ビンキュリン

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ビンキュリン

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PDBに登録されている構造
PDB Ortholog search: PDBe, RCSB, PDBj
識別記号
記号英語版 VCL; CMD1W; CMH15; MVCL
その他ID OMIM英語版193065 MGI英語版98927 HomoloGene英語版7594 GeneCards: VCL Gene
RNA発現パターン
PBB GE VCL 200931 s at tn.png
PBB GE VCL 200930 s at tn.png
その他参照発現データ
オルソログ
ヒト マウス
Entrez英語版 7414 22330
Ensembl英語版 ENSG00000035403 ENSMUSG00000021823
UniProt英語版 P18206 Q64727
RefSeq (mRNA) NM_003373 NM_009502
RefSeq (protein) NP_003364 NP_033528
Location (UCSC) Chr 10:
75.76 - 75.88 Mb
Chr 14:
20.93 - 21.03 Mb
PubMed search [3] [4]

ビンキュリン(vinculin)は、アダプタータンパク質(adaptor protein)の1つで、細胞接着の接着装置を構成する細胞膜裏打ちタンパク質の1つである。インテグリンintegrin) が細胞骨格cytoskeleton)のアクチンフィラメント に結合するのを仲介し、細胞接着・伸展を制御する。ビンキュリンファミリー(vinculin family)を形成している。

発見[編集]

1979年イスラエルにあるワイツマン科学研究所のベンジャミン・ガイガー(Benjamin Geiger)が、ニワトリ砂嚢から分子量130kDaの新しいタンパク質を単離し、抗体を作り、蛍光抗体法で培養細胞内での局在を調べると、接着斑に特異的に局在することを見出した。接着斑に特異的に局在するタンパク質は他にもあったが、それらとは異なる新しいタンパク質だった[1]

翌1980年、ガイガーは、そのタンパク質が、アクチンフィラメント を細胞膜に結合させるタンパク質だと想定し、ラテン語の「vinculum」 (“bond(結合する), link(リンクする)”という意味)にタンパク質の接尾語「in」を加え、「vinculin」と命名した[2]

分布[編集]

線虫からヒトまで、いろいろな組織器官の細胞内にある。細胞内では、細胞-基質間接着の結合装置である接着斑(focal adhesion)と細胞-細胞間接着の結合装置である接着結合(アドヘレンス・ジャンクション、adherens junction)の両方に存在する。

構造と結合分子[編集]

ビンキュリンは、タンパク質であり、分子量は最初、130kDaと発表されたが、現在は117kDaとされている。

ビンキュリンのドメイン構造は、N末端側の90kDaの頭部、C末端側の25kDaの尾部、それらをつなぐ5kDaのリンカー領域(英語では「neck」(首)と呼ぶ)からできている。

ビンキュリンのドメイン構造
  • 頭部は酸性で、約110アミノ酸残基の2回(線虫)または3回(脊椎動物)の繰り返し構造があり、テーリン(talin)、αアクチニン(α-actinin)、αカテニン(α-catenin)に結合する。
  • リンカー領域はプロリンに富み、ビネキシン(vinexin)、血管拡張薬促進リンタンパク質(vasodilator-stimulated phosphoprotein)、ポンシン(ponsin)、アクチン重合の核形成因子Arp2/3に結合する。

ビンキュリンは、不活性な状態では、ビンキュリンの頭部と尾部が結合し、細胞質に存在する。この時、上記の結合分子とは結合していない。活性化されると、ビンキュリンの頭部と尾部の結合が離れ、頭部、中央のリンカー領域、尾部の3つの部位は上記の結合分子と結合し、細胞膜裏打ち部分に集まり、結合装置を作る。ビンキュリンを活性化の仕組みは、現在、論争中である。

機能[編集]

ビンキュリンは、細胞接着・伸展を制御する。ビンキュリン量が低下すると、ストレスファイバーが減り、接着斑形成が減少し、細胞は接着できず、細胞伸展もできない。

細胞内張力は、接着斑でのビンキュリンとテーリンの結合に影響する。また、接着結合(アドヘレンス・ジャンクション)でのビンキュリンとαカテニンの結合にも影響する。これらのことから、ビンキュリンは機械的力を化学的信号に変えるメカノトランスダクション(mechanotransduction)に関与していると考えられる。

