プラド美術館
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施設情報 | |
正式名称 | Museo del Prado |
来館者数 | 3,033,754人(2016年)[1] |
開館 | 1819年 |
位置 | 北緯40度24分50秒 西経3度41分33秒 / 北緯40.41389度 西経3.69250度座標: 北緯40度24分50秒 西経3度41分33秒 / 北緯40.41389度 西経3.69250度 |
外部リンク | 公式ウェブサイト |
プロジェクト:GLAM |
プラド美術館(プラドびじゅつかん、西: Museo del Prado)は、スペイン・マドリードにある美術館。歴代のスペイン王家のコレクションを中心に幅広いヨーロッパ絵画を展示する世界有数の美術館であり、数々の重要な傑作が収蔵されている。
概要[編集]
美術館の前身である王室コレクションは、16世紀にヨーロッパ第一の大帝国となったスペインの莫大な富と権力を背景に、選りすぐりの絵画が当時の美術の中心であったイタリア、フランドルなどから購入されたことに端を発している。スペイン・ハプスブルク家のカール5世が基礎を築き、フェリペ2世、フェリペ4世に引き継がれた、このコレクションは、17世紀末には5500点を超える膨大なものであった。スペイン・ブルボン家の時代になっても、コレクションはフェリペ5世、カルロス4世らによって拡充されたが、1734年の旧マドリード王宮の火災で500点以上が灰塵に帰し、19世紀初頭のナポレオン軍の侵攻による略奪等によってさらに、ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィ二夫妻像」、ジャック・ルイ・ダヴィッドの「サン・ベルナール峠を越えるボナパルト」などの傑作を含む数百点が失われた。
美術館は、1819年11月19日に「王立美術館」と称して開館した[2]。1868年の革命後には「プラド美術館」と改称され、現在は文化省所管の国立美術館となっている。美術館開館後、コレクションは教会、個人収集家等からの寄贈、購入によって大きく増加し、現在では質量ともに世界有数の美術館となっている。その特徴は、歴代スペイン王の趣味やスペインの歴史を如実に反映していることで、西洋美術史を系統的にバランスよく展示しているわけではなく、時代、国、画家によって偏りがある。その一方、他の欧米の美術館ではあまり見ることができない数多くの画家の作品が集中的に収蔵されており、それが美術館独自の魅力となっている。
メインとなるビリャヌエバ館の建物は、1785年にカルロス3世が自然科学に関する博物館を作るため、フアン・デ・ビジャヌエバに設計させたものである。しかし、博物館として使われることはなく、カルロス3世の孫のフェルナンド7世が妻マリア・イサベルの進言を受け、美術館とした。
美術館には彫刻、工芸品等も収蔵されているが、その名を世界的なものにしているのは、何と言ってもルネサンス、バロック絵画を中核とした約8000点ものヨーロッパ絵画である。わけても5000点近いスペイン絵画は、フアン・デ・フランデス、ルイス・デ・モラレス、エル・グレコ、ホセ・デ・リベーラ、スルバラン、ディエゴ・ベラスケス、ムリーリョ、ルイス・メレンデス、フランシスコ・デ・ゴヤなどの多数の作品を初めとする中世から20世紀初頭にいたる、比類のないコレクションを誇っている[3]。
世界で唯一スペイン絵画の全貌に触れられるこのコレクションは、フアン・サンチェス・コターン、フェデリコ・デ・マドラーソ、マリアノ・フォルトゥーニ、ホアキン・ソローリャなどスペイン以外ではほとんど作品が見られない画家まで網羅している。そしてスペイン絵画を代表するディエゴ・ベラスケスとフランシスコ・デ・ゴヤ二人の宮廷画家の画業については、全生涯の作品を展示する圧倒的なコレクションである。前者の作品は最高傑作「ラス・メニーナス」を含む約50点、後者の作品も代表作「マドリード1808年5月3日」、「カルロス4世の家族」等を含む130点以上を数え、プラド美術館の作品を抜きにしてこの二人の画家の神髄に触れることはできない。加えて40点近いエル・グレコの作品も、「受胎告知」等スペイン時代の代表作のみならずイタリア時代の作品まであり、質量ともにプラド美術館の収集は傑出している。
美術館には、フランドルやイタリアなどの外国絵画も多く所蔵されている[4]。フランドル絵画については、その写実主義がカール5世以降のスペイン歴代の王の好みに合ったことに加え、フランドルがスペイン王室の領土(ネーデルラント17州、南ネーデルラントを参照)であったことを背景(例えば、ルーベンスが仕えたのは、ハプスブルク家のネーデルラント総督であったスペイン王女イサベル)に、16世紀から17世紀にかけて、ロベルト・カンピン、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン、メムリンク、ヒエロニムス・ボス、ヨアヒム・パティニール、ピーテル・ブリューゲル、アントニス・モル、ヤン・ブリューゲル、ルーベンス、アンソニー・ヴァン・ダイク、ヨルダーンスらの代表作が多数収集された[5]。中でもフェリペ4世が収集した90点を超すルーベンスの作品は、世界随一である。またフェリペ2世が愛好したヒエロニムス・ボスの「快楽の園」は、プラド美術館のみならず西洋絵画史上の代表作の一つである。
