ヘナタリ

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ヘナタリ
Henatari-kawaai080623.jpg
左ヘナタリ・右カワアイ。成貝は殻口の形で区別できる
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
階級なし : 新生腹足類 Caenogastropoda
階級なし : 吸腔類 Sorbeoconcha
上科 : オニノツノガイ上科 Cerithioidea
: キバウミニナ科 Potamididae
: Pirenella J.E. Gray1847
: ヘナタリ P. nipponica
学名
Pirenella nipponica
Ozawa & Reid in Reid & Ozawa, 2016[1]
砂上のヘナタリとその這い跡。一回り小さいのはウミニナとホソウミニナ

ヘナタリ(甲香)、学名 Pirenella nipponica は、キバウミニナ科に分類される巻貝の一種。東アジアの暖海域の砂泥干潟に生息する塔形の貝である。類似種とともにいわゆる「ウミニナ類」に含まれることが多い。和名末尾に「貝」をつけ、ヘナタリガイと呼ばれることもある。

分布[編集]

タイプ産地は三重県松阪市櫛田川河口。

かつてはインド西太平洋の温帯から熱帯域にかけての広い範囲に分布する全てが同一種と考えられていたが、分子系統解析により、それらには外見が酷似した複数の種が含まれていることが判明した。それらのうち日本には本項のヘナタリの他に、ヤエヤマヘナタリ Pirenella asiaticaPirenella microptera の2種が八重山群島に分布する[2][1]

形態[編集]

成貝の貝殻は殻高32.6mmほどになり、塔形・堅質である。巻きの各層は膨らまず、全体の形は円錐形に近い。各層には3本の螺肋(巻きに沿って走るレール状の凸帯)と、螺肋を区切る黒っぽい螺溝が走る。特に一番上の螺肋は強く、その下にある一番目の螺溝も深くなり、それより下の2本の螺溝よりも強く明瞭になるのが本種の特徴とされる。なお3本の螺肋の最下部には4本目の螺肋の一部が縫合(巻きの繋ぎ目)の上に僅かにはみ出して見えることもあるが、これは本数には数えない。上層部には強い縦肋もあり、螺肋と交わってタイル状や顆粒状になるが、これらの彫刻は下層部では弱まる。成貝では殻口がラッパ状に外反し、水管が背中側に曲がり、殻口の左側面には縦の盛り上がりができる。殻の色は黄白色から橙色だが、黒褐色のものもいる[3][1]

日本産”ウミニナ類”の中では、殻に膨らみがなく円錐形に近いこと・黄色っぽく横しま模様が強いこと・殻口が独特の形になることで区別できる。ただし若い個体で黒みが強いものはカワアイとの区別がつけにくい場合がある。

生態[編集]

河口など汽水域干潟に群れをなして生息し、干潟を好む生物群落の構成種となる。本種は淡水の影響がやや強く、澪筋や水たまりのある砂質か砂泥質の区域を好む。転石帯・岩礁地や、乾燥するほど高所の砂地には出現しない。本種より低所にカワアイ・ヤマトオサガニ・ヒメヤマトオサガニ、同所的にチゴガニアシハラガニ、高所にハクセンシオマネキウミニナフトヘナタリなどが観察される。

干潮時に干潟を這いデトリタスを摂食する。摂餌後は砂泥上でじっとしているが、満潮時には砂泥の中に潜る。産卵期は夏で、泥地に紐状卵塊を産みつける。子供は幼生で孵化し、しばらく海中でプランクトン生活を送る。

分類[編集]

ヘナタリ類は20世紀初頭まではフトヘナタリ属 Cerithidea Swainson1840内のヘナタリ亜属 Cerithidea (Cerithideopsilla) として扱われて来た。しかしその後の分子系統解析により、亜属から独立のヘナタリ属 Cerithideopsilla Thiele1929に昇格されるとともに、他のヘナタリ類と外見や分布域がやや異なることから別属として扱われていたセイヨウヘナタリ Pirenella conica (地中海東部からインド洋西部に分布)も同属に分類すべきことが判明した[4]。更にこのセイヨウヘナタリをタイプとする属名 Pirenella J.E. Gray1847が、1929年記載のヘナタリ属 Cerithideopsilla よりも古いため、国際動物命名規約の学名の先取権のルールに従ってヘナタリ類の属名は全て Pirenella に改められることになった[1]

20世紀までは殻の外見のみによる種の分類がなされていたが、21世紀になって分子系統解析が行われた結果、この属には外見での識別が難しい隠蔽種が複数含まれていることが明らかとなり[2]、種名の整理と名前のない種についての新種記載がなされるなどして、2016年時点での本属の分類は下記のとおりになっている[1]。このうち日本には5種が分布するとされ、古くから干潟の貝として知られてきたヘナタリやカワアイなども含む4種が2016年に改めて新種として記載された。

