モンゴメリー・オドリズコ予想

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モンゴメリー・オドリズコ予想[注 1] [注 2] (英語: Montgomery-Odlyzko law)とは、リーマンゼータ関数の自明でない零点の間隔の分布は、ガウス型ユニタリ・アンサンブル(GUE)にしたがうランダム行列固有値の間隔の分布と統計的に同一であるとする予想。 ヒュー・モンゴメリープリンストン大学でのお茶の時間にフリーマン・ダイソンと出会い、零点のペアに関する相関を表す式が原子核のエネルギー準位モデルであるランダム行列理論(RMT)の式と酷似していると知ってランダム行列との関連を研究しはじめた。[6] この予想によれば、リーマン・ゼータ関数の零点の正規化された間隔は、ランダム行列理論を使った重い原子核のエネルギー準位の間隔と同様に、対相関関数が次式で表される。

1-\left(\frac{\sin(\pi u)}{\pi u}\right)^2 +\delta(u).

1973年、モンゴメリーはゼータ関数の非自明な零点のペアに関する相関がGUE型のランダム行列の固有値のペアに関する相関と等しいとする論文[7] を発表した。これを読んだオドリズコは、ゼータ関数の零点の間隔分布について大規模な数値計算を行い、ランダム行列の固有値の間隔の分布とほぼ一致することを1987年の論文[8] で示した。[9]

オドリズコによる数値計算結果[編集]

モンゴメリー・オドリズコ予想の数値計算例。実線は、GUE型のランダム行列の固有値の二点相関数である。一方、青のシンボルは、リーマンゼータ関数の非自明な零点の規格化された間隔から求めた対相関関数である。ここで、非自明な零点は最初の105個のものを用いている。

AT&T ベル研究所の研究員であったオドリズコは、モンゴメリの予想結果に触発され、非自明な零点の間隔分布について、詳細な数値計算による検証を行った。そして、モンゴメリーの対相関関数予想の成立が確からしいこと、さらに、非自明な零点の規格化された間隔分布そのものが、GUE型のランダム行列の固有値の間隔分布に一致するであろうことを示した。これらの結果は、1987年の論文「ゼータ関数の零点間隔の分布について」で報告された[8]

非自明な零点1/2+iγnに対し、規格化された間隔


\delta_n = (\gamma_{n+1}-\gamma_{n}) \frac{ \log{ \frac{\gamma_n}{2 \pi} }}{2 \pi}

を導入すれば、モンゴメリーの対相関関数予想からM, N→∞で


\frac{1}{M} \{(n,k) | N \leq n \leq N+M, \, k \geq 0, \,
\delta_{n}+ \delta_{n+1}+ \cdots +\delta_{n+k} \in [ \alpha,  \beta]  \}
\sim  \int_{\alpha}^{\beta} \left ( 
1- \biggl ( \frac{\sin{\pi u}}{\pi u}  \biggr )^2  \right ) du

が成立することが期待される。オドリズコは当時、最新鋭であったスーパーコンピューター Cray X-MPを用い、 N =1、M =105N =1012 +1、M =105 の場合、すなわち、1番から105 番目までに位置する 105 個のγnと1012 +1番目から1012 +105 番目までに位置する105 個の γn を±10-8の精度で求め、それらについての規格化された間隔の対相関関数と求め、GUEの理論値1-(sin(πx )/π x)2と精度よく一致することを示した。さらに規格化された零点間隔δnの分布とGUEの固有値の間隔の分布を計算し、両者がよく一致することを示した。後に、これらの結果は、オドリズコ自身によって、さらに1020番目付近に位置するおよそ7×107個の零点で確認され、より高い精度で確からしいことが示されている[10][11]

オドリズコとシェーンハイジ(Schönhage)により開発された新しいアルゴリズムに基づき、 tε ステップの平均時間内に ζ(1/2 + it) の値を計算することが可能となり、1020 近辺での多数の零点を計算することで、GUE予想の見通しを与える証拠を与えることができた。なお、図は、105 個の非自明なゼロ点の統計である。これらの図より、より多くの数の統計をとると、ますますランダム行列のGUE型の分布に近づくことがわかる。

脚注[編集]