イタリア絵画については、スペインが16世紀以降ミラノ、ナポリを領有し、そのほかイタリア全土に大きな政治的影響力を持っていたことにより多数の作品が王室コレクションに入った。初期ルネサンス絵画は少ないものの、フラ・アンジェリコ、マンテーニャ、アントネロ・ダ・メッシーナ、ボッティチェッリらの傑作があり、盛期ルネサンスおよびマニエリスム絵画では、ラファエロ、アンドレア・デル・サルト、コレッジョ、セバスティアーノ・デル・ピオンボ、パルミジャニーノ、ソフォニスバ・アングイッソラ、フェデリコ・バロッチらの重要な作品がある。フェリペ2世らは、とりわけヴェネツィア派を好み、熱心に収集したため、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼらの作品群は、プラド美術館が誇るコレクションとなっている[6]。特に「ダナエ」などティツィアーノの作品は、約40点を数え、質量ともに世界最高である。そのほかアンニーバレ・カラッチ、カラヴァッジョ、グイド・レーニ、グエルチーノ、ルカ・ジョルダーノらを初めとする17世紀バロック絵画、スペイン・ブルボン家の宮廷で制作したジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロら18世紀の絵画も充実している。
スペイン、フランドル、イタリア以外のヨーロッパ各国の絵画は、スペインと政治的・宗教的に対立した歴史的事情を反映して少ないが、やはり傑作が収蔵されている。フランス絵画では、17世紀のプッサン、クロード・ロランの作品が特筆に値し、ほかにジョルジュ・ド・ラ・トゥ―ル、ヴァトー、そして18世紀のスペイン・ブルボン家の宮廷に招聘されたルイ=ミシェル・ヴァン・ローらの作品もある。ドイツ絵画では、ルネサンス期の名作が見逃せない。アルブレヒト・デュ―ラーの「アダムとイヴ」などの代表作が収蔵されているほか、クラナッハ、ハンス・バルドゥングの傑作がある。また18世紀の新古典主義の画家アントン・ラファエル・メングスのコレクションも重要である。そのほか17世紀オランダ絵画では、レンブラントの名作が収蔵されている。
以上の絵画コレクションおよび彫刻、工芸品等はビリャヌエバ館に常設展示されているが、その東側には、2007年にホセ・ラファエル・モネオの設計によるヘロニモス館が増築されており、主に企画展示に使用されている。ビリャヌエバ館は2階・1階・0階・-1階の4フロア、ヘロニモス館は2階・1階・0階で構成され、両館は0階で連絡している。現在、さらに近隣のサロン・デ・レイノス(Salon de Reinos)の建物を新たな別館とする拡張計画が進行中である。
収蔵品[編集]
プラド美術館には約7,600枚の油彩画、約1,000の彫刻、約4,800枚の版画、約8,200枚の素描、多くの美術史に関する書類が収められている。2012年の時点で約1300点が展示されており、約3,100点は他の美術館や研究所へ貸与されている。その他の作品は保管されている[7]。
著名な絵画[8]
フラ・アンジェリコ『受胎告知 (フラ・アンジェリコ、マドリード)』(1425年頃)
ロヒール・ファン・デル・ウェイデン『十字架降架』(1435年頃)
マンテーニャ『聖母の死 (マンテーニャ)』(1462年頃)
アントネロ・ダ・メッシーナ『天使に支えられる死せるキリスト』(1475-1476年頃)
ボッティチェッリ『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』(1483年)
アルブレヒト・デューラー『アダムとイヴ』(1507年)
フアン・デ・フランデス『十字架上のキリスト』(1509-1518年)
ラファエロ『枢機卿の肖像 (ラファエロ)』(1510-1511年)
ヨアヒム・パティニール『冥府の川の渡し守カロン』(1520-1524年)
コレッジョ『ノリ・メ・タンゲレ (コレッジョ)』(1525年頃)
ハンス・バルドゥング『人生の三段階と死』(1540-1543年)
ティツィアーノ・ヴェチェリオ『カール5世騎馬像』(1548年)
ティントレット『弟子の足を洗うキリスト』(1548年-1549年)
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ダナエ』(1553年-1554年)
ピーテル・ブリューゲル『死の勝利』(1562年)
ルイス・デ・モラレス『聖母子』(1568年)
