リラグルチド

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リラグルチド
Liraglutide structure.svg
Liraglutide.png
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
法的規制
投与方法 皮下注射
薬物動態データ
生物学的利用能 N/A
半減期 11-15 hours
識別
CAS番号
204656-20-2
ATCコード A10BX07 (WHO)
PubChem CID: 44147092
IUPHAR/BPS 1133
DrugBank DB06655
ChemSpider 24571200
KEGG D06404
別名 Arg34Lys26-(N-ε-(γ-Glu(N-α-hexadecanoyl)))-GLP-1[7-37]
化学的データ
化学式 C172H265N43O51
分子量 3751.20 g/mol

リラグルチド(Liraglutide)は2型糖尿病治療用の長期作用型ヒトGLP-1アナログ製剤の1つである。血糖値の高い場合にのみインスリン分泌効果等を発揮し、臨床的に有意な血糖降下作用を示す。ただし、インスリンの代替薬としては使用できない。

米国では、過体重関連疾患を1つ以上有する肥満症の治療薬としても承認されている。開発コードNN9924。

薬理[編集]

2型糖尿病[編集]

リラグルチドはアシル化されたGLP-1アゴニストであり、ヒトGLP-1-(7-37)誘導体である。内因性GLP-1と異なり、リラグルチドはプロテアーゼによる分解を受け難く、血漿中の血中半減期は13時間である[1][2]

血糖が上昇すると、膵β細胞内へブドウ糖が取り込まれ、細胞内ATPが増え、インスリンが分泌される。GLP-1(およびその誘導体)はこの細胞内情報伝達を増幅し、高血糖ではインスリン分泌が促進される。しかし血糖値が下がると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内情報伝達は行われない。そのためインクレチン濃度が高くても細胞内信号増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されない。このため単独で使用した場合、低血糖を来し難い薬物とされている。

GLP-1の作用として上記の機序による食後高血糖是正作用(服用後24時間まで)のほか、消化管での内容物移動の遅延(消化が遅くなり血糖値の上昇が緩やかになる)や食事性グルカゴン分泌の抑制といった作用もある[2][3]

膵β細胞のアポトーシス防止およびβ細胞の再生効果が、動物実験で見られている[要出典]

グリメピリドとの比較試験の結果、食欲抑制作用および体重増加防止作用が見られた[4]

ステロイドによる耐糖能異常に有用との報告がある[5]

血中トリグリセリド濃度を低下させる[6]

肥満症[編集]

(日本では承認されていない)
身体活動性を上昇させるので、成人の肥満症患者の低カロリーダイエットの補助薬として長期の体重管理に有用であるとされる。米国ではBMI≥30kg/m2(肥満)または≥27kg/m2(過体重)で関連併存症(高血圧、2型糖尿病脂質異常症(高脂血症))がある場合に承認されている。2014年後半に報告された無作為化二重盲検偽薬対照国際臨床試験である SCALE™ Obesity and Prediabetes試験[7](Phase IIIa試験)では、合併症を有する肥満または過体重の患者3,731名がリラグルチドまたは偽薬(いずれも食事療法・運動療法を併用)に割り付けられた。56週間後、被験者の体重はリラグルチド群で9.2%、偽薬群で3.5%減少した[8]

副作用[編集]

糖尿病性ケトアシドーシスによる死亡例が報告され、2010年10月には製造元より安全性情報が出されている[9]

  • 低血糖(頻度不明)
高齢者、軽度腎機能低下、SU薬の高用量内服、SU薬ベースで他剤併用、シタグリプチン内服追加後早期に低血糖が出現[10]
  • 膵炎(頻度不明)
  • 胃腸障害(便秘、下痢)
金沢大学附属病院らの131例での調査[11]によれば、67.2%に有害事例が見られ、11.5%は投与を中止した。なお、高度腎機能障害と糖尿病罹患15年以上が独立した危険因子であったと報告されている[11]
  • 悪心など
  • 角膜障害[12]
  • 味覚障害[12]

重大な副作用として添付文書には低血糖(スルホニルウレア剤またはインスリン製剤と併用した場合)、膵炎腸閉塞が記載されている[13]

甲状腺癌の懸念[編集]

