ポータブルトイレ

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ポータブルトイレとは、トイレが無いところで便意や尿意を催した時に使用する小型の便器(トイレ)。道路における交通渋滞や登山、災害時などに使用したり、怪我や病気で移動が困難な人が用便などする場合などにも使用する。携帯トイレ(けいたい-)とも言う。また災害時の緊急用の設備にも、簡単に組み立てて設置できるタイプのものが見られる。

防災用の簡易トイレ(組み立て式)
テント式の個室と、ダンボール製の組み立て式便器からなり、大小双方に対応する。適時凝固剤を投入して、汚物を固形化して処分できる。なおテント内は臭気がこもらないよう、側面にメッシュの通気窓がある。

概要[編集]

これらの器具は汚物(尿・吐瀉物など)を適切に処理できる設備が無い場所で、これらを衛生的に処理するために用いられる。小型の物では使い捨ての物が主だが、大型の物では汚物を衛生的に容器内に溜め込む事ができる。ただし容量を超えて保存することは出来ないため、定期的に汚物を適切な処理施設などに持ち込んで廃棄する必要がある。

災害でライフラインがダメージを受けている場合に、通常の便所が使用できない・使用すると衛生面で問題が発生するといった場合に、これらポータブルトイレが便宜的に利用される事がある。このため防災倉庫等では一定数の同器具を常備している所も見られる。

古くこれらの器具は単に汚物を溜めるだけの容器であったが、固形物や液体を入れる事から密閉性が求められ、またこれら汚物が腐敗しやすい・分解してアンモニア臭を出す事もあるため、その臭気を抑える事が課題とされた。近年では高分子素材の発達により、液体を吸着する物を用いたり、消臭剤を用いて臭気を抑える物が主流となっている。

また従来では汚物を一次的に保管するだけだった大型・設置型の物では、小型の化学処理や生物学的処理を行う装置を備え、従来よりもより大量の汚物を処理できる物も登場しており、季節で訪れる人の増減が激しい行楽地の仮設便所や、災害時の緊急用としての利用が期待されている。

種類[編集]

使い捨てのものと、洗浄して何度も使えるものと、消耗品を取り替えることで何度も使えるものが存在する。

構造としては、汚物受け(便槽)と本体が分離した物と、それらが一体化した物が存在する。

小便専用型[編集]

袋形[編集]

非常に軽量・コンパクトでありかさばらない。受け口を排尿口に当てて使うが、女性や幼児の場合きちんと密着させておかなければならないため、少々使いにくい。

尿瓶[編集]

尿瓶

尿瓶(しびん)とは、尿を受けるための瓶状の容器。男性用と女性用、子供用が存在する。女性用は男性用に比べて受け口が広い。子供用は受け口が広がっているとともに小さめに作られている。排尿口に当てて使う。寝ながらでも排尿することが出来る。派生形として、持ちやすいよう尿受けと本体が分離した安楽尿器等の器具がある。元来は溲瓶(しびん、しゅびん)という表記だが、あまり用いられない。

尿筒[編集]

尿筒(しとづつ)とは、主としてで作成した携帯型の小便器束帯など複雑長大な衣服を着用して用をたすことが困難な際、衣服中に差し入れて用いた。従者の腰にささせ、または浅黄の嚢にいれて従者にもたせた。 鎌倉時代から江戸時代にかけて、征夷大将軍などの尿筒を扱う公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)と呼ばれる役職が専任かつ世襲で存在した[1]

尿筒は、「完筒」、「環筒」(かんづつ)ともいう。

木曾街道 続膝栗毛 三編 下』(十返舎一九1810年文化7年)〜1822年文政5年))では、作中人物が完筒の中の「酒」を飲んだ一幕がある。

すなわち、

おせう「エエ埒もないひよんだくれなことしたわい」
おやぢ「なんでじやいな」
おせう「その吹筒の酒うつかり呑よつたがアア胸がむかつくむかつく」
弥次「なぜでござります」
おせう「そうたい禁裏の御葬送などの節堂上方がみなもたせらるる'''完筒'''といふものはそれじやわいなあなたがたが急に手水にゆきたくならせられた時それへなさるるものじや江戸でも青竹を火吹竹ほどにきつて大名衆のもたせらるる事があるやはり江戸でも'''完筒'''といふて小便なさるるものじやわいな」
北八「エエそんなら此吹筒もとは公家衆の小便担(たご)かへサアサア大変大変」

とある。

小便器型[編集]

用途は男性の小用限定だが、ポリエチレン製で上部が朝顔便器、下部がポリタンクになったどこでも使用出来る簡易的な小便器が、建設現場や災害時に使用されている。

大小便対応型[編集]

おまる[編集]

おまる

おまる(御虎子)とは、幼児が使用する小型のポータブルトイレである。おむつが取れた後、一般のトイレで用が足せるようになるまでの間に用いられる中継的存在で、トイレットトレーニングなどの家庭教育)にも利用される。大小便・男女兼用。主に2歳から5歳まで使用されることが多い。

汲み取り式便所では、用を足すときに誤って便槽に落ちてしまう恐れがあるため、幼児が安全に用を足せるよう作られたとされる。現在は汲み取り式便所の数も減って、本来の役割が失せたためか、コスト削減のためか、トイレトレーニングにおいておまるをとばして一般の洋式トイレで補助便座を使って行うケースも出てきており、おまるの存在意義が薄れつつある。しかしながら、幼児にとっては、慣れ親しんだ部屋で用が足せるので、安らぎを得ることができるというメリットがある。

