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ブラジュロンヌ子爵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

『ブラジュロンヌ子爵』(仏: Le Vicomte de Bragelonne)は、アレクサンドル・デュマ・ペールによる長編小説。フランスの新聞紙、『シエークル』において1847年10月20日から1850年1月12日まで連載された。『ダルタニャン物語』三部作の最終作にあたる。1660年、チャールズ2世の王政復古からダルタニャンが戦死するまでを描く。第二部『二十年後』からさらに十年後の物語である事から、『十年後』の副題がついている。

分量では、『三銃士』と『二十年後』の合計を上回り、三部作の中で最も長い作品である。

表題人物は アトス(ラ・フェール伯爵)の息子ラウル・ド・ブラジュロンヌである。物語は1660年-1661年のルイ14世の親政黎明期を中心に、イギリス王政復古、 ルイ14世による国家体制と統治基盤形成の道のり、ニコラ・フーケとコルベールの政争、ルイ14世とルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの恋、アラミスによるルイ14世と双子の弟フィリップの国王入れ替え計画などを軸として展開される。実在の人物や史実の逸話が多く盛り込まれ、ヴォー=ル=ヴィコントの大饗宴や、実在した才ある廷臣や芸術家や官僚たちによる群像劇と壮大な歴史ドラマが繰り広げられる。

舞台はフランス国内にとどまらず、実質的な主人公であるダルタニャン、アトス、アラミス、ポルトスの活躍も、スケールアップしている。

本作は、それぞれ軍事、外交・宗教、武勇、名誉の頂点へ到達していくダルタニャンと三銃士の晩年の活躍から、ラウルの悲恋、彼らの最期までが描かれ、物語は仏蘭戦争でのダルタニャンの死をもって完結する。

(1876年刊)挿絵。ダルタニャン(右)に、ルイ14世とルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールの関係について問い詰めるラウル・ド・ブラジュロンヌ(左)。

あらすじ

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物語は『二十年後』より10年後の1660年から始まる

清教徒革命によりイギリスを追われ流浪していたチャールズ2世が、ブロワ城に滞在するルイ14世に、王政復古のための軍資金救援を求めて訪ねてくる。しかし、ルイ14世はいまだ宰相ジュール・マザランに実権を握られており、チャールズ2世を支援する権限はなく、頼みを断る。それを見ていたダルタニャンはルイ14世に愛想を尽かし、50歳近くの高齢ながらチャールズ2世の復位に尽力しようと退役し、イギリスへ渡る事を決心する。時を同じくしてアトスはチャールズ2世の訪問を受け、先王チャールズ1世との誓約を果たし王位を取り戻す時は来たと、イギリスへ旅立って行った。

チャールズ1世の処刑後、王政が廃止されたイギリスは、クロムウェル護国卿時代が崩壊し、軍事勢力と議会が分裂していた。チャールズ1世からスチュアート王家の秘密の財宝を託されていたアトスは、議会の主導権を握るモンク将軍と接触して正当な王位継承者チャールズ2世の復位を説き、直後にダルタニャンが何も知らないままモンクを誘拐してハーグのチャールズ2世のもとへと連行する。この二人の異なる活躍の末に、モンクは王政復古への協力を決意し、チャールズ2世の復位が成し遂げられる。

翌年、宰相マザランが息を引き取り、ルイ14世自身による親政が始まる。ルイ14世は破産した国家財政を立て直すため、マザランの秘書官だったジャン・バティスト・コルベールを財務監督官に任命する。 コルベールは、巨万の富を持つ財務総監ニコラ・フーケの権勢を阻むためフーケの失脚を企てていた。コルベールは、フーケがベル・イール・アン・メールで密かに要塞を築いていることをルイ14世に報告する。

ルイ14世はダルタニャンを呼び戻し銃士隊長に任命すると、ベル・イールの調査を命じる。ダルタニャンはベル・イールへ渡り、島で秘密裏に要塞工事が行われている事を確認するが、その要塞工事の指揮をしていたのはポルトスだった。ダルタニャンは、ヴァンヌの司教アラミスとも再会し、アラミスがベル・イール要塞の実質的な設計者であり、フーケの右腕であることを見抜く。

一方でアラミスもダルタニャンがルイ14世の密命を受けてベル・イールへ調査に来たことを確信し、早馬でフーケに知らせ、間一髪でベル・イール要塞をルイ14世に献上して、フーケが反逆罪に陥れられることを免れる。

