ビゼーアン

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地質時代 - 顕生代[* 1][* 2]
累代 基底年代
Mya[* 3]
顕生代 新生代 第四紀 2.58
新第三紀 23.03
古第三紀 66
中生代 白亜紀 145
ジュラ紀 201.3
三畳紀 251.902

古生代 ペルム紀 298.9
石炭紀 358.9
デボン紀 419.2
シルル紀 443.8
オルドビス紀 485.4
カンブリア紀 541
原生代 2500
太古代(始生代) 4000
冥王代 4600
  1. ^ 基底年代の数値では、この表と本文中の記述では、異なる出典によるため違う場合もある。
  2. ^ 基底年代の更新履歴
  3. ^ 百万年前

ビゼーアン: Visean)は、国際層序委員会英語版によって定められた地質学用語である、地質時代名の一つ。3億4670万年前(誤差40万年)から3億3090万年前(誤差20万年)にあたる、石炭紀ミシシッピアン亜紀英語版(前期石炭紀)を三分した中期である。前の期は前期石炭紀を三分した前期トルネーシアン、続く期は前期石炭紀後期サープコビアン[1]。模式地はベルギーナミュール州ディナンに位置する[2]ヴィゼ期とも呼ばれる[3]

命名と定義[編集]

ビゼーアン階はベルギーの古生物学者アンドレ・デュモンが1832年に導入し、ベルギーのリエージュ州ヴィゼにちなんで命名した。国際層序に用いられる以前は、ビゼーアン階は西ヨーロッパの地域的地質時代区分の1つであり、前の階はTournaisian階、次の階はNamurian階であった。北アメリカの地域的区分では、ビゼーアン階は上部Odsagean階とMeramecian階および下部Chesterian階に対応する。中国の地域的区時代区分では、ビゼーアン階は中部Tatangian統に対応する[4]

ビゼーアン階の基底はフズリナの種 Eoparastaffella simplex の初出現である。階の基底のタイプ産地はベルギーのディナンの城の下の道路区間であったが、このタイプ産地は層序の対応という目的には不適当であると判明した[5]国際標準模式層断面及び地点(GSSP)は中華人民共和国南部の広西チワン族自治区に分布するLuzhai累層が提唱された[6]。ビゼーアンの最上部、すなわちサープコビアンの基底はコノドントの種 Lochriea ziegleri の初出現である[7]

イギリスの層序ではビゼーアンは5つの亜階に細分される。下から順にChadian、Arundian、Holkerian、Asbian、Brigantianである[8]

生物[編集]

ビゼーアンはF-F境界とD-C境界に代表される後期デボン紀の大量絶滅から生物が回復した時期であった。石炭紀の最初の1500万年間、すなわちトルネーシアンと初期のビゼーアンの間は陸上動物の化石がほとんど産出しておらず、前期ビゼーアンから再び産出し始めるようになる。この空白期は古生物学者アルフレッド・ローマーにちなんでローマーの空白と呼ばれる[9]。また、2020年1月の中国科学院南京地質古生物研究所の発表によると、大規模なサンゴ礁やそこに生息する多種多様な生物で構成される海洋生態系は約3億3600万年前に大量絶滅以前の多様性を回復した。3億3600万年前はビゼーアンの中頃にあたり、F-F境界から実に3600万年を要したこととなる[10]

環境[編集]

後のアジアとなる地域ではトルネーシアンからビゼーアンは火山活動があった、あるいは収束しつつあった時期にあたる。中華人民共和国新疆ウイグル自治区東天山に分布するTrukestan累層は安山岩などの火山岩で構成されており、火山活動の時期はデボン紀とビゼーアンが有力視される。Tisnab累層の下に横たわる凝灰岩と輝緑岩の層もまた、東天山と同等の前期石炭紀前期にあたるとされている[11]。後の日本の秋吉帯を形成する地域では、トルネーシアンからビゼーアンにかけて火成活動が沈静化して生物礁が形成され始めた。