エル・グレコ『胸に手を置く騎士』(1580年頃)
ヴェロネーゼ『ヴィーナスとアドニス (ヴェロネーゼ、マドリード)』(1580年)
カラヴァッジョ『ダヴィデとゴリアテ (カラヴァッジョ)』(1600年頃)
フアン・サンチェス・コターン『狩猟の獲物、野菜と果物のある静物』(1602年)
ジョルジュ・ド・ラ・トゥ―ル『ハーディーガーディーを弾く盲人』(1610-1630年)
グイド・レーニ『ヒッポメネスとアタランタ』(1612年頃)
ヤン・ブリューゲル(父)とルーベンス『視覚の寓意』(1617年)
アンソニー・ヴァン・ダイク『キリストの捕縛』(1618-1620年)
ヤーコブ・ヨルダーンス『画家の家族』(1621-1622年)
プッサン『パルナッソス山』(1631-1633年)
ディエゴ・ベラスケス『ブレダの開城』(1634-1635年)
レンブラント『ホロフェルネスの晩餐会でのユーディット』(1634年)
ピーテル・パウル・ルーベンス『三美神』(1635年頃)
クロード・ロラン『聖女パウラの乗船とオスティア港風景』(1639年)
ホセ・デ・リベーラ『ヤコブの夢』(1639年)
ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニ―ナス』(1656年)
ディエゴ・ベラスケス『織女たち』(1657年頃)
ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ『無原罪の御宿り』(1767-1769年)
ルイス・メレンデス『鮭、レモンと三個の器のある静物』(1772年)
フランシスコ・デ・ゴヤ『裸のマハ』(1797-1800年)
フランシスコ・デ・ゴヤ『マドリード、1808年5月3日』(1814年)
フェデリコ・デ・マドラーソ『ビルチェス伯爵夫人』(1853年)
マリアノ・フォルトゥーニ『日本間にいる画家の子供たち』(1874年)
フランシスコ・プラディーリャ・オルティス『狂女フアナ』(1877年)
ホアキン・ソローリャ『浜辺の子供たち』(1910年)
アクセス[編集]
マドリード地下鉄2号線「Banco de España」駅、または1号線「Atocha」駅下車。
その他[編集]
- ソフィア王妃芸術センター - かつてプラド美術館別館に収蔵されていたパブロ・ピカソの『ゲルニカ』などが展示されている。プラド美術館から徒歩圏内。
出典[編集]
- ^ “The Art Newspaper Ranking VISITOR FIGURES 2016 (PDF)”. The Art Newspaper. 2016年10月9日閲覧。
- ^ Institutional information - Museo Nacional del Prado
- ^ プラド美術館ガイドブック、2009年刊行、23項参照 ISBN 978-84-8480-189-4
- ^ “ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説”. コトバンク. 2018年5月26日閲覧。
- ^ プラド美術館ガイドブック、2009年刊行、307項参照 ISBN 978-84-8480-189-4
- ^ 同上、244項参照 ISBN 978-84-8480-189-4
- ^ Prado website. See also Museo del Prado, Catálogo de las pinturas, 1996, Ministerio de Educación y Cultura, Madrid, No ISBN, which lists about 7,800 paintings. Many works have been passed to the Museo Reina Sofia and other museums over the years; others are on loan or in storage. On the new displays, see El Prado se reordena y agranda. europapress.es here (in Spanish)
- ^ プラド美術館ガイドブック、2009年刊行、ISBN 978-84-8480-189-4
外部リンク[編集]
- Museo del Prado (英語)(スペイン語)
- Museo Nacional del Prado - Facebook(スペイン語)
- Museo Nacional del Prado (@museodelprado) - Twitter(スペイン語)
- Museo Nacional del Prado (museoprado) - Instagram(スペイン語)
- プラド美術館 スペイン政府観光局オフィシャルサイト (日本語)
- NHKスペシャル プラド美術館- NHK名作選(動画・静止画) NHKアーカイブス