幼児がまたがって使用する形の物と、腰掛けて使用する形の物が存在するが、またがって使用する形が一般的。構造としては、汚物受け(便槽)と本体が分離した物と、それらが一体化した物が存在する。男女兼用型ではあるが、男の子向けデザインと女の子向けデザイン、男女兼用型デザインがある。2000年代の日本ではサンリオアンパンマンスヌーピーなどの幼児層に人気のあるキャラクターグッズをあしらった製品が主流であるが、かつては動物をあしらった物(代表としてアヒル白鳥)が主流であった。その他に洋式便器のミニチュア版や男の子用に小便器をかたどった物も存在する。

いきむためや体を固定し易く安定感が得られるように、ハンドル(握り棒)を持つ製品が主流で、このハンドル部分にも様々な形状の製品が多く、また幼児が排泄中にその行為に飽きないよう、玩具としての機能を持つ製品も見られる。

ミニおまる[編集]

組み立て式になっており、組み立てるとおまるのような形になる。大小便・男女兼用型。受け口を排尿口に密着させる必要が無く、腰掛けるだけでよいので、女性や幼児にとっては使いやすい。幼児用と大人対応型が存在する。単にミニおまると言うと、幼児用を指すことが多い。

洋式便器型[編集]

介護などに用いられる。通常のトイレと近い形のため、比較的違和感が少ない。キャンプへ行ったときや災害時などに仮設トイレとして使うのに向いており、頑丈である。汚物タンクにためておいた排泄物をトイレに捨てる形式が一般的であるが、微生物の働きで排泄物を分解してしまい処理の手間を省いた製品も存在する。 また、製品によってはソファー椅子をモチーフにした家具調タイプの物も販売されており、部屋の雰囲気を壊さない、家具としても使えるという長所がある。

主にキャンプ用として簡易水洗タイプのものもあり、便器の上部が洗浄水タンクで下部が汚物タンクの構造となっており、内容物を捨てるときは汚物タンクに専用のパイプを用いて簡単に便器に捨てることができるようになっている。

災害用としては上記のミニおまる同様に組み立て式のものがあり、段ボール製の便器に特殊なビニール袋を入れて、袋の中に処理剤を入れて使用する。袋を交換すれば何度でも使用できるほか、洋式便器に袋と処理剤を入れて使用できるものもある。

差し込み便器[編集]

差し込み便器

差し込み便器(さしこみべんき)とは、お尻の下に差し込んで使う便器。寝ながら排泄することが出来る。寝たきり患者などベッドから動けない人に対して用いられる。ただし、排泄口が下を向かず、重力を利用して排泄することが出来ないため、腹圧を余分にかけて排泄する必要がある。

エチケット袋[編集]

一般的な吐袋

エチケット袋(エチケットぶくろ)は、吐き気を催したときに使う嘔吐物受。乗り物酔いしたときに用いることが多い。または携帯トイレとしても使われることがある。航空船舶などの運輸業では「吐袋(とぶくろ)」と呼ぶ。

製品として販売されているものもあるが所持していなくても、通常のビニール袋でも十分代用できる(ビニール袋が貴重品だった1960年代までは、バケツに古新聞紙を敷いて使っていた)。

紙袋状のものもあり(吐袋はこの形態がほとんどである)、内側にビニールが貼られていて、液体を長時間貯留しても破れないようになっている。ただし、漏れることもあるので長時間の保存時には注意を要する。

使用時はミシン目を切って開封し、用が済んだら袋の口を折り返す。また、折れる部分に鉄芯を入れて、一度折った紙が自然に戻らないように配慮がなされている。

ビニール袋で代用する場合は、外側を紙袋や新聞紙で覆うことにより嘔吐物等を外部に見せないようにする配慮が必要である。

また、小便、大便の処理に使用することも可能。

必要性[編集]

外出[編集]

予想外の渋滞に巻き込まれ、催した際には、道端で用を足しても罪(軽犯罪法違反)にはならないが、公衆衛生上好ましいことではなく、その上恥ずかしく、良いとは言い難い(野外排尿)。特に子供の「トイレ」は突発的に来るので、携帯トイレを用意しておいた方が良い。

登山[編集]

山は気温が低く、微生物の働きが悪いため、その辺に用を足してもなかなか分解されず残ってしまう。山のトイレ(特に標高が高いところ)も排泄物の処理には、処理する人間及び自然に多大なる負荷をかけてしまっている。これに加えて、排泄物に含まれる大腸菌等で湧水が汚染され、飲用できなくなる事態も多発している(北アルプス等)。自然保護のためにも携帯トイレを持参し、排泄物は持ち帰りたい。近年は携帯トイレブース(携帯トイレを使用するときの目隠しとなる施設)の設置も広がりつつある。

信仰上の理由[編集]

特別な理由として、アイヌ民族などは自然界の水(川・海・湖など)を神聖視していたため、これらの場所で用を足すことはタブー視されており[2](水辺に穢れを入れるとして)、舟で遠い海上へ出る際も、大小かかわりなく便は容器にとって陸に持ち帰ってまで処理した[2]。従って、海洋に出るアイヌにとって、今でいうポータブルトイレは必需品であったといえる。

育児/介護/看護(療養)[編集]

育児、介護、看護(療養)でトイレに行って用を足すことが困難な際にポータブルトイレが用いられる。移動距離が少なくなり、本人、介助者ともに負担を減らすことができる。ただし、本人の運動量が減少して筋力の低下や活動意欲の低下を招く恐れもあり、理由が無い限り使用すべきではない(育児においてのおまるの使用は発達上の一課程に過ぎないので問題ない)。

出典・参考文献[編集]

  1. ^ 公人朝夕人 - コトバンク大辞林)、2013年12月02日閲覧。
  2. ^ a b 森浩一 (1975年). 日本古代文化の探求 墓地. 社会思想社.  pp.160 - 161

関連項目[編集]

外部リンク[編集]