ビデオ判定
ビデオ判定(ビデオはんてい、英: Instant replay, Challenge)とは、スポーツ競技において審判員の肉眼での判定が難しいときや、審判員の判定に異議があるときに、撮影・録画されたビデオ映像(動画)を活用して判定を行う方式である。本来は人間(審判員)がリプレイ映像を確認する行為を指すが、ホークアイに代表されるような機械判定も広くビデオ判定と呼ばれ、混乱を生んでいる。
アメリカンフットボール[編集]
NFL[編集]
NFLでは、インスタント・リプレイというビデオ判定制度が導入されている。1986年から1991年まで一度導入されたが乱発による試合遅延をまねき一旦廃止され、システムを練り直して1999年に再導入された[1]。
チームのヘッドコーチが判定に対して異議がある場合、1試合に最大3度まで、タイムアウトの権利を賭けて審判にビデオ映像による判定の再確認を要求する「チャレンジ」を行うことができる。チャレンジで異議が認められた場合には、問題の判定を覆した状態で試合が再開され、認められなかった場合にはタイムアウトを1つ消費した事になる。これには判定の透明性確保と共にショー的要素も含んでおり、観客が見守るなか、主審によってチャレンジによるインスタントリプレイの結果が発表される瞬間は、NFLの試合において特に盛り上がる場面の1つである。
また、試合のシチュエーションによっては、主審によるインスタント・リプレイでの判定の確認、「オフィシャル・レビュー」が行われる。
日本[編集]
日本では、以下の大会で、インスタントリプレイが採用されている。
2017年頃にこれらの大会において採用されている。 リプレイが行われる時は、必ずタイムアウト扱いとなる。 オフィシャルレビューの場合はレフェリーがレフェリー・タイムアウトをコールして、レビューを行う事を発表し、リプレーオフィシャルなどと共に確認し、レビュー結果を報告する。 チャレンジの場合は、チャレンジするチームがチーム・タイムアウトを申請し、その上でレフェリーにチャレンジを行う旨を伝え、リプレー確認が行われる。失敗の場合はチャレンジしたチームはタイムアウトを失う。
大相撲[編集]
大相撲では、1969年五月場所より導入されている。前場所の大鵬 - 戸田戦で大鵬の46連勝がかかった重要な一番の中で行司は大鵬に軍配を上げながら物言いにより行司差し違えになった一件が導入のきっかけと言われているが、実際にはテレビ中継の開始以降勝負についての視聴者からの問い合わせや苦情に対応すべくビデオ導入が検討され事前に1969年五月場所からの導入が決定されていた[2]。また審判長の場内説明も同時に始まった。
プロ野球[編集]
プロテニス[編集]
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テニスでは、イギリスのホーク・アイ・イノベーションズが開発を手がけた「ホークアイ」(鷹の目)と呼ばれるシステムが導入されている。このシステムはミサイル誘導技術を応用したもので、コート周囲に10台のカメラを設置し、ボールがどのような軌跡を描いたか瞬時に映像解析を行う。
国際テニス連盟は、ライン付近の微妙な判定に同システムを導入することを2005年10月に承認。2006年3月22日からのナスダック100オープンで、テニス史上初のビデオ判定が行われた(Jamea Jacksonが初の権利行使者となった)。2006年8月28日 - 9月10日の全米オープンで、グランドスラム大会(4大大会)では初めてビデオ判定が導入された。設置されたのはセンターコートなど2会場。2007年以降は全豪オープン、ウィンブルドン選手権でも導入、日本では2008年の東レ パン・パシフィック・オープン・テニストーナメントにおいて初使用されるなど、広がりをみせている。 ただし、クレーコート(土のコート)で開催される大会は、打ったボールが着地する際に跡が残るため、選手の異議があれば主審がボール跡を確認し判定を行う。
選手はライン際のイン、アウトの微妙な判定に対し、1セットにつき3回失敗するまでビデオ判定を要求(チャレンジ)する権利を持つ(チャレンジを成功させ続ける限り何度でも要求可能)。ビデオ判定の際には、CG加工された映像が場内の大型スクリーンに映され、観客やテレビ視聴者にもシステムが行った判定の結果が分かるようになっており、ショー的要素も含んでいる。同システムの導入は、プロテニス界にとって1971年のタイブレーク導入以来のルール上の革命とも言われ、単に判定の正確性という観点のみならず、チャレンジ要求のタイミング・巧拙が試合の流れを大きく左右することも少なくない。ルール改正をめぐっては、トップ選手であるロジャー・フェデラーやレイトン・ヒューイットが反対の意向を示すなどして話題となった。
COVID-19の流行を受けて、2020年8月からハードコートを中心に、線審を配置せず「ホークアイ・ライブ」のシステムを利用した大会が実施されている[3][4]。
サッカー[編集]
サッカーにおいてビデオ判定の特徴はあくまで主審を補助するためのものであり、チームが主張してビデオチャレンジが与えられるものではない。しかしチャレンジせずとも試合は全て「ビデオ判定をする副審」(ビデオアシスタントレフリー・VAR)によってチェックされている。あくまで限られた場合での誤審や見逃しを防ぐためのものである。
