ボゴリューボフ変換

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理論物理学では、ボゴリューボフ変換(Bogoliubov transformation)とは、ある正準交換関係代数英語版正準反交換関係代数英語版ユニタリ表現から他のユニタリ表現へのユニタリ変換のことをいい、交換関係代数の同型により引き起される。この変換の名称は、発見者ニコライ・ボゴリューボフ英語版(Nikolay Bogoliubov)の名前に因んでいる。ボゴリューボフ変換はハミルトニアンを対角化することによく使われ、対応するシュレディンガー方程式の安定解の存在を主張している。例えば、等質な状態のBCS理論の解はボゴリューボフ変換を使って見つけ出せる。ボゴリューボフ変換は、ウンルー効果ホーキング輻射や他の多くのトピックスを理解する上でも重要である。

単一ボゾンモードの例[編集]

次の調和基底では、ボゾン的な消滅生成作用素(operatorのことを「作用素」という訳語を本記事では使う、通常「演算子」が使われるがユニタリ変換の部分では作用素という訳語が適当であるからである。)の交換関係を考える。

\left [ \hat{a}, \hat{a}^\dagger \right ] = 1

新しい作用素のペアを、

\hat{b} = u \hat{a} + v \hat{a}^\dagger
\hat{b}^\dagger = u^* \hat{a}^\dagger + v^* \hat{a}

と定義する。ここに後者は前者のエルミート共役である。このボゴリューボフ変換は、これらの作用素中で正準変換となる。変換が正準であるための条件は、定数 uv の条件で考えると、交換子が次のように拡張される。

\left [ \hat{b}, \hat{b}^\dagger \right ]
     = \left [ u \hat{a} + v \hat{a}^\dagger , u^* \hat{a}^\dagger + v^* \hat{a} \right ]
     = \cdots = \left ( |u|^2 - |v|^2 \right ) \left [ \hat{a}, \hat{a}^\dagger \right ].

\,|u|^2 - |v|^2 = 1 がボゴリューボフ変換が正準であるための条件であることが分かる。この条件の形式は双曲函数 \cosh^2 x - \sinh^2 x = 1 の密度の類似物であるので、定数 uv は次のようにパラメトライズされる。

u = e^{i \theta_1} \cosh r \,\!
v = e^{i \theta_2} \sinh r \,\! .

応用[編集]

最も卓越した応用は、ニコライ・ボゴリューボフ英語版自身の超流動の脈絡に出てくる。[1] 他の応用としては、反強磁性の理論でのハミルトニアンと励起に応用される。[2] また、曲がった時空の中の場の量子論の計算をするとき真空の定義が変化するが、異なる真空の間のボゴリューボフ変換が可能であり、このことからホーキング輻射が導出される。

フェルミオニックモード[編集]

反交換関係

\left\{ \hat{a}, \hat{a}^\dagger \right\} = 1,

に対して、uv の同じ変換は、

\left\{ \hat{b}, \hat{b}^\dagger \right\} = (|u|^2 + |v|^2) \left\{ \hat{a}, \hat{a}^\dagger \right\}

となる。

変換を正準な形とすると、uv は次のようにパラメトライズすることができる。

u = e^{i \theta_1} \cos r \,\!
v = e^{i \theta_2} \sin r \,\! .

応用[編集]

再び、ニコライ・ボゴリューボフ自身の卓越した応用は、超伝導BCS理論への応用である[2]。ここでボゴリューボフ変換が必要であることは、明らかに、平均場での近似ではどちらの場合も系のハミルトニアンは元の生成作用素と消滅作用素 \,\langle a_i^+a_j^+\rangle の双線型項の和として書くことができる。つまり、普通のハートリー-フォックの方法を越えねばならない。核物理学でも、この方法は重元素の核子の「ペアリングされたエネルギー」を記述であろうから、応用がある。[3]

多重モードの例[編集]

考えているヒルベルト空間は、これらの作用素を持っていて、従って高次元の量子調和振動子英語版(普通は無限次元になる)を記述する。

対応するハミルトニアン基底状態は、全ての消滅作用素により消滅させられる:

\forall i \qquad a_i |0\rangle = 0

全ての励起状態は、ある生成作用素によって励起した基底状態の線型結合により得られる。

\prod_{k=1}^n a_{i_k}^\dagger |0\rangle

従って、次の線型な式として生成消滅作用素を再定義することができる。

a'_i = \sum_j (u_{ij} a_j + v_{ij} a^\dagger_j)

ここに係数 \,u_{ij},v_{ij} は、ハミルトン共役(随伴作用素)により定義された消滅生成作用素a^{\prime\dagger}_i がボゾンに対しては交換関係、フェルミオンに対しては反交換関係を満たすことを保証するルールを満たすとする。

上記の式は、作用素に対するボゴリューボフ変換を定義する。

全ての a'_{i} によって消滅させられた基底状態は、元々の基底状態 |0\rangle とは異なっていて、両者は互いに作用素の状態の対応を使いボゴリューボフ変換により結び付けられているとみなすことができる。それらはスクイズドコヘレント状態英語版として定義することもできる。BCS波動函数は、フェルミオンのスクイズドコヘレント状態の例である。[4][5]

参考文献[編集]

  1. ^ Nikolai Bogoliubov: On the theory of superfluidity, J. Phys. (USSR), 11, p. 23 (1947)
  2. ^ a b See e.g. the textbook by Charles Kittel: Quantum theory of solids, New York, Wiley 1987.
  3. ^ Vilen Mitrovanovich Strutinsky: Shell effects in nuclear physics and deformation energies, Nuclear Physics A, Vol. 95, p. 420-442 (1967), [1] .
  4. ^ Svozil, K. (1990), "Squeezed Fermion states", Phys. Rev. Lett. 65, 3341-3343. doi:10.1103/PhysRevLett.65.3341
  5. ^ 上田正仁. (2011), "現代量子物理学", 倍風館, 第4版, p99, 3.9 スクイズド状態

文献[編集]

全体のトピックや多くの応用については次の教科書を参照。

  • J.-P. Blaizot and G. Ripka: Quantum Theory of Finite Systems, MIT Press (1985)
  • A. Fetter and J. Walecka: Quantum Theory of Many-Particle Systems, Dover (2003)
  • Ch. Kittel: Quantum theory of solids, Wiley (1987)