フィアット・パンダ

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初代パンダ
パンダ45

パンダPanda )は、イタリアフィアットが製造・販売する小型ハッチバック車である。

初代モデルは1980年から2003年まで、大きな変更を受けずに継続された。欧州で「Aセグメント」と呼ばれる最も小さな分類に属する乗用車である。

名称は動物のパンダにちなむが、これは初代モデル開発当初の主要市場として中国が企図されていたことによる。

歴史[編集]

開発の背景[編集]

オイルショックによる打撃とともに1970年代半ばにフィアット社は副社長で実務を執り行っていたウンベルト・アニェッリUmberto Agnelli )の下で組織運営に多くの問題を抱えていた。これを解決するためにウンベルトの幼馴染で実業家のカルロ・デ・ベネデッティCarlo De Benedetti )が社外から招かれ、1976年4月に副社長に任命された。それまで自動車部門への投資を抑制する方針で1974年から1978年までの期間に新型車の発表がなかった同社の状況の中でデ・ベネデッティは即座に3種類の新型車の開発と社内の業績不振部門の切り捨てを発表した[1]

1976年7月デ・ベネデッティはイタルデザインジョルジェット・ジウジアーロを訪ね、フィアット・126のエンジンを使用した安価で簡単な構造の十分な室内空間を持つ新型車の要望を伝えた。デ・ベネデッティの「フランスの車のような感じ」という言葉をシトロエン・2CVのことだと理解したジウジアーロは、126と同等の重量と生産コストの小型車の設計に取り掛かった。ジウジアーロにしては異例なことにバカンスの期間も作業にあたり12月に最初のモックアップが完成した。翌年早々に2台がフィアット側技術陣に披露され、2月にはこの2台から採用案が選び出された[2]

初代(1980年-1999年)[編集]

フィアット・パンダ
Fiat panda 1 v sst.jpg
セリエ1 (フロント)
Fiat panda 1 h sst.jpg
セリエ1 (リア)
Panda 45 018.jpg
セリエ1のダッシュボード
概要
製造国 イタリアの旗 イタリア
販売期間 1980年 - 1999年
デザイナー ジョルジェット・ジウジアーロ
ボディ
ボディタイプ 3ドアハッチバック
3ドアカブリオレ
3ドアバン
駆動方式 FF4WD
パワートレイン
エンジン 652cc OHV 空冷L2
903cc OHV L4
843cc OHV L4
956cc OHV L4
FIRE 769cc SOHC L4
FIRE 999cc SOHC L4
変速機 4速MT
ECVT
車両寸法
ホイールベース 2,160mm
全長 3,380mm
全幅 1,460mm
全高 1,445mm
系譜
先代 フィアット・850
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セリエ1(1980年-1986年)[編集]

パンダ4x4ダブルサンルーフ

オイルショックに伴い、燃費面で有利なコンパクトカーの開発が各社で行われていた1970年代、ティーポ セロ(タイプ ゼロ) と呼ばれるフィアット社内のプロジェクトを元にフィアット・126フィアット・127の一部を置き換えるべく誕生したのが初代パンダである。

このモデルは、当時経営状態が芳しくなかったこともあり、フィアット史上初めて、開発を全面的に外部委託した車となった。その開発を担当したのは、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタリアのカロッツェリアイタルデザインである。

開発、製造コストの低減のため、すべての窓を平らな板ガラスとするなど、ボディーは直線と平面による構成となったが、パッケージングの鬼才と言われるジウジアーロらしく、簡潔ながらもスペース効率にも優れたスタイリングとなった。(ジウジアーロ自身が、当時、自分の最高傑作だと述べている。)

1980年発売当初のラインナップはパンダ30(652cc、縦置き空冷2気筒OHVエンジン、イタリア国内専用モデル)とパンダ45(903cc、横置き水冷4気筒OHVエンジン)の2種が用意された。いずれもガソリンエンジンであった。モデル名につく数字は、当時のフィアットでの命名規則にしたがって、搭載エンジンの馬力をあらわしている。

いずれも、鉄板グリル と呼ばれる左右非対称形状のフロントグリルを備え、室内では、パイプフレームに布を張ったハンモックシート を採用していた。ボディは左右2ドア + ハッチバックの3ドアを基本とし、ハッチバックの代わりに観音開きドアを持つバンタイプも用意された。

1982年には843cc直列4気筒エンジンを積むパンダ34と、45をベースとしたスーパーの2モデルが新たに設定された。このうちスーパーは45の豪華版という位置付けで、特徴的な鉄板グリルに代わり樹脂製の柵状グリルを採用されたほか、シートも一般的なものに換装された。また、前後席で独立したキャンバストップのルーフを持つダブルサンルーフを搭載した、オープンカーのように開放的なモデルも存在した[3]

エンジン横置き前輪駆動車をベースとした市販車としては世界初となる四輪駆動モデル4x4(フォー・バイ・フォー)を1983年に追加。このパートタイム式の四駆システムはオーストリアシュタイア・プフとの共同開発によるものである。

セリエ2(1986年-1999年)[編集]

