ヘンゼルとグレーテル

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アーサー・ラッカムによる挿絵(1909年)

ヘンゼルとグレーテル』 (: Hänsel und Gretel, KHM 15) は、グリム童話に収録されている作品。

長く続いた飢饉で困った親が口減らしのために子捨てをする話。中世ヨーロッパの大飢饉(1315年から1317年の大飢饉(en))の記憶を伝える話という見方がある。[1] こうした飢饉の時代は16世紀末のジャガイモの耕作の始まりまで続いていた。

あらすじ[編集]

ある森のそばに、貧しい木こりとおかみさん、その子であるヘンゼルとグレーテルの兄妹が暮らしていた。その日のパンに事欠くほど貧しかった一家は、あるときからまったくパンが手に入らなくなり、どうしようもなくなった。そんな夜、おかみさんは木こりに子供を森の中に捨ててくるように提案する。驚き、ためらう木こりをおかみさんは責め立て、ついに木こりも承知してしまう。

両親の会話を漏れ聞き、妹のグレーテルは泣き始めるが、兄のヘンゼルは自分がなんとかするからと妹をなだめ、ひとり外に出て月の光を受けて光る白い石をポケットいっぱいに集めた。

翌日、両親に連れられて兄妹は森の中へ入っていくが、帰りの道しるべとしてヘンゼルは道々白い石を落としていった。森の真ん中で両親はあとで迎えに来ると言い残して去って行き、そのまま夜となった。泣き出すグレーテルの手を引いて、白い石を辿りながら夜通し森を歩き、朝になってふたりは家にたどり着いた。

おとうさんは子供たちの帰還を喜ぶが、おかあさんは表面では喜んだものの心中では怒っていた。パンが底をつきかけた頃、おかみさんはきこりにふたりが家に戻って来られないほどの森の奥まで連れて行こうと持ちかけ、きこりは一度やってしまったことだから、とそれを承諾した。両親の会話を聞いていたヘンゼルはまた小石を拾いに行こうとするが、戸口が閉められていて拾うことができなかった。

翌朝、両親に連れられて兄妹は森に入った。ヘンゼルは小石の代わりに弁当として与えられたパンをポケットの中で粉々に砕き、道しるべとして道々落としていった。ふたりは生まれてから来たことも無いほど森の奥に連れて行かれた。おかあさんたちは夜になったら迎えに来ると言い残して去って行ったが、昼が過ぎ、夜になっても誰も現れなかった。

月が昇り、ヘンゼルは目印となるはずのパンのかけらを探したが、パンのかけらは森の何千もの鳥がついばんでしまったため、見つけることができなかった。ヘンゼルとグレーテルは野いちごで飢えをしのぎながら3日間森の中をさまよった。

3日目の昼頃、森の中で屋根がケーキ、壁がパン、窓が砂糖で作られた小さな家を見つけた。ふたりが夢中でその家を食べていると、中から老婆が現れた。老婆は驚くふたりの手を取って家の中に誘い、食事やお菓子、ベッドを提供した。しかし、この老婆の正体は子供をおびき寄せ、殺して食べる悪い魔女だった。

翌朝、ふたりが目覚める前にベッドに現れた魔女は、ヘンゼルを掴むと狭い家畜小屋に押し込んだ。次いでグレーテルを大声で起こし、おまえの兄さんを太らせてから食うから、そのための食事を作れと命じた。グレーテルは泣きながらも魔女の言うことを聞くしか無かった。それから毎日のようにヘンゼルは上等の食事を与えられた。目の悪い魔女はヘンゼルの指を触って太り具合を確かめようとしたが、ヘンゼルは指の代わりに食事の残りの骨を差し出したため、魔女はヘンゼルが一向に太らないのを不思議に思い、ヘンゼルを食べるのを先延ばしにしていた。

しかし、4週間も経つと魔女はついに我慢ができなくなり、ヘンゼルが太っていようといまいと、明日殺して煮て食うから大鍋の準備をしろとグレーテルに命じる。翌朝、グレーテルに大鍋を火にかけ湯を沸かすように言いつけ、魔女はパンを焼くかまどを準備しはじめた。グレーテルは兄を煮るための鍋を沸かすに至った自分の運命を嘆き、神に苦しみからの解放を祈った。

そのとき、魔女がグレーテルを呼び、目の悪い自分の代わりにパン釜に入ってパンの焼け具合を確かめろと言いつけた。内心、魔女は中に入ったグレーテルを閉じ込めて、焼いて食べるつもりだった。ところが、神がグレーテルに魔女の意図を教えたため、グレーテルは釜に入るやり方が分からないふりをして、魔女に手本を見せるように促した。魔女が釜に入った途端、グレーテルは魔女を押し込み外からかんぬきを掛けた。釜の中から魔女のうめき声がし始めたところでグレーテルは台所から逃げ出したので、魔女はそのまま焼け死んだ。

グレーテルはヘンゼルを助け出し、ふたりは喜び合った。魔女の家には多くの財宝があり、ポケットにいっぱいの宝石や真珠を詰めたふたりは家路についた。帰ってきたふたりの姿を見ておとうさんは喜び、子供たちが持ち帰った財宝で金持ちになった。けれどもおかあさんは死んでいた。

参考文献

  • 吉原高志、吉原素子, 1993年.『グリム〈初版〉を読む』 白水社 (底本:グリム『子供と家庭のメルヒェン集』初版 1812)p.55-71.

