ボタンボウフウ
ボタンボウフウ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ボタンボウフウ(カリフォルニア大学植物園、Wikimedia Commonsより)
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分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Peucedanum japonicum Thunb. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ボタンボウフウ(牡丹防風) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
変種および品種 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ボタンボウフウ(牡丹防風、別名 長命草、沖縄方言名 サクナ、学名:Peucedanum japonicum)はセリ科ハクサンボウフウ属[1]の多年生草本。
特徴
[編集]茎は高さ60–100 cm(後述する変種コダチボタンボウフウを除く)。葉は1–2回3出羽状複葉で厚く、粉白色を帯びた青緑色。小葉は長さ3–6 cmの倒卵状くさび形で、先は鋭頭または鈍頭で2–3裂する。花序は頂生し、多数の白い花が面状に集まってつく。花弁は5枚、雄しべは5本。花期は6–10月。分果は長さ5–9 mmの楕円形~長楕円形で扁平、縁に翼があり、背面は有毛、果皮にみられる油管は各背溝下に3–4個、合生面に8個[2][3][4][5][1][6][7]。開花後に枯死するものと、開花後も枯死せずに翌年に再度開花する多年草的な個体が集団内にみられる[8][9]。和名は本種がボウフウ(防風)の仲間で、葉の形がボタンに似ることからつけられた[2][5][6]。
分布と生育環境
[編集]本州中部(日本海側は石川県以南、太平洋側は関東以南)から南西諸島に分布。本州ではやや少ないが、九州の海岸崖地には多い。国外では朝鮮半島南部、中国、台湾、フィリピン最北部バタン諸島に分布。海岸の石灰岩地の岩場や砂地、崖地に生育[2][8][3][4][5][1][7]。
属の和名について
[編集]図鑑等ではPeucedanum属の和名はカワラボウフウ属とされてきたが、カワラボウフウがKitagawia属に変更されたことから、本稿ではPeucedanum属の和名を鈴木(2021)[1]に従いハクサンボウフウ属と表記している。
下位分類群(変種)
[編集]生態を異にする3つの種内分類群(変種)に分けられる。基変種のボタンボウフウ(狭義)P. japonicum var. japonicum[10]は薩摩半島西部以北に分布する。高さは100 cmほどで秋に開花し、多回結実性植物を多く含む。小葉は鈍頭で基部は楔形で少し丸みを帯び、切れ込みはる[8]。
ナンゴクボタンボウフウ(南国牡丹防風、P. japonicum var. australe[8][11])はトカラ列島宝島以南に分布する。石灰岩の上に生育し、高さは100 cmほどで花期は5~6月。一回開花枯死型の植物が多いが多回結実性植物も含む。小葉は鋭頭で基部は楔形、小葉の切れ込みは深く、全体的に細く、典型的な乾燥環境適応型を示す。
コダチボタンボウフウ(木立牡丹防風、P. japonicum var. latifolium[12][13])は屋久島およびトカラ列島(宝島を除く)に分布する。径5 cm以上の直立茎を有し、開花時の最大高は1.5–3 m以上になる。夏に開花し、一回開花枯死型の生活形で開花結実に至るまで最長16年もの長い生育期間を有する。小葉は大きめで丸みを帯び、先は鈍頭で基部はしばしば切形~心形になる[12][8][9]。
ナンゴクボタンボウフウとボタンボウフウ(狭義)は遺伝的に大きく分化し、コダチボタンボウフウはボタンボウフウ(狭義)に近いが、実際の野生集団においてはナンゴクボタンボウフウ集団内に茎が直立する大型個体の集団が分布することもあり、3変種の形質は連続的で明確には区別できない。種子が海流散布で広がり、集団間で海などによる隔離効果が強くは働いていないことが示唆されている[8]。
下位分類群(品種)
[編集]ムラサキボタンボウフウ(紫牡丹防風、P. japonicum f. purpurascens[14])は大分県豊後高田市内に自生し、アントシアニンを含み、茎と葉縁が紫色を帯びる。国東半島周辺において香々地長命草[15]の名前で栽培、製品化されている。
ギャラリー
[編集]- 沖縄県石垣市内の畑に植栽された個体の例
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畑の隅へ植栽
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散形花序
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基部と先端が鈍い小葉
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基部と先端が鋭いが、浅く切れ込む小葉
利用
[編集]若葉は苦みが強く、食用や薬草[3][4][5]、健康食品の材料にされる。沖縄県内では畑や庭で栽培され、天ぷらや白和え、魚汁の薬味に、また久米島[16]や粟国島[17]ではヤギ汁の薬味に利用される[6][7]。
