プラセンタ

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プラセンタ製剤 LAENNNEC(ラエンネック)
MELSMON (メルスモン)

プラセンタ英語: placenta products, placental products[1])とは、胎盤から抽出した成分を含有する処方箋医薬品またはサプリメントである。処方箋医薬品としては更年期障害や乳汁分泌不全、慢性肝炎などに使用される。美容領域や歯科領域としても使用されるが、自由診療となる。

サプリメント・化粧品としても関連商品が広く流通しているが、経口投与のサプリメントでは、効果が期待できないばかりか健康被害の報告もある。なお、英語の placenta は「胎盤」を意味するが、本項で解説する「プラセンタ」は、「胎盤を原料として製造された医薬品および健康食品」という意味である。

医薬品[編集]

ヒトの胎盤

処方箋医薬品として使用されるプラセンタは、ヒトの胎盤から製造され、微黄色澄明の水性注射液である。日本で診療報酬調剤報酬の保険収載されている医療用医薬品製品として、商品名「メルスモン(MELSMON)」および「ラエンネック(LAENNNEC)」がある。

ヒト胎盤由来成分として、多種の微量成分を含有するが、有効成分とされる成分は特定されていない[2]リジンアラニンアスパラギン酸などのアミノ酸が主成分[2]

ホルモンタンパク質は、精製時の処理で完全に取り除かれ、含有されない。特定生物由来製品のため、投与前にリスクを含めた患者へのインフォームドコンセントが必要であり、アンプルの製造番号は、少なくとも20年間の診療録保管管理が必要となる(平成15年7月30日改正薬事法)[2]

メルスモン[編集]

メルスモン(MELSMON)は、1956年(昭和31年)に販売開始され、1959年(昭和34年)に薬価収載されている[2]。効能効果は、更年期障害と乳汁分泌障害で、共にフラセボと比較して有意な症状改善効果が確認されている[2][3][4]。マウスでの動物実験では、抗疲労作用・創傷治療促進作用なども確認されている[5]。販売はメルスモン製薬株式会社。1日1回2mLを毎日または隔日に皮下注射して使用する[2]。原料は日本国内の妊婦より出産時に排出された胎盤であり、提供者の海外渡航歴等の問診のほかに、血清学的検査によってウイルス細菌感染症スクリーニング検査を実施し、更にHBV-DNA、HCV-RNA、HIV-1-RNAについて核酸増幅検査(NAT)等を実施して問題なかった胎盤を使用する[2]。原料は、塩酸加水分解法によって101℃以上、1時間以上の塩酸加熱処理および121℃、60分間の高圧蒸気滅菌を実施され[2]、ウイルス等の不活性化処理が行われている[2]

ラエンネック[編集]

ラエンネック(LAENNNEC)は、1974年(昭和49年)に販売開始され、同年薬価収載されている[6]。原料および製造方法、滅菌処理方法はメルスモンに準じるが、効能効果は、「慢性肝疾患における肝機能の改善」となっている[6]。124例を対象としたCross Over法による二重盲検試験では、ラエンネックの投与により血清トランスアミナーゼ(GOT、GPT)値が有意に改善することが確認されている(1984年に薬効再確認済)[6]。実験用ラットでの動物実験では、肝再生促進作用・肝障害抑制作用・抗脂肝作用、肝線維化抑制作用が観察されている[6]。含有される胎盤由来抽出成分はメルスモンと大差ないが[7]、ラエンネックは1日2-3回を、皮下注射で投与することが出来る[6]ペプシン(ブタ、胃粘膜由来)、乳糖(牛乳由来)を製造工程で使用する[6]

美容外科・形成外科・歯科領域での利用[編集]

プラセンタを創部に局所注射すると、創傷治癒が促進されることが知られており、美容外科形成外科領域で使用されている[8]歯科領域でも、プラセンタが使用されている。プラセンタはヒト歯肉線維芽細胞(HGF)のI型コラーゲン産生量に影響を及ぼすことが知られており[9]歯周病抜歯後の治癒促進、口内炎などへ応用されている。これらの領域へのプラセンタの使用は、日本では診療報酬として認可されておらず、全額自費治療(自由診療扱い)となる。

感染症リスク[編集]

上記の2製剤は、高度な病原体不活性化処理が行われており、現在までに本剤の投与により、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)や後天性免疫不全症候群等の感染症を引き起こした症例は報告されていない[2][6]。しかし生体組織を原料としている以上、未知の病原体を含む感染症を伝播させてしまう可能性は、完全にゼロではない[2][6]

副作用・使用上の注意[編集]

アレルギー体質の患者へは慎重投与となっている[2][6]。併用禁忌薬は特に挙げられていない[6]。副作用として最も多いものは注射部位の発赤・疼痛で[6]、投与例の3.7-7.1%に観察される[2][6]。悪寒、悪心、発熱などが0.1-5%未満の頻度で見られる[2][6]

サプリメントや化粧品としてのプラセンタ関連商品[編集]

