ “「パロディ、二重の声」展 自由な時代彩った風刺と笑い”. 産経新聞 (2017年3月9日). 2025年11月11日閲覧。
参考文献
[編集]- 矢萩喜從郎 編『レイモン・サヴィニャック(世界のグラフィックデザイン97)』ギンザ・グラフィック・ギャラリー(発行)、DNPアートコミュニケーションズ(販売)、2011年6月6日。ISBN 978-4-88752-325-8。
関連文献
[編集]- 『レイモン・サヴィニャック フランスポスターデザインの巨匠』ティエリー・ドゥヴァンク文、藤原あき訳、ピエブックス、2006年、ISBN 978-4894445321
- 『レイモン・サヴィニャック自伝』橋本順一訳、TOブックス、2007年、ISBN 978-4990174880
- 『サヴィニャックポスターA‐Z』小柳帝(日本語版監修)、アノニマ・スタジオ、2007年、ISBN 978-4877586577
- Martine Gossieaux "La Passion du dessin d'humour" Paris : Buchet-Chastel, 2008, p. 104-109. (Les Cahiers dessinés). ISBN 978-2-283-02269-6