マツダ・10A型エンジン

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MAZDA・10A
生産拠点 本社工場、宇品工場
製造期間 1967年-1973年
タイプ 水冷直列2ローター
排気量 491cc×2(982cc)
内径x行程 偏心15mm 創成半径105mm ハウジング幅60mm
圧縮比 9.4
最高出力 110PS/7,000rpm
最大トルク 13.3kgf·m/3,500rpm
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10A型エンジンは、マツダ㈱が開発・製造した初めての量産用直列2ローターガソリンエンジンである。

1967年にマツダ・コスモ(初代目:L10A)のエンジンとして、搭載された。
尚、「10A」という名称は、総排気量の982ccを1,000ccと見なしての「10」と、1番目に開発された事から「A」を合わせ取った言葉である。 13Aを除くマツダのロータリエンジンは、すべてこの10Aのロータ半径と偏心量を踏襲している。

基本構成[編集]

1967年のコスモ・スポーツに搭載されたロータリエンジン(RE)の概要を下記に記す。以降のREは、この概要に対して改良を加えていった。

  • ローターハウジング
アルミダイカストで製造され、ロータの摺動面となるトロコイド面には、潤滑性を向上させるためクロムめっきを素材のアルミの上に直接施されている。
  • アペックスシール
REの開発で一番のネックとなった部品である。
アルミを含浸させたカーボン材を使用して自己潤滑性を確保している。
シールの幅は、6mmで一体式を採用している。
  • ロータ
ダクタイル鋳鉄製で、後のエンジンより多くのシール材が使用されている。サイドシールは、幅1mmで2重。オイルシールは3重になっている。
ロータの片側には、スプリングピンで取り付けられた内歯歯車を備え、サイドハウジングに固定される外歯歯車と噛み合う位相歯車機構を構成して、ロータの回転運動を規制する。この歯車機構の影響で、出力軸の回転数は、ロータの回転数の3倍になり、ロータ頂点はロータハウジングの内面形状(ペリトロコイド曲線)を動く。ロータの回転力は、ロータ内のベアリングから出力軸へ伝達される。
  • サイドハウジング
アルミの鋳造品で、ロータの摺動面に耐摩耗性確保のため炭素鋼層が溶射されている。ロータの歯車設置側には、外歯歯車が固定されている。
  • 吸気ポート
低速トルクを確保するために、サイドポートとしてサイドハウジングに吸気ポートを1ロータあたり2個ずつ設置(サイドハウジングに1個ずつ設置)
  • 排気ポート
ペリフェラルポートとして、ロータハウジングのトロコイド面に1ロータあたり1個ずつのポートを設置
4バレル・キャブレターを1個設置。吸気ポートは、1個ずつ各バレルとダイレクトにつながり、他のポートの影響を受けないようになっている。
4バレルキャブレタは、低速域ではメインバレルのみ(2バレル使用)/高速域ではメインとセカンダリの両方(4バレル使用)から混合気を供給する。
アペックスシールの潤滑用として、キャブレタのアクセル開度と連動したメタリングポンプで、エンジン負荷に応じたオイルを混合気に供給している。
  • 出力軸
炭素鋼の鍛造シャフトを使用。出力軸の軸受は、出力軸の前後2ヶ所のみで、ロータ間にはない。
出力軸の中には、ロータの潤滑と冷却を兼ねたオイルジェットの通路を持つ。なお ロータの冷却をオイルでおこなうため、マツダREにとってオイルクーラは必需品になる。

発展経緯[編集]

REも「生産性向上」「低速トルクの改善」「排気ガス対策」等の要請を受け、基本構成に対して下記の改善・改良を行った。

  • 1968年コスモスポーツ後期型(0813)
パワーアップを実施
サイドハウジングの材質をアルミから鋳鉄に変更し、炭素鋼の溶射を廃止した。
量産性と実使用性を改善して搭載。
・サイドハウジング
材質をアルミから鋳鉄に変更し、炭素鋼の溶射を廃止した。
・ロータ
オイルシールを3重から2重に変更
・ポートタイミング
実用走行向けに変更と同時にキャブレタを小型化することによって、低速トルクの改善を実施。
・デストリビュータ
直立していた2連のディストリビューターの配置を斜めに変更
  • 1969年R100(ファミリアロータリクーペ)(3877)
R100のアメリカ輸出開始に伴い、カリフォルニア州の厳しい排気ガス規制への対応が求められた。
REは、その特性上HCの排出は多いがNOxの排出が少ない。HCは、燃焼(酸化)させるとCO2H2Oになる。そこで マツダは、HCを燃焼させるために排気ポートの出口にサーマルリアクターを設置して、カリフォルニア州の排ガス規制に対応した。
このサーマルリアクタ付のエンジンは、アメリカ向けのモデルのみに搭載した。
ファミリアロータリクーペ用をベースに、排気ポートのタイミングを変更すると同時に3穴式のハニカムポートに変更して、マフラー負荷の低減を実施。
排ガス対策としては、排気ポートの直後に排気熱を保持するための鋳鉄製チャンバを設置して排ガスの酸化を促進させた。
・ロータハウジング
アルミダイカスト製のロータハウジングのトロコイド面に炭素鋼の溶射後クロムめっきを行う方法に変更して、摺動表面の均一性を向上させた。
  • 1973年
排気ガス規制対応(マスキー法、50年規制)を12Aに集中して行うため生産を中止する