サプリメント化粧品としても、「プラセンタ関連商品」が流通している。原料としてはヒトの胎盤ではなく、といった家畜の胎盤が使用されている[10]。日本ではかつてサプリメントの原材料として牛の胎盤が使われていたが、牛海綿状脳症 (BSE) が確認されたことから安全性が疑問視され、その後は牛以外の家畜の胎盤を使用している[10]。羊も牛と同じ反芻動物であることよりBSEのリスクが懸念されている[10]

滅菌処理は60度程度の低温処理であり、「メルスモン」や「ラエンネック」のような高度の処理は行われていない。そのため、家畜の性ホルモンや、飼育時に使用された残留抗生物質が検出されたという報告がある[11]

化粧品として[編集]

胎盤抽出成分を混合した塗布薬が化粧品として販売されている。きめ・毛穴・発赤部分において改善効果を認める報告もあり、皮膚炎症の改善効果やメラニンの生成抑制効果、ターンオーバーの促進効果の可能性があることが示唆されている[12]スーパーオキサイドを低減し、しわの原因となるコラーゲン分子の光老化架橋形成を抑制する効果もあり有望な抗老化素材とする発表もある[13]アンチエイジング効果についても評価する声がある[14]

健康食品として[編集]

家畜の胎盤抽出成分を混合した食品が、健康食品・サプリメントとして販売されている。しかし、胎盤抽出成分(プラセンタエキス)に含有されるとされるペプチドホルモン酵素、成長因子、サイトカイン等は、経口摂取しても消化管で消化・分解されてしまい[10]、仮にプラセンタエキスに効果があると仮定しても、経口摂取ではその効果を期待することは難しい[10][15]。俗に、「更年期障害によい」「冷え性によい」「貧血によい」「美容によい」「強壮・強精によい」などと言われているが[10]、信頼に足る臨床試験でヒトにおける有効性は確認されていない[10]。一部で男性の性機能改善効果があったという報告もある[16]

また健康食品・サプリメントでは、上記の家畜の胎盤を原料にした製品の他に、魚の卵巣膜の抽出成分を含む商品を「海洋性プラセンタ」・「マリンプラセンタ」と称したり、植物の胎座placenta)の抽出成分を混合した商品を『植物性プラセンタ』等と称することもあるが[10]、そもそも哺乳類の胎盤を原料としていないので、全く関係無い別の食品である[10]

健康被害[編集]

プラセンタ関連の健康食品・サプリメントで、薬剤性肝炎、薬剤性肺炎、接触皮膚炎や全身性斑状強皮症を起こすなどの健康被害も報告されている[10][17]。プラセンタエキスを含む健康食品により成人型アトピー性皮膚炎が悪化したケースもある[10]

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Michael L. Power、Jay Schulkin 「The Evolution of the Human Placenta」 Page.48 (2012)
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n メルスモン 添付文書 メルスモン製薬株式会社 2016年10月19日閲覧
  3. ^ 唐沢 陽介ほか:薬理と治療 9(3)299-308,1981
  4. ^ 唐沢 陽介ほか:基礎と臨床 15(3)661-670,1981
  5. ^ 田村豊幸ほか:薬理と治療 6(10)109-114,1978
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m ラエンネック 添付文書 株式会社日本生物製剤 2016年10月19日閲覧
  7. ^ メルスモン100mg/Aに対して、ラエンネック112mg/Aを含有する
  8. ^ 芝崎由佳「ヒト胎盤抽出物プラセンタを創部に局所注射することで,創治癒が早まった2症例の報告」 日本形成外科学会総会・学術集会プログラム・抄録集 Vol.59th Page.462 (2016) GF05020A (616.5-085)
  9. ^ 本田義知「Effect of placenta on collagen type-1 and inflammatory cytokine production in human gingival fibroblasts」ORAL THERAPEUTICS AND PHARMACOLOGY Vol. 34 (2015) No. 3 p. 94-99
  10. ^ a b c d e f g h i j k 「健康食品」の安全性・有効性情報 「プラセンタ」国立健康・栄養研究所 情報センター 健康食品情報研究室
  11. ^ J Food Sci Nutr 2007; 12: 89-94
  12. ^ 伊藤公美恵「Effect to skin of placenta cosmetics (Preliminary study) 」臨床医薬 Vol.32 No.7 Page.593-601 (2016.07.31)
  13. ^ 安井裕之「Evaluation of novel-type placental extract as anti-aging material 」Fragrance journal Vol.44 No.4 Page.36-45 (2016.04.15)
  14. ^ 小池浩司「更年期からのアンチエイジング:HRTとプラセンタ療法を中心に」日本女性医学学会雑誌 Vol.20 No.3 Page.450-455 (2013.04.01)
  15. ^ Yoshikawa C Efficacy of porcine placental extract on wrinkle widths below the eye in climacteric women.Climacteric. 2014 Aug;17(4):370-6. doi: 10.3109/13697137.2013.871695. Epub 2014 Jan 29.
  16. ^ 江水保「プラセンタエキス含有ドリンクの性欲および性機能改善効果」診療と新薬 Vol.48 No.8 Page.793-801 (2011.08.28)
  17. ^ 石本裕士「プラセンタによる薬剤性好酸球性肺炎の1例」日本呼吸器学会誌 Vol.4 No.6 Page.464-467 (2015.11.10)