遺伝子[編集]

1990年、英国のクリッチャリーの研究室が、ヒトのビンキュリン遺伝子の全構造を決定した[3]。ヒトでは、1,066アミノ酸残基からなり、遺伝子は1つで、染色体上の位置は10q11.2-qterである。

疾患[編集]

ビンキュリンの遺伝子を欠損させるマウスの実験で、ビンキュリンに異常があると、心臓に欠陥が生じ、発育不全が起こるか死亡する。そのことから、ヒトでも、ビンキュリンの異常は、拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy)や突然死(sudden death)を引き起こすと想定される[4]

応用・特許[編集]

製品化された商品はないが、医薬品化粧品への応用が期待できる。日本の申請特許では、抗老化が効果として期待されている。

日本の特許は、特許電子図書館で検索すると、1993年(平成5年)~2013年4月5日に、「ビンキュリン」が要約にある日本の特許は4件ある(日本の特許) 。

欧州の特許は、欧州特許庁esp@cenet(「EP」と「Title or abstract」を選ぶ)で検索すると、2013年4月9日までに、「vinculin」が表題か要約にある特許は1件しかない(「vinculin」に関する欧州の特許) 。

米国の特許は、米国特許商標庁で検索すると、1976年1月~2013年4月10日に、「vinculin」が要約にある米国の特許は2件しかない(「vinculin」に関する米国の特許) 。

論文数と博士号[編集]

米国・国立医学図書館の無料の生物医学系データベースであるパブメド(PubMed)で、「ビンキュリン」(vinculin)に関する論文数と外国論文率を見ると、世界で最初に論文発表さたのが1980年で、2013年4月5日までに、世界中で2,881報の論文が発表された。この内、228報は日本から発表されているので、外国論文率は92.1%である。

「ビンキュリン」(vinculin)に関する論文で日本で博士号を取得した人は、1987年が最初で、以来、2013年4月9日までに5人いる(学術研究データベース・リポジトリ 博士論文書誌データベース)。

脚注[編集]

  1. ^ Geiger, B. A. (1979), “A 130K protein from chicken gizzard - its localization at the termini of microfilament bundles in cultured chicken cells.”, Cell 18: 193-205, doi:org/10.1016/0092-8674(79)90368-4 
  2. ^ Geiger B, Tokuyasu KT, Dutton AH, Singer SJ. (1980), “Vinculin, an intracellular protein localized at specialized sites where microfilament bundles terminate at cell membranes.”, Proc Natl Acad Sci U S A. 77 (7): 4127-4131 [1]
  3. ^ Weller PA, Ogryzko EP, Corben EB, Zhidkova NI, Patel B, Price GJ, Spurr NK, Koteliansky VE, Critchley DR. (1990), “Complete sequence of human vinculin and assignment of the gene to chromosome 10.”, Proc Natl Acad Sci U S A. 87 (15): 5667-5671 [2]
  4. ^ Zemljic-Harpf, A. E., et.al. (2007), “Cardiac-myocyte-specific excision of the vinculin gene disrupts cellular junctions, causing sudden death or dilated cardiomyopathy.”, Mol Cell Biol. 27 (21): 7522-7537, doi:10.1128/MCB.00728-07 

参考文献[編集]

  1. Humphries JD, Wang P, Streuli C, Geiger B, Humphries MJ, Ballestrem C. (2007). "Vinculin controls focal adhesion formation by direct interactions with talin and actin.". J Cell Biol. 179 (5): 1043–1057. doi:10.1083/jcb.200703036. 
  2. Carisey, A. & Ballestrem, C. (2011). "Vinculin, an adapter protein in control of cell adhesion signalling". Eur J Cell Biol. 90 (2-3): 157–163. doi:10.1016/j.ejcb.2010.06.007. 
  3. Alberts, Bruce; Johnson, Alexander; Lewis, Julian; Raff, Martin; Roberts, Keith; Walter, Peter (2002). “anchoring junction”. Molecular Biology of the Cell (4th ed.). New York: Garland Science. ISBN 0-8153-3218-1. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK26857. 

外部リンク[編集]