コンテンツにスキップ

メーリノエー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ペルガモン出土の三角形の板(青銅製、3世紀[1]魔術儀式道具と推定される[1]。描かれているのはディオーネーニュクスポイベー。銘文にメーリノエーへの呼びかけが含まれる[注釈 1]

メーリノエーメリノエ古希: Μηλινόη, Mēlinóē)は、オルペウス教ギリシア神話に登場する冥界女神

オルペウス教讃歌』第71歌や、古代魔術考古資料ペルガモン出土の三角板)を通じてわずかに知られる[2]

解説

[編集]

オルペウス教讃歌』第71歌によれば、ハーデースになりすましたゼウスペルセポネーの娘にして、冥界女王[2]サフラン色ペプロスをまとい、闇のなかで輝き、狂気を操る能力などを有する[2][3]

「サフラン色のペプロス」(クロコペプロス)は、『オルペウス教讃歌』ではメーリノエーとヘカテーの服装とされ、『イーリアス』では夜明けの女神エーオースの服装とされる[4]

ヘカテーと特徴が被っているが別々の神とされる[2]。兄弟姉妹に、オルペウス教におけるディオニューソスザグレウス)やエウメニデスがいる[2][5]

「メーリノエー」という名称は、一説には、果物マルメロカリン)を意味する「メーロン」(古希: μῆλον)に由来する[6][注釈 2]。マルメロの黄緑色は、古代ギリシアにおいて死者の肌を想起させる色だった[6][注釈 3]。あるいは、黄色を含意するとも考えられる(月は狂気の象徴にしてヘカテーの象徴)[2]

関連項目

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 左下の文章、下から2行目~1行目にある。右下や上の文章は意味不明な呪文Voces magicae)。
  2. ^ 「メーロン」の辞書上の意味は「リンゴ(カリンだとの説もある);(一般に)木の実;(比喩的に)乳房」(古川 1989, p. 721)[7]。「メーロン」の文化については水谷 2006[8]水谷 2010[9]も詳しい。
  3. ^ 古代ギリシアにおいて、黄緑はネガティブな場合もポジティブな場合もあった(西塔 2022, pp. 129–142)[10]

出典

[編集]
  1. ^ a b 藤村シシン『秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史』KADOKAWA、2024年。ISBN 978-4046053985 93頁。
  2. ^ a b c d e f Athanassakis and Wolkow, p. 195
  3. ^ Athanassakis and Wolkow, p. 57. For the Greek text, see Hermann, pp. 340–1; Morand, p. 27.
  4. ^ Morand, pp. 127, 182; Pierre Brulé, La fille d'Athènes: la religion des filles à Athènes à l'époque classique (CNRS, 1987), p. 242.
  5. ^ Athanassakis and Wolkow, p. 196.
  6. ^ a b Morand, p. 127 n. 116, p. 182, citing H. Bannert, RE, s.v. Melinoe, p. 135.
  7. ^ 古川晴風『ギリシャ語辞典』大学書林、1989年。ISBN 9784475001205 721頁。
  8. ^ 水谷智洋古典に見えるマルメロあれこれ <エッセイ>」『プロピレア』第18号、日本ギリシア語ギリシア文学会、2006年https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2014652 CRID 1050866514663415296
  9. ^ 水谷智洋古典に見えるマルメロあれこれ(承前) <エッセイ>」『プロピレア』第19号、日本ギリシア語ギリシア文学会、2010年https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/records/2014652 CRID 1050866514663411328
  10. ^ 西塔由貴子『ホメロスと色彩』京都大学学術出版会、2022年。ISBN 9784814004522 129-142頁。
  11. ^ ライブドアニュース /ゲームさんぽ; 藤村シシン (2025年5月2日). “【王座争奪】冥界にハデスがいない?「HADES」続編を古代ギリシャ研究家と読み解く#01【HADESⅡ/ゲームさんぽ】”. Youtube. 2025年6月13日閲覧。

参考文献

[編集]

外部リンク

[編集]