マイアミ・エア・インターナショナル293便着陸失敗事故

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マイアミ・エア・インターナショナル 293便
オーバーランし、セントジョンズ川に着水した事故機
事故の概要
日付 2019年5月3日
概要 ハイドロプレーニング現象による滑走路のオーバーラン
現場 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国ジャクソンビル海軍航空基地英語版先のセントジョンズ川
北緯30度13分54秒 西経81度39分38秒 / 北緯30.23167度 西経81.66056度 / 30.23167; -81.66056座標: 北緯30度13分54秒 西経81度39分38秒 / 北緯30.23167度 西経81.66056度 / 30.23167; -81.66056
乗客数 136
乗員数 7
負傷者数 21
死者数 0
生存者数 143(全員)
機種 ボーイング737-81Q
運用者 アメリカ合衆国の旗 マイアミ・エア・インターナショナル英語版
機体記号 N732MA
出発地 キューバの旗 リーワード・ポイント飛行場
目的地 アメリカ合衆国の旗 ジャクソンビル海軍航空基地英語版
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マイアミ・エア・インターナショナル293便着陸失敗事故(マイアミ・エア・インターナショナル293びんちゃくりくしっぱいじこ)は、2019年5月3日に発生した航空事故である。

リーワード・ポイント飛行場ジャクソンビル海軍航空基地英語版行きだったマイアミ・エア・インターナショナル293便(ボーイング737-81Q)がジャクソンビル海軍航空基地への着陸時に滑走路をオーバーランし、セントジョンズ川に着水した。乗員乗客143人中21人が負傷した[1]

国家運輸安全委員会(NTSB)は大雨の中、溝の掘られていない滑走路へ着陸したため、ハイドロプレーニング現象が発生したことが事故原因だとした。最終進入と着陸時にパイロットは複数のミスを犯していたが、NTSBはこれらが無かったとしても機体は滑走路内で停止できなかったと結論づけ、一連のエラーを事故原因から除外した[2]

飛行の詳細[編集]

事故機[編集]

2013年に撮影された事故機

事故機のボーイング737-81Q(N732MA)は、製造番号830として製造され、2001年4月12日に初飛行した機体である。事故時点での機齢は18.1年で、2基のCFMI CFM56-7B26エンジンを搭載していた[1]。製造直後の2001年4月にマイアミ・エア・インターナショナルに引き渡されたのち、マーティンエアーXL航空(イギリス・ドイツ)、TUIフライ・ネーデルラントなどに何度かリースされている[3]

乗員[編集]

機長は55歳の男性で、2008年からマイアミ・エア・インターナショナルに勤務していた。総飛行時間は7,500時間で、ボーイング737では2,200時間の経験があった。機長は同社のチェック・パイロット英語版でもあった[4][5]

副操縦士は47歳の男性で、マイアミ・エア・インターナショナルに入社したのは事故の5ヶ月前だった。総飛行時間は7,500時間だったが、ボーイング737での経験はわずか18時間だった[6][5]

事故当時、副操縦士は訓練を修了したばかりで、機長がチェック・エアマンを務めていた[6]

事故の経緯[編集]

293便は、リーワード・ポイント飛行場からジャクソンビル海軍航空基地英語版へ向かう軍用のチャーター便だった。乗客は軍人や軍関係者がほとんどであった[7]UTC23時19分に293便はリーワード・ポイント飛行場を離陸した。事故当時、機長が操縦を担当し、副操縦士が計器の監視を行っていた[8]

現地時間21時22分19秒にパイロットはジャクソンビルの管制と交信を行った[9][10]。進入管制官は滑走路28への着陸を提案した[10]。21時22分に記録された気象情報には東からの4ノット (7.4 km/h)の風と、雷雨が含まれていた。パイロットは提案された滑走路28では無く反対側の滑走路10への着陸が可能かどうか聞いた[11]。21時23分、管制官は滑走路10の手前5海里地点に降雨があることを知らせた。21時25分にパイロットは滑走路28への進入を継続すると伝えた[11]。管制官は嵐が東へ移動していることを報告し、滑走路10への着陸を提案した[11]。この提案を受けてパイロットは滑走路10への着陸を決定した[1][11][10]。進入中、293便はグライドパスよりも高い高度を飛行しており、対気速度は目標速度よりも17ノット (31 km/h)速い170ノット (310 km/h)だった[12]。着陸の8秒前、降下率が毎分1,580フィート (480 m)に達し、「Sink Rate」の警報が作動した[8]。293便は滑走路端から1,580フィート (480 m)の地点に対地速度180ノット (330 km/h)で着陸した[1][13]。着陸後、機長はブレーキをかけたが機体は滑走路内で停止せず、21時42分19秒に滑走路端から1,164フィート (355 m)地点にある護岸に衝突し、セントジョンズ川に着水した[1][14]

事故翌日の様子

50人以上の消防士を含む救助隊が乗員乗客143人全員を救助した[15][16][17][18][1]。救助隊が到着するまで、機体は水没せず、客室への浸水もなかった[19][20][18]。21人が負傷し、病院へ搬送されたが、重傷者は無かった[19][21]

