マリーンワン
マリーンワン(英: Marine One)は、アメリカ合衆国大統領がアメリカ海兵隊(英: United States Marine Corps)機に乗った時に使われるコールサイン。
概要[編集]
通常この「マリーンワン」というコールサインは、大統領が国内の短距離間を移動するときに利用するヘリコプターに対して使われる。大統領専用ヘリは、大統領がホワイトハウスとアンドルーズ空軍基地(多くはエアフォースワンに搭乗するため)、あるいは別荘であるキャンプ・デービッドを往復する際に利用されることが多い。一般的に大統領が利用するが、副大統領や閣僚などの移動の際に使われることも多く、副大統領が搭乗した際のコールサインは、マリーン・ツー(英: Marine Two)となる(エアフォースワンにおける副大統領搭乗時のコールサインの取り扱いと同様)。
日々の運用に当たるのは、バージニア州クアンティコにあるクアンティコ海兵隊航空施設(Marine Corps Air Facility Quantico、クアンティコ海兵隊基地内にある)に拠点を置く、HMX-1こと第1海兵ヘリコプター飛行隊(Marine Helicopter Squadron One)である。本飛行隊は「ナイトホークス」(The Nighthawks)の通称でも知られる。
専用機として現在就役しているのは、VH-3DシーキングとVH-60N プレジデントホークである。前者はSH-3 シーキングを、後者はUH-60 ブラックホークをベースに改造が施された派生型である(ともにシコルスキー・エアクラフト社製)。ヘリコプター故に空間的制約はあるものの、これらのヘリコプターは内装が通常のアメリカ海兵隊機とは異なり、衛星電話・ホワイトハウス直通電話など大統領など政府高官が搭乗するうえで必要な装備が取り付けられている。またVH-3Dについては、大統領の紋章(Seal of the President of the United States)が描かれた専用機も存在する。
このヘリコプターが行動する時は1機単独で運用されることは少なく、アメリカ海兵隊の武装兵を乗せた複数の予備機とともに利用されることが多い。このように大統領の搭乗機の特定を困難にすることで、テロ攻撃によるリスク低減が図られている。
歴史[編集]
アメリカ合衆国大統領がヘリコプターによる輸送を受けるようになったのは、1957年に当時のドワイト・D・アイゼンハワー大統領がH-13を利用したのが最初である。この機体は1958年にH-34に、さらに1961年にVH-3A(現在運用されているVH-3Dと同系列)へと更新された。その後は20年近くVH-3Aが運用された後、1978年に一部の機体が改良型であるVH-3Dへ更新された。さらに約10年後の1989年、残るVH-3AがVH-60Nへと更新され、現在の機材体制となった。
なお、1976年まで、大統領のヘリコプター輸送はアメリカ陸軍とアメリカ海兵隊の共同運行管理であったため、この時期の専用ヘリコプターのコールサイン・名称には「アーミーワン」が用いられた。現在の「マリーンワン」のコールサイン・名称となるのは、運行管理がアメリカ海兵隊単独となった1976年以降である。
また、2009年1月20日には「エグゼクティブワン」というコールサイン・名称を使用する機会も得ている。このコールサイン・名称は、同日付で退任したばかりのジョージ・W・ブッシュ前大統領が、アメリカ連邦議会議事堂で行われたバラク・オバマ新大統領の就任式に出席した後、ローラ夫人と共にアメリカ連邦議会議事堂を離れ、アンドルーズ空軍基地に移動する際に使われた。
大統領専用ヘリ後継機の選定[編集]
大統領専用ヘリで特にVH-3Dの老朽化に伴い、「マリーンワン」用要人輸送ヘリコプター後継機として、ベル/ボーイングのV-22、シコルスキーのS-92、アグスタウェストランドのUS-101の3機種が候補に挙がった。
2006年2月までに候補はS-92とUS-101に絞られ、最終的に居住性と安全性で高い評価を受けたUS-101が後継機に決まった。US-101は、VH-71 ケストレルとして23機が納入される予定だった。
しかし軍用機をも大幅に超える防弾性能や対衝撃性能が調達要件として追加されたうえ、遅延を繰り返すうちに開発費が当初見込みの倍の112億ドルにも達したため、2009年5月に計画は一旦中止されることが発表された[1]。この計画中止が発表された後になって、VH-71にはこうした過剰ともとれる性能要求に加え、キッチンを装備することも予定されていたことが「アメリカが核攻撃を受けている時に、食事を摂ろうなどとは決して思わないだろう」という大統領のジョークにより明らかになった[2][3]。
その後シコルスキーは、VH-3のアビオニクスやエンジン・ローター類を改修する延命案を提案していた。結局2014年5月7日になって、大統領専用ヘリコプターの後継機の発注先を検討中だったアメリカ海軍は、シコルスキーを選定したと発表した[4]。これを受けてシコルスキーは、開発済のS-92をベースにFAA(連邦航空局)認証を受けるための技術開発機 (EMD) 2機、運用試験と評価用のシステム実証試作機 (SDTA) 4機、フライトシミュレータと整備訓練用シミュレータ各1基を2018年までに納入する。型式名VH-92として最終調達機数は21機の予定。
歴代「マリーンワン」用要人輸送ヘリコプター[編集]
- H-34
- VH-3D シーキング
- VH-60N プレジデントホーク(ブラックホーク):同機は、主に予備的に使われる場合が多く、大統領外遊時に使われる場合も多い
- VH-71(EH101):2005年1月開発契約が結ばれたが、2009年6月開発価格高騰により契約破棄された。
登場作品[編集]
ドキュメンタリー[編集]
- 『On Board Marine One』(2008年、ナショナルジオグラフィックチャンネル)
- HMX-1の主要隊員へのインタビュー、操縦士候補生の訓練(シミュレータ訓練・アンドルーズ空軍基地 - ホワイトハウス間の実機訓練など)、2008年国連総会でのニューヨークでのフライトに密着。
小説[編集]
- 『マリーンワン』(邦訳2018年、ジェームス・W・ヒューストン著、村田薫訳)
- 大統領が死亡したマリーンワン墜落事故を巡る法廷サスペンス[5]。
映画・ドラマ[編集]
- 『24 -TWENTY FOUR- シーズン5』(2006年、アメリカドラマ)
- 『インデペンデンス・デイ』(1996年、アメリカ映画)
- 『エアフォース・ワン』(1997年、アメリカ映画)
- 『バンテージ・ポイント』(2008年、アメリカ映画)
- 『ホワイトハウス・ダウン』(2013年、アメリカ映画)
- 『エンド・オブ・キングダム』(2016年、アメリカ映画)
ゲーム[編集]
- 『コール オブ デューティ ブラックオプス2』(2012年)
- 作中の会話シーンでのみ言及、実際の登場は無し(傭兵部隊によってエアフォースワンとともに破壊された模様)。
脚注[編集]
- ^ . NBCナイトリーニュース. (2009年5月17日)
- ^ 「調達中止の米大統領専用ヘリ、キッチン付きの予定だったと判明」『』ロイター通信、2009年8月18日。2012年4月18日閲覧。
- ^ 当然ながら中長距離を飛行する大統領専用機VC-25(エアフォースワン)にはキッチンが装備されているが、極めて短距離の輸送を担うだけのヘリコプターにキッチンを装備するというのはさすがに常識を逸脱したものだった。
- ^ 月刊『J Wings』2014年8月号
- ^ “マリーンワン”. 小学館文庫公式サイト. 2018年3月24日閲覧。
関連項目[編集]
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