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マリア・コリーナ・マチャド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マリナ・コリーナ・マチャド
2023年のマチャド
ベネズエラの旗 ベネズエラ・ボリバル共和国
国民議会議員
任期
2011年1月5日 – 2014年3月21日
前任者イラム・ガビリアスペイン語版
後任者リカルド・サンチェス・ムヒカ
選挙区ミランダ州第2選挙区
個人情報
生誕 (1967-10-07) 1967年10月7日(58歳)
ベネズエラの旗 ベネズエラカラカス
政党ベンテ・ベネズエラ (2012 -)
子供3
署名
ノーベル賞受賞者 

受賞年: 2025年
受賞部門: ノーベル平和賞
受賞理由: 『 ベネズエラ国民の民主的権利を向上するための不断の努力と、独裁政権から民主主義への公正かつ平和的な移行を達成するための闘争に対して』

マリア・コリーナ・マチャド・パリスカスペイン語: María Corina Machado Parisca1967年10月7日 - )は、ベネズエラの政治家、技術者。

経歴

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ジョージ・W・ブッシュ大統領と対面するマリア・コリーナ・マチャド

1967年10月7日、カラカスで心理学者兼元テニス選手の母コリーナ・パリスカスペイン語版と鉄鋼実業家の父エンリケ・マチャド・スロアガが儲けた4人姉妹の長女として誕生。祖先を辿ると、歴史画家として知られるマルティン・トバル・イ・トバルに行き着く[1]

マチャドはアンドレス・ベロ・カトリック大学英語版で産業工学の学位を取得し、カラカスの高等行政学院 (IESA) で金融学の修士号を取得した[2]

野党のスマテ英語版の政治家として国民議会の議員を務め、2014年のニコラス・マドゥロ政権に対する抗議活動や、2024年のベネズエラ大統領選挙の候補者として、マドゥロの独裁主義の政治に対抗し、公平の選挙と民主化を求めてきた。ベネズエラ大統領選挙では政権側から政治的弾圧を受け、公職追放処分を受けるなど事実上、出馬を阻止された。これをきっかけに主要野党が結集し、政権交代への期待が高まる大きなうねりに発展した[3]

2018年にはBBCの「100人の女性」に選ばれ[4]、2024年にはサハロフ賞を受賞した。さらに2025年には「世界で最も影響力がある人物」の一覧とされるタイム100の一人にも選ばれた。

2025年、「ベネズエラの民主的を向上させるための不断の努力と、独裁政権から民主主義への公平かつ平和的な移行を達成するための闘争に対して」ノーベル平和賞の受賞が発表された[5][6]。一方、マドゥロ大統領は受賞を批判し、マチャドの名前を直接挙げず、ノーベル賞にも触れることなく、「人口の90%が悪魔魔女を拒絶している」と述べた[7]。マドゥロ大統領は外交戦略の見直しとして、在ノルウェーベネズエラ大使館ノルウェー語版を閉鎖させたが、閉鎖は受賞への反発が原因とみられる[8]

同年12月10日にノルウェーオスロで行われた受賞式には間に合わず、長女が受賞演説を代読したが[9][10]、マチャドは11日未明にオスロに到着した[9]。米国の支援も受けて極秘にベネズエラを脱出したという[11]

政策・思想

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自由市場・小さな政府・個人の自由を重視する「リベラル(自由主義的)」な政治理念を掲げている[12][13]。英国のマーガレット・サッチャーや米国のロナルド・レーガンの経済政策をモデルとし、国家の肥大化を抑制して市場原理と市民の活力を重視する立場に立っている[14]

与党との対立姿勢

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マチャドは長年、与党・ベネズエラ統一社会党 (PSUV) およびチャヴィズム体制[注 1]を「国家権力の私物化」として批判してきた[15]。マドゥロ政権を「暴力と検閲に基づく不法支配」と呼び、野党指導者や市民活動家の逮捕に強く抗議している[16]。2024年の選挙期間中には、公職選挙法を根拠に出馬資格を剥奪されたが、これを「独裁の証」として国際的圧力を求める運動を展開した[17]。また、議会演説では「我々の闘いは政権交代ではなく、体制の終焉である」と発言し、非暴力的手段による体制転換を訴えている[12]。この強硬な反チャヴィズム姿勢から、支持者からは「民主主義の象徴」と称賛される一方、政権側や一部左派勢力からは「急進的」「分断的」との批判も受けている[18]

