メサドン

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メサドンの構造式

メサドン (methadone) または、メタドンは、オピオイド系の合成鎮痛薬である。日本ではメサペインとして帝國製薬から販売されている。

メサドンは麻薬に関する単一条約で附表IIの薬物に分類されている[1]

歴史[編集]

外科手術で簡便に使用でき、かつ嗜癖性の低い鎮痛剤を探索していたドイツIG・ファルベン社の科学者、マックス・ボックミュール (Max Bockmühl) とグスタフ・エールハルト (Gustav Ehrhart) によって1937年に合成された。1941年9月11日、ボックミュールとエールハルトは彼らがヘキスト 10820 あるいはポラミドンと呼ぶ、モルヒネやオピオイド系アルカロイドと構造的に関連しない物質に関する特許を取得した。化学構造はモルヒネやヘロインと異なるが、メサドンはオピオイド受容体に作用し、同等の効果を与える。化学的には、メサドンが最も単純な構造のオピオイドである。

メサドンはイーライリリー・アンド・カンパニーによって、鎮痛薬として1947年にアメリカで導入された(商品名ドロフィン、現在はロキサン・ラボラトリーが商標を取得)。それ以来、麻薬依存症の治療に使用されるのが最も一般的になっているが、持続時間の長さと非常に低いコストから慢性痛を抑えるのにも用いられている。1か月分の供給にかかるコストはメサドンが20USドルであるのに対し、ペチジン(商品名デメロール)で鎮痛剤として同等の効果を得るには120ドルかかる(2004年後期の時点)。

メサドンを商品名ドロフィンとして、最初にアメリカで生産し始めたのはセントルイスを本拠とするタイコインターナショナル社の子会社、マリンクロット社 (Mallinckrodt) である。ドロフィンはドイツ語名の Dolphium が元であり、これはラテン語の dolor(痛み)に由来する。マリンクロットは1990年代初頭まで特許を独占し続けた。現在では多くの製薬会社がメサドンを製造・販売しているが、依然としてマリンクロットが主要な生産者である。マリンクロットはメサドンをほとんどの後発医薬品の製造会社にバルク販売し、また自社でもアメリカで商品名メタドースとして錠剤、口腔崩壊錠、経口シロップの形で流通させている。一般にはドロフィンの名は1960年代から1970年代にかけて薬物依存者が使用していたものとしてしか知られていない。ドロフィンがメサドンの一般名であると(実際は逆なのだが)勘違いしている医療関係者もこの古い商標名を使うことがある。

効果[編集]

メサドンは代謝されるのが遅く非常に高い脂溶性を持つため、モルヒネ系の薬剤よりも持続時間が長い。メサドンの典型的な半減期は24-48時間であるから、ヘロインの解毒や維持療法の際は1日に1度のみの投与で済む。臨床での最も一般的なメサドンの送達形態は経口液剤である。メサドンは経口で投与しても注射の場合とほぼ同等の効果が得られる。ヘロインと同様、耐性依存性がしばしば発生する。最近のこの分野における研究では、メサドンが脳のNMDA受容体に対し独特の親和性を持つことが示されている。NMDAN-methyl-D-aspartic acid, N-メチル-D-アスパラギン酸)がオピオイド拮抗物質のような活性を示すことによって、精神依存と耐性が制御されている可能性を提示する研究者もいる(実際に、これは近年NMDA受容体アンタゴニストであるケタミンにオピオイドの耐性形成に対する拮抗作用が発見されたことに関連する知見である)。通常、離脱症状は同量のモルヒネやヘロインに比べ緩慢で軽いが、著しく長引く。一般的にヘロイン依存症の管理や、HIV感染率の減少など害を減らすハーム・リダクションの政策には有効であると考えられている。適正な使用量においては、ヘロインへの欲求を減少させる効果がある。しかしながら、ヘロイン依存症者の中には、ヘロインよりもメサドンから抜け出すことのほうが難しいと感じる者もいる。メサドン維持療法では投薬によって症状が快方に向かうとは限らないため、投与は定期的に行われないように計画される。

近年メサドンは海外の内科医の間で癌疼痛の治療薬として使用した症例報告が出ている。モルヒネやヒドロコドンのような、短時間作用性の薬剤よりも投与頻度を抑えられるオピオイド薬を求める海外の医師によって試みられている。長い半減期、経口での生物学的利用能、効果の持続性などの利点を持つメサドンは、弱いアゴニストでは効果のない癌末期疼痛に対する選択薬だと言う意見もある。しかし、反対派はヘロインよりもメサドンから抜け出すことのほうが難しいとデメリットを挙げている。

乱用[編集]

あまり一般的ではないが、メサドンは闇市場でも見られ、過剰な服用による死亡事故と関連付けられている。ストリート・メス (Street Meth)の需要は主として適法なメサドン療法を受けられないオピオイド依存症者によるものである。常用者たちはより強く即効性のオピオイドを好む。研究により、闇市場に横流しされているメサドンは、疼痛管理のため処方されたものか工場や運送業者から盗まれたものであり、管理療法を受けている患者からではないことが示されている。

類縁体[編集]

メサドンに深く関連する合成化合物としてレボアルファアセチルメタドール英語版 (levo-α-acetylmethadol, LAAM; ORLAAM) があり、これはより長い作用持続時間(48-72時間)を持つため、使用頻度を下げることができる。1994年に麻薬依存症の治療薬として認可された。メサドンと同じく、LAAM はアメリカ規制物質法のスケジュール II に指定されている。心臓への副作用がまれに見られるため、LAAM はアメリカやヨーロッパの市場からは消え去っている。

麻薬依存症の治療にはブプレノルフィン も用いられる。2002年10月、アメリカ食品医薬品局は2種のブプレノルフィン配合剤、サブテック (Subutex) とサボキソン (Suboxone) を麻薬依存症の治療に認可した。興味深いことに、メサドンや LAAM とは異なり、サブテックとサボキソンはアメリカ規制物質法のスケジュール III に指定されており、外来患者に対しても使用が許可されている。一方、イギリスをはじめとする多くの国々では、ブプレノルフィンやメサドンのみならずヘロインさえを含むオピオイド類はオピオイド依存症の外来患者の治療に標準的に用いられており、アメリカのように強く規制された環境で治療が行われることはない。最近オーストリアでのある研究により、モルヒネの経口投与はメサドンの経口投与よりも良好な結果を与えることが示され、またヘロイン維持療法の研究では、メサドンの背景的少量投与をヘロイン維持療法と組み合わせることにより、応答性の低い患者に対する成果が大きく向上する可能性があることが示されている。

メサドンの近接類縁体にはデキストロプロポキシフェン英語版も挙げられ、ダルフォン(Darvon、イーライリリー社)の商標名で1957年に販売が開始された。経口鎮痛剤としての効果はコデインの2分の1から3分の1であり、65ミリグラムがアスピリン約600ミリグラムにほぼ相当する。デキストロプロポキシフェンは弱から中程度の痛みの軽減に処方される。バルクのデキストロプロポキシフェンはアメリカ規制物質法でスケジュール II であり、製剤はスケジュール IV である。アメリカでは年間100トン以上のデキストロプロポキシフェンが生産されており、25,000,000通以上の処方箋が書かれている。この麻薬性の薬剤は致死性の副作用とも関連付けられ、娯楽的な薬物使用による死因の上位10位以内に入ることが検死官によって報告されている。

出典[編集]

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  1. ^ Yellow List: list of narcotic drugs under international control, International Narcotics Control Board: Vienna, Austria; 46th ed., December 2004.