アトスがチャールズ2世の大使として、イギリスのアンリエット王女とルイ14世の弟オルレアン公フィリップの婚姻を成立させたことで、アンリエット王女がフランスへ輿入れしてくる。 美貌で愛らしく魅力的なアンリエット王女は、随行の2代目バッキンガム公爵を夢中にさせており、ギーシュ伯爵もアンリエット王女に心を奪われる。

その王弟妃アンリエットの侍女として、ラウルの愛するルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが、ブロワからパリの王宮にやってきた。 ルイズは、ブロワ城で初めてルイ14世を見た瞬間から、国王に心を揺り動かされていた。そして、宮廷で再びルイ14世を見て、それが焦がれるような恋心へと変わっていく。

一方でアトスは、息子ラウルからルイズとの結婚の決意を打ち明けられて反対するが、ラウルの決意は固く、アトスは不承不承ルイ14世に結婚の許可を願い出る。しかしルイ14世はアトスが結婚に不本意だという本音を看破し、ルイズの家柄の低さとラウルは軍で栄達を遂げてから結婚すべきだとの理由で結婚を不許可にする。

美貌で才気煥発な王弟妃アンリエットは、宮廷中を虜にしていたが、あろうことかルイ14世とアンリエットが恋に落ちてしまう。母后アンヌに戒められたルイ14世とアンリエットは、恋の隠れ蓑として、ルイ14世が侍女ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを気に入っているという噂を広めようとする。

しかし、この計画が実行に移される前に、純粋なルイズは、初めて会った時から魂を奪われていたルイ14世への恋心を、森の奥で仲間の侍女たちに、告白する。それを偶然ルイ14世が木の影で聞いてしまう。 ルイズの自分への純愛に激しく恋心を掻き立てられたルイ14世は、ラウルを特使としてイギリス宮廷へ派遣する。

王政復古の功労者アトスを父に持つラウルはチャールズ2世の宮廷で歓待され、美貌のメアリー・グラフトン公爵令嬢を紹介される。高潔で聡明で魅力的なメアリー・グラフトンは、やがてラウルを愛するようになる。

一方、フランスでは、ルイ14世の愛が急激に冷めていくのを知った王弟妃アンリエットがルイズに激しく嫉妬し、母后アンヌ・ドートリッシュとともにルイズを厳しく叱責し、侍女を解雇して宮廷から追放してしまう。傷心のルイズは宮廷を去り、修道院に逃げ込むが、ダルタニャンから事情を聞いたルイ14世がルイズを宮廷へ連れ戻す。寵臣サン・テーニャンはルイ14世のために、ルイズの部屋へ通じる秘密の隠し階段を造らせ、こうして二人は密会するようになる

この隠し階段の密会を知った王弟妃アンリエットは、ルイ14世とルイズの恋を妨害しようと、イギリス宮廷に滞在するラウルを呼び戻す。ラウルは急ぎフランス宮廷へ戻るが、ルイズの部屋に入ったとたんに、隠し階段からルイズに会いに来たルイ14世と、鉢合わせしてしまった。

ラウル(左)が、ルイズ(中央)の部屋でルイ14世と遭遇。Jules-Marie Desandre画

ルイズがルイ14世を愛していることを知ったラウルは、悲嘆に暮れる。一連の事情を知ったアトスはルイ14世に謁見し、ラウルとルイズの結婚を認めるよう求める。しかし、ルイ14世はこれを拒否し、自分とルイズは愛し合っており、ルイズはラウルを愛していないと答える。 これに対しアトスは、国王が臣下との信義を損なったことを厳しく非難し、忠誠の象徴である剣を折って決別を宣言する。ルイ14世は激昂してアトスをバスティーユ牢獄に投獄するが、ダルタニャンが、ルイの行動を厳しく諫める。ダルタニャンは、「陛下が欲しいのは友人で偉大な人物か、それとも世辞追従の服従者か」とつめ寄り、国王か自分かどちらかが死ぬまで決着はつかぬと、自らの心臓に剣を突き立てようとする。ルイ14世はこれを制止し、自らの未熟さを悟ってアトス釈放の命令書を書く。

ルイ14世(左)にアトスの釈放を求めるダルタニャン(右)。1852年、Auguste Trichon画

財務総監ニコラ・フーケは、その権勢と財力ゆえにいよいよルイ14世の粛清の対象となっていた。ルイ14世の出生の秘密を知るアラミスは、フーケを救うため、そしてローマ法王になるという己の野望のために、国王を入れ替える計画を企てる。

