スカシユリ

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スカシユリ
スカシユリ(千葉県太東海浜植物群落・2008年7月
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: ユリ目 Liliales
: ユリ科 Liliaceae
: ユリ属 Lilium
: スカシユリ
L. maculatum Thunb.
学名
Lilium maculatum Thunb.
和名
スカシユリ(透百合)
イワトユリ(太平洋岸)
イワユリ(日本海岸)
ミヤマスカシユリ(山地生)
ヤマスカシユリ(山地生)
ハマユリ

スカシユリ(透百合、Lilium maculatum Thunb.)は、ユリ科ユリ属に属する植物の一種。海岸の砂礫地や崖などに生える多年草。大きさは20cm - 60cmとなる。本種は古より栽培・育種の対象となっており、交配の母種として使われることが多い。

本種と近縁種をスカシユリ亜属(Lilium pseudolirion Thunb.)として分類することがある。杯状の花を上向きにつけることが特徴。本属には、本種スカシユリの他、近縁種のエゾスカシユリ、ヒメユリを含む。

特徴[編集]

鱗茎は白色で卵型。茎は直立し、高さ20cm - 60cm程度。葉は葉柄のない披針形で互生する。花期は太平洋岸の個体群で7月 - 8月、日本海側の個体群で5月 - 6月。茎の頂に、直径10cm程度の、赤褐色の斑点を持つ橙色の花をつける。花被片の付け根付近がやや細く、隙間が見えることから「透かし」百合の和名がある。近縁種のエゾスカシユリと比較し、花柄やつぼみに綿毛がないこと、全体にやや小型であることで判別される。

分布と分類[編集]

日本の中部地方以北の海岸の砂礫地や崖、岩場に生育する。個体群が地理的に隔絶されており、地域型として、太平洋岸に分布する個体群と、日本海岸に分布する個体群に分けられる。太平洋岸の個体群をイワトユリ、日本海岸の個体群をイワユリと呼ぶ場合と、栽培品種をスカシユリ、野生種全般をイワトユリと呼ぶ場合がある。

  • 太平洋岸に分布する個体群
中部地方以北の海岸に生育し、イワトユリと呼ばれることもある。
本個体群から分化した変種として、山地生のミヤマスカシユリがある。
  • 日本海岸に分布する個体群
北陸地方以北の海岸に成育し、イワユリと呼ばれることがある。矮性の個体が多いとされる。
本個体群から分化した変種として、山地生のヤマスカシユリがある。

変種[編集]

スカシユリの変種(.var)
和名(学名) 分布 特徴
ミヤマスカシユリ
(Lilium maculatum Thunb. var. bukosanense (Honda) Hara)
日本の中部地方以北の太平洋側の山地。(埼玉県茨城県 埼玉県武甲山で発見された。ほか茨城県の山地にも散在している。石灰岩地を好み、茎は下垂して伸び、葉は広線形。花期は7月で、上向きに花をつける。花被片は強く反り返る。太平洋岸側の個体の特徴があり、太平洋側の個体から分化したと考えられる。
ヤマスカシユリ
(Lilium maculatum var. monticola Hara)
日本北陸地方から東北地方の深山(新潟県福島県山形県秋田県 花柄やつぼみは無毛。花期は6月 - 7月で、花被片はあまり反り返らない。日本海側の個体の特徴があり、日本海側の個体より分化したと考えられる。

保護上の位置づけ[編集]

本種およびその変種は、古来より栽培目的、食用目的で採掘され、またシカなどによる食害の影響で個体数が減少を続けている。

  • スカシユリ
千葉県版レッドデータブック - 絶滅危惧II類
新潟県版および秋田県版レッドデータブック - 準絶滅危惧種
  • ミヤマスカシユリ
絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト
茨城県版および埼玉県版レッドデータブック - 絶滅危惧I類
岩手県版レッドデータブック - 情報不足
  • ヤマスカシユリ
準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト
宮城県、長野県レッドデータブック - 絶滅危惧I類
新潟県、山形県、福島県、岩手県レッドデータブック - 絶滅危惧II類
秋田県版レッドデータブック - 準絶滅危惧種

近縁種[編集]

スカシユリ亜属(Lilium pseudolirion Thunb.)
画像 和名(学名) 分布 特徴 保護上の位置付け
エゾスカシユリ
(Lilium pensylvanicum Ker Gawl.)
千島列島樺太中国東北部、日本(北海道) 比較的冷涼な地域の海岸などの砂礫地に生育する。スカシユリと比較してやや大型。スカシユリの亜種(Lilium maculatum Thunb. subsp. dauricum (Baker) Hara)とされることもある。形態はよく似ているが、代表的な違いとして、花柄やつぼみに綿毛が多いことで判別が可能。
ヒメユリ(姫百合)
(Lilium concolor Salisb.)
中国東北部、ロシア沿海州朝鮮半島日本(本州東北南部以南、四国、九州) 山地生で、日当たりの良い草原を好む。茎は直立し、高さは30 - 80cm程度となる。花期は6月 - 7月。花の色は朱色がかった赤色。 環境省レッドリスト:絶滅危惧IB類(EN)
都道府県別:
野生絶滅:愛知県
絶滅危惧I類:青森県、福井県、和歌山県、岡山県、山口県、香川県、徳島県、高知県、愛媛県、大分県、熊本県、宮崎県
絶滅危惧II類:広島県
情報不足:三重県、兵庫県
その他:奈良県


万葉集の歌[編集]

  • 夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ 大伴坂上郎女  巻八1500

利用[編集]

園芸品種として栽培されるほか、デンプンに富む鱗茎を食用とすることがある。

脚注[編集]

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]