経済政策

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マチャドは「大衆資本主義 (capitalismo popular)」の理念を掲げ、国民が財産を所有し、国家の干渉を受けずに経済活動できる社会を目指すとしている[13]。国営石油公社PDVSAを含む国営企業の民営化、為替自由化、補助金の段階的撤廃など、市場原理の回復を重視しており、外国投資の拡大を通じた経済再建を訴えている[15]。また、国家主導の経済構造を「特権階級による搾取」と批判し、透明性のある企業統治と競争政策の導入を求めている[12]。ただし完全な市場放任を志向しているわけではなく、独占防止や公共サービスの維持など、国家による最低限の監督責任は必要だと述べている[13]

社会政策

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社会・文化政策では、リベラルな人権政策を支持している。同性婚の合法化や医療用マリファナの使用を容認し[16]、妊娠中絶についても「レイプや母体の生命が危険な場合など、例外的な合法化の議論は可能である」と発言している[17]。信仰面ではカトリックの背景を持つが、「宗教的信条を政策に持ち込むべきではない」と明言している[17]。教育・医療・司法改革にも積極的であり、特に司法の独立と腐敗撲滅を重視している[19]

外交・安全保障

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外交政策においては、現政権(ニコラス・マドゥロ政権)を「権威主義体制」として厳しく批判し、民主主義と法の支配を国際社会の支援によって回復することを最優先目標に掲げている[20]。国際的制裁の解除条件として、自由選挙の実施、政治犯の釈放、人権監視の受け入れを求めており、場合によっては国際的な人道介入を支持する姿勢を示している[18]。また、ラテンアメリカ諸国との自由貿易協定や欧米との経済再統合を目指しており、民主主義陣営との連携を重視している[13]

評価と批判

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マチャドの政策は、自由主義者や民主化支持層から高く評価されているが、一方で新自由主義的・急進的との批判も存在する[16][18]。 一部の社会主義系団体は、民営化方針が格差を拡大すると懸念しているが、彼女は「真の包摂は国家依存から個人の自立への転換である」と反論している[15]

ノーベル平和賞の受賞への評価と批判

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2025年ノーベル平和賞の受賞に対してはベネズエラ野党議員からは賛同デモがあった一方、マチャド氏の平和賞受賞に疑問を投げかける市民の声も発生している。

政治的立場の総括

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総じて、「自由市場と民主主義の擁護」「小さな政府」「人権と多様性の尊重」を基調とする自由主義的改革派の政治家である[13]。 彼女の運動は反チャヴィズム勢力の中核であり、2020年代以降のベネズエラ政治の転換点を象徴する存在とされる[12][19]

政見

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2005年戦略国際問題研究所フォーラムでの談話

マチャドは何度も、最も尊敬する政治家としてマーガレット・サッチャーを挙げており[21][22]、石油会社PDVSA含むベネズエラ国営企業の民営化を支持している[23][24]ベネズエラ危機における国際的制裁英語版を支持し[23]、マドゥロを大統領の座から排除するための外国の軍事介入を主張している[25][26][27]。他方、同性結婚の合法化への賛成を表明している[28]

反共主義マドリード憲章英語版に署名した一人であり[29][30]アメリカ大統領ドナルド・トランプへの支持も表明している[31][32]2025年のカリブ海へのアメリカ海軍の展開英語版の際には第2次トランプ政権を称賛した[33]

パレスチナ問題に関しては、10月7日の攻撃の後、イスラエルへの連帯を表明し[34]、イスラエルがエドムンド・ゴンサレス英語版を次期大統領として、また以前にはフアン・グアイドを暫定大統領として支持したことにも謝意を表している[35][36]。また、2008-09年のガザ紛争が理由で2009年に断交したイスラエルとの外交関係を回復することを訴えている[36]