ラグビー[編集]
ラグビーでは、2008年度シーズンのジャパンラグビートップリーグのプレーオフ、マイクロソフトカップで導入。
また国際試合では、ラグビーワールドカップやスーパーラグビーなどの公式大会においてテレビジョン・マッチ・オフィシャル(Television match official, TMO)というシステムが「世界的試験実施ルール」として導入されている(競技規則第6条第15項[5])。判定対象となるのは以下の事象とされている。
- インゴール内でのボールのグラウンディング(=トライか否か)
- ボールをグラウンディングする動き、または、ボールがデッドになる際における、タッチ、または、タッチインゴール。
- ゴールキックが成功したかどうか、疑いがある場合。
- マッチオフィシャルが、トライにつながる、または、トライを妨げる反則が起きたかもしれないと考える場合。
- 不正なプレー。罰の確定を含む。
TMOの提案が可能なのはTMOを含む全ての審判(選手からの申し立てはできない)で、最終的な判断は主審が行うなど、アメリカンフットボールのオフィシャル・リビューに近いシステムとなっている。
ボクシング[編集]
ボクシングでは、WBCが2008年より世界戦で導入したが、その前年の2007年12月15日にメキシコ・カンクンで行われた世界フェザー級タイトルマッチで試験導入された。
試合後でも誤審や違反行為等が発覚した、あるいはその可能性がある場合は、検証としてビデオ判定に持ち込まれることもある。判定の結果、試合終了時に下した判定が不適当であったと判定されれば、無効試合が適用されるが、試合終了時に下した判定とは逆の判定に覆ることもある。
ビデオ判定を本格的に採用した2008年8月11日に行われたWBCF世界アトム級タイトルマッチウィンユー・パラドーンジムvs小関桃において、小関の2RKO勝利が宣告されたが、ウィンユーのダウンがバッティングによるのではないかとウィンユーサイドからの抗議があり、初めてビデオ判定に持ち込まれた。しかし、あまりにも判断が難しいため暫定的に小関の勝利としてWBC本部へビデオを送付した上で最終的な判断の結果、バッティングが認められるもののヒッティングもしており、バッティング(のみ)によるダウンであるという確証が得られないため、小関の勝利を正式決定した。
柔道[編集]
柔道では、2000年シドニーオリンピック男子100kg超級決勝での篠原信一とダビド・ドゥイエ戦での「誤審」騒ぎを契機にビデオ判定の導入が検討されることになり、2006年の世界ジュニアで試験導入されたのを受けて、2007年より本格的な運用が始まった[6][7]。審判委員会による監督の下、CARE(Computer Aided Replay)システムと呼ばれる3台のビデオカメラで3方向から撮影する方式で、主に投げ技の評価が微妙な場合の確認などでビデオ判定の検証が行われる[8]。
日本国内の試合においてはジュリーが審判員の下した技の評価の高低(例えば、技ありを一本とするなど)を訂正することはない。しかし、IJF主催の大会では、明文化された条項がないにもかかわらず、ジュリーが状況に応じて訂正を行っていた[9][10][11]。2014年からの新ルールでは、畳の下に降りた副審2名がCAREシステムを常時利用し、主審と無線によって多数決判定をすることになった。「ジュリーが審判員の判定に介入して判断を変更させるのは例外的な事情の時だけ」と記されたものの、例外的な事情がいかなる事情であるのか、具体的な説明はなされていない[12][13]。その後に公表されたより詳細なルール規定によれば、審判委員が実際の動きとその後のCAREシステムでの確認によって疑いなく判定の訂正が妥当だと判断して副審もそれに同意した場合、もしくは返し技においてどちら側に技の効果が認められるか微妙な場合に限って審判員に通知するとしている[14]。2018年までに副審はCAREシステムを利用しないことになり、スーパーバイザーやジュリーのみが利用することになった。副審は畳の上に戻らず目視で主審との無線を利用し多数決判定を畳の下で続けることに。
ショートトラックスピードスケート[編集]
ショートトラックスピードスケートでは、オリンピックの場合、2002年ソルトレークシティオリンピック男子1500m決勝で、韓国の金東聖が失格し、アメリカのアポロ・アントン・オーノが繰り上げ金メダルになった出来事や、寺尾悟が男子1000mで失格になった出来事がきっかけで、2006年トリノオリンピック以降は同様の出来事が起こった場合に取り入れられるようになった。
レスリング[編集]
レスリングにおいては、2009年から「チャレンジ」と呼ばれるルールが導入された。セコンドがスポンジをマットに投げて要求し、マットチェアマンに認められたら会場の大型映像装置に映し出すというもの。なお、判定が覆らなかった場合は「チャレンジ失敗」と呼ばれ1ポイントを失い、チャレンジ失敗は1試合に付き2回まで。
バレーボール[編集]
2012年のロンドン五輪後に試験導入が決定。FIVBの国際大会では、男子の2013年バレーボール・ワールドリーグ[15]、女子の2013年バレーボール・ワールドグランプリ[16]における一部の試合にて、「チャレンジシステム」という名称で「試験導入」された。
