ペスト (小説)

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ペスト
La Peste
初版本
初版本
作者 アルベール・カミュ
フランスの旗 フランス共和国臨時政府
言語 フランス語
ジャンル 長編小説不条理小説、実存小説
発表形態 書き下ろし
刊行 ガリマール出版社 1947年6月
受賞 クリティック賞
訳者 宮崎嶺雄
日本語訳刊行-創元社 1950年 NCID BN05568633
[1]
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ペスト』(: La Peste)は、フランスの作家・アルベール・カミュが書いた小説。出版は1947年[1]1957年に40歳台前半でノーベル文学賞を受賞したカミュの代表作の一つである。

フランツ・カフカの『変身』とともに代表的な不条理文学として知られる。カフカの『変身』は不条理が個人を襲ったことを描いたが、カミュの『ペスト』は不条理が集団を襲ったことを描いた[2]。この『ペスト』で描かれる不条理は伝染病ペストである。カミュは、中世ヨーロッパで人口の3割以上が死亡したペストを、不条理が人間を襲う代表例と考え、自らが生まれ育った北アフリカのフランス領を舞台にしたこの小説を書いた[2]

物語は、フランスの植民地であるアルジェリアオラン市をペストが襲い、苦境の中、団結する民衆たちを描き、無慈悲な運命と人間との関係性が問題提起される。医者、市民、よそ者、逃亡者と、登場人物たちはさまざまだが、全員が民衆を襲うペストの脅威に、助けあいながら立ち向かう。

語り口は、個々のセンテンスが複数の意味を内包し、その一つが現象的な意識および人間の条件の寓意である点で、カフカの小説、とくに『審判』に通じるものがあると言われている。カミュのアプローチは非情で、語り手である主人公は、自分たちは結局何もコントロールできない、人生の不条理は避けられないという考えを力説する。カミュは不条理に対する人々のさまざまな反応を例示し、いかに世界が不条理に満ちているかを表した。

なお、この小説は架空のものであり、オラン市で実際にペストが発生したわけではない。ドキュメンタリー風に描かれている。[3]


登場人物[編集]

  • 語り手:その正体は最後になって明かされる。
  • ベルナール・リウー:医師。
  • ジャン・タルー:よそ者、彼の手帳がこの作品のもうひとつの語手。
  • ジョセフ・グラン:作家志望の下級役人。
  • コタール:絶望に駆られた男、犯罪者。
  • カステル:医師。
  • リシャール:市内で最も有力な医師の一人。医師会長。
  • パヌルー:博学かつ戦闘的なイエズス会の神父。
  • オトン氏:予審判事、「ふくろう男」。
  • レイモン・ランベール:新聞記者。
  • 喘息病みの爺さん:リウーの患者

あらすじ[編集]

はじまりは、リウーを階段でつまづかせた一匹の死んだだった。やがて、死者が出はじめ、医師のリウーは死因がペストであることに気付く。新聞やラジオがそれを報じ、町はパニックになる。死者の数は増える一方で、最初は楽観的だった市当局も対応に追われるようになる。

やがて町は外部と完全に遮断される。脱出不可能の状況で、市民の精神状態も困憊してゆく。

ランベールが妻の待つパリに脱出したいと言うので、コタールが密輸業者を紹介する。コタールは逃亡者で町を出る気はなかった。パヌルー神父は、ペストの発生は人々の罪のせいで悔い改めよと説教する。一方、リウー、タルー、グランは必死に患者の治療を続ける。タルーは志願の保険隊を組織する。

ランベールは脱出計画をリウー、タルーに打ち明けるが、彼らは町を離れる気はない。やらねばならない仕事が残っているからだ。リウーの妻も町の外にいて、しかも病気療養中だということを聞かされたランベールは考えを改め、リウーたちに手伝いを申し出る。

少年が苦しみながら死んだ。それも罪のせいだと言うパヌルー神父に、リウーは抗議する。確かに罪なき者はこの世にはいないのかも知れない。神父のパヌルーもまたペストで死んでしまうのだから。

災厄は突然潮が退いたように終息する。人々は元の生活に戻ってゆく。ランベールは妻と再会でき、コタールは警察に逮捕される。流行は過ぎたはずなのに、タルーは病気で死んでしまう。そして、リウーは療養中の妻が死んだことを知らされる。

市中はペスト終息であちこちから喜悦の叫びが上がっている。しかし語り手は、ペスト菌は決して消滅することはなく生き延び、いつか人間に不幸と教訓をもたらすために、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに現れるだろう、自分はそのことを知っている、と述べて物語を締めくくる。

他の作品への言及[編集]

  • 最初のパートで、リウーは、浜辺で射殺された男の話を耳にする。おそらくカミュの『異邦人』で主人公が射殺したアラブ人のことであろう。
  • 初めの方で、コタールがカフカの『審判』について言及する。

日本語訳書[編集]

感染症と社会的関心[編集]

2019年コロナウイルス感染症による社会・経済的影響の一つとして、カミュの「ペスト」に対する関心が高まり、イタリアフランスイギリスなどでベストセラーになった[4]日本でも小説の設定がコロナ禍と酷似しているとして話題になり、2020年4月には1969年から刊行されている文庫版の発行部数が累計100万部を超えた[4]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 1947年に「ペスト」を初出版したフランスの「ガリマール出版社」サイト、「ガリマール出版社」は主に文学作品を扱うフランス大手出版社。
  2. ^ a b NHK 2018年6月4日放送 100分de名著 アルベールカミュ「ペスト」第一回、中条省平(学習院大学教授)
  3. ^  ネット上で確認できる。「カミュの名作『ペスト』を高橋源一郎が読み解く!」NHK 参照  小野文恵アナ:私、本当にアルジェリアのオラン市でペストが大流行したのかと思って、だまされてしまったぐらい…。 高橋源太郎:ドキュメンタリーのタッチで書かれているんですね。 小野アナ:架空のお話なんですが…。 高橋:とは思えないですよね。
  4. ^ a b カミュの「ペスト」100万部突破 新潮文庫、新型コロナで世界的関心.新潮文庫版は69年刊行。増刷は年平均5千部程度が、2020年2月以降だけで30年分相当の15万4千部を増刷した。時事通信 (2020年4月8日) 2020年4月9日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]