日本の山口県に分布する秋吉帯の海洋島起源の石灰岩では、ビゼーアンにおける礁中核のP2O5の含有量は後の期であるバシキーリアンモスコビアンほど高くなく、次の期のサープコビアンや後期石炭紀後期のグゼリアンと同程度で、平均的であった。リン酸塩の含有量は海中栄養塩量と相関があり、ビゼーアンでは富栄養化が進んでいなかったことを意味する[12]

ビゼーアンからバシキーリアンにかけてゴンドワナ大陸でゴンドワナ氷床が拡大して世界規模の寒冷化(ゴンドワナ氷室気候)が始まったとする意見が多いが、秋吉帯など後の日本となる海域はまだ温暖であったことが示されており、温暖海域の生物化石が産出する[13]

古生物地理[編集]

中華人民共和国北西部では、上部トルネーシアン階からビゼーアン階で腕足動物グランディスピリファー・ミルケンシス (Grandispirifer mylkensis) が報告されている。この種をはじめとする動物群は日本の岩手県気仙郡住田町奥火の土から産出する奥火の土フォーナと近縁である。前期ビゼーアンにおいては、南部北上地域を含む後の日本の大部分は、北半球中緯度に位置した北中国地塊付近に存在したと推定されている[14]

日本において[編集]

秋吉石灰岩は大部分がビゼーアンから中期ペルム紀後期にあたるキャピタニアンにかけて[注 1]形成されたことが海綿動物サンゴ腕足動物頭足類有孔虫の化石から示されている。ビゼーアン階においては、玄武岩質の岩盤の上に外肛動物と四放サンゴおよび少量のシアノバクテリアといった造礁生物群集が小規模な礁を形成していた[15]

兵庫県養父市御祓山地域の石灰岩礫岩の転石から、ビゼーアンをはじめとする有孔虫群集が確認されている[16]。1981年に提唱された岩手県遠野市小友町荷沢東方に分布する加労山層も、6種類の腕足動物と2種類のサンゴ類の化石からビゼーアン階、おそらく上部ビゼーアン階とされている。また、加労山層と整合で重なる鬼丸層も上部ビゼーアン階の石灰岩からなる[17]。同県からは大船渡市日頃市地域からビゼーアンを示すコケムシ・ウミユリ・サンゴ・腕足動物が産出し、中国の下部石炭系からも報告されたリンボクに近縁な植物化石も得られている[18]

1924年に発表された研究では、茨城県日立市を模式地とする大雄院層の化石年代が石炭系ビゼーアン階として報告された。しかし詳細な堆積年代は求められておらず、マグマ冷却年代を算出できる火山岩も発見されていない。2011年には同層の雲母片岩から砕屑性ジルコンを利用した放射年代が求められ、3億9500万年前の前期デボン紀エムシアン階にあたる可能性が浮上した[19]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ ただし、最下部は石炭紀の最初期にあたるトルネーシアンまで遡ることができる。

出典[編集]