1986年には、エンジンがそれまでの3種に代わり、FIRE(Fully Integrated Robotized Engine )と名づけられた、ロボット組み立ての769ccと999ccの4気筒SOHCエンジン、および1,301ccディーゼルエンジンが採用された。

そのほかでは、従来のリーフリジッド式リアサスペンションに代わり、4x4を除き、アウトビアンキ・Y10での試用結果が良好であった独特のトーションビーム式(Ωアーム・トレーリングリンク)に変更され、スーパーで先立って採用された一般的なシート、樹脂製フロントグリルの全グレードへの拡大採用、メーター類の大型化や三角窓の廃止など、フィアットを立て直すほどの好調な販売実績を残した、パンダの利益を市場に還元するかのごとく、大規模な仕様変更となった。[4]

またこの仕様変更に伴い、グレード名もそれまでの馬力由来の表記から、排気量由来の表記(パンダ750/1000)へと改められた。

これにより、従来型はセリエ(シリーズ)1、改良型はセリエ2と呼ばれるようになった。英語圏では マーク1 / 2(1型/2型)とも呼ばれている。

1991年に無段変速機(CVT)を備えたセレクタと名づけられたグレードが登場する。セレクタに採用されたベルト式CVTは、富士重工業(現・SUBARU)から供給された「ECVT」である。

姉妹車[編集]

セアト独自の貨物モデル、トランス
セアト独自の貨物モデル、トランス
セアト・マルベーリャ(1990年式)
セアトマルベーリャ(1990年式)

セアト・パンダ/マルベーリャ[編集]

初代パンダの発表当時、フィアットグループであったスペインの自動車会社セアトにより、姉妹車ライセンス生産された。クルマにセアト版独自の特徴はなく、最も簡単なバッジエンジニアリングにより「セアト・パンダ」として販売された。一方、貨物用は荷室の屋根を高めたセアト独自の「トランス」(Trans )が新たに設定された。

1983年、フィアットはセアトの株式を売却、ライセンス契約も失効し、フィアットベースの全セアトのラインナップも、生産を終了しなければならなくなった。パンダの生産を継続したいセアトとフィアットとの間で、車名の使用差し止めをも含む、知的所有権に関する法廷闘争にまで発展したが、セアト側がパンダの前後デザインと車名を変更することで生産継続を許され、決着を迎えた。

その結果、1987年以降、生産が終了する1998年までは「マルベーリャ」、貨物用のトランスも「テッラ」と新たな名前での販売となった。同車はデザインと名称の変更以外は最後までセリエ1パンダの設計のまま生産が続けられ、1986年以降のセリエ2にあたるモデルは存在しない。

2代目(2003年-2011年)[編集]

フィアット・パンダ
Fiat Panda 2005 vl blue.jpg
2代目パンダ
概要
製造国 イタリアの旗 イタリア
販売期間 2003年 - 2011年
ボディ
ボディタイプ 5ドアハッチバック
5ドアSUV
駆動方式 FF4WD
パワートレイン
変速機 5速MT/6速MT/5速セミAT
車両寸法
ホイールベース 2,300mm
2,305mm (SUV)
全長 3,540mm
全幅 1,580mm
全高 1,580mm
車両重量 840 - 975kg
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2代目パンダの元となるコンセプトカーはジンゴGingo )の名で発表された。当時経営状況の良くなかったフィアットとしては心機一転、この新しい名前でデビューさせる予定であった。しかし、ルノーからルノー・トゥインゴとの商標の類似を指摘され、ルノー側が提訴する構えをも見せたため、ジンゴの名は使われずパンダの名を引き継ぐこととなった。波乱含みで2003年にデビューした2代目は、この年度のヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。先代同様、四輪駆動の4x4も設定される。

ジンゴがそもそもSUV的なコンセプトで発表されたこともあって、2代目は若干背の高いフォルムとなった。前輪駆動モデルでもグレードによってはルーフレールが装備される点もSUV的である。全長/全幅は依然としてフォルクスワーゲン・ルポシトロエン・C2などと同等であるが、これら3ドアのライバルと違いパンダは5ドアハッチバックとなる。2代目パンダは、その全量がポーランドシロンスク県のフィアット子会社において製造されている。主要な部品を共有する新型フィアット・500と同工場で製造される。

2006年3月にはアレッシィとのコラボモデルが登場した。

2007年には1.4L 直列4気筒 DOHCエンジン (100PS/13.3kgm)を搭載するスポーティーモデル「100HP」を追加。

また、パンダは、2007年のダカールラリーに、「チーム・フィアット・パンダカール」にて4x4モデルで出場した。2台体制でドライバーはそれぞれ、M・ビアジオンと、B・サビーであったが、2台ともリタイアに終わっている。

専用の色使いと細部のデザインが特徴のアレッシィ
専用の色使いと細部のデザインが特徴のアレッシィ
100hpにパワーアップされた限定モデル「100HP」
100hpにパワーアップされた限定モデル「100HP」

3代目(2011年- )[編集]