レース用10Aの開発[編集]

レース用の10Aは、国際自動車連盟規定により排気量換算係数2がかけられ、排気量2,000ccのエンジンとして、ヨーロッパの耐久レースに参戦してREの耐久性を世間に訴求することを目的として開発が進められた。後年 日本国内レースにも参戦し、スカイラインGT-Rに挑戦した。

海外耐久レースの開発[編集]

耐久レースとしては、ツーリングカーの世界選手権に参戦することでREのみならず、マツダ車としての優秀性をアピールした。

  • 1968年
REの可能性を追及するため、ドイツのニュルブルクリンクで開催される過酷な「マラソン・デ・ラ・ルート84時間耐久レース」に2台のコスモスポーツで参戦。
レギュレーション上大幅な改造ができなかったが、吸気ポートにペリとサイドのコンビネーションポートを使用。
低速ではサイド/高速ではペリとシャッターバルブで、ウエーバタイプのサイドドラフトのキャブレタからの混合気を切り替える方式を採用して130PS/7,000rpmの出力を得た。
初出場にもかかわらず 2台中1台が総合4位に入賞した。(もう1台は81時間目にアクスルトラブルでリタイヤ)

エンジンに関するトラブルが発生しなかったので、REの優秀性を実証することに成功した。

  • 1969年
ファミリアロータリクーペ(R100)によるヨーロッパ・ツーリングカー・レースへの参戦を開始。
エンジンは、前期コスモスポーツのオールアルミエンジンをベースにペリフェラルポートでの開発を実施。
キャブレタは、ダウンドラフトのウエーバー・キャブレタに変更。ダウンドラフトを採用したのは、REの幅がレシプロエンジンより広いため、幅の狭いファミリアでは、サイドドラフトキャブが搭載できなかったことと、排気パイプの真上にキャブレタを設置するため、排気パイプからの熱害を防止するためである。以降のレーシングREにおいては、ダウンドラフトキャブレタが標準装備となる。
・4月
195PS/9,000rpmのエンジンを搭載してシンガポールGPに参戦して強力なライバルが参戦していなかったので快勝する。予選で、排気抵抗の少ないメガフォンマフラをトライするが、RE特有の激しい排気音の共振でクラックが入り、本番では高熱に強いステンレスのストレートパイプ2本で走行。
・7月
スパ・フランコルシャン24時間レースでは、エンジンの耐久性を重視して、187PS/8,500rpmで2台参戦。
補機関連のトラブルが発生したが総合5、6位入賞を獲得。
・8月
マラソン・デ・ラ・ルート84時間耐久レースでは、24時間レースよりさらに耐久性を重視して、178PS/8,000rpmで3台参戦。
燃料タンクの穴あきや雨中走行中のコースアウトで2台リタイアとなった。残る1台は、雨中走行中の雨水によるサーマルショックのため排気パイプにヒビが入り、排気音が大きくなり注意を受ける。排気音の注意を受けると、ヒビの入ったロータ側のメインジェットを塞ぎシングルロータで走行し隙をみてツインロータに戻し、注意されるとシングルロータにするという作業を繰り返し総合5位を獲得した。
  • 1970年
前年に引き続き、ヨーロッパ・ツーリング・カー・レースの2レース参戦とプライベータのミッドシップマシンのシェブロン・B16への搭載支援を行い、REのミッドシップ化の技術を習得した。
シェブロン・B16は、ル・マン24時間レースに参戦するが、リタイヤとなる。なおこのマシンは、映画「栄光のルマン」に登場している。
・6月
RACツーリスト・トロフィ・4時間レース(2×2ヒート)に参戦。このレースは、2ヒート制で2時間走行後1時間休息して2時間走行するというマツダにとっては、ヨーロッパで初のスプリントレース。結果は8位。
・7月
スパ・フランコルシャン24時間レースでは、4台参戦。12時間後には、トップに立つが残り4時間でエンジンから異音がしてリタイヤ。
最終的には、総合5位入賞を果たす。
エンジン内部の固定ギアのトラブルが原因のリタイヤで以後のREの開発では、固定ギアの耐久性確保が重要な命題となった。

国内レースの開発[編集]