  1. ^ INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART(国際年代層序表)”. 日本地質学会. 2020年4月15日閲覧。
  2. ^ 地質調査総合センター研究資料集 No.486 地質図─地質用語(TS図案:2008)”. 地質調査総合センター. p. 15. 2020年4月15日閲覧。
  3. ^ 鈴木寿志「地質年代区分2012」『日本地質学会第120年学術大会講演要旨(2013仙台)』、日本地質学会、2013年、 doi:10.14863/geosocabst.2013.0_629閲覧は自由
  4. ^ Menning et al. (2006)
  5. ^ Menning et al. (2006)
  6. ^ Devuyst, F.X; Hance, L; Hou, H.-F; Wu, X; Tian, S; Coen, M; Sevastopulo, G. “A proposed Global Stratotype Section and Point for the base of the Visean Stage (Carboniferous): the Pengchong section, Guangxi, South China”. Episodes 26 (2): 105–115. doi:10.18814/epiiugs/2003/v26i2/004. https://doi.org/10.18814/epiiugs/2003/v26i2/004. 
  7. ^ Nemyrovska, T.I (2005). “Late Visean/early Serpukhovian conodont succession from the Triollo section, Palencia (Cantabrian Mountains, Spain)”. Scr. Geol 129: 13–89. doi:10.18814/epiiugs/2003/v26i2/004. https://doi.org/10.18814/epiiugs/2003/v26i2/004. 
  8. ^ Heckel, P.H; Clayton, G (2006). “The Carboniferous system, use of the new official names for the subsystems, series and stages”. Geologica Acta 4 (3): 403–407. doi:10.1344/105.000000354. https://doi.org/10.1344/105.000000354. 閲覧は自由
  9. ^ Ward, P.; Labandeira, C.; Laurin, M; Berner, R (2006). “Confirmation of Romer’s Gap as a low oxygen interval constraining the timing of initial arthropod and vertebrate terrestrialization”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 103 (45): 16818-16822. doi:10.1073/pnas.0607824103. https://www.pnas.org/content/103/45/16818.short. 
  10. ^ 大量絶滅から生物回復までに要した歳月は3600万年 研究」『AFP BB NEWS』フランス通信社、2020年1月27日。2020年7月16日閲覧。
  11. ^ 胡忠恒「黄汲清氏の中国地質構造論-続篇」『地学雑誌』第68巻第2号、東京地学協会、1959年6月30日、 43-44頁、 doi:10.5026/jgeography.68.89閲覧は自由
  12. ^ 坂田健太郎、中澤努、岡井貴司、上野勝美「秋吉帯の海洋島起源の石炭紀—ペルム紀石灰岩におけるリンの偏在」『地質調査研究報告』第66巻第11/12号、産業技術総合研究所、2015年12月25日、 207-211頁、 doi:10.9795/bullgsj.66.199閲覧は自由
  13. ^ 佐野弘好、杦山哲男、長井孝一、上野勝美、中澤努、藤川将之「秋吉石灰岩から読み取る石炭・ペルム紀の古環境変動 -美祢市(旧秋芳町)秋吉台科学博物館創立50周年記念巡検-」『地質学雑誌』第115巻補遺、日本地質学会、2009年、 76-77頁、 doi:10.5575/geosoc.115.S71閲覧は自由
  14. ^ 田沢純一「南部北上帯奥火の土の有住層から産出した前期石炭紀腕足類,レビトゥシア・フメローサとグランディスピリファー・ミルケンシス」『化石』第107巻、日本古生物学会、2020年3月30日、 41-42頁、 doi:10.14825/kaseki.107.0_41閲覧は自由
  15. ^ 藤川将之、中澤努、上野勝美「石炭-ペルム系秋吉石灰岩の堆積作用とカルスト化作用」『地質学雑誌』第125巻第8号、日本地質学会、2019年8月15日、 611-614頁、 doi:10.5575/geosoc.2019.0024閲覧は自由
  16. ^ 小林文夫. “兵庫県養父市御祓山地域のペルム系舞鶴層群の石灰岩礫岩から産する先キャピタニアン( 先ペルム紀中期後葉) 有孔虫類 —兵庫県産古生代後期・中生代前期有孔虫類,その14—”. 人と自然 (兵庫県立人と自然の博物館) 27: 71-80. doi:10.24713/hitotoshizen.27.0_71. https://doi.org/10.24713/hitotoshizen.27.0_71. 
  17. ^ “南部北上山地荷沢地域の下部石炭系”. 東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告 83: 21-30. (1981-03-28). ISSN 00824658. https://hdl.handle.net/10097/00115889. 閲覧は自由
  18. ^ 浅間一男、浅野輝、佐藤悦郎、山田弥太郎「南部北上山地の日頃市層より発見された前期石炭紀植物化石について(予報)」『地質学雑誌』第91巻第6号、日本地質学会、1985年6月15日、 doi:10.5575/geosoc.91.425閲覧は自由
  19. ^ 田切美智雄、堀江憲路、足立達朗「阿武隈山地南部,ジルコンU-Pb年代値に基づく日立変成岩類層序の再定義と日本海形成前の東北日本列島基盤の復元」『地質学雑誌』第122巻第6号、日本地質学会、2016年6月15日、 234頁、 doi:10.5575/geosoc.2016.0012閲覧は自由

参考文献[編集]