コンテンツにスキップ

ヘンリー・ジェイムズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヘンリー・ジェイムズ
ヘンリー・ジェイムズの肖像画 (1913年)
誕生 1843年4月15日
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニューヨーク
死没 1916年2月28日
イギリスの旗 イギリス ロンドン
職業 小説家
国籍 アメリカ合衆国イギリス
代表作
  • 『ロデリック・ハドソン』(1875)
  • 『アメリカ人』(1877)
  • デイジー・ミラー』(1879)
  • 『ワシントン・スクエア』(1880)
  • ある婦人の肖像』(1881)
  • 『ボストンの人々』(1886)
  • 『アスパンの恋文』(1888)
  • 『メイジーの知ったこと』(1897)
  • ねじの回転』(1898)
  • 鳩の翼』(1902)
  • 『使者たち』(1903)
  • 『金色の盃』 (1904)
親族 ヘンリー・ジェイムズ・シニア(父)
ウィリアム・ジェイムズ(兄)
署名
ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

ヘンリー・ジェイムズ英語: Henry James, 1843年4月15日 - 1916年2月28日)は、アメリカ生まれでイギリスで活躍した作家小説家。英米心理主義小説、モダニズム文学小説の先駆者としても知られる。兄はプラグマティズムを代表する哲学者ウィリアム・ジェイムズ。イギリスを初めヨーロッパ各国を訪問し、ヨーロッパ的な視点とアメリカ人としての視点を持ち合わせ、国際的な観点から優れた英語文学を多く残した、19世紀から20世紀の英米文学を代表する小説家である。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスは「われわれの時代の最高級の作家の一人」と評価する[1]モダン・ライブラリーが選ぶ最高の小説100で「鳩の翼」が26位、「使者たち」が27位、「金色の盃」が32位となっている。

生涯

[編集]

ヘンリー・ジェイムズは、1843年にニューヨークで生まれた。父は宗教哲学ヘンリー・ジェイムズ、母はメアリー・ジェイムズ。一つ年上の長兄は、哲学者として高名なウィリアム・ジェイムズ。ジェイムズ家はアイルランドおよびスコットランド系の移民の家柄で、アイルランドから移民であったヘンリーの祖父は事業に成功し、一代で富を築きあげたため、非常に裕福な家系であった。

父は教育上の方針から、息子らと共に幾度となくヨーロッパへ旅行をして見聞を広めさせている。既にヘンリーが生後6か月の時に、兄と共にイギリスパリを何か月も旅行している。この機会のみならず、少年時代より何度もヨーロッパ(イギリス・フランスイタリアなど)とニューヨークを行き来しており、生涯全体ではヨーロッパ滞在時期の方が長い。この頃から各国の文学に親しむ。19歳の時にハーバード大学に進学する[2]が、1年で中退する。その後、ボストンやその近郊のケンブリッジに住む。

1865年に短編小説『ある年の物語』(The story of a Year)を執筆する。1871年に長編『後見人と被後見人』を発表する。1875年に処女出版である『情熱の巡礼、その他』を出版する。1876年ロンドンに居住し、以降死去するまで40年近くの間、活動の拠点をロンドンに移す。ヨーロッパに拠点を移したあとも、パリやイタリアへ幾度なく訪問している。1877年に『アメリカ人』を出版する。ヨーロッパ的な視点とアメリカ人としての視点を併せ持った優れた評論・小説をいくつも発表する。1878年には代表作のひとつ『デイジー・ミラー』を発表する。1879年には『国際挿話』を発表し、一躍有名小説家になった。1881年に長編『ある婦人の肖像』を発表、代表作となる。また親交も広め、モーパッサンフローベールゾラテニソンジョージ・エリオットらを知る。1889年頃から劇作にも打ち込むようになるが、失敗に終わった。

1898年にライのラム・ハウスに移住し、定住する。この年『ねじの回転』を発表する。この頃から、心理主義的な作風が多くなる。1901年に長編『使者たち』、1903年に長編『鳩の翼』、1904年に『黄金の盃』をそれぞれ発表する。後期を代表する長編小説となる。1905年に20年来訪れなかった祖国アメリカへ帰国、「ニューヨーク版」といわれる自身の全集『ヘンリー・ジェイムズ全集』の出版にとりかかる。全集の刊行は1907年から始まり、没後の1917年に完結した。

