ヘアドネーション

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ヘアドネーションとは、小児がん、先天性の脱毛症、不慮の事故などで頭髪を失った子供のため、市民から寄付された髪の毛でウィッグを作り、無償で提供する活動。

善意の活動として称賛する声がある一方、現代社会においては多様性を認めることが重要であるとして、ヘアドネーションは髪の無いマイノリティーをかえって傷つける行為、善意のマウンティング、ひいては差別的行為でもある、という問題提起[1][2]もなされている。(#批判・問題点を参照。)

概要[編集]

ヘアドネーションはもともと、アメリカの団体Locks of Love[3]などが行っていた活動である。日本では2009年に、NPO法人Japan Hair Donation & Charity(ジャーダック、JHD&C)が活動を開始し、その後、いくつかの団体が相次いで活動を開始した。

当初は認知度の低さから髪の毛の寄付が少なく、最初のウィッグを提供するまで4年を要したが、水野美紀柴咲コウなどの有名人が参加したことにより認知度が上がり、寄付が急増した[4]

寄付する髪の毛は、原則として31cm以上の長さが条件である[注 1]。この「31cm」という中途半端な値の由来は、もともと米国で「12インチ(=30.5cm)以上」が基準とされ、それを日本でメートル法に換算したためとされている[6]。ただし、発祥元のひとつであるLocks of Loveでは2021年現在、12インチではなく「10インチ(=25.4cm)以上」を受け入れ条件としている[7]

ただし、女児向けのウィッグを作るためには31cmよりもさらに長い髪を必要とするため[6][8]、受入先の中には、31cmちょうどですぐに切らずに、もっと伸ばせる人は伸ばしてから寄付してほしい、と訴えている団体もある[8][9]

なお、頭髪の提供者は女性が中心であるが、男性が提供するケースもある。

批判・問題点[編集]

「無意識の差別」という視点[編集]

一方、ジャーダック代表の渡辺貴一は活動開始から間もなくして、「(子供たちに)ウィッグを渡したところで(本質的には)何の解決にもならない」とも感じたという[1]。「この人たち(=髪のない人たち)の生きづらさは、少数派というところから派生している。自分に責任がないことに対して、ただただコストを負わされている。」として、「マジョリティー側の人たちに、マイノリティの人が自分を寄せていかなければならない」という疑問を抱くに至ったという。

しかしながらマスコミからは、ヘアドネーションや医療用ウィッグの提供が「単なる美談」として報じられる状況が続いた。そのことを振り返って渡辺は「僕らにはその(「髪の毛があることは素晴らしい」という)“無意識なバイアス”を広めたという罪があります」と総括し、「是正できるのであれば社会に正しい情報を伝えていきたい」「今は、とにかく伝え続けるしかない」としている。

渡辺は当面のジャーダックの活動について、「もちろん1人でもウィッグを求めてくれる人がいれば活動は続きますし、ウィッグも提供します。」と明言する一方[1]、ヘアドネーションそのものについて「世の中の差別がなくなれば必要なくなる活動で、ないに越したことがない」との見解も示しており、「ヘアドネーションという活動がなくなることが私たちの(最終的な)目標です」「発展的な解散が私たちの目標」[2]としている。

活動拡大の困難さ[編集]

ヘアドネーション活動を行っている団体の多くはボランティアベースの小規模な組織であり、人員・予算の両面において困難を抱えている。そのため、寄付されてくる大量の髪の受け入れなどに十分対応できず、渡辺によると、活動から撤退する団体も相次いでいるという[2]。また一部の団体では、毛髪の現物だけでなく金銭的な支援も検討してほしいと訴えている[10][11]

さらに2020年ごろからは、 新型コロナウイルス感染症の流行により活動を休止した団体も多く、ジャーダックもその例外ではなかった[12][13]。2023年5月にコロナ禍の終息宣言が出た後も、活動再開を積極的にアピールしている団体は少ない。

活動を行っている日本の団体[編集]

下記は例示であり、網羅的な一覧ではないことに注意。

  • 特定非営利活動法人 Japan Hair Donation & Charity[14]
  • 日本におけるヘアドネーション活動の先駆けとされる。
  • 特定非営利活動法人HERO[10]
  • 株式会社グローウィング『つな髪プロジェクト』[15]
  • Hair for Children(旧・女子高生ヘアドネーション同好会)[16]

出典[編集]

  1. ^ a b c 西本美沙. “ヘアドネーションという罪。「いいこと」がもたらす社会の歪みについて”. ランドリーボックス. 2022年6月4日閲覧。
  2. ^ a b c 西本美沙 (2022年5月13日). “無意識の差別をなくすことはできるのか?ヘアドネーションがいらない社会を目指して”. ランドリーボックス. 2024年2月29日閲覧。
  3. ^ Locks of Love”. 2021年4月9日閲覧。
  4. ^ “髪を失った子に笑顔を-柴咲コウさんも賛同、切った頭髪でウイッグ提供「ヘアドネーション活動」大阪のNPO法人10年”. 産経WEST. (2018年1月4日). https://www.sankei.com/article/20180104-G4TX6DPITBLL5P32GNT3Y64UQE/ 2018年2月12日閲覧。 
  5. ^ 【最重要】15cm以上31cm未満の髪の受付完全終了のお知らせ”. つな髪プロジェクト. 2024年3月17日閲覧。
  6. ^ a b 【ヘアドネーション 不安解消マニュアル】長さ (簡単な測り方)・31cm? 15cm? 違い・仕上がり目安・ダメージ毛・お手入れ・年齢・送り方 【まとめ 】 |”. 美容師 ヨシノブログ (2023年5月22日). 2024年3月17日閲覧。
  7. ^ Get involved - Locks of Love”. 2021年4月9日閲覧。
  8. ^ a b NPO法人HERO. “どうして31cm以上なの?”. 2020年9月23日閲覧。
  9. ^ Japan Hair Donation & Charity (2020年5月22日). “【重要】毛髪のご寄付に関する大切なお知らせ(2) 「#31センチからのお願い」”. 2020年9月23日閲覧。
  10. ^ a b Hair Donation(ヘアドネーション) | ヘアドネーションならNPO法人HERO”. 2024年3月17日閲覧。
  11. ^ 第2弾!【全国子ども病院支援イベント】ウィッグドネーションプロジェクト”. つな髪プロジェクト. 2024年3月17日閲覧。
  12. ^ 【重要】新型コロナウィルス等の感染症に関して事務局業務についてのお知らせ” (2020年2月17日). 2024年3月17日閲覧。
  13. ^ 【重要】ヘアドネーション毛髪の受け入れ一時停止について” (2020年3月2日). 2024年3月17日閲覧。
  14. ^ Japan Hair Donation & Charity(ジャーダック, JHD&C) | ヘアドネーションを通じた社会貢献活動”. 2024年3月17日閲覧。
  15. ^ つな髪® | 髪の寄付(ヘアドネーション)で医療用ウィッグを無償提供”. 2024年3月17日閲覧。
  16. ^ Hair for Children | Home”. 2024年3月17日閲覧。

脚注[編集]

  1. ^ 『つな髪プロジェクト』はかつて、寄付の条件を「15cm以上」としていた。しかしその後、在庫過多により31cm未満の髪の受け入れを休止し、最終的に2023年5月末をもって31cm未満での受け入れを終了した[5]

関連項目[編集]