パンデミック

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1918年、カリフォルニア州オークランドでのスペインかぜの流行=オークランド公立図書館
2002年11月1日~2003年8月7日のSARSの流行

パンデミック英語: pandemic)とは、ある病気(感染症)が国中あるいは世界中で流行すること[1]。ある感染症(特に伝染病)の(顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した)世界的な流行[2][3][4][注 1]世界流行[5]とも。

語源はギリシア語πανδημία(pandemia パンデミア)であり、παν(pan, 全て)+ δήμος(demos, 人々)を意味する[6]

概説[編集]

パンデミックとは何らかの病気、特に感染症が、ある国の中のそこかしこや、国境を越えて世界中で流行することである。

(病気(特に感染症)の)流行は、その規模に応じて(1)エンデミック、(2)エピデミック、(3)パンデミックに分類される[7][8]。このうち最も規模が大きいものがパンデミックである。

関連用語と比較
endemic エンデミック(地域流行)
特定の人々や特定の地域において、「regularly (ある程度の割合、ポツポツと)」見られる状態[9]。地域的に狭い範囲に限定され、患者数も比較的少なく、拡大のスピードも比較的遅い状態。「流行」以前の段階。風土病もエンデミックの一種に当たる。
epidemic エピデミック(流行)
特定のコミュニティ内で、特定の一時期、感染症が広がること[10]。特に突発的に規模が拡大し集団で発生することをアウトブレイクと呼ぶ。
pandemic パンデミック(汎発流行)
(さらに流行の規模が大きくなり)国中や世界中で、感染症が流行すること。

WHO(世界保健機構)は、ひとつひとつの感染症のパンデミックの(その時点での)状況を6つのフェーズ(段階)に分けて分類している。→#WHOによる6つのフェイズ

なお「感染症」とは、微生物が体内に侵入し、繁殖したためにおこる病気のこと[11]。たとえばウイルス細菌原虫などの病原体がからだの中へ侵入して増え、その結果、発熱下痢などの症状がでることを言う。

ヒトからヒトへの感染(=「ヒト-ヒト感染」)を起こすようなウィルスの場合、(感染力が弱ければ、大流行に至らずに済む場合もあるが)感染力が高ければ高いほど、感染を防げないままに、2次感染、3次感染...と感染が広がってゆくことになりがちで、一人の人から3名、4名、5名...などと 多人数の人に感染するような感染症では、「ヒト-ヒト 感染」が繰り返されるうちに指数級数的に、つまり「爆発的」に広がってゆくことになる。

(古代や中世はをする人々の割合は少なかったが)現代では、人々の移動が盛んで、おまけに世界各国で、国内旅行だけでなく、航空機を用いた外国旅行も世界的に非常に盛んになっているので、国境を越えて世界規模のパンデミックが起きやすくなっている。たとえば2002年~2003年のSARSのパンデミックでは、中国国内で最初期の感染が起きたが、最初の感染者の治療を行った中国人医師のひとりが(自分が感染してしまったとの自覚も無いままに、親類の結婚式出席のために)香港へと旅をしたことで香港に滞在している人々に飛び火し、その香港には、世界中の各国から中国人(中国系○○人)がやってきてはそれぞれ自国(移住先)に帰国するために、あっという間に世界各地に飛び火した。

パンデミック、なかでも生命にかかわるような症状をともなう感染症のパンデミックは、人類の皆にとっての脅威である。

現在までヒトの世界でパンデミックを起こした感染症には、天然痘[12]インフルエンザAIDSなどのウイルス感染症、ペスト梅毒コレラ結核発疹チフスなどの細菌感染症、原虫感染症であるマラリアなど、さまざまな病原体によるものが存在する。AIDS、結核、マラリア、コレラなど複数の感染症については世界的な流行が見られるパンデミックの状態にあり、毎年見られる季節性インフルエンザ(A/ソ連、A/香港、B型)の流行も、パンデミックの一種と言える。 ただし、これらの感染症の中でも特に新興感染症あるいは再興感染症が集団発生するケースでは、しばしば流行規模が大きく重篤度(死亡率など)が高くなるものが見られるため、医学的に重要視されている。これらの新興(再興)感染症によるパンデミックはしばしば一般社会からも大きく注目されるため、一般に「パンデミック」と呼ぶ場合、これらのケースを指すことも多い。

パンデミックの歴史[編集]