ルイ14世には出生の秘密があった。ルイは双子として産まれた。双子の弟フィリップは、王位継承争いを危惧したリシュリュー枢機卿とルイ13世の命令により、生まれるとすぐに存在を隠されて人里離れたノワジー・ル・セックの屋敷で傅育官と乳母に育てられた。母后アンヌ・ドートリッシュとシュヴルーズ公爵夫人だけがフィリップの屋敷を訪れており、15年前にアラミスはその供をしたことがあったのだ。ルイ14世と瓜二つで見分けがつかないフィリップは、現在はバスチーユ牢獄の独房に「マルキアリ」の名前で特別待遇の囚人として幽閉されていた。

フィリップ(左)に出生の秘密を明かすアラミス(右)。1852年、Auguste Trichon画

イエズス会管区長のアラミスは、イエズス会士のバスティーユ長官ベーズモーを意のままに動かすことが出来た。アラミスはフィリップをバスティーユ牢獄から脱出させ、フーケが国王を招待して催したヴォー・ル・ヴィコントの大園遊会に乗じて、ルイ14世とフィリップを入れ替える。しかし、アラミスから計画の全容を聞いた清廉なフーケはアラミスに怒り、バスティーユ牢獄へルイ14世を救出に向かう。フーケの正義感によって、国王入れ替え計画は失敗した。

アラミスはポルトスを連れてフランスを脱出し、ベル・イール・アン・メール要塞へ立てこもった。だが、国王の艦隊がベル・イールを包囲し、王軍が島へ上陸する。王軍の指揮を執るダルタニャンは、アラミスとポルトスを逃す時間を稼ごうとするが、ルイ14世はダルタニャンからすべての指揮権を奪ってしまう。ポルトスはロクマリアの洞窟でアラミスを海上へと逃し、迫り来る国王軍に爆薬の樽を投げる。洞窟の爆破により国王軍は甚大な損害を受けるが、ポルトスは脱出の際、足が萎える持病で体の自由が効かなくなり、洞窟の崩落で巨石に押しつぶされて死亡する。アラミスはポルトスの死に一晩泣き明かし、イエズス会士であるフランス海軍提督に命じ、フランス軍艦を奪ってスペインへと亡命する。

急ぎルイ14世の元へ戻ったダルタニャンは、ポルトスとアラミスの無罪放免を求める。 ダルタニャンの忠誠心と長年の信頼関係を重視したルイ14世は、コルベールの進言もあり、アラミスとポルトスを無罪赦免にする。

フーケ(右)を追うダルタニャン(左)。1852年、Philippoteaux画

絶対王政に向けて国を盤石の体制にしていくルイ14世を、時に厳しくいさめながらも、ダルタニャンは、国王に仕える銃士隊長としての道を突き進む。財務大臣フーケを壮絶な追跡の果てに逮捕し、鉄仮面をかぶせられたルイ14世の双子の弟フィリップをサント・マルグリット島へ護送する任務を遂行した。

サント=マルグリット島監獄の鉄仮面(中央)、1876年

ブロワでは、すべての望みを失い失意の日々を送っていたラウルの元へ、王族ボーフォール公が訪ね、アルジェリア遠征の副官にしたいと打診してきた。戦死を決意したラウルは、遠征軍に加わる。アトスは断腸の思いで息子を旅立たせた。

ラウルは、アルジェリア軍との戦闘で、ボーフォール公の静止を振り切り一騎で敵陣へ突撃し、銃撃を受け重傷を負う。外科医による手術は成功するが、その夜、医師が離れた隙にベッドから飛び降り、ルイズの髪の束を握り締めて微笑みを浮かべたまま失血によって死亡する。

ラウルの死の報せはアトスのもとへ届けられ、アトスは、最愛の息子の幻影に導かれるように微笑みを浮かべて天へ昇り、息を引き取る。

4年後、伯爵に出世したダルタニャンは、スペイン大使アラメダ公爵としてフランスを訪れたアラミスと友情の抱擁をかわす。ルイ14世の愛はすでにモンテスパン侯爵夫人に移り、ルイズは泣き暮らしていた。ルイ14世とアラメダ公爵の間に、秘密裏にスペイン・フランス中立同盟が結ばれた。さらにアラメダ公爵はポルトガルとの密約も取り付ける。

