ビンクリスチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ビンクリスチン
Vincristine.svg
Vincristine3DanBS.gif
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Oncovin
Drugs.com monograph
MedlinePlus a682822
胎児危険度分類
  • AU: D
  • US: D
法的規制
投与方法 intravenous
薬物動態データ
生物学的利用能 n/a (not reliably absorbed by the GI tract)[1]
血漿タンパク結合 ~44%[2]
代謝 Liver, mostly via CYP3A4 and CYP3A5英語版[1]
半減期 19 to 155 hours (mean: 85 hours)[1]
排泄 Faeces (70-80%), urine (10-20%)[1]
識別
CAS番号
(MeSH)
57-22-7 チェック
ATCコード L01CA02 (WHO)
PubChem CID: 5978
DrugBank DB00541 チェック
ChemSpider 5758 チェック
UNII 5J49Q6B70F チェック
KEGG D08679 en:Template:keggcite
ChEBI CHEBI:28445en:Template:ebicite
ChEMBL CHEMBL303560en:Template:ebicite
化学的データ
化学式 C46H56N4O10
分子量 824.958 g/mol

ビンクリスチン(Vincristine、VCR、商品名オンコビン)は、抗癌剤として用いられるビンカアルカロイドの一つ。intravenousで用いられる。微小管重合反応を阻害する事により、細胞有糸分裂を阻害する。軟部腫瘍、血液腫瘍等に対してよく使われる[3]

承認[編集]

米国では1963年に発売された。日本では1968年に承認された後、2005年2月に他の抗悪性腫瘍剤との併用療法として、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫の追加承認がされ、2013年3月には褐色細胞腫の効能・効果並びに用法・用量が追加承認された[4]:1WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[5]

効能・効果[編集]

日本で認められている効能・効果は、白血病(急性白血病、慢性白血病の急性転化時を含む)、悪性リンパ腫(細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病)、小児腫瘍(神経芽腫ウィルムス腫瘍横紋筋肉腫、睾丸胎児性癌、血管肉腫等)、褐色細胞腫の他、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫に対する他剤との併用である[6]

ビンクリスチンは様々な化学療法レジメン英語版に組み込まれている[1]非ホジキンリンパ腫に用いられる場合はCHOP療法ホジキンリンパ腫にはMOPP療法英語版COPP療法英語版BEACOPP療法英語版急性リンパ性白血病(ALL)や腎芽腫にはスタンフォードV英語版の組み合わせとする[1]デキサメタゾン及びL-アスパラギナーゼと組み合わせてALLの寛解を目指したり、プレドニゾンとの併用で小児白血病の治療をしたりもする。

ビンクリスチンは、免疫抑制剤として、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療に用いられる事も有る[1]

副作用[編集]

主な副作用として、すべての抗癌剤に共通する骨髄抑制(汎血球減少(0.7%)、白血球減少(29.8%)、血小板減少(19.8%)、貧血(5.7%))、粘膜障害、脱毛の他、末梢神経障害(神経麻痺、筋麻痺、痙攣等)(25.5%)がある。これは神経細胞において微小管輸送が重要だからだと考えられる。他に重大な副作用とされているものに、錯乱、昏睡、イレウス、消化管出血、消化管穿孔、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、アナフィラキシー、心筋虚血、脳梗塞、難聴、呼吸困難・気管支痙攣、間質性肺炎(0.5%)、肝機能障害・黄疸(0.5%)がある。(頻度未記載は頻度不明)

末梢神経障害は四肢末端、時に四肢全体に起こる進行性・長期性・しばしば非可逆性の、疼き、痺れ、激しい痛み、寒さに対する過敏症を呈する[7]。重症化する事が有り、化学療法の中止・減量の原因となる。初期症状は下垂足英語版である。血縁者に下垂足の既往の有る者又はシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)患者が居る場合はビンクリスチンを投与すべきでない[8]

脊柱管に誤投与(蜘蛛膜下投与)した場合には、ほぼ100%死亡に至る。上行性麻痺、広範囲の脳障害、脊髄神経の脱髄、難治性疼痛を呈した症例の転帰は殆どが死亡であるが、発現直後から積極的に治療(脳脊髄液の排出並びに脳保護剤の投与)した症例では生存例も有る[9]。小児では生存確率が高い。注射後直ちに積極的治療を受けた患児で、軽度の神経障害を残したのみでほぼ完全に回復した例が有る[10]中華人民共和国では2007年に上海Hualian(华联)で製造されたシタラビンメトトレキサート(蜘蛛膜下投与される事が多い)に混入したビンクリスチンを蜘蛛膜下投与する事例が連続して発生した[11]