ここでは感染症全般の歴史ではなく『パンデミックの歴史』を記述する。感染症によるパンデミックは古代より見られ、大きな被害を与えてきた。

14世紀には黒死病(ペスト)がヨーロッパで大流行した。このときの流行では当時のヨーロッパ総人口の約3分の1にあたる、およそ2500万人から3000万人もの死者を出したとされる[13]

16世紀にはコロンブス交換によってもたらされた天然痘が南北アメリカ大陸で猛威をふるい、天然痘の免疫を持たなかった先住民の人口は約10分の1にまで減少した。またこの天然痘の大流行はアステカ帝国インカ帝国といった現地の政治権力に大打撃を与え、両国の滅亡とスペインの新大陸制覇の一因となった[14]

19世紀から20世紀にかけてコレラが、地域を変えつつ7回の大流行を起こした。

1918年から1919年にかけてスペインかぜ(インフルエンザ)が全世界で流行し、死亡者は約5000万人から1億人にものぼった。この時期は第一次世界大戦の末期にあたり、総力戦体制のもと全世界的に軍隊や労働者の移動が活発となったことが被害を大きなものとした。流行は鉄道や河川といった輸送ルートを通って海岸部の港湾都市から奥地へと広がっていった[15]

1980年代以降、後天性免疫不全症候群の患者が全世界で増大したが、なかでももっとも感染の激しかったブラックアフリカでは全人口の30%以上が感染した国家まで存在し、平均寿命の大幅な減少がいくつかの国家で見られた。

2002年11月1日~2003年8月7日にはSARSが世界各地で流行。香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡した。

なお「パンデミック宣言」がなされたものの実際の被害が小さくて済んだものとしては、2009年新型インフルエンザの世界的流行がある(詳細は#WHOのパンデミック誤警告問題を参照)。また、1997年からの高病原性トリインフルエンザや2002年のSARSについてはパンデミックには至らなかったものの、その一歩手前の状態になった。

そして2020年、新型コロナウイルスが中国の武漢市から流行し、2月末現在で全世界で8万人程の感染者、3000人ほどの死者が出ており、発見されてない感染者と死者数は確認されてる10倍ほどにもなると予測されている。

WHOによる6つのフェイズ[編集]

フェイズの判断に関係したWHO地域区分(アメリカ、欧州、アフリカ中東、東南アジア、西太平洋

WHOは、感染症の感染力や流行の、その時々の状況に応じて、(パンデミックに至る)6つのフェイズ(phase、「段階)(≒警戒区分)に分類している。この警戒区分は、対象となる感染症の原因となる病原体の病原性の強さや、流行の程度を考慮して総合的にWHOが判断して警戒や対策の実行を呼びかけるものである。

パンデミック・インフルエンザのフェイズ[編集]

WHOでは、パンデミック・インフルエンザの各フェイズを以下のように切り分けて公衆衛生学的な対策を行う[16]

なお6段階ではなく3段階に分けた用語と、6つのフェイズの関係は次の通り。

  • 前パンデミック期(Inter-Pandemic Period):フェイズ 1-2
  • パンデミック・アラート期(Pandemic Alert Period):フェイズ 3-4-5
  • パンデミック期(Pandemic Period):フェイズ 6

WHOによるパンデミック・インフルエンザの6つの分類(2005年版)[17]

フェーズ1 (前パンデミック期)
ヒトから新しい亜型のインフルエンザは検出されていないが、ヒトへ感染する可能性を持つ型のウイルスを動物に検出[17]
このフェーズでの対策の目標:世界、国家、都道府県コミューン、市区町村のそれぞれのレベルで、パンデミック対策を強化する[17]
フェーズ2 (前パンデミック期)
ヒトから新しい亜型のインフルエンザは検出されていないが、動物からヒトへ感染するリスクが高いウイルスが検出
このフェーズでの対策の目標:ヒトの感染拡大のリスクを減少させ、仮にヒト感染が起きたとしたら、迅速な検知、報告が行われる体制を整備する[17]
フェーズ3(パンデミックアラート期)
ヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認されているが、ヒトからヒトへの感染は基本的に無い[17]
このフェーズでの対策の目標: 新型ウイルスを迅速に検査診断し、報告し、次の患者発生に備える[17]
フェーズ4 (パンデミックアラート期)
ヒトからヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認されているが、感染集団は小さく限られている[17]
このフェーズでの対策の目標:隔離をはじめとした物理的な封じ込め対策を積極的に導入し、ワクチンの開発と接種などを事前に計画し、準備した感染症対策の実施に必要な時間的猶予を確保するために、最大限努める[17]
フェーズ5 (パンデミックアラート期)
ヒトからヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認され、パンデミック発生のリスクが大きな、より大きな集団発生がみられる[17]
このフェーズでの対策の目標:フェーズ4での目標と同じ[17]
フェーズ6(パンデミック期)
パンデミックが発生し、一般社会で急速に感染が拡大している[17]