人物

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厳格なカトリック教徒である[37]。離婚歴があり、3子を儲けた。子供達は殺害予告を受け、海外に亡命している[38]

脚注

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注釈

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  1. ^ 「チャヴィズム(Chavismo)」とは、1999年に始まったウーゴ・チャベス政権以降の政治的潮流および支配体制を指す。ボリバル主義を基盤に、国家主導の再分配政策・強い大統領制・反米路線などを特徴とし、後継のニコラス・マドゥロ政権にも継承されている。

出典

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  1. ^ María Corina” (スペイン語). Vente Venezuela (2016年9月14日). 2025年10月15日閲覧。
  2. ^ Maria Corina Machado”. Yale Jackson School of Public Affairs (2009年). 2025年10月15日閲覧。
  3. ^ ノーベル平和賞にベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏 弾圧受けるも、政権交代への期待高まるうねり導く”. FNNプライムオンライン (2025年10月10日). 2025年10月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月10日閲覧。
  4. ^ BBC 100 Women 2018: Who is on the lists?
  5. ^ Maria Corina Machado - facts nobelprize.org
  6. ^ ノーベル平和賞、ベネズエラの野党指導者マリア・コリーナ・マチャド氏に授与 民主的権利の促進に貢献”. CNN.co.jp (2025年10月10日). 2025年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月10日閲覧。
  7. ^ マドゥロ大統領、ノーベル平和賞のマチャド氏は「悪魔の魔女」”. AFPBB News (2025年10月13日). 2025年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月14日閲覧。
  8. ^ ベネズエラ、在ノルウェー大使館を閉鎖 ノーベル平和賞に反発か”. 日本経済新聞 (2025年10月14日). 2025年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月15日閲覧。
  9. ^ a b 大月美佳「平和賞マチャド氏がオスロ到着、「自由を!」の歓声に応える…手続き受けずボートで出国か」『読売新聞』2025年12月11日。オリジナルの2025年12月12日時点におけるアーカイブ。2025年12月12日閲覧。
  10. ^ ノーベル平和賞授賞式、マチャド氏の娘が代理出席 演説を代読」『BBC』2025年12月11日。オリジナルの2025年12月12日時点におけるアーカイブ。2025年12月12日閲覧。
  11. ^ 福永方人「変装し漁船でベネズエラ脱出 ノーベル平和賞マチャド氏、オスロ到着」『毎日新聞』2025年12月11日。オリジナルの2025年12月12日時点におけるアーカイブ。2025年12月12日閲覧。
  12. ^ a b c d "Maria Corina Machado, Venezuelan Champion of Freedom, Wins Nobel Peace Prize"(Cato Institute、2025年10月)
  13. ^ a b c d e "Maria Corina Machado: A Woman of Freedom"(Friedrich Naumann Foundation、2024年)
  14. ^ "María Corina Machado, the Venezuelan Margaret Thatcher"(El País、2023年10月1日)
  15. ^ a b c "Who is María Corina Machado?"(Al Jazeera、2025年10月10日)
  16. ^ a b c María Corina Machado (The Guardian)」
  17. ^ a b c "Venezuela’s María Corina Machado: liberal conservative opposition figure"(AP News、2024年10月23日)
  18. ^ a b c "The Nobel Peace Prize’s Legitimacy Crisis: Machado’s Award"(Australian Institute of International Affairs、2025年10月21日)
  19. ^ a b 「Five Developments from 2024 That Give Us Hope for Democracy in 2025 (Freedom House)」
  20. ^ "The Nobel Peace Prize 2025: María Corina Machado"(Nobel Peace Prize公式サイト、2025年10月)
  21. ^ María Corina Machado, the Venezuelan Margaret Thatcher” (英語). EL PAÍS English (2023年10月1日). 2025年10月10日閲覧。
  22. ^ Romero, Paola (2024年7月24日). “Evita meets Thatcher: the woman fighting Venezuela's autocracy” (英語). The Spectator. 2025年10月10日閲覧。
  23. ^ a b Joe Daniels (2023年6月29日). “Venezuela's opposition frontrunner warns of further turmoil”. Financial Times. https://www.ft.com/content/28d1ced0-81bf-40ca-be8b-2ca2a42c3a13 2023年6月30日閲覧。 