フランスとオランダが開戦した。仏蘭戦争である。ダルタニャンは陸軍12万を率いる遠征軍司令官に任じられ、破竹の勢いで12の都市を陥落させ、フランスを勝利に導いていく。戦場で指揮を取るダルタニャンの元へ、ルイ14世から元帥杖が送り届けられる。その元帥杖を手に取ったダルタニャンの胸をオランダ軍の銃弾が貫き、ダルタニャンは、倒れた。死にゆくダルタニャンは、要塞の上に白旗が上がるのを見届けて、つぶやいた。「アトス、ポルトス、また会おう。アラミス、永遠にさようなら」

登場人物

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フランス

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ラウル・ド・ブラジュロンヌ
本作の主人公で、アトスの実子。二十代半ばで武勇に秀で気高く純粋で、 アトスから受け継いだ教養と非の打ち所のない洗練された宮廷マナー、誠実な高潔さにより誰からも愛される貴公子。本名ラウル・オーギュスト・ジュール・ド・ブラジュロンヌ。王族 コンデ大公の側近を経て、ルイ14世に仕え、優れた教養と品格から、有望な青年貴族として随行任務などを担う。父アトスを地上の神と崇拝しダルタニャンを武人の鏡として敬愛している。隣の領地に住む貧しい貴族の娘で幼馴染のルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを幼い頃から愛している。父アトスは息子ラウルとルイズの恋愛に長らく強く反対していたが[1]、ラウルの決意に押され、ルイ14世に不承不承、結婚許可を求めに行く。アトスの反対を察したルイ14世は、ルイズの家柄の低さとラウルの将来性を理由に結婚を不許可にする。その後、ルイズがルイ14世への恋心を告白しているのをルイ自身が偶然耳にし心を動かされ、ラウルをチャールズ2世のイギリス宮廷へ特使として派遣する。ラウル不在の間にルイ14世とルイズの恋愛が進行し、帰国後に、それを知ったラウルはアルジェリア遠征に自ら出陣して、一騎で敵陣へ突撃する。8発の銃撃を受け重傷を負うが、外科医による手術は成功する。しかしその夜、ベッドから飛び降り、ルイズの髪の束を握り締め微笑みを浮かべたまま、失血によって死亡する。
アトス(右)とラウル(左)。鉄仮面が収監されたサント・マルグリット島にて。1852年、Philippoteaux画
ダルタニャン
第一部『三銃士』、第二部『二十年後』の主人公で、本作でも実質的な主人公。50歳近くになりながらも武勇に秀で元気溌剌。物語の序盤でイギリスに渡りイギリス王政復古に乗じて莫大な財産を作り、長年の貧困生活に終止符を打った。その後、親政を決意し腹心となるべき人物を必要としたルイ14世に半ば強引に呼び戻され、銃士隊長に就任。かつての三銃士とは、ルイ14世による逮捕命令や攻撃命令を受けながらも、固い友情を守り通す。そして、ついにはフランス元帥の位まで上り詰める。
1852年、Philippoteaux画
アトス(ラ・フェール伯爵)
かつての三銃士のリーダー格。 60歳近いが若々しい鋭さを残しており、荘重さと風格、気高い精神を兼ね備えた貴族の精華[2]。一人息子ラウルへ惜しみない愛情をそそぐ。流転の国王チャールズ2世を助け、イギリス王政復古に多大な活躍をし、イギリス王宮で絶大な信頼を得て、王弟オルレアン公とアンリエット王女の英仏婚姻の大使を務める。数々の忠誠と功労により、Saint-Esprit(聖霊勲章)、Jarretière(ガーター勲章)、Toison d’or(金羊毛勲章)の三大大国最高勲章を受勲したフランス唯一の人物。
アトス(右)とモンク(左)。1852年、Philippoteaux画
ポルトス
かつての三銃士。大柄な体格と強い腕力を持つ大領主である。名はデュヴァロン・ド・ブラシュー・ド・ピエールフォン。老齢に達しているが、その怪力は人間離れしており、作中では「巨人ティタン」「心優しき巨人」と形容される。生来の純粋さと寛大さを持つ人物として描かれる。