成立[編集]

「ヘンゼルとグレーテル」は1811年ごろ、当時カッセルにあったグリム兄弟の住居の近所の薬局のヴィルト家姉妹から採集した、ヘッセン州に伝わる民話の中の一篇である[2]。1812年に出版した『子供と家庭のメルヒェン集』初版に収録され、1857年の決定版とも呼ばれる第7版に至るまでに、さまざまな付け加えや書き換えが行われている[3]

たとえば、初版では実の母親だったものが、第4版からは継母に改編され、台詞もより冷酷なものへと変更されており、初版では消極的ながら共犯関係にある父親は、第7版ではその責任の軽減を図る描写が加えられている。また、童話を意識した付け加えの例として、第7版では魔女の身体描写がより詳細になったことが挙げられる。

他にも、以下のような改編が行われている。

  • 魔女の家が雑多な菓子だけで出来ている(「お菓子の家」)。原作では壁がレープクーヘンで、屋根は菓子類、窓は透き通った砂糖で出来ていたと記述されている。
  • 決定版とされている第7版では、森から家に帰る際に川を渡る時、鴨の背に乗るという別の伝承のエピソードが付け加えられている。

エピソード改変例[編集]

ドイツ語から他の言語に翻訳する場合や、主に子供向けの本では、一部のエピソードが残酷性などを理由に変更されている場合がある。以下ではその例を述べる。

  • ヘンゼルが小石を集めるシーンを省略する[4]
  • 魔女がかまどに押し込まれない。
  • グレーテルが、魔女の家で魔法を身につける。
  • 父親が不在。もしくは、物語の最初で死別する。
  • 物語の最後で母親が雷に打たれて死ぬ。
  • 両親が二人の帰還を喜び大団円となる[4]

また

  • 最後にかまどの中で魔女が死ぬシーンで、継母(実母)も一緒に死ぬ。もしくは、魔女と継母(実母)が同一人物。

などの話もあるが、これは、「一部のエピソードが残酷性などを理由に変更されている」という理由からは外れるだろう(詳しくは魔女の項を参照)。甘口が徹底しているのは後述のオペラ版で、母親は単に2人に苺摘みに森へ行くよう命じただけで、後から夫に魔女の話を聞き、慌てて2人で行方を捜すという改変になっている。

名前[編集]

「ヘンゼル」(Hänsel)は男性の洗礼名ヨハネス(Johannes)の短縮形ハンス」(Hans)に、「グレーテル」(Gretel)は女性の洗礼名マルガレーテ(Margarete)の短縮形「グレーテ」(Grete)に、それぞれ縮小辞 -el を添えて「ハンスちゃん」「グレーテちゃん」といった響きを持たせた、地方色のある子供向けの呼び名である。他の地方での子供の呼び名であるヘンスヒェン(Hänschen、唱歌「ちょうちょう」の原曲に現れる)やグレートヒェン(Gretchenゲーテファウスト」のヒロインの名で知られる)にあたり、大人になればハンス(Hans)、グレーテ(Grete)と呼ばれる。

この童話を原作とする作品[編集]

舞台作品[編集]

アニメ[編集]

この童話がモチーフとして用いられているもの[編集]

脚注[編集]

  1. ^ * Raedisch, Linda (2013). The Old Magic of Christmas: Yuletide Traditions for the Darkest Days of the Year. Llewellyn Worldwide. https://books.google.com/books?id=zm6rHKiFw2YC&lpg=PA180&dq=hansel%20and%20gretel%20great%20famine%201315&pg=PA180#v=onepage&q=hansel%20and%20gretel%20great%20famine%201315&f=false. 
  2. ^ 相沢博『メルヘンの面白さ:分類グリム童話の鑑賞』中央大学出版部〈UL双書〉1973年 p.26-29.
  3. ^ 吉原高志、吉原素子, 1993年.『グリム〈初版〉を読む』 白水社 ISBN 4560004544 p.72-76.
  4. ^ a b 松川由紀子 日本児童文学学会(編)「保育とグリム童話」『グリム童話研究』大日本図書 1989 ISBN 4477119240 pp.90-94.
  5. ^ http://www.dmm.co.jp/netgame/social/-/gadgets/=/app_id=110156/

関連項目[編集]

兄と妹 - 同じくグリム童話に収録されている民話。かつて本項の物語も同じ題名で呼ばれていたため混乱が生じたとされている。

外部リンク[編集]