ボウイング

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ボウイングBowing)は、運弓法(うんきゅうほう)ともいい、擦弦楽器にあってをどのように動かすかという方法をいう。

ヴァイオリンヴィオラチェロコントラバスヴァイオリン属の楽器など、擦弦楽器では弓の毛の部分を楽器の(げん)の上を垂直に交わるように接触させて音を出す。弓や弦の位置、接触させる毛の量(弓を傾ける角度)、弓を動かす方向、弦に加える力の強さ、弓を動かす速さによって音の強さ音色が変わる。あまり使われないがエレクトリックギターを強く歪ませた音にして使われる事もある(ボウイング奏法を参照)。

用語[編集]

弓の各部の名称[編集]

さお[編集]

弓の木部。

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弓の毛。

毛箱(わく、フロッグ、ナット)[編集]

さおに取り付けられた黒い箱。

パールアイ[編集]

毛箱についた丸い模様の装飾。

ネジ(スクリュー)[編集]

さおの元の部分についたネジ。毛の張り具合を調整するのに使う。

チップ[編集]

弓の先端に貼り付けられた部品。

弓の毛の部位[編集]

弓先(ティップ)[編集]

弓の毛の先端、チップ付近。

弓元(ナット)[編集]

弓の毛の根元、毛箱付近。

重心[編集]

弓が重さで釣り合う点で、弓元から毛の1/3くらいの場所になる。

弓の量[編集]

全弓[編集]

弓先から弓元までの弓の毛全て。

先半弓(上半弓)[編集]

弓先から弓の中心あたりまで。

元半弓(下半弓)[編集]

弓の中心あたりから弓元まで。

先弓[編集]

弓先から毛の1/3程度。

中弓[編集]

弓の毛の中心1/3程度。

元弓[編集]

弓の重心から弓元までの、毛の1/3程度の部分。

弓の方向[編集]

ダウン・ボウ[編集]

弓元から弓先に向かう方向に弓を動かすこと。下げ弓。フランス語ではtiré(引く)。

アップ・ボウ[編集]

弓先から弓元に向かう方向に弓を動かすこと。上げ弓。フランス語ではpoussé(押す)。

ヴァイオリン属のボウイング[編集]

弓の持ち方[編集]

指は全て自然な向きに曲げる。親指の先をさおと毛箱の両方に触れるように下から当て、弓の重さを親指で支える。人差し指・中指・薬指の第1関節付近がさおに上から接するように当てる。薬指の先は毛箱に触れる。ヴァイオリンとヴィオラは小指の先をさおの上に載せる。チェロは他の指と同様に第1関節でさおに上から接するように当てる。ヴァイオリンの弓の持ち方は、指の接する場所・指の傾き・持つ深さなどによって、ジャーマン式・フランコ=ベルギー式・ロシア式に分かれる。

基本運動[編集]

右手で弓を持ち、常に弦に対して垂直に交わるように往復させる。弓は直線運動であるのに対し、人体の構造上肘を屈伸させると手先は円を描く。各楽器によって弓の持ち方が異なるが、円運動を直線運動に変換させるためには手首と指の使い方が肝要である。

弓の圧力[編集]

腕の重さと弓の重さを自然にかけ、押し付けず、空回りしない圧力で一定させるが、先弓・中弓・元弓と重さのかかり方が変化するので、右手首や右手指での調整が必要とされる。

弾き始める弓の位置[編集]

弓のどこでも同じように弾けるように練習するが、場所によって傾向が違うので、求められている表現によって使い分ける。先弓はピアノやトレモロや細かい表現に適し、元弓は音量を出すのに適し、中弓はオールマイティである。

弓を弾く弦の位置[編集]

基本は、駒と指板の(駒側の)端の中間を弾く。弦の中央(振幅の中心)に向かって駒から遠い方が柔らかく小さい音に、逆に端(駒)に近い方がきつく強い音になる。前者をスル・タスト、後者の極端なものをスル・ポンティチェロと言い、しばしば作曲者によって奏法が指示される。

弓の毛の量[編集]

弦に接触させる弓の毛の量が多いほど、量感のある音となり、逆に少ないほど繊細な音になる。弓の毛の量は、ヴァイオリン・ヴィオラでは弓を傾ける手首の角度によって調整される。チェロは弓の傾きは一定に保って演奏するため、毛の量は弓の弦への沈め方で調整する。同様の調整はヴァイオリン・ヴィオラでも使われる。

弓の方向[編集]

元から先に毛を使う方向をダウン・ボウ(下げ弓)、逆をアップ・ボウ(上げ弓)と言い、それぞれDownbow001.pngUpbow001.pngの記号を使う。一般的にダウン・ボウを強拍に、アップ・ボウを弱拍に用いる。

また、だんだん弱くなる場合にはダウン・ボウが、だんだん強くなる場合にはアップ・ボウが適する。

しかし、基礎練習時に関しては別で、ダウン・ボウ、アップ・ボウ両方において、同様の表現が出来る様に(根元と弓先で均一な音を出せる様に)練習をする。

楽譜にスラーが書かれていれば、それは複数の音に対して一弓(ひとゆみ)で演奏することを意味する。また、トレモロは逆に一つの音を何度も速く細かく返して(方向を変えること)演奏することであり、独特の聴感がある。合奏の場合は全員が同時に返す場合と、同時でなくなるべく速く返すようにする場合とがあり、聴感が異なる。