アラミスの誘いにより公爵位の授爵を期待して、アラミスの言葉を信じ、詳細を知らぬまま、ルイ14世とその双子の弟フィリップの入れ替え計画に参加する。計画は発覚し、反逆者となりアラミスとともにベル・イール要塞に籠城する。
要塞は包囲され、ポルトスは海上にアラミスを逃したのち、爆破により崩落した岩の下敷きになって死亡する。
ベル・イール・アン・メールの要塞工事を監督するポルトス。Philippoteaux画
アラミス(デルブレー司教)
かつての三銃士。ヴァンヌの司教で財務総監ニコラ・フーケの右腕。イエズス会のgénéral des jésuites(管区長)でもある。若い頃は二枚目で剣の達人で華やかな恋をし、老齢になった今も力強い品のよい脚と、血色のよい艶やかで誇らしげな顔を持つ。ヴァンヌの民衆から崇められる聖職者で、権謀術数に長ける。痛風で結石。フーケの信頼を受け、フーケの所領ベル・イール・アン・メールを要塞化。フーケが国王の不興を買っているため銃士隊長ダルタニャンとは心ならずも対立する立場にある。ルイ14世の双子の弟フィリップがバスティーユ牢獄の独房に幽閉されているという秘密を知っていた事から、ローマ法王になるべく壮大な野心を抱き、国王入れ替えの策謀をめぐらす。計画の失敗後は、ベル・イール・アン・メールの攻防戦を経て、スペインに亡命。4年後にアラメダ公爵となってフランスへ外交大使として訪れ、仏蘭戦争でのスペイン・フランス間の中立の密約を結ぶ。
ルイ14世
第2部『二十年後』では幼く、母后アンヌ・ドートリッシュと宰相マザランの傀儡だったが、本作では親政黎明期の若き国王として描かれる。宮廷に影響力を及ぼしている母后の支配から徐々に自立し、自らを中心とする宮廷と王権の形成を進めていく。マザラン死去後、破産状態にあった国家財政のもとで親政開始を決意し、ジャン=バティスト・コルベール を登用して財政再建を進める一方、国家財政を握る ニコラ・フーケ に忠誠の名目で資金提供を続けさせ、失脚工作を進める。そして絶対王政確立へ向けた統治基盤を形成していく。恋愛面では、 マリー・ド・マンシーニ を愛しながらもマザラン一族による政治支配を避けるため自ら関係を断念し、スペイン王女マリー・テレーズと結婚する。続くアンリエット王弟妃との恋は母后アンヌの諫言より数日で終わる。その後、身分の低い侍女ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールと恋に落ちるが、これも母后の怒りに触れてルイズが宮廷を追放される。しかし自ら彼女を連れ戻し、情熱を傾ける。
ルイズ(右)、ルイ14世(中央)、ダルタニャン(左)。1852年、Félix Philippoteaux画
ニコラ・フーケ
フランスの財務総監。マザラン亡き後、国王をしのぐ巨万の富を持つ。その権勢と財力を、親政を目指すルイ14世から警戒されており、粛清の対象となる。 才能に恵まれた芸術愛好家で魅力があり、貴婦人や廷臣や芸術家の敬愛の的。作中でフーケの洗練されたもてなしや豪奢な暮らしぶりに関する記述は多い。詩人ラ・フォンテーヌや劇作家モリエール、画家ル・ブラン、造園家や料理人ヴァテルに囲まれている。アラミスから、ルイ14世と双子のフィリップ王子を入れ替えたという策謀を打ち明けられ、バスティーユ牢獄へルイ14世を単身で救出に行く。 その後、ルイ14世の命令により逮捕の対象となるが、ダルタニャンはフーケを逃がそうとする。しかし間に合わず、ダルタニャンの追跡の末に逮捕され、疲労困憊したダルタニャンと肩を組んでルイ14世の前に出る。
1852年、Jean-Achille Pouget画
コルベール
財務監督官。元はマザランの秘書官。マザラン亡き後にその推薦で、親政を行なうルイ14世の側近として活躍する。スケールの大きい財務総監フーケに敵意と嫉妬を燃やし、フーケの権勢を削ぐべくあらゆる策略をルイ14世にアドバイスする。武人気質のダルタニャンとは馬が合わず不和であったが、後に和解。戦費とマザランの横領により破綻したフランスの財政を立て直そうと無私無欲でフランス国家に尽くし、フーケ失脚後は財務総監となる。ダルタニャンがフランス元帥の地位に登る際に、王に働きかける。