フィアット・パンダ
" 12 - ITALY - Fiat Panda in Milan.jpg
フロント
" 13 - ITALY - Fiat Panda 4x4 - Milan ( Mini SUV for urban and off road ) 02.JPG
4x4 
概要
製造国 イタリアの旗 イタリア
販売期間 2011年 -
ボディ
乗車定員 5人
ボディタイプ 5ドアハッチバック
5ドアSUV
駆動方式 前輪駆動(Easy,Panda MT)
四輪駆動
パワートレイン
エンジン 0.9L 直列2気筒 SOHC 4バルブ ツインエア ターボ
最高出力 85PS
変速機 デュアロジック(Easy)
6速(4×4)/5速(Panda MT)MT
車両寸法
ホイールベース 2,300mm
全長 3,655mm
全幅 1,645mm
全高 1,550mm
車両重量 1,070Kg
スペックは日本仕様
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2011年フランクフルトモーターショーで発表。その後、市販を開始した。2012年には4x4も復活している。デザインは2代目のキープコンセプトとするも、若干サイズアップされ、室内空間が拡大された。その一方で、全高は抑えられて、タワーパーキングに収納可能な1,550mmとなっている。

プラットフォームは500ランチア・イプシロンと共用。エンジンは直4・1.2Lガソリン(FIRE)、直4・1.3Lディーゼル(マルチジェット)のほか、500やイプシロンで採用済の直2・0.9Lツインエアも用意。1.2Lと0.9Lにはガソリン/LPGのバイフューエル仕様の設定もある。

日本仕様は2013年5月8日にフィアットクライスラージャパン(現:FCAジャパン)を介して発表された(発売開始は同年6月1日)。グレードは0.9Lツインエアを搭載する「Easy」のみでデュアロジックの組み合わせのみ、右ハンドルのみとなるが、並行輸入業者によって左ハンドル仕様や4x4、ディーゼル車なども少数ながら日本に入っている。尚、4x4については2014年9月26日、シティブレーキコントロールが装着された上で日本市場でも発表された[5]。国内で展開されている外国メーカーの四輪駆動車としては最も安価な設定になっている(0.9Lツインエアと6MTとの組み合わせのみ、発売開始は同年10月4日。タスカングリーン160台、アイスホワイト120台、イタリアンレッド60台の計340台限定)。また、同年10月23日には11月1日より「FIAT Panda MT」を100台限定(イタリアンレッド50台、アイスホワイト50台)で発売すると発表[6]。「Easy」をベースにトランスミッションを5速MTに変更し、価格を10万円下げたモデルである。

2015年1月30日には、4x4をベースにベースキャリア、ラゲッジマット カジュアルを装備した「FIAT Panda 4x4 Adventure Edition」を発売[7]。タスカングリーン33台、アイスホワイト17台、イタリアンレッド10台の計60台限定。2015年7月10日には、4x4をベースにリアプライバシーガラス、オートエアコン、シティブレーキコントロールを装備した「Fiat Panda 4x4 Comfort」を発売した[8]。タスカングリーン100台、ベネチアンブルー20台の計120台限定。

2015年11月4日には、Easyの仕様変更を行い、4x4の限定モデル等で先行投入されていたシティブレーキコントロールをベース車にも標準装備しつつ、価格を据え置いた[9]

2015年12月2日には、限定車の「Fiat Panda 4x4 Terra(テッラ)」を発売[10]。ボディカラーにスイートキャンディー ベージュを設定している。スイートキャンディー ベージュが50台、ヴェネチアンブルーが30台の計80台限定。

2020年10月24日に、150台限定で「Fiat Panda Cross 4x4」が発売された。ボディーカラーはパステルイエロー、変速機は6速 マニュアルトランスミッションのみとしている。


脚注[編集]

  1. ^ マリ=フランス, ポクナ 高野優訳 (1993年5月31日). フィアット イタリアの軌跡に挑んだ企業. 早川書房. ISBN 4-15-203560-9 
  2. ^ 斎藤, 浩之 (2000年7月). “パンダってナンダ?「パンダはすべてに理由がある」”. カーマガジン (ネコ・パブリッシング) (265). 
  3. ^ 80年代輸入車のすべて- 魅惑の先鋭 輸入車の大攻勢時代. 三栄書房. (2013). pp. 19. ISBN 9784779617232 
  4. ^ なお、652ccのモデルに限り日本国内で軽自動車としての登録が2018年現在でも可能である
  5. ^ Panda初の四駆「FIAT Panda 4×4」(フィアット パンダ フォー バイ フォー)- 国内の輸入車四駆モデルとして最廉価 - - フィアット クライスラー ジャパン 2014年9月25日
  6. ^ 「FIAT Panda MT」(フィアット パンダ エムティー)- Pandaならではのドライブの楽しさを、100万円台でご提供 - - フィアット クライスラー ジャパン 2014年10月23日
  7. ^ 「FIAT Panda 4x4 Adventure Edition」 - FCAジャパン 2015年1月21日
  8. ^ 「Fiat Panda 4x4 Comfort」を発売 - FCAジャパン 2015年6月24日
  9. ^ Panda Easy」を仕様変更 - FCAジャパン 2015年11月4日
  10. ^ Panda 4x4 Terra(テッラ)」を発売 - FCAジャパン 2015年11月4日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]