臨床用量の8倍をラットに投与した結果、リラグルチドは統計学的に有意に甲状腺癌を増加させたが、ヒトでの増加については不明である[14]。臨床試験では、リラグルチド投与群の1.3/1,000人年(4名)、対照群の1.0/1,000人年(1名)で甲状腺腫瘍が懸念された。これら5名では腫瘍マーカー(カルシトニン)が増加し、潜在性の腫瘍の存在が示唆された[14]

米国FDAは、『血清カルシトニン(甲状腺髄様癌のマーカー)はリラグルチド群で若干増加するものの、正常域内であり、癌レジストリで15年間経過観察する必要がある。』としている[15]

膵炎の懸念[編集]

2013年に、急性膵炎による入院とインクレチン関連薬との間に統計学的に有意な相関が認められるとの報告が発表された[16]。それに呼応して、米国FDAと欧州EMAはインクレチン関連薬と膵炎・膵癌との関連性の有無を検討すべく入手可能な全てのデータのレビューを開始した。2014年にNew England Journal of Medicine で公表された共同声明では、「2型糖尿病に対するシタグリプチンの25の臨床試験に登録された14,611名のデータからは、膵炎または膵癌の増加を示す明確な根拠は見い出せず」、「FDAおよびEMAはインクレチン関連薬と膵炎または膵癌との因果関係に関する学術論文および報道は現状のデータと一致しないと認める。今回、両機関は因果関係があるとの結論には至らなかったが、今後もより多くのデータを収集し、安全性シグナルの検出を継続する。」とされた[17]

薬物動態[編集]

内因性のGLP-1の血漿中の血中半減期は1.5〜2分であり、DPP-4およびNEP英語版で分解される。筋肉内注射した場合でも半減期は約0.5時間であり、臨床応用は限られる。GLP-1の活性型は内因性英語版のGLP-1-(7-36)NH2とGLP-1-(7-37)であり、GLP-1-(7-37)の方が少ない。リラグルチドはその効果を持続させるためにGLP-1-(7-37)の1箇所に脂肪酸を結合させ、投与部位である皮下組織英語版および血中で自己会合を形成しまたはアルブミンと結合する事により、活性型GLP-1がゆっくりと一定量血中に放出される様に設計されており、血中半減期が13時間に延長している。腎臓からの排泄もGLP-1-(7-37)に比べて遅い[2]

承認取得状況[編集]

2型糖尿病の治療薬としては、2009年7月に欧州医薬品庁(EMA)に承認された後、2010年1月にアメリカ食品医薬品局(FDA)に承認された[1][18][19]。日本では2010年1月に承認を取得している[20]

2014年12月には、米国で併存性英語版を有する肥満症の治療薬として承認された[21]

研究開発[編集]

リラグルチドの第I相臨床試験は2010年に開始された[22]

2014年のマウスの実験でリラグルチドは認知症による脳のダメージを低減し、記憶力低下を抑えることが示された[23]

出典[編集]