晩年は健康が衰え、1915年に、アメリカが第一次世界大戦に参戦しないのに業を煮やし、同年7月26日にイギリスに帰化するが、同年暮れに脳卒中肺炎を患い、重篤に陥る。1916年1月にメリット勲章を受ける。同年2月28日に死去した。72歳であった。死後は、祖国アメリカのボストン郊外、ケンブリッジのジェイムズ一家の墓に葬られた。

作品

[編集]

長編小説

[編集]

中編、短編、小品

[編集]

短編集

[編集]
  • Terminations (1893)
  • The Soft Side (1900)
  • The Better Sort (1903)
  • New York Edition (1907–1909), 自選短編集,24巻(ヘンリー死後1917年に追加され26巻となる)
    • 1.Roderick Hudson,
    • 2.The American
    • 3,4,The Portrait of a Lady
    • 5,6,The Princess Casamassima
    • 7,8,The Tragic Muse
    • 9.The Awkward Age
    • 10.The Spoils of Poynton, A London Life, The Chaperon
    • 11.What Maisie Knew, In the Cage, The Pupil
    • 12.The Aspern Papers, The Turn of the Screw, The Liar, The Two Faces
    • 13.The Reverberator, Madame de Mauves, A Passionate Pilgrim, The Madonna of the Future, Louisa Pallant
    • 14.Lady Barbarina, The Siege of London, An International Episode, The Pension Beaurepas, A Bundle of Letters, The Point of View
    • 15.The Lesson of the Master, The Death of the Lion, The Next Time, The Figure in the Carpet, The Coxon Fund
    • 16,The Author of Beltraffio, The Middle Years, Greville Fane, Broken Wings, The Tree of Knowledge, The Abasement of the Northmores, The Great Good Place, Four Meetings, Paste, Europe, Miss Gunton of Poughkeepsie, Fordham Castle
    • 17,The Altar of the Dead, The Beast in the Jungle, The Birthplace, The Private Life, Owen Wingrave, The Friends of the Friends, Sir Edmund Orme, The Real Right Thing, The Jolly Corner, Julia Bride
    • 18.Daisy Miller, Pandora, The Patagonia, The Marriages, The Real Thing, Brooksmith, The Beldonald Holbein, The Story In It, Flickerbridge, Mrs. Medwin
    • 19,20,The Wings of the Dove
    • 21,22,The Ambassadors
    • 23,24.The Golden Bowl
    • 25,The Ivory Tower (1917、死後追加)
    • 26.The Sense of the Past (1917、死後追加)
  • Travelling Companions (1919)

旅行記

[編集]

戯曲

[編集]

エッセイ、評論

[編集]

自伝・回想

[編集]

日本語訳

[編集]

小説

[編集]
  • ロデリック・ハドソン
    • 谷口陸男訳、1962年、筑摩書房 世界文学大系
    • 行方昭夫訳、講談社文芸文庫、2021年
  • アメリカ人
    • 西川正身訳、1959年、河出書房新社 世界文学全集
    • 高野フミ訳、1968年、荒地出版社 現代アメリカ文学選集
    • 高橋昌久訳、2022年、京緑社 マテーシス古典翻訳シリーズ(上下)
  • ヨーロッパ人
  • デイジー・ミラー
  • 国際エピソード
    • 上田勤訳、岩波文庫、1956年
    • 『国際插話』 水之江有義訳
  • 四度の出会い・初老(沖田一訳、英宝社、1956年)
  • ホーソーン研究(小山敏三郎訳、南雲堂、1964年)
  • アスパンの恋文(行方昭夫訳、八潮出版社、1965年)、改訳版・岩波文庫、1998年
  • 智慧の樹
  • 巨大なベッド(清水正二郎訳 浪速書房 1966年)
  • 女相続人
    • 蕗沢忠枝訳、角川文庫、1950年
    • 『ワシントン・スクエア』(河島弘美訳、キネマ旬報社、1997年/岩波文庫、2011年)
  • ボストンの人々(谷口陸男訳、中央公論社 世界の文学、1966年)
  • カサマシマ公爵夫人(大津栄一郎訳、集英社 世界文学全集、1981年)
  • ある婦人の肖像
    • 斎藤光訳、筑摩書房 筑摩世界文学大系、1972年
    • 行方昭夫訳、岩波文庫 上中下、1996年
  • ロンドン生活(多田敏男訳、英潮社、1995年)
  • メイジーの知ったこと(青木次生訳、あぽろん社、1982年)
  • ねじの回転
  • 使者たち
    • 大嶋仁訳、八潮出版社、1969年
    • 青木・工藤訳、講談社 世界文学全集
      • 『大使たち』青木次生訳、岩波文庫 上下
  • 金色の盃(青木次生訳 あぽろん社)、のち講談社文芸文庫 上下
  • 聖なる泉(青木次生訳、国書刊行会、1979)
  • 鳩の翼青木次生訳、講談社、1974年)、のち講談社文芸文庫 上下
  • ジャングルの猛獣(高野フミ訳、1968年、荒地出版社 現代アメリカ作家12人集)
  • ポイントン邸の蒐集品(有馬輝臣訳、山口書店、1983年)
  • 友だちの友だち(大津栄一郎林節雄訳、国書刊行会、1989年)
  • 嘘つき(行方昭夫訳、福武文庫、1989年)、ヘンリー・ジェイムズ傑作選(行方昭夫訳、講談社文芸文庫、2017年)所収
  • 死者の祭壇(野中恵子訳、審美社、1992年)
  • 信頼(水野尚之訳、英宝社、2013年)
  • 後見人と被後見人(齊藤園子訳・解説、大阪教育図書、2019年)
  • 抗議の叫び、細川祐子 訳、NextPublishing Authors Press、2020年 (The Outcry訳)