パンデミックの推移[編集]

H5N1亜型などの致死性が高くパンデミックを起こすとされているインフルエンザを例に、パンデミックの発生から消退までの予想される経過を表で示した。

インフルエンザ・パンデミックの推移
経過 解説
亜型ウイルスの確認 亜型ウイルスの存在が確認されている(例。動物のインフルエンザウイルス)
ヒト感染のリスクは低い、またはヒト感染は報告されていない。
ヒトへの感染の確認 亜型ウイルスの存在が確認されている(例。動物のインフルエンザウイルス)
ヒトへの感染が報告されている
パンデミックの潜在的脅威
限局したヒト-ヒト感染の確認 ヒトからヒトへの感染はきわめて限定されている(家族や身近な接触者等)
小規模の流行 ヒトからヒトへの小規模感染(単独国家内での感染)を認めるだけの証拠が存在する
パンデミックとなる可能性は中~高程度
大規模の流行 ヒトからヒトへの相当数の感染(単一のWHO管区内における複数の国家での感染)を認めるだけの証拠が存在する。
パンデミックへと発展する可能性が高く、早急に大流行への計画的な対策を講じる必要性がある
世界的な大規模流行 グローバルパンデミック(世界流行)の状態。
上記の状態に加え、当初集団発生したWHO管区とは異なる管区で集団発生が確認される。
流行の消退 流行のピークは過ぎたものの、流行再燃の懸念が残る状態。
流行後 パンデミックを起こしたウイルスが通常のインフルエンザウイルスと同等の状況となった状態。しかしパンデミックに対する警戒と備えは維持する必要がある。

対策[編集]

パンデミックへの対処のため防護服を着用する医療従事者。

WHOの分類フェイズを目安にしつつ、各国の政府自治体、行動計画をそれぞれ作成することによって、パンデミックへの対策を行わなければならない。企業 等さまざまな組織も、従業員や顧客を護るために対策を練ることになる。

高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型による鳥インフルエンザも、現状は主に東南アジア諸国での発生であるが、世界的なパンデミックに至る恐れもあり、世界保健機関(WHO)が途上国を中心に対策を立てている。日本では、厚生労働省を中心に地方自治体が対策をとっている。行政側から一般市民へ呼びかけも行われており、鳥の死骸を見つけた場合、近寄ったり触れたりしないことが薦められている。自宅の庭などで鳥の死骸を発見した場合でも、なるべく近寄らないようにし、決して自力で死骸を処理したりせず、まず行政(市役所など)へ連絡して死骸の処理を依頼するべきで、そうすれば感染を防ぐためのノウハウを知る担当者がやってきて死骸除去および消毒などをしてくれる、とされている。なお、もしも患者が急増した場合には、医療機関の混乱、交通機関の麻痺、食料の供給不足などが発生する懸念がある、とする専門家もいる。

パンデミックに発展する恐れのある疾病[編集]

世界保健機関の国際的感染症対策ネットワーク (2009) が警戒する感染症は、炭疽鳥インフルエンザクリミア・コンゴ出血熱デング熱エボラ出血熱ヘンドラウイルス感染症肝炎インフルエンザ2009年のインフルエンザH1N1)、ラッサ熱マールブルグ熱髄膜炎症(en:Meningococcal disease)、ニパウイルス感染症ペストリフトバレー熱重症急性呼吸器症候群(SARS)、天然痘野兎病黄熱病の19疾病である。

WHOのパンデミック誤警告問題[編集]

世界保健機関(WHO)は、2009年に「今、すべての人類が脅威にさらされている」として新型インフルエンザH1N1亜型をすべての人類の脅威として警告を行った。その後、新型インフルエンザが弱毒性であることが発覚するも、顕著な感染や死亡の被害が著しい事態を想定した警告であるフェーズレベル6/6と警告し、パンデミック(世界的大流行)の宣言を行なった(このWHOのパンデミック警告の経緯については、2009年新型インフルエンザの世界的流行#発生確認と初期対応を参照)。しかし、「すべての人類の脅威」とまで宣言された新型インフルエンザは、他の季節性インフルエンザと大差ないレベルのインフルエンザであり、被害も小さかった。一連のWHOの誤報を重く見た欧州議会は、パンデミック宣言に至った経緯の調査に踏み出す事態となった。