37.5mmほど。中国南部、フィリピンインドシナ半島マレー半島ボルネオ島インドネシアベンガル湾など。
30.4mmほど。ペルシャ湾南アラビア。タイプ産地はアジュマーンのKhor Zawra。
26.9mmほど。日本(八重山以南)、台湾中国南部、ベトナム、タイシンガポール。タイプ産地は沖縄県西表島船浦
28.5mmほど。インドネシア東部、パプアニューギニアオーストラリア北部。タイプ産地はクイーンズランドマグネティック島
45.9mmほど。非常に細長い。広東省南部からトンキン湾。タイプ産地は広東省湛江市特呈島。
31.2mmほど。 日本(三重県以西)、韓国(順天)、中国沿岸。タイプ産地は熊本県天草市羊角湾
37.0mmほど。ベトナム・ボルネオ島以西の東南アジア、インド全域。タイプ産地は(インドタミル・ナードゥ州の Tranquebar=ターランガンバディ)。ヘナタリを含め外見が酷似した複数種が本種と混同されてきた。
セイヨウヘナタリ
Pirenella conica
32.0mmほど。Pirenella 属のタイプ種。 やや細く殻口はほとんど広がらない。地中海東部、紅海、アフリカ東岸、アラビア湾からスリランカまで。タイプ産地はイタリアシチリア島マルサーラ
22mmほど。オーストラリア北部。タイプ産地はブルーム (西オーストラリア州)のLookout Hill。
49.0mmほど。中国南部、フィリピン、東南アジアからインド東部。タイプ産地はボルネオ
53.8mmほど。日本(西表島)、台湾、中国南部、フィリピン、マレー半島。タイプ産地はマレーシアPulau Besarムラカの南東にある島)。
28.0mmほど。台湾、中国南部沿岸.。タイプ産地は防城港
32.6mm。日本(本州中部以南-沖縄島)、韓国、台湾、中国中部沿岸。タイプ産地は三重県松阪市櫛田川河口。
47.6mmほど。日本(宮城県以南)、韓国、中国沿岸(全域)、台湾、ベトナム。タイプ産地は三重県松阪市櫛田川河口。20世紀中期以降 djadjariensis の名で扱われてきた。
28.3mmほど。フィリピン。タイプ産地はフィリピンのシキホル島.。
25mmほど。オーストラリア北部(西オーストラリアクイーンズランド。タイプ産地は西オーストラリアのカーナーボーン

人間との関係[編集]

和名の由来は不明だが、日本ではかつて本種の角質のをいぶしてに利用しており、漢字表記も「甲香」が充てられる。「へなたり」の名は鎌倉期の随筆『徒然草』第34段にも登場している。

人や地域によっては他のウミニナ類と同様に漁獲され、塩茹でなどで食用にされる。なお本種は異形吸虫 Heterophyes heterophyes の第1中間宿主として報告されている。ヘナタリの体内で成長したものが第2中間宿主のボラメナダハゼ類などの汽水魚に入り、魚を生食したヒトの腸に寄生する。

レッドリスト掲載状況[編集]

  • 準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト
    Status jenv NT.png
  • 絶滅危惧I類 - 千葉県・兵庫県・高知県・福岡県・佐賀県
  • 絶滅危惧II類 - 徳島県・愛媛県
  • 準絶滅危惧 - 愛知県・熊本県・鹿児島県・沖縄県

河口域の砂泥干潟を生息地としているが、埋立・干拓・浚渫などで生息地が減少している。

参考文献[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e Reid, David G.; Ozawa, Tomowo (2016). “The genus Pirenella Gray, 1847 (= Cerithideopsilla Thiele, 1929) (Gastropoda: Potamididae) in the Indo-West Pacific region and Mediterranean Sea”. Zootaxa 4076 (1): 1-91. doi:10.11646/zootaxa.4076.1.1. 
  2. ^ a b Ozawa, Tomowo; Yin, Wei;Fu, Cuizhang;Claremont, Martine; Smith, Lisa; Reid, David G. (2015). “Allopatry and overlap in a clade of snails from mangroves and mud flats in the Indo-West Pacific and Mediterranean (Gastropoda: Potamididae: Cerithideopsilla)”. Bilogical Journal of the Linnean Society 114 (1): 212-228. doi:10.1111/bij.12401. 
  3. ^ 長谷川和範 (2017). キバウミニナ科 (p.107-108 [pls.63-64], 796-797) in 奥谷喬司(編著)『日本近海産貝類図鑑 第二版』. 東海大学出版部. pp. 1375 (p.107 [pl.63 fig.7], p.796). ISBN 978-4486019848. 
  4. ^ Reid, D.G.; Dyal P.; Lozouet, P.; Glaubrecht M.; Williams, S.T. (2008). “Mudwhelks and mangroves: the evolutionary history of an ecological association (Gastropoda: Potamididae)”. Molecular Phylogenetics and Evolution 47 (2): 680–699. doi:10.1016/j.ympev.2008.01.003.