  1. ^ この予想は、ゼロ点 1/2+iT から 2πu/log(T) 離れた長さ 2πL/log(T) の短い区間の中にゼロ点の存在する確率が、式で表された値のおよそ L 倍であることを意味している。(2πL/log(T) という因子は、虚部がおよそ T であるゼロ点の間の平均間隔として考えることができるような正規化因子である。)Andrew Odlyzko (1987) には、予想がゼロ点の大規模な計算機による計算によって支持されていることが示されている。この予想は、2点相関以上の相関にも拡張され、また、保型形式のゼータ函数に対しても拡張された[1]。これに先立ち、1982年、モンゴメリーの学生であったアリ・オズリュック(Ali Erhan Özlük)は、ディリクレのL-函数にもこの相関予想が成立するものがあることを「証明」した[2]ランダムユニタリ行列との関係は、リーマン予想の証明に繋がるかもしれない。ヒルベルト・ポリア予想(Hilbert–Pólya conjecture)は、リーマンゼータ函数のゼロ点はある線型作用素の固有値に対応しているのではないかと予想していて、これは RH を意味している。これが最も期待されるアプローチであると考えるものもいる(Andrew Odlyzko (1987))。
  2. ^ この予想の日本語での呼び方の出典として、例えば[3] などが挙げられる。また「モンゴメリー・オドリズコの法則」と呼ばれることもある [4] ただし、この呼び方における「法則」とは数学的な証明を伴ったものではなく、実験の結果から得られた経験則としての意味である[5]

出典[編集]

  1. ^ Rudnick, Zeév; Sarnak, Peter (1996), “Zeros of principal L-functions and random matrix theory”, Duke Mathematical Journal 81 (2): 269–322, doi:10.1215/S0012-7094-96-08115-6, ISSN 0012-7094, MR1395406, http://projecteuclid.org/euclid.dmj/1077245671 
  2. ^ Ozluk, A.E. (1982), Pair Correlation of Zeros of Dirichlet's L-functions, Ph. D. Dissertation, Ann Arbor: Univ. of Michigan 
  3. ^ 小川 信也 「ゼータ関数と量子カオス」 (PDF)、『数理科学』 (サイエンス社)第411号45-50頁、1997年9月http://www1.tmtv.ne.jp/~koyama/papers/Japanese/koyama.pdf2014年1月3日閲覧 
  4. ^ 小川 信也 「量子力学・幾何学・跡公式」 (PDF)、『数理科学』 (サイエンス社)第429号、1999年3月http://www1.tmtv.ne.jp/~koyama/papers/Japanese/koyama4.pdf2014年1月3日閲覧 
  5. ^ Montgomery-Odlyzko Law WolframMathworld. 2014年1月3日閲覧。
  6. ^ J. Brian Conrey (March 2003), “The Riemann Hypothesis”, Notices of the American Mathematical Society, 3 (pdf: American Mathematical Society) 50: 348-349, ISSN 1088-9477, http://www.ams.org/notices/200303/ 
  7. ^ Hugh Montgomery (1973), “The pair correlation of zeros of the zeta function”, Analytic number theory, Proc. Sympos. Pure Math., XXIV, Providence, R.I.: American Mathematical Society, pp. 181–193, MR0337821 
  8. ^ a b Odlyzko, A. M. (1987), [http://jstor.org/stable/2007890 “On the distribution of spacings between zeros of the zeta function”], Mathematics of Computation (American Mathematical Society) 48 (177): 273–308, doi:10.2307/2007890, ISSN 0025-5718, JSTOR 2007890, MR866115, http://jstor.org/stable/2007890 
  9. ^ Katz, Nicholas M.; Sarnak, Peter (1999), “Zeroes of zeta functions and symmetry”, American Mathematical Society. Bulletin. New Series 36 (1): 1–26, doi:10.1090/S0273-0979-99-00766-1, ISSN 0002-9904, MR1640151, http://www.ams.org/bull/1999-36-01/S0273-0979-99-00766-1/home.html 
  10. ^ A. M. Odlyzko, "The 1020-th zero of the Riemann zeta function and 70 million of its neighbors," AT&T Bell Lab. preprint (1989)
  11. ^ M. Mehta (1990), chap.1

参考文献[編集]

  • Mandan Lal Mehta (1990), Random Matrices (2nd ed.), Academic Press, ISBN 0-12-488051-7 

関連項目[編集]