フロリジン

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フロリジン
識別情報
CAS登録番号 60-81-1 チェック
PubChem 6072
ChemSpider 5847
特性
化学式 C21H24O10
モル質量 436.41 g mol−1
精密質量 436.136947
外観 淡黄色の結晶
融点

106–109 °C

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

フロリジン(Phlorhizin)はジヒドロカルコンの一種で、フロレチングルコースグルコシド結合でつながった2'-グルコシドフロレチンである。小腸腎臓に存在する糖輸送体を強力に競争阻害する。セイヨウナシリンゴサクランボなどの植物の樹皮に含まれ強い苦みを持つ。カーネーションの花びらの色にも関係している[1]

歴史[編集]

1835年、フランスの科学者によってリンゴの根の樹皮から抽出された。当初はキニーネと同じように解熱薬や抗炎症薬、抗マラリア薬として比較的少量の投与が行われていたが[2]、人体に大量に投与すると尿中にブドウ糖が排出される腎性糖尿状態になることが、やがて知られるようになった[2]。20世紀初頭には、フロリジンを投与して人工的に腎性糖尿状態とした犬が、各種動物実験に用いられた[2]

生化学的性質[編集]

フロリジンとその類似体は糖輸送体のSGLT1を強力に競争阻害する[3](その後の研究で、フロリジンはSGLT1, 2, 3すべてを競合阻害することがわかっている[4])。これは、フロリジンがSGLT1のC末端側にある「ループ13」と呼ばれる部分に結合するからだと考えられている[5]。このため、フロリジンを投与すると、小腸での糖の吸収(SGLT1)、腎臓近位尿細管での糖の再吸収(SGLT1, 2)が阻害され、血中血糖値が降下する[2]。また尿細管内部に遺残するブドウ糖によって浸透圧利尿効果が発現するために、尿量が増加する。

医薬品としての応用[編集]

2016年現在、解熱薬や抗炎症薬、抗マラリア薬として使用されることはない。また糖尿病の血糖コントロール目的としては有効ではあるものの、小腸のSGLT1も阻害するために、ブドウ糖の再吸収阻害によって腸管内の浸透圧が高く保たれて浸透圧性の下痢を引き起こす他、脳に存在するSGLT受容体阻害の功罪も未評価である。こいのためフロリジンをそのまま医薬品として使用するのは不適当とされる[2]。フロリジンの分子構造とSGLT受容体の構造解析により、SGLT2選択性を高めた薬剤が糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬として2013年3月にFDAに認可された[2]。日本では2014年から初のSGLT2阻害薬としてイプラグリフロジンの販売が始まり、2016年までに6種類の薬剤が流通している。SGLT2阻害薬には、糖尿病の血糖降下作用の他に、腎保護作用、心保護作用があるとされる。また一方で尿中ブドウ糖濃度上昇によって頻尿や脱水、尿路感染症を増加させることも知られている。

特記事項[編集]

フロリジンの分解産物であるフロレチンは脳内のグルコース濃度の低下をおこすことがラットの実験で知られており[6]、今のところフロレチンは糖尿病の治療には用いられていない。SGLT2選択的阻害薬は次世代経口血糖降下薬として開発が進んでいる。

参考文献[編集]

  1. ^ Isosalipurposide on PubChem
  2. ^ a b c d e f リンゴの木から見つかった糖尿病薬 SGLT2阻害薬 糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン all about 健康・医療 2013年06月24日 2016年8月20日閲覧
  3. ^ Diedrich, D.F. (1966) "Competitive inhibition of intestinal glucose transport by phlorizin analogs" Archives of Biochemistry and Biophysics. 117, 248-256
  4. ^ Alexander, S.P.H. et al. (2013) "The Concise Guide to PHARMACOLOGY 2013/14: Transporters." Brith Journal of Pharmacology 170, 1706-1796
  5. ^ Novakova, R. et al, (2001)"Identification of a Region Critically Involved in the Interaction of Phlorizin with the Rabbit Sodium-D-Glucose Cotransporter SGLT1" Journal of Membrane Biology, 184, 55-60
  6. ^ Oldendorf, W.H. et al "Rapid, Transient Drop m Brain Glucose After Intravenous Phloretin or 3-0-Methyl-D-Glucose" (PDF) (1983) Stroke. 14, 388-393