自伝

[編集]
  • 『ヘンリー・ジェイムズ自伝: ある少年の思い出』(臨川書店、1994、舟阪洋子,市川美香子,水野尚之訳)
  • 『ある青年の覚え書・道半ばーヘンリー・ ジェイムズ自伝 第二巻・第三巻』(大阪教育図書、2009、舟阪洋子,市川美香子,水野尚之訳)

戯曲

[編集]
  • ガイ・ドンヴィル(戯曲、水野尚之訳、大阪教育図書、2018)

旅行記

[編集]
  • アメリカ印象記(青木次生訳、研究社 アメリカ古典文庫、1976年)
  • フランスの田舎町めぐり(千葉雄一郎訳、図書出版社、1992年)
  • イタリー旅行記 郷愁のイタリア(千葉雄一郎訳、図書出版社、1995年)

選集

[編集]
  • ヘンリー・ジェイムズ短編選集(音羽書房、1968年)
    • 第1巻 ヨーロッパとアメリカ
      • 「情熱の巡礼」(柴田稔彦訳)
      • 「マダム・ド・モーヴ」(行方昭夫訳)
      • 「ロンドン征服」(柴田稔彦訳)
      • 「令嬢バーベリーナ」(川西進訳)
      • 「パキプシー生まれのミス・ガントン」(大津栄一郎訳)
    • 第2巻 芸術と芸術家(1969年)
      • 「未来のマドンナ」(上島建吉訳)
      • 「『ベルトラフィオ』の作者」(林節雄訳)
      • 「巨匠の教訓」(行方昭夫訳)
      • 「ほんもの」(行方昭夫訳)
      • 「グレヴィル・フェイン」(行方昭夫訳)
      • 「流行作家の死」(川西進訳)
      • 「この次こそは」(林節雄訳)
      • 「絨毯の下絵」(川西進訳)
      • 「折れた翼」(上島健吉訳)
      • 「話の影」(上島健吉訳)
    • 第3巻 死と幻想、第4巻 社会と人間は未完。
  • ヘンリー・ジェイムズ作品集国書刊行会(全8巻)、1983-1985年)、代表作選集
    • 1巻(1985):ある婦人の肖像(行方昭夫訳)、(のち岩波文庫)
    • 2巻(1984):
      • 「ポイントンの蒐集品」大西昭男/多田敏男訳
      • 「メイジーの知ったこと」川西進
      • 「檻の中」青木次生
    • 3巻(1983):「鳩の翼」青木次生訳
    • 4巻(1984):「使者たち」工藤好美/青木次生
    • 5巻(1983):「黄金の盃」工藤好美訳
    • 6巻(1985):
      • 「象牙の塔」岩瀬悉有訳
      • 「過去の感覚」上島建吉訳
    • 7巻(1983):行方昭夫編
      • 「情熱の巡礼」柴田稔彦訳
      • 「『ベルトラフィオ』の作者」別府恵子訳
      • 「エドマンド・オーム卿」柴田稔彦訳
      • 「プライベイト・ライフ」大津栄一郎訳
      • 「オウエン・ウィングレイブの悲劇」林節雄訳
      • 「死者たちの祭壇」芦原和子訳
      • 「じゅうたんの下絵」桂田重利訳
      • 「友だちの友だち」林節雄訳
      • 「いとよき所」別府恵子訳
      • 「第三者」大津栄一郎訳
      • 「密林の獣」大原千代子訳
      • 「懐かしの街角」多田敏男訳
      • 「荒涼のベンチ」大津栄一郎訳
    • 8巻 評論・随筆(1984):
      • 「ウォルト・ホイットマン氏」「ホーソーン」「小説の技法」「エマソン」「ギ・ド・モーパッサン」「ギュスターヴ・フローベール」「バルザックの教訓」「新しい小説」
      • 旅行記「ロンドン便り」、自伝、書簡
  • ヘンリー・ジェイムズ短篇集(大津栄一郎編訳、岩波文庫、1985年)
    • 「私的生活」「もうひとり」 「にぎやかな街角」 「荒涼のベンチ」
  • H・ジェイムズ名作集(仁木勝治訳、文化書房博文社、1985年)
    • 「異常な病人」「古い衣裳のロマンス」「ほんもの」「知恵の木」(「風景画家」増補[3])
  • ホルヘ・ルイス・ボルヘス編纂、大津栄一郎、林節雄訳、バベルの図書館14『友だちの友だち』国書刊行会、1989年
    • 「ノースモア卿夫妻の転落[4]」「私的生活」「オウエン・ウィングレイヴの悲劇」「友だちの友だち」
  • ヘンリー・ジェイムズ短篇集(金子桂子訳、溪水社、2003)
    • 「パンドラ」「ヴァレリオ家最後の人」「大先輩の教訓」
  • ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「オズボーンの復讐」他四編(李春喜監訳、中村善雄、村尾純子共訳、関西大学出版部、2012年)
    • 「オズボーンの復讐」「ブリソー氏の恋人」「ファーゴー教授」「ローズ・アガサ」「ロングスタッフ氏の結婚」
  • ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「ある年の物語」他三編(李春喜訳、関西大学出版部、2016年)
    • 「ある年の物語」(1865)「ユージーン・ピカリング」(1874)「ベンヴォーリオ」(1875)「進むべき道」(1884)
  • ヘンリー・ジェイムズ傑作選(行方昭夫訳、講談社文芸文庫、2017年)
    • 「モーヴ夫人」(1874年)「五十男の日記」(1879年)「嘘つき」(1888年)「教え子」(1891年)「ほんもの」(1892年)

