ミックスボイス

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ミックスボイス (mixed voice) は、発声技法のひとつであり、発声や歌唱の様式、及び声種を表す。

概要[編集]

原語はフランス語のヴォワ・ミクスト(voix mixte)であり、英語の mixed voice もその訳語のようである。まれに voix mixte の日本語訳に「混声」が用いられる場合がある(どの言語においても、混声―mixed-voiceといった言葉は混声合唱を指すことのほうが圧倒的に多いため、この言葉は「誤用である」とか「存在しない」といった誤解も多い)。そもそもは「声区の融合」を意味しており、現在では主に(ファルセットでない声という意味での)胸声区で高い音を出すための技術として捉えられている。

ミックスボイスには、大別して二つの意味がある。

  1. 特に高い声を出すときに意識的に呼気を多くする、又は声門の閉鎖を弱めた柔らかい声で(時に息を混ぜ気味にすることで)換声点(声が裏返ること)を隠すスタイル。またそれにより得られる声色。
  2. 頭声を駆使して高音域を地声のように出すこと。またそれにより得られる声色。主に男性の唱者についていわれる。

詳細説明[編集]

ミックスボイス 1[編集]

胸声の最高音域近辺では声門閉鎖が急に弱くなり、音色、音高ともに不安定になる。特に閉鎖がしっかりして呼気の少ない声で高音に移ると、閉鎖が弱まった瞬間に声帯の振動状態も急変し、声が裏返ってしまう。もし始めから閉鎖の弱い声で高音に移ったのであれば声の裏返りは起こりにくい。それを意識的に行い、息を多く流したり、柔らかく軽めの声を用いるなどで過剰な声門閉鎖を避けて歌うのがミックスボイス(ヴワ・ミクスト)の典型である。

閉鎖が弱いので、イタリアオペラ、ドイツオペラのような大音量を出すにはあまり向いていない。クラシック音楽では教会音楽等の他、音量による迫力よりも繊細な表現や流麗なフレージングが重視されるフランス歌曲や19世紀後半以降のフランスオペラの歌唱にこの方法を用いながら声をホールに響かせる歌唱技術の伝統があり、20世紀のフランスを代表するバリトン歌手カミーユ・モラーヌCamille Maurane)やジェラール・スゼーGerard Souzay)などにその例が見られる。

一方でポピュラー音楽においては、PAを用いるため、クラシックに比べて音量や長いブレスがあまり要求されないこともあり、より過度に息を混ぜたスタイルが多用される。また歌手の技術を補うのにも一役買っている。よくある女子中高生の合唱などを揶揄していう「弱声発声」や、「mezza voce」に対していう場合の「sotto voce」も、ミックスボイスに近いものである。息を多く流すと倍音が強く生じる場合が多く声を特徴づけることができるし、特に男性歌手にとって鬼門となる声区転換(パッサージオ)を容易にするからである。

ミックスボイス 2[編集]

C5 前後の 1 オクターブのあたりの高音域を、起声がしっかりした話声的な声で歌うことをミックスボイスと呼ぶ人も多い。

意味としては、頭声(ヘッドボイス)、アクート、ジラーレ、ヴォーチェフィンタ、シャウト、フランジリンボイス、ミドルボイスといった実声で高い声を出す技法を含んでおり、それらの代替用語あるいは総称のように使われている。裏声(頭声区)で地声のような音色の特に低い声を出すという解釈(ファルセットインペットに同じ)もある。

2. の意味で用いる人には 1. の声をミックスボイスではないと感じることも多い。

1990年代以前はミックスボイスという言葉は一般にはあまり知られておらず、一部の音楽家やトレーナーが大体 1. の意味で稀に使用していた。その後インターネットが広まり、2000年代に入った頃から 2. の用法が特に電子掲示板などで普及した。また、トレーナーの間にもこの用法が増えている。日本に限らず、米国でも同じような状況にある。

関連項目[編集]