作用機序[編集]

ビンクリスチンはチューブリン二量体に結合し、微小管構造形成を阻害して有糸分裂中期英語版で停止させる[4]:12。細胞分裂が活発な細胞全てに作用する為、腫瘍細胞のみならず消化管上皮細胞骨髄細胞も傷害する。

生合成[編集]

ビンクリスチンはビンカ属の植物中でビンドリンとカタランチンの結合に依り生成される[12]

歴史[編集]

古くはロイコクリスチン(leurocristine)と呼ばれ、ニチニチソウ(学名:Catharanthus roseus、旧学名:Vinca rosea)から発見された。ニチニチソウは何世紀にも亘って民間療法として使用されてきたが、1950年代の研究で70種のアルカロイドを含み、その大ħが生物活性を有する事が明らかとなった。当初は糖尿病治療への使用が試みられたが失敗に終わり、白血病マウスを用いた研究で骨髄抑制英語版作用が有ることが判明し、ビンカ属植物の投与で生存期間が延長することが示された。

ビンカ属の植物をSkelly-B脱脂剤で処理して酸性ベンゼンで抽出して“分画A”を得、酸化アルミニウム処理、クロマトグラフィー分画、クロロホルム処理、ベンズジクロロメタン処理、pH別分離に因ってビンクリスチンが得られた[13]

その他[編集]

2012年FDAはビンクリスチンのリポソーム製剤を承認した[14]

ビンクリスチンを微小粒子に結合させた製剤が開発中である[15]

参考資料[編集]

  1. ^ a b c d e f g Brayfield, A: “Vincristine”. Martindale: The Complete Drug Reference. Pharmaceutical Press (2013年12月13日). 2014年4月15日閲覧。
  2. ^ Oncovin, Vincasar PFS (vincristine) dosing, indications, interactions, adverse effects, and more”. Medscape Reference. WebMD. 2014年4月16日閲覧。
  3. ^ Vincristine Sulfate”. The American Society of Health-System Pharmacists. 2015年1月2日閲覧。
  4. ^ a b オンコビン注射用1mg インタビューフォーム” (2014年9月). 2015年1月25日閲覧。
  5. ^ WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (2013年10月). 2014年4月22日閲覧。
  6. ^ オンコビン注射用1mg 添付文書” (2015年2月). 2016年6月29日閲覧。
  7. ^ Chemotherapy-induced Peripheral Neuropathy” (2010年2月23日). 2016年6月29日閲覧。
  8. ^ Graf, W. D.; Chance, P. F.; Lensch, M. W.; Eng, L. J.; Lipe, H. P.; Bird, T. D. (1996). “Severe Vincristine Neuropathy in Charcot-Marie-Tooth Disease Type 1A”. Cancer 77 (7): 1356–1362. doi:10.1002/(SICI)1097-0142(19960401)77:7<1356::AID-CNCR20>3.0.CO;2-#. PMID 8608515. 
  9. ^ Qweider, M.; Gilsbach, J. M.; Rohde, V. (2007). “Inadvertent Intrathecal Vincristine Administration: A Neurosurgical Emergency. Case Report”. Journal of Neurosurgery: Spine 6 (3): 280–283. doi:10.3171/spi.2007.6.3.280. PMID 17355029. 
  10. ^ Zaragosa, M.; Ritchey, M.; Walter, A. (1995). “Neurological Consequences of Accidental Intrathecal Vincristine: A Case Report.”. Medial and Pediatric Oncology 24: 61–62. doi:10.1002/mpo.2950240114. PMID 7968797. 
  11. ^ Jake Hooker英語版 and Walt Bogdanich英語版 (2008年1月31日). “Tainted Drugs Tied to Maker of Abortion Pill”. New York Times. http://www.nytimes.com/2008/01/31/world/asia/31pharma.html?_r=1&ref=health 
  12. ^ Pharmacognosy of Vinca Alkaloids”. 2015年1月25日閲覧。
  13. ^ Johnson, I. S.; Armstrong, J. G.; Gorman, M.; Burnett, J. P. (1963). “The Vinca Alkaloids: A New Class of Oncolytic Agents” (pdf). Cancer Research 23 (8 Part 1): 1390–1427. PMID 14070392. http://cancerres.aacrjournals.org/content/23/8_Part_1/1390.full.pdf. 
  14. ^ FDA press release Aug 9, 2012
  15. ^ Bind Therapeutics conference call of Nov 6, 2014

外部リンク[編集]