三大大会では2014年の世界バレーより「正式導入」された[17][18]。当初は、それぞれの監督から、両手の指で画面の4角を表す横長の長方形を作る等のジェスチャーによって、チャレンジ要求する形式だった。
ビデオ映像を副審が確認し、その場で再ジャッジするというもの(場内の大型ビジョンに映し出される[19])。ボールのイン・アウトに関しては、実際の映像ではなく、CGで表現される[20]。
各チーム1セットあたり、2回失敗するまでチャレンジが可能。それとは別に、判定に迷った際に主審自身がビデオ判定を要求する『レフェリーチャレンジ』を実施することもある[21]。
2016年から一部変更(ビーチバレーも[22])。5月のリオ五輪世界最終予選では判定対象シーンの5秒以内に要求[23][24][25]となったため、インプレー中の要求も必要・可能となった(ただしこの場合はチャレンジ失敗だと1点を失う)。
なお、日本での大会では本格的には初めて[26][27]、各チームベンチ前[28]の据え置き型タブレット端末[29][30]で要求する仕組み(選手交代とタイムアウトも同様[31])となった。タッチパネル上で計7つの請求項目[32]が選べるという端末の利点も指摘されたが[26]、操作の不便さの訴えも発生した[33][34][35][36][37][38][39]。なお、主審と副審の手元にも同様のタブレットが設置され連動した[32]。リオ五輪本番でも導入された。
日本バレーボールリーグ機構主催の大会でも、2016年のV・サマーリーグでの試験導入後に、V・プレミアリーグの男女全試合とV・チャレンジマッチの一部試合での正式導入を予定している(「ボールのイン・アウト」と「ブロッカーのボールコンタクト」のみが対象で、要求は各チーム1試合に2回失敗するまで可能)[40]。
2017年ワールドグランドチャンピオンズカップでは解析のために、コートの周りに25台のカメラを設置した。
2018年までには、「ボールのフロアタッチの有無」も判定対象の一つに加えられた。
バスケットボール[編集]
NBA[編集]
NBAにおいては、2002-2003シーズンより導入されている。2014-2015シーズンからはニュージャージー州セコーカスにNBAリプレーセンターが設置され、ビデオ判定に必要な映像はここで確認され審判に連絡される[41]。なお、ビデオ判定をすることができるシチュエーションは規定されており、また審判員以外の選手・コーチに請求権はない[42]。
Bリーグ[編集]
ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)1部(B1リーグ)では、2016-2017シーズンのリーグ開幕より導入されている。ホークアイ社の「SMART Replay」をバスケットボールでは世界で初めて導入している[43]。
適用可能なシチュエーションは、2ポイントシュート・3ポイントシュートの判断の場合、ブザービーターが成立しているかどうか、およびゲームクロックトラブル時の修正は全試合時間において実施できるが、アウト・オブ・バウンズの際にどちらのチームが最後に触ったかの確認は、第4クォーター及び延長戦のそれぞれ残り2分以降と限られている[44]。Bリーグでは、コート上でのファウルの判断には用いることはできないが、暴力行為があった際のコート侵入行為における判定には使用された実績がある[45]。
NBAと同様、審判員以外の選手・コーチに請求権はない。
脚注[編集]
- ^ “インスタントリプレイとは”. TSPスポーツ. 2013年6月1日閲覧。
- ^ トランプ大統領騒動記、実は柔軟だった相撲協会 - VICTORY 2019年6月6日
- ^ “全米テニス、車いすの部は中止 コロナ対策で電子判定導入”. 共同通信. 共同通信社. (2020年6月18日). オリジナルの2020年6月20日時点におけるアーカイブ。 2020年6月18日閲覧。
- ^ “ジョコビッチ失格の1年後、2021年USオープンが全コートで自動判定システムを採用”. テニスマガジンONLINE (2021年5月25日). 2022年10月17日閲覧。
- ^ “第6条 マッチオフィシャル”. 競技規則 Rugby Union. ワールドラグビー. 2019年9月22日閲覧。
- ^ 全日本柔道連盟 審判委員会からの報告
- ^ 柔道の解説
- ^ 国際柔道連盟(IJF)試合審判規定改正 (PDF)
- ^ 全柔連だより 第31号 (PDF)
- ^ 平成23年度全日本柔道選手権大会の審判員
- ^ 「審判問題を考える」近代柔道 ベースボールマガジン社、2012年10月号
- ^ 国際柔道連盟試合審判規定(2014-2016)
- ^ IJF審判規定の決定版(解釈)
- ^ IJF Refereeing Rules - International Judo Federation
- ^ World League - FIVB increases spectator experience with new Challenge System
- ^ ワールドグランプリ予選R 日本はドイツに大逆転で4連勝!
