ベーシックマスター

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ベーシックマスターBasic Master)は、日立製作所製のパソコンである。本稿では後に発売されたS1シリーズについても、併せて説明する。

ベーシックマスター[編集]

1978年9月に発売された、国内初の8ビットパソコンである[1][2]。同様の製品がマイコンと呼ばれていた当時、「パーソナルコンピューター」という言葉を日本で最初に大々的に使ったのは日立である[3]

この機種以前には大手の電機メーカーから発売されたものは、TK-80のような基板剥き出しのワンボードマイコンや、キーボードが付属(一体型)でも非常に高価な品で、まるで“パーソナル”とは言えなかった。ベーシックマスターは一般家庭用TVをモニタとして使用できることを前提にして、価格を抑えているなど、個人や家庭、つまりはパーソナルを意識した商品である。

製作したのは日立製作所のコンピューター部門ではなく、同社の横浜工場のテレビ部隊である。当時はまだマイクロコンピューターが商品として成立するかどうか懐疑的とされていた。当機は「日立製作所のコンピューター製品」というよりも、「家庭用のニッチ家電」という位置付けだった。

以降、同部隊から後継機が発売されると、愛好家の間では単に「レベル○」、または「ベーマス○」などと呼ばれた。以後、本稿ではレベル1、レベル2などと表記する。

諸元[編集]

  • 形式 MB-6880
  • CPU HD46800(6800互換・750kHz)
  • メモリ ROM 8KB / RAM 4KB
  • グラフィック解像度 64×48ドット 単色
  • 主な外部記憶はカセットテープレコーダーであり、速度は300ボー
外付けでカセットMTがオプションで用意された。

BASICインタプリター[編集]

BASICのコマンドには、以下のような機能があった。

  • LISTまたはL(短縮形) :入力したコードの表示、行番号を指定して表示可能。
  • SEQ :行番号を自動的に生成する機能。改行すると次の行番号が表示される。マイクロソフト系BASICのAUTOコマンドに相当する。
  • RESEQ :行番号を指定された刻みで整列する機能。マイクロソフト系BASICのRENUMコマンドに相当する。
  • RUNまたはR(短縮形) :コードを実行する。
  • SAVE :カセットテープにコードを出力する。
  • LOAD :カセットテープからコードを入力する。
  • VERIFY :カセットテープに出力した内容が正しいかどうかを確認する。

機械語モニタ[編集]

モニタモードに入るには、MONと入力し、終了するにはEをタイプする。

  • M : メモリを256バイトずつ直接編集可能なモード。機械語を直接入力したりメモリの内容を書き換えることが可能。
  • P : プログラムカウンタを変更する機能。
  • S : 機械語をステップ実行する機能。

その他、レジスタの内容を直接書き換える機能があった。

シリーズ[編集]

ベーシックマスターレベル2

1979年2月発売[1]/標準価格228,000円)

  • MB-6880L2 ROM 16KB / RAM 8KB

レベル1に対して、浮動小数点演算などBASICの機能を強化したモデル。内蔵BASICはレベル2BASICと呼ばれる。

ベーシックマスターレベル2 II

1980年発売/標準価格148,000円)

  • MB-6881 ROM 16KB / RAM 16KB
後述のレベル3と前後して発売された。RAMを増設、価格を改定したモデル。
レベル2と区別するためにL2 IIと表記されることもある。
「かな」ロックすると、キークリック音が変わる。キーボードからのホットスタートが出来なくなるといった変更点があり、ROM内のプログラムのアドレス変更やBASICの中間コードの変更は、L2との互換性の点で問題となることがあった。

シャープMZ-80日本電気 (NEC) のPC-8001と共にパソコン御三家と呼ばれた。しかし実際には、1980年前後にはPC-8001とMZ-80が日本のマイコン界の主流となり、ベーシックマスターは一歩置いて行かれた存在となった。これは『I/O』など当時のマイコン雑誌に掲載されていた記事や投稿ゲームの数を見ることで、確認することができる。

ベーシックマスターJr.

1981年発売[4]/標準価格89,800円)

  • MB-6885 ROM 16KB / RAM 16KB(最大63.5KB)
後述のレベル3の姉妹機種として1981年12月に発売された。
筐体の形状が変更され、銀と黒のプラスチックをあしらった箱型になっている。キーボードはステップスカルプチャ構造で、この構造は後にレベル3 MarkIIにも採用された。Breakキーは独立し、誤押下を防ぐためのガード板で囲まれている。
基本設計はレベル2IIと同じだが、フルグラフィック用のVRAMが追加され、256×192ドットのグラフィックモードが利用可能になった。グラフィックモードは標準ではBASICの命令ではサポートされず、カセットテープで供給されたソフトウェアを使用するか、直接VRAMを操作する必要があった。また別売のカラーアダプタをつけることにより、8色表示が可能となった。こうして白黒表示のマイクロソフト系でない独自ROM-BASICを搭載した機種にカラー機能を加えたものとしては他に、シャープのMZ-700や、タンディTRS-80Model IIIなどが挙げられる。
別売りの拡張RAM(MP-9785)により64KBのRAMを増設し、I/Oを除く全てのアドレス空間をRAM領域として利用する事が可能。
発売後ROMのアップグレードにより、カセットテープインターフェースの速度が1200ボーに向上するサービスが提供された。
拡張アダプター(MP-1803)を利用することで、3インチコンパクトフロッピーディスクドライブ(MP-3370)を接続可能で、ディスクベーシック(MA-5380)も発売された。