脚注
[編集]- ^ a b c d (鈴木 2021, p. 610)
- ^ a b c (岡崎 1997, p. 122)
- ^ a b c (新里 & 嵩原 2002, p. 130)
- ^ a b c (片野田 2019, p. 179)
- ^ a b c d (中西 2020, p. 110)
- ^ a b c (沖田原 2021, p. 491)
- ^ a b c (林 & 名嘉 2023, p. 145)
- ^ a b c d e f (瀬尾 & 堀田 2000, pp. 99–116)
- ^ a b “4. ボタンボウフウ”. mikawanoyasou.org. 三河の植物観察. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “ボタンボウフウ Peucedanum japonicum var. japonicum”. YList 植物和名-学名インデックス. ylist.info. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “ナンゴクボタンボウフウ Peucedanum japonicum var. australe”. YList 植物和名-学名インデックス. ylist.info. 2025年2月12日閲覧。
- ^ a b (Hotta & Shiuchi 1996, pp. 183–187)
- ^ “コダチボタンボウフウ Peucedanum japonicum var. latifolium”. YList 植物和名-学名インデックス. ylist.info. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “ムラサキボタンボウフウ Peucedanum japonicum f. purpurascens”. YList 植物和名-学名インデックス. ylist.info. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “香々地長命草”. 地域観光資源の多言語解説文データベース. 観光庁. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “久米島のヤギ汁”. NHKアーカイブス. NHK. 2025年2月12日閲覧。
- ^ “ヤギ汁”. www.aguni-archive.jp. 粟国アーカイブス. 2025年2月12日閲覧。
参考文献
[編集]- Hotta, Mitsuru; Shiuchi, Toshiaki (1996), “Notes on the flora of the Ryukyu Islands 1. Two new varieties from the Tokara Islands, Peucedanum japonicum Thunb. var. latifolium (Umbelliferae) and Hydrangea involucrata Sieb. var. tokarensis (Hydrangeaceae)”, J. Jap. Bot. 71: 183–187
- 岡崎純子 著「ボタンボウフウ」、岩槻邦男ら監修 編『朝日百科 植物の世界』 3巻、朝日新聞社、東京、1997年、122頁。ISBN 9784023800106。
- 瀬尾明弘; 堀田満「西南日本の植物雑記V. 九州南部から琉球列島にかけてのボタンボウフウの分類学的再検討」『植物分類,地理』第51巻、第1号、99–116頁、2000年 。
- 新里孝和; 嵩原建二「ボタンボウフウ」『伊江島の植物図鑑』伊江村教育委員会、2002年。
- 片野田逸郎「ボタンボウフウ」『琉球弧・植物図鑑 from AMAMI』南方新社、2019年。ISBN 9784861244056。
- 中西弘樹「ボタンボウフウ」『フィールド版 日本の海岸植物図鑑』トンボ出版、2020年。ISBN 9784887162266。
- 鈴木浩司 著「ボタンボウフウ」、大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司 編『フィールド版改訂新版 日本の野生植物』 2巻、平凡社、2021年、598頁。ISBN 9784582535396。
- 沖田原耕作「ボタンボウフウ」『おきなわの園芸図鑑 園芸植物とその名前』新星出版、那覇市、2021年。ISBN 9784909366832。
- 林将之; 名嘉初美「ボタンボウフウ」『沖縄の身近な植物図鑑』(第2版)ボーダーインク、2023年。ISBN 9784899824350。
外部リンク
[編集]- ボタンボウフウ 東邦大学薬学部付属 薬用植物園
- ボタンボウフウ 熊本大学薬学部薬用植物園 植物データベース
- ボタンボウフウ 八丈植物公園・八丈ビジターセンター (公財)東京都公園協会
- ボタンボウフウ 林野庁 西表森林生態系保全センター
- ボタンボウフウ(牡丹防風)長命草 うちなー通信
- ボタンボウフウ ノパの庭
- 紫ボタンボウフウ 2018-11-25 おはようサンデー 甲斐蓉子の教えて!農業 OBSラジオ (株)大分放送
- サクナ 毎日のごちそうネタあります! 沖縄食材情報くゎっちーおきなわ 沖縄県農林水産物総合情報発信事業
- 地域資源を活かしたふるさとづくり 与那国島長命草生産組合 【八重山】「沖縄、ふるさと百選」認定団体紹介 沖縄県ホームページ