- ^ FIVB to introduce Hawk-Eye to improve volleyball, says president
- ^ News detail - Communication between benches and scorer through tablets at Zurich 2015 - FIVB Volleyball Women's Club World Championship 2015
- ^ 長引く試合、選手に混乱も…課題多いバレーのチャレンジシステム - スポニチ(柳田 博)、2016年5月19日
- ^ Various Gallery 19700 FIVB 2016年リオデジャネイロオリンピックのバレーボール競技・男子世界最終予選兼アジア予選
- ^ World League - FIVB increases spectator experience with new Challenge System FIVB - Headlines
- ^ 2016 CHALLENGE GUIDELINES FOR BEACH VOLLEYBALL
- ^ タイ監督激怒!レッドカードで2失点「人生初めて」 - 日刊スポーツ、2016年5月19日
- ^ タイが抗議「これはショーだ」 遅延行為で2失点 - 朝日新聞、2016年5月19日
- ^ 木村沙織を襲う「タイ語の非難書き込み」 女子バレー「レッドカード2枚」騒動余波 - J-CASTニュース、2016年5月19日
- ^ a b 奥村信哉 (2016年5月23日). “【バレーボール】「タブレット端末」は選手交代に不向き? レッドカードも出た五輪最終予選”. 産経ニュース 2020年11月29日閲覧。
- ^ 馬場 到 (2016年5月25日). “バレー女子、リオへ課題 飛躍のカギはセッター宮下”. 日本経済新聞 2020年11月29日閲覧。
- ^ タイ悪夢のレッド2度…指揮官「フェアではなかった」 - スポニチ、2016年5月19日
- ^ 【五輪へアタック!】真鍋タブレットの全容 データバレーでつかむリオ切符 (3/3ページ) - サンスポ、2016年5月20日
- ^ 女子バレー五輪予選 最後まで全力で戦ったタイチームの涙 - Yahoo!ニュース(田中 夕子)、2016年5月23日
- ^ Various Gallery 17882 FIVB 2016年リオデジャネイロオリンピックのバレーボール競技・男子世界最終予選兼アジア予選
- ^ a b 「月刊バレーボール」2016年7月号96頁 OQTに見る新システム&テクノロジーの現在
- ^ “タイ監督、レッドカード2枚に激怒「なぜ警告でるのか理解できない」”. スポーツ報知. (2016年5月19日). オリジナルの2016年10月21日時点におけるアーカイブ。
- ^ タイ監督、判定に不満爆発!「チームにとってアンフェアだ」 - サンスポ、2016年5月18日
- ^ バレー逆転負けにタイメディアが皮肉 - デイリースポーツ、2016年5月19日
- ^ 選手交代にタブレット端末を使用―― バレーボールのルールに物議、JVAに聞いてみた - ねとらぼ、2016年5月19日
- ^ 日本―タイ戦でのトラブル 国際連盟が緊急会見で説明 - スポニチ、2016年5月22日
- ^ バレーのビデオ判定要求「端末操作の習熟を」 国際連盟 - 朝日新聞、2016年5月21日
- ^ バレーの新システムはなぜ“今”か?タブレットとチャレンジの問題点。 - Number Web(米虫 紀子)、2016年5月25日
- ^ ビデオ判定システム(チャレンジシステム)の導入について - バレーボール Vリーグ オフィシャルサイト、2016年6月29日
- ^ NBAは映像判定に使用する映像を管理、配信する新たなリプレーセンターの開局を発表した NBA(日本語版) 2014年10月24日
- ^ NBAが映像判定の適用範囲、並びに一部ルールの改定を発表 NBA(日本語版) 2014年10月17日
- ^ Bリーグが世界初のビデオ判定機材を導入、大河チェアマンが狙いを説明 バスケットボールキング 2016年10月6日
- ^ 【ルール解説】ビデオ判定の採用ルールについて 富山グラウジーズ 2017年4月21日
- ^ 11名退場劇の裏にあったミスと問題 選手・クラブ・Bリーグが得た教訓とは Sports navi 2016年11月3日