ちなみに、同年末にはNECPC-6001コモドールVIC-1001松下JR-100など同価格帯のパソコンが多く発売になっている。これらのホビーパソコンは最初からアミューズメントを目的に設計されたものであり、旧型機の強化で対応するには限界があった。

ベーシックマスターレベル3[編集]

MPUとしてMC6809 (6809) を搭載したパソコンである。6809搭載のパソコンとしてはFM-8よりも早く、大手電機メーカーから発売されたものとしては日本で最初に6809を搭載したパソコンである。OS-9 Level1が動作可能。同じベーシックマスターを名乗るが、デザイン・機能ともレベル1・2・Jr.とは互換性が全くない。 マイクロソフトBASICやグラフィック解像度などはFM-8、MZ-80B、MZ-2000PC-8800シリーズなど、後に発売されるものに影響を与える。

システムコールの詳細やハードウェアの回路などは、月刊I/Oの別冊『ベーシックマスター活用研究』(I/O編集部 1982)という書籍に掲載されていた。この書籍ではベーシックマスターシリーズのプログラムコンテストで優秀賞を獲得した作品がソースコードつきで掲載されていた。ゲームでは、VZ Editorの開発者による『デストロイ・エイリアン』等が掲載されている。

2015年9月1日国立科学博物館の定めた重要科学技術史資料(通称:未来技術遺産)の第00206号として、登録された[5]

ハードウェア[編集]

  • CPU 6809 1MHz
  • 本体とキーボードの一体型。
当時としては中程度、現在から見ればかなり大きな筐体だった。その形状と拡張性の高さから「和製Apple II」とごく一部で呼ばれることもあった。
  • BREAKキーに誤入力防止のためのカバーがついている。
  • 標準でひらがなの表示が可能。
ひらがなモードでは8×16ドットによってキャラクターを表現する関係からインタレーススキャンを利用するため、ちらつきを防止するために専用ディスプレイは長残光仕様であった。
  • 主な外部記憶はカセットテープレコーダーであり、速度は600ボー。
外付けで8インチ、5インチ、3インチのFDDがオプションで用意された。
  • グラフィック解像度 640×200ドット または 320×200(8色)
横の解像度はテキストの表示モードに依存する。
当初はグラフィック1ドット毎にアトリビュートを指定するという構想だった。しかし、RAMの価格がまだ高価であり、結果的に1バイト単位でしかアトリビュート用のRAMが用意できず、色の指定は横8ドット単位であり、当時の言葉でセミグラフィックと呼ばれた。加えてマイクロソフト側がまだ6809用のROM-BASICの製作に不慣れだったために、当初実装が予定されていたCIRCLEに始まる新機軸のBASIC命令はROM-BASICの肥大化から削除されることとなり、また、通称ハイレゾリューションモード時のBASICのコンソール画面は、キー入力中にスクロールの画面更新を待つ必要があるほど遅かった。

シリーズ[編集]

  • 初代(MB-6890)
1980年[1]5月発売。発売時の価格は298,000円、後にFM-8が218,000円で発売されたことから198,000円に価格改定された。MarkII以降との区別のため、MarkIと呼ぶことがある。
  • MarkII(MB-6891)
1982年[4]4月発売。198,000円。キーボードにステップスカルプチャを採用。
  • Mark5(MB-6892)。
1983年5月発売。118,000円。イメージジェネレータ(プログラマブルキャラクタジェネレータ)を装備。

S1[編集]

8ビットベーシックマスターシリーズの最後の機種として、MSXパソコンMB-H1が発売された1983年の翌年、1984年に発売された。

レベル3から大幅な機能強化を図っており、独自のメモリーコントローラーを搭載することにより最大1Mバイトのメモリ空間を実現した。またグラフィックに関しても、当時の8ビットパソコンの中でも最高速の部類にはいるものであり、性能的に最強の8ビット機として挙げられることもあった。 しかし、時代は既に16ビットパソコンへと移行しつつあり、かつ漢字表示能力においてライバルとなるべきPC-8800シリーズより劣っており、先鋭的ではあったものの、市場を覆すまでには至らなかった。

CPUにはHD68B09Eを搭載し、CRTコントローラーにはそのファミリーであるCRTCを用いた他、12個の専用ゲートアレイ(カスタムLSI)を開発し、6809の処理能力を極限まで引き出したパーソナルコンピューターであった。