当局は、航空燃料が川へ流出する可能性を懸念している[17][19]。この事故を受けて、ドナルド・トランプ大統領は、ジャクソンビル市長のレニー・カレー英語版と接触した[19][21]

事故調査[編集]

回収されたフライトデータレコーダー

国家運輸安全委員会(NTSB)とボーイングアメリカ海軍が調査を開始した[19][20][22]。初期の報告では、スラストリバーサーが故障した可能性とパイロットによる滑走路の変更に焦点を当て、調査を行うと述べた[23]

事故機の右エンジンの逆噴射装置は作動不良を起こしており、運用許容基準に従って着陸時には使用しないこととなっていた[1]。着陸進入中、パイロットはスピードブレーキをアームド位置に設定していなかった。着陸の4秒後にスピードブレーキは展開されたが、アームド位置にしていれば3秒早く展開された可能性が指摘された[1]

2021年8月4日、NTSBは事故の最終報告書を発行し、滑走路に溝が掘られていなかったためハイドロプレーニング現象が発生し、ブレーキが十分に効果を発揮しなかったことが事故原因だとした[2]。これは航空会社の滑走路評価のガイドラインが不十分だったこと、パイロットが着陸復航を行わなかったこと、機長の作業量が多かったこと、着陸時の対気速度が速かったこと、副操縦士経験が少なかったこと、スピードブレーキの展開が遅れたことによって悪化した。NTSBはこれらのエラーが発生しなかったとしても機体は滑走路内で停止できなかったと結論づけた[2][24]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h N732MA accident description”. Aviation Safety Network. 2019年5月4日閲覧。
  2. ^ a b c "Poor Braking Conditions Following Heavy Rain Led to 737 Runway Overrun" (Press release). National Transportation Safety Board. 4 August 2021. 2021年8月4日閲覧...even if none of those errors occurred, the airplane still would not have stopped on the ungrooved runway because the rainfall rate and runway characteristics contributed to water depths that caused the aircraft to hydroplane.
  3. ^ N732MA Miami Air International Boeing 737-800”. 2019年5月8日閲覧。
  4. ^ NTSB, p. 11.
  5. ^ a b “NTSB releases report on 2019 Miami Air crash at NAS Jax”. First Coast News (Gannett). (2021年4月21日). https://www.firstcoastnews.com/article/news/local/ntsb-releases-report-on-2019-miami-air-plane-crash-at-naval-air-station-jacksonville/77-3898733c-3187-402d-af54-b19227ace8da 2021年8月4日閲覧。 
  6. ^ a b NTSB, p. 12.
  7. ^ Vassolo, Martin. “Plane carrying 143 slides off runway into river in Jacksonville. No one killed, sheriff says” (英語). miamiherald. 2019年5月4日閲覧。
  8. ^ a b NTSB, p. 1.
  9. ^ NTSB, pp. 6–7.
  10. ^ a b c Investigative Update - 5/23/2019”. National Transportation Safety Board (2019年5月23日). 2019年5月28日閲覧。
  11. ^ a b c d NTSB, p. 7.
  12. ^ NTSB, pp. 8–9.
  13. ^ NTSB, p. 9.
  14. ^ NTSB, pp. 9–10.
  15. ^ “Boeing 737 skids into Florida river” (英語). (2019年5月4日). https://www.bbc.com/news/world-us-canada-48159676 2019年5月4日閲覧。 
  16. ^ Flight from Guantanamo Bay with 136+ on board crashes in Florida river; everyone safe” (英語). USA TODAY. 2019年5月4日閲覧。
  17. ^ a b Scanlan, Dan. “Airliner skids into St. Johns River at NAS Jacksonville” (英語). The Florida Times-Union. 2019年5月4日閲覧。
  18. ^ a b Maxouris, Christina. “A plane coming from Guantanamo Bay with 143 people aboard skids into a river in Florida”. CNN. 2019年5月4日閲覧。
  19. ^ a b c d e Zaveri, Mihir; Kramer, Margaret (2019年5月3日). “Boeing 737 Skids Into St. Johns River in Jacksonville” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2019/05/03/us/jacksonville-plane-river.html 2019年5月4日閲覧。 
  20. ^ a b Osborne, Mark. “Plane skids off runway into water; only minor injuries” (英語). ABC News. 2019年5月4日閲覧。
  21. ^ a b A Plane Carrying 143 People Slid Off A Runway And Into A River In Florida” (英語). BuzzFeed News. 2019年5月4日閲覧。
  22. ^ Boeing 737 Plane With 143 On Board Skids Into St. Johns River In Jacksonville” (英語). NPR.org. 2019年5月4日閲覧。
  23. ^ “Landing feature failed on Florida plane”. BBC News. (2019年5月6日). https://www.bbc.com/news/world-us-canada-48172777 
  24. ^ NTSB, p. 4.

参考文献[編集]

関連項目[編集]