スラーの場合、ヴァイオリンとヴィオラでは上行音型にはダウンボウが適し、チェロとコントラバスでは逆になる。これは楽器を構える方向が体に対して逆、すなわち弦の高低の順番が弓に対して逆(ヴァイオリンとヴィオラでは高い弦が弓元に近く、チェロとコントラバスでは低い弦が弓元に近い)である事に起因する。非常に長い範囲にスラーがかかっていて記譜通りに演奏するのが不可能な場合は途中で弓を返す必要がある。この場合、奏者はアーティキュレーションの性格を損なわないよう注意して演奏する。音が途切れないようにするのは独奏の場合は難易度の高い技術である。合奏では、ひとつのパートの中で(他の奏者と)返すタイミングを意図的にずらすことで音が途切れないようにする。

同じ音形でも弓の使い方によって表情が変わってくるため、指揮者が運弓法を指示することも多い。

接点・圧力・速度・音量・音色の関係[編集]

弓と弦の接点は指板と駒の中央が基本だが、高音弦側に行くほど・音やポジションが高くなるほど駒に近い方が良く響き、逆に低音弦側に行くほど指板に近い方が良く響く。ヴァイオリンのG線は指板の端から1.5cmほどの場所、E線は駒から1.5cmほどの場所が基本になる。

圧力は小さすぎれば音が出なかったり弦の表面を弓が滑るだけになったりし、大きすぎれば弦の振動を妨げ音が潰れる。音程も圧力によって変化する。

速度はあるところまでは速い方が音量が増すが、弦を振動させる適正な範囲より速くなると弓が滑ってかえって音量が出なくなる。

接点の場所により、適切な圧力と速度のバランスが変化する。指板と駒の中央を弾いている場合を標準とすると、指板寄りは弱い圧力と速い弓が適し、コマ寄りは強い圧力と遅い弓が適する。

音量とは、弦楽器の場合は弦の振幅のこと。圧力や速度を単純に増すとガーッと鳴っているように感じるが、雑音の成分が目立っているだけであり、近くではうるさく、遠くでは聞こえない。弦の振動がコマを通じて表板や裏板を振動させて発生するのが弦楽器の音であるため、振幅=音量である。

音量は、接点と圧力と速度の関係で決まる。接点ごとに最大の振幅を出せる圧力と速度のバランスが存在し、そこから圧力か速度を減じると音量が下がる。コマ寄りで圧力を減じすぎると音が裏返り、指板寄りで速度を減じすぎると引っかかってまともな音がしない。

音色は、主に接点と圧力で決まる。コマに寄るか圧力を高めると倍音の多いキラキラした音色になり、指板に寄るか圧力を弱めると倍音の少ない素朴な音色になる。当然、まともに音の出るバランスの範囲内で弾くことが前提である。

「常に弦に対して垂直になるように往復させる」のは接点が一定になるためであり、音量や音色を連続的に変化させたい場合はあえて斜めに運弓して接点を移動させる場合もある。

様々なボウイング[編集]

ボウイングの用語は一定したものがなく、時代・国籍・流派によって違っており、また奏法の用語と発想用語が混在し、全体として混乱した状態になっているので注意。

デタシェ[編集]

フランス語で「分割」の意味。クリアな発音で弾くが、出だしが特に強いわけではない。「普通の弾き方」とも言える。

アクセント[編集]

音の立ち上がりの圧力か速度を高めにし、発音をはっきりさせる。

マルトレ[編集]

マルテラートとも。高い圧力で音を始め、弓の必要量を一気に移動させて「ポン」という感じで音を出す。スタッカートやアクセントのついた音符で使うと適切な場合が多い。

コーレ[編集]

マルトレと同様のことを、手首と指の運動だけで行う。短い音符で連続したスタッカートなどで、マルトレでは間に合わない場合に使われる。チェロやコントラバスには存在しない。

レガート[編集]

弓の返しぎわができるだけ滑らかになるよう、右手首や右手指の動きを駆使して音の境を目立たないようにするもの。

スピッカート[編集]

サルタート、飛ばし弓とも。弓を弦上1~2cmのところから落とし、はねかえる力を使って弓を跳ねさせつつ弾く。

ソティエ[編集]

半飛ばしとも。速い16分音符などで、弓の張力で勝手に跳ねようとする力を利用し、返しの時に弦から弓が離れかかっている状態をつくり、それぞれの音をはっきりさせる。

リコシェ[編集]

弓を弦の上から落とし、一弓で連続して跳ねさせる。ゴセックのガボットは初心者が最初にリコシェに出会う例。

ワンボウ・スタッカート[編集]

単にスタッカートと言われる場合もある。ソリッド・スタッカートとも言う。一弓で何音も連続させる奏法だが、リコシェと違い跳ねさせることはせず、前腕の回転・手首でトレモロの動き・人差し指と親指で弓をはさむ動きのいずれかで弓を数㎝ずつ進める。大半はアップボウである。ホラ・スタッカートはワンボウ・スタッカートを駆使した難曲の例である。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

ヴァイオリン各駅停車―Guide to the violin、森元志乃、レッスンの友社 ISBN 978-4947740038

ヴァイオリン奏法と指導の原理、イヴァン・ガラミアン、音楽之友社 ISBN 978-4276144521

いまさら聞けないヴァイオリンの常識、川合左余子、音楽之友社 ISBN 978-4276144132

ヴァイオリン Basics: いつでも学べる基本練習300、サイモン・フィッシャー、音楽之友社 ISBN 978-4276144620

外部リンク[編集]

Violinmasterclass