1852年、Philippoteaux画
フィリップ
バスティーユ牢獄の独房に「マルキアリ」の名で特別待遇で収監されている囚人。ルイ14世とは瓜二つ。正体はルイ14世の双子の弟。王位継承争いを回避するためにリシュリューとルイ13世によって赤ん坊の時より存在を隠され、ノワジー・ル・セックの屋敷で傅育官と乳母に育てられた。1カ月に一度だけ母后アンヌかシュヴルーズ公爵夫人が訪ねて来ていた。自分の出生に関する手紙を読んだ事から傅育官と乳母は毒殺され、バスティーユ牢獄に特別待遇の囚人として幽閉された。アラミスに出生の秘密を打ち明けられてバスティーユから救出され、双子の兄ルイ14世と入れ替わって王になる決意をするが、計画は失敗。サント・マルグリット島に流刑になり、鉄の仮面を一生被って生きることになる[3]。
バスティーユ牢獄にて。1876年
母后アンヌ・ドートリッシュ
ルイ14世の母親。姪であるスペイン王家出身の王妃マリー・テレーズの立場を尊重し、ルイ14世の恋愛に干渉する。マリー・ド・マンシーニとの結婚に反対し、王弟妃アンリエットとの親密な関係を諫め、侍女ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを宮廷から追放するなど、若い国王の私生活に影響を及ぼす。
ルイズ(右)を追放する母后アンヌ(中央)、アンリエット王弟妃(左)。1852年、Philippoteaux画
マザラン枢機卿
リシュリュー死後のフランス国政を担い、莫大な財産を蓄積した老宰相。死の直前、司祭から「国から得た財を国王に返還しなければ魂は救済されない」と告げられ苦悩し、コルベールの助言に従って全財産をルイ14世へ遺贈しようとする。しかし、誇り高いルイ14世はこれを拒否する。最期にはルイ14世へ「今後は決して宰相を用いぬように」と懺悔とも言える忠告を残して死去する。
ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール
ラウルの隣の領地に住む幼馴染で、貧しい貴族の娘。ヴァリエール侯爵の令嬢だが、父侯爵を早くに亡くし母親がオルレアン公ガストンの司厨長サン・レミと再婚した事から宮廷での身分は低い[4]。夢見るような汚れなき可憐さはあるが華やかな美人ではなく、幼い頃の負傷が原因で足を引きずっている。ラウルを愛していると思い込んでいたが、ルイ14世を見たその日から、ルイに焦がれるような恋をしてしまう。フォンテーヌブローの園遊会の夜に侍女仲間に漏らしたルイ14世への純粋な恋心を、ルイ14世が偶然聞いてしまい、純情なルイズに恋心を抱くようになる。ルイズも国王に全身全霊の愛を捧げたことから、ラウルとの関係に悲劇が訪れる。
ルイ14世への恋心を告白するルイズ(手前右)と、木陰のルイ14世(右奥)。1852年、Philippoteaux画
アンリエット
イギリス国王チャールズ2世の妹。兄の復位の後、ルイ14世の弟オルレアン公フィリップと結婚する。才気煥発で美貌であり、宮廷中を魅了する。彼女をめぐってギーシュ伯爵、ルイ14世、2代目バッキンガム公爵が恋の鞘当てを繰り広げる。ルイ14世の恋心が侍女ルイズに移ったことに自尊心を激しく傷つけられ、ルイズを愛するラウルをイギリス派遣から呼びもどす。
王弟フィリップ・ド・オルレアン大公
ルイ14世の弟。チャールズ2世の妹アンリエット王女と結婚する。妻を蔑ろにしているが、アンリエットの周囲の男たち、バッキンガム公爵、ギーシュ伯爵、兄ルイ14世に次々に嫉妬する。
マリー・テレーズ王妃
ルイ14世の妃。スペイン王家出身。母后アンヌは叔母(父親の姉)に当たり、母方の祖父はアンリ4世なのでブルボン家の血も引いている。おとなしい性格で、夫ルイ14世の恋心を掻き立てることがなく、夫の浮気に心を痛めているが、母后アンヌが味方になっている。