  1. ^ a b http://www.drugs.com/nda/liraglutide_080530.html May 2008
  2. ^ a b c Goldstein, Barry J.; Mueller-Wieland, Dirk (14 November 2007). Type 2 Diabetes: Principles and Practice (2nd ed.). CRC Press英語版. ISBN 978-0-8493-7958-1. http://www.crcpress.com/product/isbn/9780849379581 2015年1月17日閲覧。. 
  3. ^ Beglinger C, Degen L (2007年). “Gastrointestinal satiety signals in humans—physiologic roles for GLP-1 and PYY ?”. Physiol. Behav. 89 (4): 460–4. doi:10.1016/j.physbeh.2006.05.048. PMID 16828127. 
  4. ^ Nauck M, Frid A, Hermansen K, Shah NS, Tankova T, Mitha IH et al. (2009年). “Efficacy and safety comparison of liraglutide, glimepiride, and placebo, all in combination with metformin, in type 2 diabetes: the LEAD (liraglutide effect and action in diabetes)-2 study.”. Diabetes Care 32 (1): 84-90. doi:10.2337/dc08-1355. PMC PMC2606836. PMID 18931095. http://care.diabetesjournals.org/cgi/content/abstract/32/1/84. 
  5. ^ 山内一郎、松本義弘, 満田佳名子, 保田紀子, 吉田有希子, 中野厚生, 田中早津紀, 前田康司, 新谷光世, 西村治男「ステロイド投与中の血糖コントロールにおけるリラグルチドの有効性」、『糖尿病』第57巻第2号、2014年3月11日、 102-7頁、 doi:10.11213/tonyobyo.57.1022016年4月1日閲覧。
  6. ^ Shyangdan D, Cummins E, Royle P, Waugh N (2011年5月). “Liraglutide for the treatment of type 2 diabetes”. Health Technol Assess 15 Suppl 1: 77–86. doi:10.3310/hta15suppl1/09. PMID 21609656. 
  7. ^ Effect of Liraglutide on Body Weight in Non-diabetic Obese Subjects or Overweight Subjects With Co-morbidities: SCALE™ - Obesity and Pre-diabetes”. ClinicalTrials.gov英語版 (2014年11月13日). 2015年1月17日閲覧。
  8. ^ “New phase 3a data demonstrate that 9 out of 10 adults with obesity lost weight with liraglutide 3 mg and clinical trial completers lost an average of 9.2%”. ObesityWeek 2014. Boston: Novo Nordisk A/S. (4 November 2014). https://www.novonordisk.com/bin/getPDF.1868303.pdf 2015年1月17日閲覧。 
  9. ^ ビクトーザR皮下注に関する安全性情報 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 2010年10月(日本糖尿病学会)
  10. ^ インクレチン(GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬)の適正使用に関する委員からの報告 日本糖尿病学会
  11. ^ a b リラグルチドの有害事象による中止の危険因子の探索 糖尿病 Vol.58 (2015) No.3 p.159-166
  12. ^ a b 油井美智子ほか、リラグルチド投与開始後に味覚障害および角膜障害が出現した1例 糖尿病 Vol.57 (2014) No.12 p.893-899
  13. ^ ビクトーザ皮下注18mg 添付文書” (2014年8月). 2016年4月1日閲覧。
  14. ^ a b www.accessdata.fda.gov”. 2016年4月1日閲覧。
  15. ^ Parks M, Rosebraugh C (2010年). “Weighing risks and benefits of liraglutide--the FDA's review of a new antidiabetic therapy.”. N Engl J Med 362 (9): 774-7. doi:10.1056/NEJMp1001578. PMID 20164475. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1001578. 
  16. ^ Sonal Singh; Hsien-Yen Chang; Thomas M. Richards; Jonathan P. Weiner; Jeanne M. Clark; Jodi B. Segal (2013年4月8日). “Glucagonlike Peptide 1–Based Therapies and Risk of Hospitalization for Acute Pancreatitis in Type 2 Diabetes Mellitus”. JAMA Internal Medicine 173: 534. doi:10.1001/jamainternmed.2013.2720. 
  17. ^ “Pancreatic Safety of Incretin-Based Drugs — FDA and EMA Assessment — NEJM”. The New England Journal of Medicine 370: 794–7. (2014年2月27日). doi:10.1056/NEJMp1314078. PMID 24571751. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1314078 2015年1月17日閲覧。. 
  18. ^ http://www.drugdevelopment-technology.com/projects/liraglutide/ "Liraglutide - Next-Generation Antidiabetic Medication"
  19. ^ http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/2010/ucm198638.htm "FDA Approves New Treatment for Type 2 Diabetes" January 25, 2010
  20. ^ 糖尿病ネットワーク (2010年1月21日). “国内初のGLP-1受容体作動薬「ビクトーザ」の承認取得”. 2016年4月1日閲覧。
  21. ^ “Novo Nordisk to promote drug to treat obesity in United States”. Reuters. (2014年12月29日). http://www.reuters.com/article/2014/12/29/novo-nordisk-obesity-fda-idUSL6N0UD0MB20141229 2015年1月17日閲覧。 
  22. ^ Hirschler, Ben (2010年1月13日). “UPDATE 1-Novo starts tests on pill version of Victoza drug”. Reuters. http://www.reuters.com/article/idUSLDE60C0CB20100113 
  23. ^ McClean PL, Hölscher C (2014年). “Liraglutide can reverse memory impairment, synaptic loss and reduce plaque load in aged APP/PS1 mice, a model of Alzheimer's disease.”. Neuropharmacology 76 Pt A: 57-67. doi:10.1016/j.neuropharm.2013.08.005. PMID 23973293. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0028390813003626. 

関連項目[編集]

エキセナチド
アルビグルチド英語版
タスポグルチド英語版

外部リンク[編集]