欧州議会ヴォルフガング・ワダルグ英語版前保健衛生委員長は、WHOのパンデミック宣言は偽のパンデミックであったとし、一連のパンデミック宣言を批判した。その原因にはWHOの意思決定に製薬会社の意向が大きく影響しており、それが今回のパンデミック宣言につながったとして、WHOの意思決定システムを問題視している。そのパンデミックの言葉は、医学的にも歴史的にも不適切な使用であった[18]。一方、世界最大規模の製薬会社であるグラクソ・スミスクライン社(イギリス)は、製薬会社がWHOのパンデミック宣言に影響を与えているなどの認識は誤りであると、インタビューで反論している。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ Oxford Lexicoにはpandemicの用法としては形容詞的用法としては「(of a disease) prevalent over a whole country or the world. (ある病気について)国中あるいは世界中での流行」との説明、名詞的用法としては「An outbreak of a pandemic disease パンデミックな病気(国中あるいは世界中で流行する病気)の発生」との説明、以上2つしか掲載していない。

出典[編集]

  1. ^ Oxford Lexco, "pandemic".
  2. ^ 吉田眞一、柳雄介編『戸田新細菌学』改訂32版 (2002)、p.14、南山堂
  3. ^ 林英生、岩本愛吉ほか監訳『ブラック微生物学』第2版(2007)、p.435、丸善
  4. ^ 山口惠三、松本哲哉監訳『イラストレイテッド微生物学』第2版(2008)、p.15、丸善
  5. ^ 武部, 豊 (2002), “後天性免疫不全症候群(前編)” (PDF), 感染症週報, 感染症の話 (国立感染症研究所) 4 (39): 16, http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2002-39.pdf 2009-05-01T15:30Z閲覧, "世界流行(pandemic)" 
  6. ^ 植田一三 (2000), 発信型英語10000語レベルスーパーボキャビル, ベレ出版, p. 232, ISBN 9784939076329 
  7. ^ Gordis, Leon (2007), Epidemiology (4th ed.), Elsevier Health Sciences, p. 22, ISBN 9781416040026 
  8. ^ Krasner, Robert I. (2002), The microbial challenge: human-microbe interactions, ASM (アメリカ微生物学会), p. 124, ISBN 9781555812416 
  9. ^ [1]
  10. ^ Oxford Lexico, "epidemic".
  11. ^ 『日本大百科全書』(ニッポニカ)、「感染症」
  12. ^ Hopkins, Donald R. (2002), The greatest killer: smallpox in history, with a new introduction, University of Chicago, pp. 34, 87, 89 and 91, ISBN 9780226351681 
  13. ^ 「感染症と文明 共生への道」p64 2011年6月21日第1刷 山本太郎 岩波書店 
  14. ^ 「感染症と文明 共生への道」p85-87 山本太郎 岩波書店 2011年6月21日第1刷
  15. ^ 「感染症と文明 共生への道」p117-121-87 山本太郎 岩波書店 2011年6月21日第1刷
  16. ^ Pandemic Influenza Stages of Federal Government Response (Report). アメリカ疾病予防管理センター. https://emergency.cdc.gov/cerc/cerconline/pandemic/pandemic/transcripts/checklist9.pdf. 
  17. ^ a b c d e f g h i j k 厚生労働省「新型インフルエンザ対策関連情報」
  18. ^ Pollard, Chris (2010年1月13日). “Swine flu 'a false pandemic' to sell vaccines, expert says”. News.com. オリジナルの2010年1月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100114013335/http://www.news.com.au/world/swine-flu/story-e6frfkyi-1225818388508 2010年1月13日閲覧。 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

感染症学感染制御学

外部リンク[編集]

インフルエンザ・パンデミックに関する外部リンク
  1. Current WHO phase of pandemic alert
  2. Levels of pandemic alert WHO
  3. インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A 国立感染症研究所 感染症情報センター
  4. WHO global influenza preparedness plan (PDF)
  5. フェーズ邦訳/PDF 国立感染症研究所 感染症情報センター
  6. Federal Response Stages U.S. Department of Health & Human Services