1852年、Philippoteaux画
ギーシュ伯爵
王弟フィリップの寵臣で、ラウルの親友。グラモン元帥の息子で宮廷では花形的な青年貴族。イギリスから輿入れした王弟妃アンリエットを愛し、道ならぬ恋に苦しむ。ワルド伯爵との決闘で重傷を負う。
決闘で瀕死の重傷を負ったギーシュ伯爵を見舞うアンリエット王弟妃。1852年、Philippoteaux画
ワルド伯爵
第一部『三銃士』で登場したミレディの恋人ワルド伯爵の息子。父の恨みと陰湿な性質からダルタニャンとラウルを執拗に憎む。ダルタニャンとラウルを侮蔑したことから、ダルタニャンにバスティーユ三年の刑に処されそうになる。親の因果[5]で、2代目バッキンガム公爵と決闘し瀕死の重傷を負うが生還。その後も毒舌が災いしてギーシュ伯爵と決闘し、ギーシュ伯爵に重傷を負わせ、ルイ14世とアンリエット王弟妃の怒りを買う。
ワルド伯爵(左)、ド・ギーシュ伯爵(右)。1852年、Philippoteaux画
サン・テーニャン伯爵
ルイ14世の寵臣で才人。ルイ14世と侍女ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールとの密会のために隠し階段を設けたり詩を作るなど、ルイ14世の恋の仲介役を務め、ラウルから決闘を申し込まれる。
1852年、Philippoteaux画
マリコルヌ
大銀行家の息子で、本人も野心的な銀行家。ギーシュ伯爵の幼馴染である宮廷貴族マニカンに貸し付けを行なっており、マニカンの借金を減免する代わりに、アンリエット王弟妃の侍女の任命許可証を2通入手する。1通はマリコルヌの婚約者モンタレー嬢に、もう1通はモンタレー嬢の友人ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールに渡す。この任命証によりルイズは王宮に出仕することになる。
ベーズモー
バスティーユ長官ベーズモー・ド・モンルザン。元はマザラン枢機卿の親衛隊長。親衛隊を辞職しバスティーユ長官の官職を望んでいた時に、アラミスが資金援助して長官職を買い取りベーズモーを長官にした。アラミスに多大な恩がある。イエズス会士であり、イエズス会管区長であるアラミスに心酔している。
1852年、Philippoteaux画
シュヴルーズ公爵夫人
フランスから追放され破産しているが知略謀略は衰えず。フーケ公金横領の証拠や、ルイ14世の出生の秘密など様々な機密を握っている。若い頃は絶世の美女で、宮廷の陰謀やフロンドの乱に関わった。銃士時代のアラミスの恋人。旅先の一夜でアトスと情を交わしラウルを生んだ。かつてアラミスを伴って、ノワジー・ル・セックで秘匿されて育てられていたフィリップの屋敷を訪ねていた事から、アラミスがルイ14世の出生の秘密を知る事になった。
ボーフォール公爵
王族で、アンリ4世とガブリエル・デストレの孫。ラウルの軍才を見込み、アルジェリア遠征に副官として同行させる。安全な司令部の自分の傍らに留めておいたラウルが、命令違反で単騎で敵陣へ突撃すると、全軍を動かしてラウルを救出し、外科医を集めて手術を施させる。しかし命を取り留めたラウルは、医師が席を外した隙にベッドから飛び降りて失血死する。公爵はラウルの遺体に防腐処置を施させ、軍艦と馬車を手配し、グリモーにブロワのラ・フェール伯爵邸へ送り届けさせる。
プランシェ
かつてのダルタニャンの従者。いまはロンバール街の食料品店「金の杵亭」が大繁盛している。
ムースクトン
ポルトスの従者。いまはデュヴァロンの屋敷の執事。ポルトスの死後、主人の衣服の山の中で主人の跡を追うように息絶える。
グリモー
アトスの糟糠の従者。老骨に鞭打ち主人アトスに付いて渡英し主従でイギリス軍の銃撃をあびて立てこもり、アトスの護送馬車をラウルと襲撃し、ラウルに付き従って灼熱のアフリカへ従軍し、ラウルの遺体をブロワまで持ち帰った。アトスいわく、一言も不平をこぼさず死ぬほどの献身を捧げる従僕。