速さと先進性を誇示するかのごとく、ワイヤーフレームで描かれた疾走する馬がイメージシンボルに使われていた。

ゲートアレイとその機能

  • YGM001 : システム制御を行う。S1モードとL3モードでクロック周波数を切り替えたり、RAMやI/Oなどのタイミング信号を作る。
  • YGM002 : アドレスデコード用。20本のアドレスバスをメモリーマップにしたがってコントロール。
  • YGM003 : YGM002に収まらなかったデコード回路とI/Oレジスタ機能とPSGの制御を行う。
  • YGD001 : グラフィックのメモリ制御とパラレル/シリアル変換を行う。
  • YGD002 : ビデオスーパーインポーズの機能(YGD001と003から出力されるパラ/シリ変換されたビデオ信号を取り入れてRGB信号として外部に出力する。
  • YGD003 : テキスト画面とIG(イメージジェネレーター)のパラレル/シリアル変換を行う。
  • YGD004 : グラフィック表示とS1で増えたI/O部分のデコードを行う他、IG(イメージジェネレーター)の制御を行う。
  • YGD005 : 画面表示用のデータやアドレス出力をCPUとのサイクルスチールで行うためのバッファリング。
  • YGD006 : YGD005と同様の機能。
  • YGD007 : グラフィックのスーパーインポーズなどのためにCRTCから出力されるアドレスを取り込んでアドレスパターンを出力する。
  • YGP001 : オプションのマウスに同梱されるLSIで、ソフトの負担を軽くするためカウンター回路が入っている。
  • YGP002 : カセットとRS-232CをACIAとともに制御する。

OS-9 Level2が動作可能。

日立が発売した横浜テレビ事業部からのホビーパソコンとしては最後のシリーズとなっている。

ハードウェア[編集]

  • CPU HD68B09E 2MHz(レベル3互換モードでは1MHz)
  • キーボード分離型。
  • 独自のマッピング機能が特徴であるカスタムICにより最大1Mバイトのアドレス空間を実現。
    • 4KBを単位としてメモリのマッピングが可能。マッピングレジスタは16ページ分用意されており、例えば文字列の領域を12ページ目、グラフィックメモリを9ページ目などに自由に割り当てることができ、それらをシステムコールでメモリ空間を切り替えながらアクセスするといった処理をすることができた。メモリ空間の簡易保護も可能。
  • RAM 48KB、VRAM 48KB(グラフィックを利用しない場合はS1 BASICのフリーエリアとして利用可能)
  • レベル3互換モードがある。ROM BASICはS1 BASICとレベル3 BASICの2セット搭載。スイッチにより切り替え。
  • オプションの68008カード、Z80カードを搭載することにより、OS-9/68000、CP/Mの動作が可能。

S1-BASICの特徴[編集]

S1-BASICは従来のL3-BASICに比べて大幅にアルゴリズムの見直しがされたBASICで、マイクロソフト社の純正BASICを日立により改良したものとなっている。

  • コマンド・ステートメントが新設され、かつ機能も拡張された。グラフィック関係、プリンター関係、音楽演奏関係、マウス関係など強化。
  • ユーザー領域が大幅に増えた。標準実装で36KBまたは84KB、RAM拡張時で100KBまたは132KBのメモリー領域が解放され、変数領域、文字列領域がそれぞれ44KBずつ確保できる。
  • ハードウェアの機能向上と相まってアルゴリズムの見直しにより処理速度が大幅に向上。

シリーズ[編集]

  • MB-S1/10 1984年5月 基本モデル
  • MB-S1/20 1984年5月 第1水準漢字ROMカード搭載
  • MB-S1/30 1984年12月 1MB FDD1基搭載
  • MB-S1/40 1984年12月 1MB FDD2基、第1水準漢字ROMカード搭載
  • MB-S1/10AV 1985年 スーパーインポーズ、サウンド(6和音)、ジョイスティック(ATARI準拠2ポート)
  • MB-S1/15 1985年 /10+通信ROMカード+RS232Cポート
  • MB-S1/45 1985年 /40+通信ROMカード+RS232Cポート
  • 来夢来人(Limelight Interfield Systems) JB-806E1-2 1985年 320KB FDD1基、再生専用データレコーダ1基。明記されていないが、S1互換(OEM)。

ベーシックマスター16000[編集]

16ビットベーシックマスターとして発売された。CPUには8088を搭載し、グラフィックアクセラレータを使用しない構成であったが、高速のグラフィックスを実現し、ビジネス用途向けに発売された。

独特の筐体を持ち、その当時にしては珍しくIBM-PC互換機でもあった。

脚注[編集]

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参考文献[編集]

  • 佐々木, 潤 (2013), 80年代マイコン大百科, 総合科学出版, ISBN 9784881818329 
  • I/O編集部, ed. (1982-12), ベーシックマスター活用研究: Level 3,Jr., I/O別冊, 工学社, NAID BN09973134 
  • 関口和一 (2000-03), パソコン革命の旗手たち, 日本経済新聞社, ISBN 4532163315 

外部リンク[編集]