マツダは、REの耐久性を訴求するために、海外特にヨーロッパの耐久レースをメインにレース活動を続けていた。そのため国内レースには、ほとんど参戦しなかった。当時は、ヨーロッパの情報は、なかなか日本には伝わってこなかった。そのため 日本では、ヨーロッパでのREの活躍を知っている人間は、限定されていた。口の悪い人間は、「国内では勝てないから、国内レースに参戦せずに海外のレースにしか参戦しない」と言われるようになった。
そのため マツダは、国内レースにも参戦して、REの優秀性を訴求するように方針変更を行った。

  • 1969年
マツダは、スカイラインGT-Rと対峙するためにヨーロッパの耐久レース仕様のR100を全日本鈴鹿自動車レースに送り込むが、オーバー・フェンダーの仕様が国内のツーリングカー規定に適合しなかったので、スカイラインGT-RのGT-2クラスではなくRクラスにエントリする。
Rクラスは、1,300ccのエンジンを搭載した国内の2座席スポーツカーがメインで、その中で最高214PSのR100は、無敵の1位となる。
  • 1970年
マツダは、5月の富士での日本GPのツーリングカー・レースにGT-Rと直接対決をするために、224PS/10,000rpmの2台のR100を送り込んだ。本番のレースでは、ストレートでR100は、何回もスカイラインGT-Rを追い抜くがS字コーナで抜き返されてしまい、3位入賞という結果を得た。
これは、R100の車幅の狭さとレース仕様らしくない古典的な足回り(リジット・アクスル&リーフサスペンションと高いロール・センタ位置)に起因するものであった。
このレースで、マツダは、レーシング10Aのポテンシャルの高さをレースファンに見せつけることに成功したが、翌年のレギュレーション改正によってペリフェラルポートの国内ツーリングカーレースでの使用禁止という足かせを背負うことになる。
  • 1971年
JAFは、ペリフェラルポートの国内ツーリングカーレースでの使用禁止のレギュレーションを制定する。
これを受けて、マツダは、10Aより12Aのブリッジポートへのチューニングへ力を入れていく。サイドポートでのチューニングで、吸気系をチューニングすることは、10Aと12Aの両方に効果が出てくることになる。
マツダは、新モデルのサバンナを発表と同時にツーリングカーレースへの参戦を開始する。サバンナは、R100より全幅を広げてトレッドを大きくしてロールセンタの高さを下げることによってコーナリングの挙動が安定している。
10Aを搭載したサバンナが、12月の富士ツーリスト・トロフィレースで総合優勝を飾り、スカイラインGT-Rの50連勝を阻止した。
また 国内レースでは、プライベータによる2,000ccクラスのレーシングエンジンを搭載した、2座席スポーツカーレースの関心が高まってきた。この流れを受けて 京都のコジマエンジニアリングは、10Aのペリフェラルポートを搭載した2座席スポーツカーのKE-RE-Iを作成して鈴鹿グレート20ドライバーズレースに参戦して総合3位を獲得する。優勝車のエンジンは、1,800ccのFVCで約230PS。このエンジンと同程度の出力を確保している模様であった。

10Aの諸元[編集]

  • 10Aの諸元内容を表に示す
呼称 コスモスポーツ前期 コスモスポーツ後期 ファミリア サバンナ コスモ スポーツキット スポーツキット スポーツキット
用途 市販車 市販車 市販車 市販車 レース用 レース用 レース用(短距離用) レース用
年度 1967年 1968年 1968年 1971年 1968年 1969年 1970年 1971年
過給方式
吸気方法 4バレルキャブ 4バレルキャブ 4バレルキャブ 4バレルキャブ ウエーバキャブ ウエーバキャブ ウエーバキャブ ウエーバキャブ
吸気ポート形式 サイド サイド サイド サイド コンビ(サイド+ペリ) ペリ ペリ サイド(ブリッジ)
吸気ポート総数 4 4 4 4 4 2 2 2
排気ポート方式 ペリ ぺり ペリ ペリ(3孔ハニカム) ペリ ペリ ペリ ペリ
排気ポート総数 2 2 2 2 2 2 2 2
アペックスシール 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン 6mm幅一体式カーボン
圧縮比 9.4 9.4 9.4 9.4 9.4 9.4 9.4 9.4
最高出力(PS/rpm) 110/7,000 128/7,000 100/7,000 105/7,000 130/7,000 195/9,000 224/10,000 約200/8,500
最大トルク(kgf·m/rpm) 13.3/3,500 14.2/5,000 13.5/3,500 13.7/3,500

10Aの搭載車[編集]

市販車[編集]

  • サーマルリアクタなし
コスモ・スポーツ、ファミリア、サバンナ
  • サーマルリアクタ付
ファミリア

レーシングカー[編集]

  • ツーリングカー
コスモ・スポーツ、ファミリア、サバンナ
  • 2座席スポーツカー
シェブロンB16
KE-RE-1

参考文献[編集]

  • 『ロータリーエンジンの20年 THE ROTARY』(大関博監修)(グランプリ出版)
  • 『マツダ ロータリーエンジン40年史』 (ニュース出版)ISBN 978-4-89107-554-5

関連項目[編集]