  24. ^ Jesús Maza (2023年6月30日). “¿Quién es Corina Machado, candidata opositora que lidera las encuestas para las Primarias 2023?”. La República. https://larepublica.pe/mundo/venezuela/2023/06/18/primarias-2023-quien-es-maria-corina-machado-candidata-opositora-que-lidera-las-encuestas-en-venezuela-mom-noticias-venezuela-vente-venezuela-lrtmv-1463058 2023年6月30日閲覧. "Profesó un discurso antichavista y mantuvo una postura de extrema derecha, por lo que no le fue difícil generar enemigos aliados al oficialismo." 
  25. ^ “‘Hope never dies’: Venezuela opposition ponders what’s next after failed uprising”. The Guardian. (2019年5月4日). ISSN 0029-7712. https://www.theguardian.com/world/2019/may/04/venezuela-uprising-coup-attempt-opposition-whats-next 2023年6月30日閲覧。 
  26. ^ “Julie Turkewitz: Fear and Hope in Venezuela as U.S. Warships Lurk”. The New York Times. (2025年9月28日). https://www.nytimes.com/2025/09/28/world/americas/venezuela-mood.html/ 2025年9月28日閲覧。 
  27. ^ Venezuela: What Lies Ahead after Election Clinches Maduro's Clean Sweep. International Crisis Group. (2020). pp. 5–10. "María Corina Machado, whose faction (Soy Venezuela) favours foreign military intervention ... ." 
  28. ^ Felipe Toro (2023年5月31日). “María Corina Machado: 'We Must Privatize PDVSA'”. Caracas Chronicles. https://www.caracaschronicles.com/2023/05/31/maria-corina-machado-we-must-privatize-pdvsa/ 2023年7月11日閲覧。 
  29. ^ Abascal promueve una carta con políticos americanos contra el comunismo” (スペイン語). EFE (2020年10月26日). 2021年12月7日閲覧。
  30. ^ LR, Mundo (2023年5月17日). “¿Quién es María Corina Machado, líder opositora que plantea 'privatizar todo' en Venezuela?” (スペイン語). La República. 2023年6月30日閲覧。
  31. ^ Nobel Peace Prize winner hailed Trump as 'visionary' just days before her victory” (英語). The Independent (2025年10月10日). 2025年10月10日閲覧。
  32. ^ Phillips, Tom (2025年10月10日). “Venezuelan politician María Corina Machado wins Nobel peace prize” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/world/2025/oct/10/venezuelan-politician-maria-corina-machado-wins-nobel-peace-prize 2025年10月10日閲覧。 
  33. ^ Phillips, Tom; Torres, Patricia (2025年10月7日). “Venezuela on edge over Trump regime change whispers: 'If it does happen we are ready'” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/world/2025/oct/07/venezuela-on-edge-trump-regime-change-whispers 2025年10月10日閲覧。 
  34. ^ Tovar, Fran (2023年10月7日). “María Corina Machado expresó su solidaridad con Israel tras el ataque sorpresivo del Hamas” (スペイン語). Emisora Costa del Sol 93.1 FM. 2025年10月10日閲覧。
  35. ^ María Corina Machado al canciller de Israel: Valoramos inmensamente su apoyo al pueblo de Venezuela #30Ene”. El Impulso (2025年1月30日). 2025年10月10日閲覧。
  36. ^ a b Top Venezuelan opposition figure asks Jewish expats to return”. The Times of Israel (2019年1月29日). 2025年10月10日閲覧。
  37. ^ Henríquez, Andrés. “Venezuela's Catholic voters face crucial decision for president” (英語). Catholic News Agency. 2025年10月15日閲覧。
  38. ^ 'The world is starting to understand we will defeat Maduro,' says Venezuelan opposition politician. CNN. 8 July 2023. 2025年10月15日閲覧.

外部リンク

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