ファランクス

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ファランクスの戦闘想像図

ファランクス古典ギリシア語φάλαγξ, phalanx)は、古代において用いられた重装歩兵による密集陣形である。集団が一丸となって攻撃するファランクスは会戦において威力を発揮した。

東地中海でよく見られたファランクス[編集]

ファランクス陣形で進軍するマケドニア王国の重装歩兵の復元図

紀元前15世紀中期から、バビロニアで採用されはじめ、次第に戦術が確立された。密集陣が形成されたのは、紀元前14世紀初期である。

重装歩兵が、左手に円形の大を、右手にを装備し、露出した右半身を右隣の兵士の盾に隠して通例8列縦深程度、特に打撃力を必要とする場合はその倍の横隊を構成した。戦闘経験の少ない若い兵を中央部に配置し、古兵を最前列と最後列に配したが、右半身が露出することから、特に最右翼列に精強兵が配置された。同等な横幅をもつ敵と対峙して前進する際、これらの兵士は盾のない右側面を敵に囲まれまいとして右へ右へと斜行し、隊列全体がそれにつれて右にずれる傾向があった。攻撃の際は横隊が崩れない様に笛の音に合わせて歩調をとりながら前進した。

戦闘に入ると100人前後の集団が密集して陣を固め、盾の上から槍を突き出して攻撃した。前の者が倒れると後方の者が進み出て交代し、また、後方の者が槍の角度を変更することで敵の矢や投げ槍を払い除けることも可能で、戦闘状況に柔軟に対応できる隊形でもあった。逆に部隊全体の機動性は全く無く、開けたような場所で無いと真価を発揮しない。また、正面以外からの攻撃には脆い。

基本的にファランクスは激突正面に衝撃力と殺傷力を保持していたため、一旦乱戦になると転回機動は難しく、機動力を使った戦術としては用をなさなかった。時代が下ると、会戦において数的劣勢にあった側はファランクスに改良を加え、戦力を補完した。テーバイの将軍エパメイノンダスが使用した斜型密集隊形はロクセ・ファランクス(loxe phalanx, 斜線陣)と呼ばれ、レウクトラの戦いにて、勇名を轟かせたスパルタ軍を数で劣勢にあったにも関わらず打ち負かした。

マケドニア式のファランクス[編集]

マケドニア式のファランクス

古代マケドニア軍は、縦深が8列程度であった従来の密集方陣を改変し、6mの長サリッサ)を持った歩兵(マケドニア軍の歩兵はギリシャ地域の重装歩兵と比べ軽装で、兜と脛当を着け首から小型の盾を架ける程度だった)による16列×16列の集団を1シンクタグマとして構成、このシンクタグマが横に並ぶことで方陣を形成した。マケドニア式ファランクスの歩兵は、より小型にした盾を腕ではなく胸に装備させることにより機動性を若干向上させた。また、両手で長槍を支えることができるようになったのも効果が大きい(しかし逆に言えばサリッサはその長さと重量ゆえに両手でなければ扱えなかった)。

3年間テーバイで人質生活を送ったピリッポス2世は、改良型ファランクスの戦い方を勘案し、マケドニア式のファランクスを創始した。マケドニア式のファランクスでは、本隊の歩兵右側に常備の近衛歩兵を置き、左側へ徴募による軽装歩兵を配置した。右翼には突撃に勝るヘタイロイ騎兵、左翼にはテッサリア人騎兵を配置し、前衛は弓が主装備の歩兵と軽騎兵が担当した。左翼で防御している間に、右翼での敵戦列破壊を行うマケドニア式のファランクスは、側面からの攻撃に弱い従来のファランクスを圧倒した。このように片翼で守り、もう片方の翼を打撃部隊とする戦術は「鉄床戦術」と呼ばれる。

このマケドニア式のファランクスを以って、ピリッポス2世はアテナイ、スパルタ、コリントス等々ギリシアの諸都市を打ち破り、彼の子アレクサンドロス3世はアケメネス朝ペルシアを滅ぼした。その後マケドニア式のファランクスはアレクサンドロスの後継者の座を争ったディアドコイに受け継がれた。ディアドコイ同士の戦いは必然的にマケドニア式ファランクス同士の戦いとなり、彼らは槍をさらに長くしたり、防御力を上げるために鎧を重装備にするなどして他より優位に立とうとした。

しかし、これらの改良は柔軟性や機動力の更なる低下へと繋がり、後にこの欠点が命取りとなってローマに敗れることとなる。しかし、マケドニア式のファランクスは、ローマ軍の軍団(レギオン制)による散開白兵戦術に敗れるまで地中海世界を席巻した。

その他のファランクス[編集]

ファランクスという語はもともとは丸太を意味した。おそらく上述の重装歩兵は城門に打ち込まれる丸太のごとく敵兵の隊列を打ち破ったのだろう。ファランクスという単語はラテン語にも取り入れられ、マケドニアを除く古代ローマ周辺の戦争でも用いられたが、これらは単なる密集方陣という程度の意味しか持たなかった。

ファランクスに似た密集体系は人体にも見られる。手や足の骨である。手の指は拇指以外は3個の骨からなる。それらが5組ずつ整列しているので、解剖学ではこれらの骨をphalanx(指骨)と呼ぶ。

関連項目[編集]