プルチネルラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

プルチネルラ』(プルチネラプルチネッラ: Pulcinella )は、1919年から1920年にかけて制作されたバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のバレエ作品、または、イーゴリ・ストラヴィンスキーが同作品のために作曲したバレエ音楽およびこれに基づく管弦楽のための組曲イタリアの古典的な仮面劇(コンメディア・デッラルテ)をテーマとしており、音楽も18世紀イタリアの楽曲が素材として用いられている。

制作の経過[編集]

スカルラッティの音楽による『上機嫌な婦人たち』(1917年)、ロッシーニの音楽による『風変わりな店』(1919年)と、イタリア音楽にもとづくバレエを制作してきたバレエ・リュスの主宰者セルゲイ・ディアギレフ[1]は、1919年春頃には次回作としてペルゴレージの音楽に基づくバレエを構想していた[2]。また、ディアギレフの同性愛の相手でもあったバレエ・リュスの振付師レオニード・マシーンナポリ滞在中にコメディア・デラルテに興味を持ち、サン・カルロ劇場に隣接した王宮図書館で18世紀の即興劇の台本を研究し、その動きをバレエに応用することを考えた[3]

こうして、ペルゴレージの音楽による、プルチネッラを主人公としたバレエを作ることを決定したディアギレフとマシーンはサンピエトロ・ア・マイエラ音楽学校の図書館に保管されていたペルゴレージの手稿や印刷譜の中から18曲を選びだし、1919年秋にストラヴィンスキーに「ハープを含む大編成管弦楽」への編曲を依頼した[4]

『プルチネルラ』の素材となった楽曲はかつて全てがペルゴレージ作と考えられていたが、その後の音楽研究により、他の作曲家(具体的にはドメニコ・ガロウニコ・ヴィルヘルム・ファン・ヴァッセナールアレッサンドロ・パリゾッティカルロ・イグナツィオ・モンツァ英語版フォルトゥナート・ケッレリ)によるものも含まれていることが判明している。

ストラヴィンスキーはこれらの原曲を素材としながらも、リズムや和声は近代的なものを取り入れた独自の新古典主義のスタイルに作り替え、ディアギレフの意向は無視して、ハープ・打楽器はおろか、クラリネットさえ含まない合奏協奏曲風の小編成の作品とした。ストラヴィンスキーの「作曲」は、1920年4月にかけて、スイスモルジュで行われた[5]。 ディアギレフは完成した作品が要望通りでなかったために驚愕したがこれを了承し、大編成管弦楽を前提にしていたマシーンの振り付けは音楽に合わせたコンパクトなものに作りかえられた[6]

一方、『パラード』、『三角帽子』に引き続き舞台美術と衣裳を担当したパブロ・ピカソは、デザインをめぐってディアギレフと対立しながらも、月明かりに照らされるナポリの街並みと海をキュビスム風に表現した美しいセットと、コメディア・デラルテの伝統的を活かした衣裳を作り上げた[7]

初演[編集]

1920年5月15日パリ・オペラ座におけるバレエ・リュスの公演で初演された。指揮はエルネスト・アンセルメ、衣装舞台セットのデザインはパブロ・ピカソ、台本と振付はレオニード・マシーンが担当した。 パリの聴衆はこの作品に魅了され[8]、バレエ・リュスの解散まで何度も再演された[9]

バレエ音楽(全曲版)[編集]

構成[編集]

  1. Ouverture: Allegro moderato
  2. Serenata: Larghetto
  3. Scherzino: Allegro
  4. Ancora poco meno
  5. Allegro assai
  6. Allegro (alla breve)
  7. Andante
  8. Presto
  9. Allegro alla breve
  10. Tarantella
  11. Andantino
  12. Allegro
  13. Gavotta con due variazioni: Allegro moderato;
  14. Variazione Ia: Allegretto;
  15. Variazione IIa: Allegro piu tosto mod.
  16. Vivo
  17. Tempo di Minuetto: Molto moderato
  18. Allegro assai

組曲[編集]

  • 編曲:1924年[5]1947年に改訂)
  • 独唱は除かれている。その他の楽器編成は同じ。
  • 演奏時間:約23分

構成[編集]

  1. Sinfonia
  2. Serenata
  3. Scherzino
  4. Tarantella
  5. Toccata
  6. Gavotta con due variazioni
  7. Vivo
  8. Minuetto

室内楽編曲[編集]

ストラヴィンスキーは『プルチネルラ』の音楽を基にして、以下の室内楽のための編曲も行なった。

  • ペルゴレージによる組曲(ヴァイオリンとピアノのための)(Suite for violin and piano, after themes, fragments, and pieces by Giambattista Pergolesi)
    1925年編曲。5曲からなる。
  1. Introduzione
  2. Serenata
  3. Aria
  4. Tarantella
  5. Minuetto e Finale
  • イタリア組曲(ヴァイオリンとピアノのための)(Suite italienne)
    1933年編曲(ドゥシュキンと共同)。6曲からなる。
  1. Introduzione
  2. Serenata
  3. Tarantella
  4. Gavotte con due variazioni
  5. Scherzino
  6. Menuetto e Finale

脚注[編集]

  1. ^ ディアギレフは、1917年にイタリアの図書館で、スカルラッティ以外の忘れられた18世紀イタリアの作曲家や、ロッシーニの作品について研究していた(リチャード・バックル、鈴木晶訳『ディアギレフ ロシア・バレエ団とその時代』リブロポート、1987年、下巻75ページ)。
  2. ^ 指揮者エルネスト・アンセルメが5月にストラヴィンスキーに当てた手紙の中で言及されている(バックル、前掲書、下巻101ページ)。
  3. ^ バックル、前掲書、下巻100ページ
  4. ^ バックル、前掲書、下巻100-102ページ
  5. ^ a b 『最新名曲解説全集6 管弦楽III』音楽之友社、1980年、執筆:塚谷晃弘
  6. ^ バックル、前掲書、102ページ
  7. ^ ピカソが提案した現代的なセットをディアギレフが却下したため、両者の仲は一時険悪となった(バックル、前掲書、下巻103ページ)。
  8. ^ バックル、前掲書、105ページ
  9. ^ 芳賀直子『バレエ・リュス その魅力のすべて』国書刊行会、2000年、252-253ページ