イギリス

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チャールズ2世
イギリス国王。ルイ14世の父方の従兄弟にあたる。ハーグで亡命生活を送り、フランスのルイ14世に援軍を求めに来るがマザランの支配下にあるルイ14世に断られる。ブロワを流浪中にアトスに出会い、アトスとダルタニャンの活躍によってイギリス王政復古に成功。アトスに非常に感謝している。
パリー
チャールズ1世の頃から仕えるスチュアート王家の忠臣。『二十年後』の段階でアトスと親交を得る。チャールズ2世とブロワ放浪中にアトスの屋敷を訪ねた事で、スチュアート朝の王政復古につながった。
バッキンガム公爵
『三銃士』に登場した初代バッキンガム公爵(ジョージ・ド・ヴィリエ)の息子。王弟妃アンリエットに恋焦がれており、危険を顧みない大胆な行動を取る。宮廷に波紋を呼びかねない恋情に、母后アンヌに説得されてイギリスへ帰国する。ラウルを信頼して友人になる。
二代目バッキンガム公爵(左)、ワルド伯爵(右)。1910
モンク将軍
クロムウェル亡き後、内戦状態の共和政イギリスの議会派指導者。アトスの真摯な説得により、チャールズ2世の支持に転向した。直後に何も知らないダルタニャンによって誘拐され、樽に詰められたままハーグのチャールズ2世の元へ護送される目に遭ってしまう。イギリス王政復古ののちは、アルベマール公爵となる。
メアリー・グラフトン嬢
グラフトン公爵令嬢。美貌で気高く賢く心優しい。イギリス宮廷へ派遣されたラウルに恋心を抱く。チャールズ2世も、過去に自分が求愛したほど魅力的なメアリーと恩人の息子ラウルとの結婚を密かに応援する。フーケの最愛の女性であるプレシ・ベリエール将軍の妻プレシ・ベリエール侯爵夫人の妹。

日本語訳

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全訳は鈴木力衛訳(全11巻、講談社文庫)で現在は絶版。現行は復刊ドットコム(新版2011年)である。

  • 『ダルタニャン物語』 講談社のち講談社文庫、※初版は箱入単行版で1968-69年に刊行。
  • 『ダルタニャン物語』 復刊ドットコム・ブッキング、※講談社文庫を一部表現を修正した選書版。
  • ※『ダルタニャン物語』の、第三部『ブラジュロンヌ子爵』は、以下の六部構成
    • 第6巻『将軍と二つの影』、第7巻『ノートル・ダムの居酒屋』、第8巻『華麗なる饗宴』
    • 第9巻『三つの恋の物語』、第10巻『鉄仮面』、第11巻『剣よ、さらば』

また1998年に映画『仮面の男』公開に併せ、『鉄仮面』に関わるエピソードを抜粋・編集を加え角川文庫(石川登志夫訳)で新版刊行された。

映像化作品

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脚注

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  1. ↑ アトスは、ラウルの少年期から強い反対を示し、接触を厳しく制限している。作中では、ラウルには名門の大貴族の娘との縁組が想定されていたことが示されており、由緒ある帯剣貴族ラ・フェール伯爵家とルイズとは身分上の隔たりが存在することが描かれる。また、ラウルは宮廷において軍務・外交で有望な貴族であり、ラウルの将来性のために慎重な姿勢が示される
  2. ↑ 「二十年後」6巻42章
  3. ↑ デュマの『ダルタニャン物語』では、バスティーユ牢獄でフィリップが鉄仮面をかぶっているシーンは無い
  4. ↑ 王弟妃 アンリエットの侍女内の序列は家格に基づいて構成されており、ルイズはその中でも最下位の位置に置かれていることが作中で示される
  5. ↑ ワルド伯爵(父)の恋人ミレディがフェルトンを色香で籠絡してバッキンガム公爵(父)を殺害させた事件
  6. ↑ ストーリー:傲慢な暴君ルイ14世がフーケの令嬢を寵姫として望むが、フーケは拒否。フーケの令嬢がアトスと恋仲と知ったルイ14世は、アトスに出陣命令を出し戦場へ送る。アトスは戦死、フーケは処刑される。一連の事件に義憤を覚えたダルタニャンとアラミスとポルトスは、獄中からルイ14世の双子の弟を脱獄させ、ルイ14世と入れ替える。

参考文献

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『ダルタニャン物語』(鈴木力衛訳、全11巻、講談社文庫)

『鉄仮面』(石川登志夫訳、角川文庫)

『鉄仮面』(石川登志夫訳、上下、 グーテンベルク21)

フランス国立図書館Gallica Digital Library(https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k6570978d.r=Le%20Vicomte%20de%20Bragelonne?rk=42918;4)

関連項目

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ヴォー=ル=ヴィコント城の庭園

外部リンク

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