書簡

[編集]
  • 「心ひろき友人たちへ 四人の女性に宛てたヘンリー・ ジェイムズの手紙」スーザン・E・ガンター編、別府惠子・難波江仁美訳、大阪教育図書、2014

主な映画化作品

[編集]
  • 女相続人The Heiress ) 1949年製作、アメリカ映画。
  • 回転The Innocents ) 1961年製作、イギリス映画。
  • 妖精たちの森The Nightcomers ) 1971年製作、イギリス映画。
  • デイジー・ミラー(Daisy Miller) 1974年製作、アメリカ映画。
  • 緑色の部屋La Chambre verte ) 1978年製作、フランス映画。
  • ヨーロピアン (The Europeans) 1979年製作、イギリス映画。TV放映、VHS発売
  • ボストニアン (The Bostonians) 1984年製作、イギリス映画。TV放映、DVD発売
  • ある貴婦人の肖像The Portrait of a Lady) 1996年製作、イギリス映画。
  • 鳩の翼The Wings of the Dove) 1997年製作、アメリカ・イギリス映画。
  • 金色の嘘The Golden Bowl ) 2000年製作、アメリカ・イギリス・フランス映画。
  • ザ・ダークプレイス 覗かれる女In a Dark Place) 2006年製作、イギリス・ルクセンブルク映画。
  • メイジーの瞳What Maise knew) 2012年製作、アメリカ映画。
  • The Aspern Papers 2018年製作、アメリカ・ドイツ映画。
  • ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナーThe Haunting of Bly Manor) 2020年製作、アメリカのドラマ

脚注

[編集]
  1. ^ 大津栄一郎、林節雄訳、バベルの図書館14『友だちの友だち』国書刊行会、1989年,p.9.
  2. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説”. コトバンク. 2018年7月29日閲覧。
  3. ^ 「風景画家 ヘンリー・ジェイムズ名作短編集」(仁木勝治訳、文化書房博文社、1998
)で「風景画家」が新たに追加された。
  4. ^ 『書物の王国16 復讐』国書刊行会 2000に再録

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]
  • 稲垣伸一、「ヘンリー・ジェイムズと消費社会 : 『ポイントンの蒐集品』における物の価値」『山梨英和短期大学紀要』 29巻 p.170-158, 1995-12-10, NAID 110000990317.